心配性な幼馴染のために、伯爵子息が頑張った結果。
以前投稿した「心配性な幼馴染のために、伯爵子息は頑張る事にした。」の続きです。
「ど、どうしよう。もしかしたら家が私のせいで没落してしまうかもしれないわ!!」
「メア公爵家は早々、没落なんてしないと思うけど……」
「わ、私、もしかしたら死んじゃうかもしれないの」
「え、それは困る。俺シェイーラが死んだら悲しい」
「わ、私のせいで……」
「シェイーラ、あのさ。そんなに心配なら――俺がシェイーラの不安を取り除くよ」
ある時、二歳下の幼馴染の少女がとても心配性になった。起こるか分からない未来に怯えて、どうしようと錯乱していた。だから、俺、マルコヴィチ・ゴルーフトはシェイーラに笑ってほしくて、不安をどうにか取り除くからと口にしていた。
だってシェイーラは俺にとって、大切な女の子だった。
親同士が仲が良かったのもあって、赤ちゃんの頃から知っているシェイーラ・メア。シェイーラが笑ってくれていると俺は嬉しかった。シェイーラが悲しんでいると、俺は悲しかった。
だから、シェイーラの不安を取り除こうと思った。
それから十二年の月日が流れた。七歳だった俺も、今年で十九歳。学園を卒業して今は、王国の騎士団に所属している。
幸い努力を続けてきたことで、俺は栄えある王国の第一騎士団に期待の新人として所属することが出来た。シェイーラの不安を取り除くためだけに努力をし続けた。ただそれだけだったけれど、こうして力を手に入れられたことは良かったと思う。
いつも、ふとした時にシェイーラの事を考えてしまう。シェイーラには婚約者がいるから、俺はシェイーラと昔のように仲良くすることは出来ない。だからこそだろうか。シェイーラに会えない分、シェイーラへの思いはどんどん積もっていく。恋心を自覚してからというもの、俺はシェイーラのことばかり考えてしまっている。
シェイーラ以外の異性に関心をもてなくて、ただ、シェイーラを守ろうとそればかり考えて自分を磨くことばかりしていた。その結果なぜか『完璧騎士』などという、俺には重すぎる呼び名をもらってしまった。意味分からない。俺はシェイーラを守りたいだけなのに。そう思ったけれど、母さんから「シェイーラちゃんがマルコのこと凄いって言っていたわよ」と話しを聞けたから頑張って良かったなと思う。
シェイーラの心の中にただの幼馴染としてでもいいから、俺のことが欠片でも残っていればいい――とそんなことを思っている俺は重いのかもしれない。シェイーラと結ばれることはなくても、ただ俺は心配症なシェイーラのためになりたいのだ。
シェイーラが学園に入学してからは、シェイーラは「マルコ」と俺に話しかけてくれて、少なからず交流が持ててうれしかった。シェイーラは周りに馴染めないのではないかと心配していたから、俺は周りにシェイーラが良い子であることを伝えた。
幸い俺は学園で友人に恵まれていて、その友人たちはシェイーラが快く学園生活を送るように協力をしてくれた。多分、近しい友人には俺にとってシェイーラが特別なことは気づかれていたことだろう。
さて、学園を卒業して一年、もう俺はシェイーラとはほぼ交流を持っていない。婚約者を持つシェイーラと個人的に親しくしない方がシェイーラのためである。とはいえ、シェイーラに何かあった時に守れるように、情報は手に入れている。
騎士として一心に自分を磨く中でシェイーラの周りで騒動が起きていると聞いた。
庶子として伯爵家に引き取られた少女が学園に転入をしたのだという。そして驚くべきことにシェイーラの婚約者も含めて何人もの婚約者持ちの子息と仲よくしているのだという。
意味が分からない情報である。そもそも婚約者持ちであるのならば、婚約者以外の異性と親しくするべきではない。それにシェイーラという可愛い婚約者がいるというのに他の異性と仲よくするなんてとびっくりする。
俺は嫌な予感がした。シェイーラは、婚約破棄をされるかもしれないと幼い頃に不安がっていた。シェイーラの不安は俺が取り除く。
そう決意した俺は、第一王子殿下の元へ向かった。
「フィラリーがシェイーラ嬢以外に現を抜かしている? それは駄目だな」
「はい。婚約者のいる身でありながら、庶子の令嬢に現を抜かすのはいけないと思います。王になるものならば、側妃も許されるかもしれませんが、フィラリー殿下はメア公爵令嬢の家に婿入りする予定です。それなのにこのような軽率な行動を行うのは問題だと思います」
