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召喚されてない時の召喚獣って何してる?

 ワタシの名はシルフィット、人間には風の召喚獣などと呼ばれている。精霊なのだけど獣と呼ばれるのは実に不愉快だ。


 朝目覚めてからする事と言えば風巡り。『風の通る丘』に『風の森』。その様に名付けられた幾つもの地に風を吹かせるのがワタシの仕事。


「よし、海辺の風洞の調整はバッチリねっ!」


 ここでの一番のこだわりは潮風が吹く間隔。風に乗って運ばれた潮の香りを吸い込む、ほどなくして抜けていく余韻を静かに惜しみながら次の風を待つ。待たせ過ぎず早すぎず、程よい無風のわずかな隙間を作る。秒数では表せない丁度いい間隔を保つのが腕の見せどころ。


 調整には魔力を使う。一度調整しても時間が経って魔力の効果が弱まるとそれは狂い始めてしまう。そこで、定期的に見回りを続けて微調整を繰り返すのだ。そんな風巡りで基本的にワタシの1日は終わる。それなりに時間と集中力のかかる作業、日に3ヶ所もまわれたら上出来かもしれない。


 1ヶ所の作業を終えたところで携帯しているティーセットを広げ、紅茶を頂くのがワタシの楽しみである。


「うんっ、いい香りね」


 まずはカップに顔を近付けて飲む前に楽しませてもらう。そして、お次は口の中で拡がる絶妙な渋みと穂香な甘みを堪能させて頂きましょう。本日の一杯目を愛でようとしている時の事だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴッ!辺りに爆音が轟いて目の前に黒い球体が現れる。


「またかっ、いつも最悪のタイミング…。」


 ワタシと契約を結んだ人間は、そいつの都合だけで自由にワタシを召喚する事が出来る。都合よく呼び出される方にしてみれば、大体が不都合だ。



 ゲートである黒い球に頭から吸い込まれ、今度は人間界へ頭から飛び出すと大空に浮いている。召喚獣の人間界での姿形は契約した者が最初にイメージしたものに設定される。この3000年間で蝶々の様な羽付きの姿になった事もあれば凛々しい騎士風もあったが、今回の契約イメージは実にシンプルだ。


(はい、両乳がモロに出ちゃってますけど…。お股も全く覆ってくれてませんけど…)


 足下にはニヤついた顔で上を向いている腐れ男4人組。パーティに女子がいないから調子に乗ってこんな酷い召喚イメージにしたのか?それとも、そういうクズの集まりだからパーティに女子が寄って来ないのか?


 人間界でやるのはターゲットとして示された対象に魔力を思いっきりぶつけるだけ。その発動にかかるモーションも術者のイメージで全て決まる。両手で乳房を持ち上下に揺すり始める。プルルンと揺れる速度が徐々に上がると、風圧で衝撃波が生み出される。


「はうっ!」


 ワタシの顔色が上気した様にほんのりと赤くなり、そんな吐息が漏れるのを合図に衝撃波がターゲットへ押し寄せていく。もろに浴びたスライムが大きく揺れ始めて、ついには弾けた。


 それにしてもやらされる度に術者の下衆さがよくわかる。わざわざ呼び出されて、全裸の姿で自身の乳を揉まされる者の気持ちがクズどもにはわかるまい。ヤツらの声が聞こえる。何を言っているのかわからないが、どうせろくでもないものだろう。


「今日はMP余っちゃったからどうせならこれで使い切ろうと思ってさ♪」


「さすがっ!明日もMP温存でいこう。」



 ワタシは再び黒い球へ吸い込まれる。真っ暗なゲートを潜って帰ってきた時、つむっている目をすぐに開ける事はしない。肌で風を感じ切らない、ある程度は服で遮られている感覚を得てからゆっくりと開ける。改めて服を着ているのを確認して胸を撫で下ろす。格好が元に戻らなくなった者がいると耳にした事はないのだけど、ワタシが初の例になる可能性だって充分にある。


 召喚される前に淹れた、今ではすっかり冷たくなってしまっている紅茶で喉を潤す。


「ちょっと苦いわね…。」


 そう感じて二口目をすする事はなかった。



 その翌日から召喚される事が無くなった。毎日、多い日だと1日に3回も4回もあった事がピタリと止んだ。お陰で日々の紅茶がとても美味しい。


 召喚術を使う者にはある種のお決まりの様な行動パターンがある。新たな召喚獣と契約すると、それまで呼ばれていた者にお呼びがかからなくなるのだ。きっと、そんなところだろう。どこかで誰かが、ワタシよりとんでもない姿に辱しめられているのかもしれない。もし、その子に声をかける機会があるのならこう伝えよう。


「次のお気に入りが見つかるまでの我慢、大丈夫よ。」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 人間界のある4人組パーティ。スライム相手に魔力をすっかり使い果たした直後にそれは起きた。


 他のどこかでモンスターと戦っていたパーティが、対象を遥か遠くへ弾き飛ばす魔法を使った。

 そして、飛ばされたモノは4人組の前に落ちてきた。逃げる魔法を唱える僅かな魔力すら残っていない状況でブラックドラゴンが現れた。


 それは彼らにとって即死級の不都合だった。

初めて書いてみました。最後までお読み頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして、ネオ・ブリザードです。 召喚獣(精霊だけど)って、もとの姿じゃなくて、召喚者のイメージに投影されて呼び出されるんですね。知りませんでした。 そして、クズ四人組には天罰が下れ…
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