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2章7話:親友ポジ

 ギャルゲー。

 それは数人の美少女キャラに対して1人の男主人公がそれぞれのルートを開拓していくゲーム。

 ん? あんなシリアスなことがあったのに何アホなこと解説してんだって? まぁ聞いてよせっかちだな。


 ギャルゲー主人公の周りは大抵女子ばっかの設定だけど、当然例外は存在する。

 まずは僕。いわゆる『男の娘』キャラというやつだ。この存在も大抵ヒロインに含められるので例外とは言わないかもだけど。

 そして『親友ポジ』。主人公の親友として攻略対象の女の子の情報を教えてくれる"いい奴"である。いい奴であるがゆえに、なんか作中だと報われないことが多い。

「へっ、幸せになれよ」

 とか

「負けねーからな!」

 とか爽やかな台詞を吐いて噛ませムーブをかましたりするキャラもいれば、本当に情報通に徹したりおふざけキャラに徹するものもいる。ちなみに時たましれっと他ヒロインとくっついてる奴もいるけど、ゲームファンからのバッシングがエグかったりする。僕もその手のキャラは嫌いだ。

 で、ニコラの作ったこのゲーム盤の場合、親友ポジは、


「北湊を中心とした貿易で栄えて全国に拠点を持つ京ヶ瀬財閥の令嬢にして、すでに男子たち20人から告白されてるのに断ってるのが京ヶ瀬千秋だ。なんでも今好きな人がいるかもって噂だ。けけけっ、気になるよなぁ」

「それは知らなかったな。ありがとう、流石親友だ!」


 向かいの席に座る、気持ち悪いくらいヒロインの情報に精通している男である。

 名を『小滝(こたき)』という。『情報屋』とでも呼んどけばいいよ。

 アレが海知にとっての親友ポジだ。……今更どうとも思わないけど、一応僕の親友は海知だったわけで、僕が親友ポジじゃないんすかね? 僕がヒロインに昇格したから自動的に出現したキャラクターとも言えるのか?


「ニコラの妄想だって切り捨てたいもんだね」


 人のことをキャラクター呼ばわりすることの傲慢さに呆れるが、悲しいかな事実である。

 

「なんか言ったか、ほの囮?」

「別に。気持ち悪いなその情報屋って思っただけ」

「あ、その言い方はよくないわよ!」

「いーっていいって! 話したことなかったよな、よろしく犀潟っち!」

「……………」


 夏葉を宥めてから、僕に握手を求めてくる情報屋。

 今時握手を求める奴なぞ普通いない。というかコイツもあの時僕に女装を勧めて来た野次馬の中に混じってたのは忘れてない。何一つ信用できないからね。……まぁ口には出さないけど。


「飯盒炊爨の班も一緒だし、喋る機会もたくさんあんべ! な?」

「だといいなー」

「おっ、あんま信用してない感じ? ひゅう、クールでいいねぇ!」


 うっぜぇ。

 

◇◆◇

 

 花嫁屋敷襲撃の翌日にあたる水曜日。

 普通に授業を受けて、お昼休みも終わり、4限目の準備をするために僕はその場からそそくさと立ち去った。

 しかしまぁ酷い昼休みだった。なんでも今日から当分は部活動勧誘ウィークとのことで、現在学内では部活の勧誘活動が行われている。それは良いんだけど、このことによって入れ替わり立ち替わりで教室にも勧誘員が侵入してくるので静かに飯など食えたもんじゃない。

 それを避けて各地を転々としようとしたが、どこもかしこも人で溢れ尚且つ民度がクソな生徒達にジロジロ見られたり話しかけられたりを繰り返し、懲りて教室に戻って来たのである。