「そうだな。もし仮に愛妾などにするにしてもメア公爵令嬢のことを蔑ろにしていいわけではない。あいつも母上たちを見てきてそのあたりも把握しているだろうに」
……いってはなんだが、この国の陛下は中々女遊びが激しい方である。側妃や愛妾が結構な数がいて、子供も多い。ただ王位継承権を持つのはあくまでも王妃殿下の生まれたお子だけであると定めているから王位継承権争いも起こっていないが。
女性のドロドロした一面をよく見ていた第一王子であるバイアレン殿下は妃は一人だけでいいと思っているようだ。
ちなみに俺とバイアレン殿下は、学園で知り合った。俺よりも一つ上のバイアレン殿下は、剣もたしなむ方なので、在学中から俺を気にかけてくれていた。恐れ多くも友人と思ってくださっているらしく、俺はそれを嬉しく思っている。
俺の剣の腕を信頼してくれているからと、「マルコを連れて行けば問題ないだろ」と俺一人だけを連れてお忍びで出かけようとするのはやめてほしいが……。
バイアレン殿下が注意をしてくるということで、ひとまずほっとするが、この世の中は何が起こるか分からないのが世の中である。俺はシェイーラに何かないように、学園の後輩たちから情報を仕入れている。
嬉しいことに学園の後輩で、俺を慕ってくれている後輩が幾人かいるので、シェイーラの様子を伝えてくれている。
バイアレン殿下が注意をしたというのにフィラリー殿下は相変わらずらしい。寧ろ悪化したらしい。バイアレン殿下が呆れた様子を浮かべていた。
「もしかしたらフィラリーは廃嫡になるかもしれない」
「そこまでですか……」
バイアレン殿下や陛下の話も聞かないレベルになっているらしい。しかも驚く事に伯爵家の庶子をかこっているのはフィラリー殿下たちだけではなく教師もらしい。
それで驚くべきことにあんなに可愛くて優しいシェイーラのことを悪くいっているようだ。伯爵家の庶子がシェイーラにいじめられたなどとうそを言ってややこしいことになっていると。
ふざけるなと言いたい。シェイーラは優しい子である。それは俺が誰よりも知っている。ただ俺の後輩たちやシェイーラの友人たちは誰一人としてそれを信じていないらしい。
シェイーラの優しさに触れていたからだろうと思ったが、なぜか後輩は「マルコ先輩のせいでしょう」などと手紙で書いていた。その意味は分からない。
「メア公爵令嬢を悪役にしようとフィラリー殿下が行動を起こしているのならば、注意しなければなりません」
「分かっている。王家側でもちゃんと捜査を進めているよ。フィラリーが馬鹿なことを言い出さないようにね。というか、マルコが根回ししているからシェイーラ嬢は何も問題なさそうだけどね。常に誰かが傍にいるようにしているみたいだし、シェイーラ嬢は慕われているようだし。
というか、マルコは俺の前でもシェイーラ嬢のことを呼び捨てでもいいんだよ? 幼馴染なんだろう?」
ニヤリと笑いながらバイアレン殿下は告げる。……それに俺は「仕事中ですから」と答えた。そしたら「仕事終わった後に飲んで話すか?」と楽しそうに笑っていた。……バイアレン殿下にはシェイーラのことをそんなに語ったことはない。というか、変な勘繰りをされても困るからシェイーラのことはあくまでただの幼馴染として示している。
でもきっとバイアレン殿下にも、俺にとってシェイーラが特別なことは悟られているのだろう。
その飲みの場で、シェイーラのことをバイアレン殿下に話さなければならなかった。バイアレン殿下は、「へぇー」と面白そうにうなずいていたのであった。
そんな会話を交わした数か月後、仕事中の俺の元へバイアレン殿下がやってくる。
「マルコ!! 学園に行くぞ、ついてこい」
「え?」
「いいから。シェイーラ嬢が大変だ」
仕事中だったわけだが、バイアレン殿下に連れられ、俺は学園に向かうことになってしまった。何が何だか分からない中で、バイアレン殿下は続ける。
「あの愚弟がシェイーラ嬢を断罪しようとしているらしい」
「はい? 断罪?」
「ああ。ここまで馬鹿な真似をするとは思っていなかったが、俺や父上に注意されて躍起になっているようだな。それでシェイーラ嬢を断罪して、悪役と言うレッテルを張って、そして自分はあの伯爵家の庶子と幸せに暮らそうとしているらしい」
「……いってはなんですが、馬鹿ですか?」
