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2章9話:柏崎ハーレム

 木曜日の朝。僕は自宅から少し離れた信号機の前で寝ぼけ眼を擦っていた。


「ほの囮おっはよー!」

「おはよほの囮!」

「早いな! いつも俺らが起こしてたのに」


 クソ眠い。けど、約束した以上それをたがえるのもどうかと思うので頑張って起きたよ、褒めろ。

 いつメンが大集合したのは7:40頃。遅いんだよお前ら。律儀にお互いの家の前で待ってるから遅くなるんだ。集合場所を決めやがれ。


「おは」

「おやおや、テンション低いねー。愛しの海知くんだぞぉー?」


 ニコラが煽ってくる。その隣で海知は何故か茹蛸の如く赤面していた。それやめろや。

 とにかく眠いからもう反応する気すらおきないな。なので眠気覚ましに本を読むことにした。

 ああ、昨日は大変だったんだよ。また1件、今度は夜の公園で幽霊公演を演じ、観客3名を失神させた。ほらそこの公園だよ……ってなんかパトカー止まってない? 僕別に殺しとかはしてないんだけど。

 

「花嫁屋敷に続いて公園でもお化けが出たらしいわよぉ」

「なんでも頭に真っ赤な彼岸花が手向けられてたんだとか。発見した人、最初血を流して死んでるって勘違いしたんだから」

「花嫁屋敷の○○さん、精神病んじゃって何も聞き出せないそうよ……」

「物騒ねぇ」


 近所の主婦のクソデカ噂話で大まかな状況は聞けた。どうやら順調に『山の神』の噂は広まっているらしい。その容姿やらなにやらが定着するのはさらに先だろうか。

 ちなみに頭に被せる彼岸花は同一犯の仕業であると知らしめるための犯行予告状みたいなものだ。猟奇度が増しているので気に入っている。

 ともあれ、こんな感じで襲撃を済ませたのち、僕は水子供養塔の周辺の草を刈り取ったり先にこさえておいた供物台や木の鳥居、卒塔婆を置いたりしてあの一帯を整備した。水子たちも喜んでいたので良かったのだが、その分寝る時刻が3時を過ぎてしまい今に至る。


「なんかあったのか?」

「ボクも少し聞いただけだけど、幽霊騒ぎがあったらしいねぇ。ま、興味ないけど」


 そんな海知たちの会話を聞きながら、僕は本のページを捲る。昨日図書室で借りてきた、水子についての書籍だ。

 水子の弔い方についてよくわからなかったのでとりあえずあんな感じになったけど、本来は寺院とかに任せるのが良いに決まってる。あの場所ではまた心無い人間に壊されたりしかねない。せめて樹海の方に移すなりしてあげた方が良いだろうか。

 などと思考しながら読んでたらだんだん眠気も覚めてきた。存外人間の睡眠時間は短くてもなんとかなるんだな。まぁ今の僕が果たして純粋な人間と呼べるかは知らんけど。


「あの、ほの囮……」

「夏葉、どったの?」


 おずおずと夏葉が僕の袖を掴んできた。何か言いたげな顔だ。


「やっぱりほの囮、変よ」

「そぉ?」

「………………なんかほの囮じゃないみたい」


 夏葉から僕はどう見えてたんだよ。


「早起きしてるし、登校中にお勉強してるし」

「えぇ……」


 言いがかりレベルじゃん。まぁ確かに中学時代の怠惰な僕をみてるとそう思うのも無理はないけどさ……。



「登校中のお勉強ってなんか変なことなんですかぁ?」



 直後、少女が甘ったるい声で話しかけて来る。亜麻色の髪をした、いかにもパリピ感漂う少女だった。

 その後ろからもゾロゾロと女の子たちが着いて来ていた。色とりどりな目立つ髪色からしてなんとなく理解。

 これが、5人に増えた『柏崎ハーレム』……あん? なんか一人多くない? 海知除いて6人女の子いるんだけど。


「夏葉、なんか1人多い気がするんだけど」

「海知ったら困ってる子がいるとほっとけ無いっていうか(以下略」

「1日1人レベル!?」


 僕が一緒に登校してた先週金曜時点でニコラと夏葉の2人。そこから土日月火水を経て4人……僕も入れて5人増えてるとか、デイリーボーナスってやつなのか、あぁん?

 まぁともかくこれが7人に増えた悪名高き柏崎ハーレムというやつだ。普通の高校なら、海知に対する男子からの印象最悪だろ。最悪であれ。

 さてそんな柏崎ハーレムは多種多様なキャラクターが揃っている。

 

・村上ニコラ

→ボクっ娘メガネからかい系少女


赤泊(あかどまり)夏葉(かよ)

→正統派黒髪ロングしっかりもの少女


・犀潟ほの囮

→黒髪気怠げ男の娘


 僕を客観的に入れるとこうなる……。

 まぁこの3人を侍らせてる時点でキャラ立ちハンパないのに、さらにあと4人も追加してるからな。


柏崎(かしわざき)真冬(まふゆ)

→銀髪無口系義妹・ロリっ子


・京ヶきょうがせ千秋(ちあき)

→金髪短気ツンデレ&ツインテお嬢様


赤鏥(あかさび)のぞ()

→亜麻色髪サイドテールのウザ後輩キャラ


月潟(つきがた) 琵樹(びじゅ)