「校舎裏にまで人がたむろしてるとは……」


 この学校はなんと言ってもマンモス高。そして生徒の質は非常に悪い。この街の治安の悪さに比例するかの如く少年少女の素行が悪い。

 現にクラスにはチラホラ欠席者が目立つし、前にも説明したけど勉学に熱心に励むものが少ない。

 しかしそのくせ謎の授業に力を入れていたりする。その代表格が4限の『地域総合』の時間だ。……ナニソレって感じだよね。わかる。

 この学校はエスカレーター式で、北湊大学に進学するか地元の企業に就職したりするのが大半というかほぼ全員なので、いわゆる受験科目と呼ばれる科目にほぼ力を入れてない。

 その一方で『地域総合』といったような地域密着の授業が多い。出荷工場システムって感じで反吐が出るぞ☆


「また会ったな犀潟っち! よろしくな! 握手!」

「しない」

「けけっ、クールで良いねぇ! それでこそ仲良くなり甲斐があるってもんよ!」


 今日の地域総合は林間学校の調べ学習だ。故にこうして班メンバーが机を並べて授業という名のお喋りに花を咲かせていた。

 その班メンバーの1人がこの情報屋である。にしてもこいつ海知より嫌かもしんない……。


 因みに僕の班はチャラ男勢力の強い班である。茶髪チャラ男、野球部のエロ坊主、あと眼鏡の真面目君だ。自己紹介の時に名前聞いた気がするけどもう興味ない。


「ほの囮ちゃんと話せるのマジ嬉しいわー。おれ立山(たてやま)、よろしくー」

「お、おれ舟橋(ふなはし)! 野球やってるっス! め、めっちゃいいエロい匂いするっスねほの囮!」

「よよよよよろしく犀潟クン!」


 茶髪チャラ男:立山……めんどくせぇからチャパ山でいいや。こいつは昨日のLHRで僕から本を取り上げやがったので印象最悪である。

 そんで謎のキモ発言をかましてくれた舟橋……エロ橋でいいすか。なんで見た目ピアス開いたり眉毛染めたりしてるのに発言が女慣れしてないんだろう。いや、女子の居ない北湊あるあるか。

 で、この真面目そうなのが……覚える気ないから『委員長』でいいや。委員長っぽいし。

 まぁ兎も角、コイツらの話を掘り下げるつもりはない。


「ほの囮ちゃん、男イケるんしょ? 俺とかどう? 気持ちよくしてあげれるぜ? ぎゃははは!」

「お、おれも男同士とか気にしないっス! 林間学校のお風呂たのしみっス!」

「君たちやめたまえ! こんな場所で破廉恥じゃないか!」


 そうだ委員長もっと言ってやれ!

 しかしコイツらとの会話でストレスがどんどん溜まっていく。僕のイライラを感じ取ってか、委員長が彼らを止めつつ話しかけて来た。


「ぼ、僕だけは君の味方だ。仲良くしよう犀潟くん!」

「……………」


 いやお前も信用してないけどな?




 さて総括すると、


男子:

・柏崎海知

・犀潟ほの囮

・情報屋

・チャパ山

・エロ橋

・委員長


女子:

・村上ニコラ

・赤泊夏葉 

・月潟琵樹


 このメンバーが林間学校の行動班である。控えめにいって地獄。ぽすけて。

 2泊3日の長い期間をこいつらと過ごすかと思うと涙そうそう。しかも昨日言った通りお風呂も一緒ときたもんだ。うげぇ。

 因みに説明しておくと、行事の流れとしては、

 1日目に全体研修、登山(野鳥観察)、観望会。

 2日目にオリエンテーリングとスプーン作り、キャンプファイアー。

 3日目に飯盒炊爨と全体研修


 遊びすぎである。入学したばかりでまだ仲が深くない生徒たちにやらせるイベントじゃねぇよ……。なんで北湊市の小中学校は林間学校を4月にやりたがるの? 馬鹿なの?