「そうだな。馬鹿だな。父上の決めた婚約を……しかも王家から頼み込んで結んだ婚約を自分の都合で破棄しようとするなんて愚か者のすることだ。そもそもシェイーラ嬢と婚約を解消したいというのならばまずは父上や母上に相談すべきなのだ。相談もせずにこのような真似をするとは……流石に父上たちも庇いきれないといっていた」
これから学園でフィラリー殿下たちがシェイーラを断罪しようとしているらしい。
それも伯爵家の庶子に水をかけたり、教科書を破ったり、無視したりといった虐めや、伯爵家の庶子を階段から突き落としたという理由で。なんというか、そんなことをシェイーラがするはずもないし、例えそんなことをしていたとしても圧倒的に悪いのは婚約者のいる子息に近づいた伯爵家の庶子だと思う。
あと貴族令嬢が本当に格下の令嬢をどうにかしようというのならば、そういう生ぬるいことで済むはずがない。
そんな会話をしながら俺とバイアレン殿下は、学園に辿り着いた。久しぶりの学園である。俺はシェイーラが心配で心配で仕方がなかった。
急ぎ足の俺の後ろをバイアレン殿下と騎士たちがついてくる。
バイアレン殿下は俺がこれだけ焦っているのが面白いようだ。
俺達が向かったのは講堂である。広々とした講堂の扉を開けた時、
「シェイーラ・メア。貴様のような性悪令嬢とは婚約を破棄する。心優しいリベッカを虐めるようなものはわが国にはいらない。国外追放を言い渡す!!」
……何言ってんだ、この人。正直聞こえてきた言葉が非現実過ぎて驚く。それが言われているのがシェイーラだと分かって、俺は慌てる。
「シェイーラ様に何を言うのですか。フィラリー殿下!!」
「シェイーラ様は彼女を虐めるような真似はしませんわ。それに陛下の決めた婚約をそんな風に破棄出来るはずがないでしょう」
「何を考えているのですか、殿下!! 公爵令嬢を貴方の一存で国外追放など出来ません」
「そもそもその伯爵家の庶子が悪いのですよ」
シェイーラは多くの生徒たちに庇われているようだ。皆に嫌われるのではないか……と入学当初心配していたシェイーラが慕われている事実に良かったなぁという気持ちになる。
ちなみにフィラリー殿下がシェイーラを断罪なんて真似をしているので、近くにいた生徒以外には俺たちの事は気づかれていなかった。
「はっ、なんだ貴様ら、そんな性悪女に騙されているのか!! お前たちもリベッカを虐めた同罪だ!! 国外追放を――」
「フィラリー、愚かなことはやめろ」
シェイーラを庇っている生徒たちにまで国外追放を言い放とうとしたフィラリー殿下の言葉は、バイアレン殿下に遮られた。
「あ、兄上!?」
「お、王太子殿下!?」
フィラリー殿下の声ばかり聞こえていたから気づかなかったが、シェイーラを断罪なんて真似をしようとしているものは他にもいるらしい。彼らはバイアレン殿下の姿に驚いているようだ。ちなみになぜか伯爵家の庶子はキラキラした目でバイアレン殿下を見ている。
「バイアレン様ぁ!! シェイーラ様が私を虐めるのです。フィラリーたちは優しいから、私のために……」
凄いな、この子と思ったのはこんな状態でバイアレン殿下に媚びを売り始めたからだ。並の神経はしていないだろう。俺はバイアレン殿下が許可を出してくれたので、シェイーラの元へと向かう。
シェイーラの周りにいた生徒たちは俺が近づくと道を開けてくれた。
「シェイーラ、大丈夫か」
「マルコ……」
シェイーラは顔色が悪い。こんな人前で婚約破棄などされて恐ろしかったのだろう。シェイーラの事を怖がらせるなんて……とフィラリー殿下を許せない気持ちにさえなる。
「フィラリー、それにそこの子息たちも。冤罪でシェイーラ嬢を貶めるのは感心しない。シェイーラ嬢がそこの女子生徒に何もしていないのは王家でも把握している事実だ」
「なっ、兄上まであの女に騙されているのですか!! あの女は性悪なのです。リベッカに酷いことをしたものを王子妃になどできません!!」
「お前は何を言っているんだ。シェイーラ嬢は性悪などではないよ。一生懸命で、母上も教え甲斐があるといっている子だぞ? それに王子妃という立場はないだろう。お前はシェイーラ嬢の所に婿入りすることになっていたんだから」
バイアレン殿下の呆れたような声がその場に響く。
フィラリー殿下は確かに頭が弱い所があると聞いていたが、こんな頓珍漢な事を言い出すとは思ってもいなかった。