→月光色の髪と瞳を持つ不思議ちゃん


「……………ギャルゲー世界だ」


 名前が覚えられない。明らかにヒロイン飽和してるだろ。なんか覚えやすい感じにしてよ。

 とまぁ海知に全員紹介されたはいいものの、夏葉とは違い彼女らにとっては僕はただのライバルなので、そりゃ敵意というか視線はそんなに優しくなかった。


「む、お兄ちゃんは、あげない」

「ふん! 負けないんだから!」

「あ、よろしくでーす! きゃぴっ!」

「ふわー、眠いよぉ……」


 うん、こんな感じ。僕もテキトーに相槌を打って流した。というか月潟はライバル感ゼロだった。

 さてここからは目の前で繰り広げられるイチャイチャ劇をお送りしよう。


「お兄ちゃん……真冬……お弁当……つくってきた」

「な!? アタシも作って来たんだから! べ、別にあんたのためじゃないんだから! 料理の練習だもん!」

「えー、のぞみんのも食べてくださいよぉ〜」


 上から柏崎真冬、京ヶ瀬千秋、赤鏥のぞ魅である。これでなんとなく性格は察してほしい。僕は解説するのも疲れたよ。あと弁当多すぎ、馬鹿なの?


「分かった分かった、みんなの食べるからさ!」


 やばいな主人公。どういう胃袋してるんだろ。あ、ほら、夏葉も弁当取り出してうずうずしてるし。


「ぬふふ、ほの囮は弁当作って来てあげないのー?」

「そういうニコラも作ってないじゃん」

「ボクはいいんだよ。それよりほの囮、このままだと夏葉取られちゃうよー? 取られない為には、むしろほの囮が海知にアタックを仕掛けるべきじゃなーい?」

「それまた何故に」

「夏葉に手を出すなら僕にだせ! そう言って海知の手で抱かれていくうちに、あれ、僕実は海知のこと……ってほの囮の中の乙女が目覚めちゃうぱったーん!」


 コイツの記憶操作が僕にガチで効くならそのルートもあったかもしれないので怖えですよ。


「夏葉。お弁当、渡さないの?」


 ニコラを無視して夏葉に声をかける。夏葉は諦め気味に俯いてポツリと言った。


「私のじゃ霞んじゃうよ……」


 こう見えて自信の無いところがあるのがこの少女の特徴である。だけどそれじゃあ困る。頑張って海知の目線を僕から引き剥がしてもらわないと。

 

「夏葉は可愛いから大丈夫。料理が下手でも頑張った気持ちが伝われば男なんてイチコロ」

「ふぇ!?」

「え、なに?」

「いや……その、ほの囮が真顔でそんなこと言うなんて……その」


 よくわからん。励ましたつもりなんだけどな。

 ていうかもう1人、弁当作ってきてないヒロインいるからなここに。ここって言うと、具体的に僕の肩に。眠いのか知らないが、時々肩にのしかかってくる月潟は、ヒロインレースに一切の興味を示していなかった。


「〜〜〜zzz、zzz」

「鼻提灯、リアルで出てるやつ初めて見た。起きろよ重いよ」

「ほの囮ママ、運んで……」

「誰がママだ起きろ」


 どうやら月潟は朝に相当弱いらしい。逆によくこいつらと一緒に登校する気になったな。

 なんていうか、月潟ってほんとにヒロインなのかな。イマイチニコラに操られている感もないし、北湊の風習にドン引きしてたし、舞台装置感がないんだよな。


「うんうん、でも可愛い子成分補給できたから眠気覚めてきたよ♪」

「それ僕のことじゃないだろうな」

「ほの囮くん、顔隠してるけど美少女オーラ溢れてるよね。うん、夏葉が妹扱いしたくなる気持ちもわかるわかる。なでなでー!」

「や・め・ろ」


 眠そうにしながらお姉さん面で僕の頭を撫でてくる月潟。女の子が好きだと自称する月潟だったが、もう顔が女っぽければ誰でもいいんじゃないか。いやそれは自意識過剰ってやつか。

 くっついてくる月潟を引き剥がし、本を開き、また引き剥がしを繰り返す。うざったいけどあんまり無碍にはしたくない。ただこんな現場ニコラに見られたら困るからできるだけ遠ざけておきたい。


「……避けてる?」

「避けてない」

「嘘つき」

「目ぇ覚めてんだから前向いてくれよ。ほら、ついたよ」


 はぁ、今日からこんな奴らと登校する羽目になるとかどんな苦行だよ。何が悲しくて女の子とイチャイチャするイケメンを朝から拝まにゃならんのだ。

 でもまぁ……かみさまの顔した月潟が一緒だからまだ許せる。このスキンシップはちょっと恥ずかしいからやめて欲しいけども。


 だが僕は、この柏崎ハーレムの恐ろしさを知らなかった。


「うぇーい! 海知じゃぁーん! 学校サボってアタシと遊ぶっしょ!」

「あら、海知クン、朝から良いわねぇ。センセもちょっと、あそびたくなっちゃった、カ・モ」

「ふむ、今日も生徒会室で待っているぞ、海知」


 学校に着いてから『年上黒ギャル』やら『女教師』やら『生徒会長』にも遭遇したので、改めて柏崎ハーレムの恐ろしさを実感した僕であった。

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