「お風呂……お風呂……ほの囮ちゃんとお風呂ッス」

「ヤレる、俺ならヤレる。自分のテクを信じろ立山!」

「犀潟くんは、僕が守らねば。そして僕が1番に仲良くなって……」


 誰も行事を楽しみにしていなさそうである。先生は泣いていいぞ? あと僕も泣いていい。


「モテモテじゃん犀潟っちー! 嫉妬しちゃうべ!」

「お、おい小滝! お前ほの囮に近すぎだ!」

「おっ、妬いてんのか親友! けけっ」

「な、そ、そんなんじゃ!」


 家に帰ったら泣こう。

 僕はこの茶番劇を見ながらひっそりと決意した。


 そんな泣きそうな僕だが、いつもなら話に入ってきそうな少女が今日はいないことが気がかりだった。

 月潟琵樹は、学校を休んだ。

 昨日のことを引きずっているのかもしれない。まぁ、別に月潟が学校を休もうが僕には関係ないけど。なんというか、少しだけ罪悪感に似た何かに苛まれる。モヤモヤするし、一度廊下に出るか。


「はぁ、なんの生産性もない授業だったな……」

「ほの囮!」

「うわ、なに? んなデカい声出さなくても聞こえ、ぶぇ!?」


 クソみたいな4限を終えて一息つくために廊下に出てきた僕に対して、いきなり両肩を掴んで顔を近づけてくる柏崎海知。近い近い近い!


「きゃああああ! 今日のうみほのよ!」

「最近ご無沙汰だったものね!」

「ぬふふふ、これはいいショット頂きジュルリ」


 なんかデイリーボーナスを達成したらしい。じゃなくて! 退けこのクソイケメン!


「ほの、え、力つよ……」


 樹海の薪割りで鍛えた筋肉を舐めるな。筋肉は全てを解決するのだ。

 

「何か用があるたびにこんな事されてたらキリがない! そこの女子たちを勘違いさせない為にも、節度ある行動を徹底しろばか!」

「な!? や、でも俺は勘違いされても別に」

「ああもうめんどくさいな、さっさと用件いえ!」

「なんかほの囮最近俺のこと避けてるし、その、林間学校の男子連中のほの囮を見る目がその……」


 お前が言うな! と言いかけたのを何とか抑え込む。

 確かにあいつらの反応はキモかったけど、ここ数日間のお前の反応も大概だよ……。


「ないない。僕おとこだぞ? 海知もさ、一旦落ち着こうな?」

「ほの囮は可愛いから心配なんだ!」


 ほらそこ後ろ、きゃー! とか言わない。ああもうどうやってコイツの暴走止めればいいんだよ。

 アレか? 4限の間班の連中と絡んでたからか? ここ数日冷たい態度とったからか? 地雷が多すぎて特定できない。ていうか多分全部だなこれ。


「じゃあ海知は何を求めてんだよ」

「……一緒に、登校しよう。ほの囮が俺たちから離れるのは、嫌だ」


 こいつのその願望のせいで、僕に今まで碌な交友関係が生まれなかったことを理解してるのだろうか。……いや、正直分かっててやってた節があるので理解はしてそう。

 しかし……譲歩は必要だ。落ち着け、冷静になれ。ここで柏崎海知を無碍にあしらい続けてもなんの得もないのだ。

 こいつの好き勝手を許せば僕の心はすり減る。けれど、



 ーー病室での、ち囮の無惨な姿がチラつく。



 せめて、せめてち囮を安全な場所に移してからだ。ち囮を事実上の人質とされている現状では、僕の身勝手な行動がち囮の命を奪うトリガーになりかねない。

 心を鎮めろ。僕は大丈夫、大丈夫だから。


「………………了解。明日は徒歩にする。これでいいか?」

「あ、ああ。それと……」


 これ以上要求を重ねる気か? と少しムッとしていると、つかつかと近づいてくる海知。そのまま気安く僕の頭に手を置き、撫でて言った。



「また後でな、俺のほの囮」



 きゃー! という周囲の声と反比例するかのように僕の心をゾゾゾゾゾという音が支配する。何だコイツ何だコイツ!?

 なんとか平静を保って視線を逸らすが、そこには夏葉が居て、「負けないわよっ!」って感じのサムズアップをしていた。キレそう。

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