「バイアレン様、フィラリーたちは私のために怒っているだけなんです!! そんなにせめないであげてください」
「君は無礼だ。誰の許可を得て私に話しかけている? そもそも虐められているなどというのは君の虚言だろう」
「兄上、幾ら兄上と言えどリベッカになんていうことを――!!」
……本当にフィラリー殿下たちは何を言っているんだろうか。周りの目がしらけているのが分からないのだろうか。フィラリー殿下の周りの子息たちも、きっと婚約者に見放されている事だろう。こんな婚約者がいるというのは、家の恥にもつながるから。
これだけやらかしたら彼らはこの国の貴族社会では生きていけないだろう。そんな事も分からず自分が正しいと言わんばかりの様子に呆れる。
「こいつらを捕えろ」
バイアレン殿下は甘い人間ではないので、陛下の決定に反逆した者を許すつもりもない。連れてきた騎士達に彼らを拘束させる。ちなみに俺はなぜか目で「そのままでいい」と言われたので顔色の悪いシェイーラの傍に居る。フィラリー殿下の被害者であるシェイーラを放っておくわけにもいかないというのがバイアレン殿下の意見だろうしな。
このまま事態は収束していくと思ったが最後に伯爵家の庶子がやらかした。
「何よ!! あんたがちゃんと悪役令嬢をしないから悪いのよ!! 私がこんな目に遭うなんて間違っている!!」
驚くべきことに騎士の拘束から逃れようとした問題の女子生徒がこちらに向かって魔法を放ったのだ。こんな場所で人を害するような魔法を使うなんてと驚く。しかも、貴重な光属性の魔法だ。彼女は魔法の才能があると聞いている。そんな存在が建物の中でそんな魔法を使うなんて。
シェイーラが怯えた目を見せる。
「マ、マルコ」
シェイーラを狙って放たれるそれは、シェイーラに向かっていこうとする。俺は無礼を承知でシェイーラの体を守るように引き寄せた。
魔法の軌道から抜ければ問題ないかと思ったが、追跡の効果がつけられているのか、その魔法は執拗にシェイーラに向かってくる。ならば――、剣を引き抜いて、その魔法を斬った。
魔法の核を綺麗に切ったので、魔法はそのまま消滅していった。
「魔法を斬った!? 流石『完璧騎士』!!」
「流石、マルコヴィチ・ゴルーフト様!!」
何だか周りが盛り上がっているが、一先ず引き寄せてしまったシェイーラを慌てて離す。
「ごめん、シェイーラ」
「き、気にしなくていいですわ!!」
そんな会話を交わす俺とシェイーラの前で今度こそ、伯爵家の庶子は捕らえられ連れて行かれた。
そのままバイアレン殿下は王宮に戻るという。俺も追随しようとしたのだが、「シェイーラ嬢が心配だろう。そのまま、一緒にいてあげろ」と言われてしまった。というか、命令である。
「シェイーラ嬢、フィラリーがすまないね。婚約は解消されるだろう。ゆっくり家で休むといい」
「は、はい。バイアレン殿下」
「それとマルコの事はシェイーラ嬢が望むまで傍においていてもらっていいよ。フィラリーの事で怖い思いをしただろう」
何故か勝手にそんな風に決められた。願ってもないことだが、良いのだろうか……と思っていたら「父上の許可は出ているよ。騎士団長のもな。だからシェイーラ嬢が落ち着くまで傍にいるといい。それがマルコの仕事だ」と言われた。
そんなわけで俺はシェイーラとシェイーラの侍女と共に馬車に乗っている。俺が学園に入学してから、シェイーラと同じ馬車に乗ることなんてなかった。こんなに近くでシェイーラを見ることなんてなかった。
ルビーのような赤い瞳と髪。意志の強い釣りあがった瞳は、人によってはシェイーラを冷たい少女だと思うかもしれない、けれどシェイーラは優しい子だ。久しぶりに間近で見たシェイーラが綺麗になっていて、俺はドキドキしてしまう。
「マルコ、今日はありがとう。大変な時にマルコが傍に居てくれて私は……とても安心したの」
「言っただろう。昔。俺がシェイーラの不安を取り除くって」
「……覚えてたの? 子供の頃の言葉」
「当たり前だろう」
忘れるはずがない。俺が強くなろうとした原点は、そこだ。シェイーラの不安を取り除きたくて、シェイーラを守りたくて、俺は強くなったんだから。
久しぶりにシェイーラとこんなに話して、俺は舞い上がるような気持ちになる。だけど、あくまでバイアレン殿下の命で此処に居るわけで、そんな表情を外に出すわけにはいかない。
その後、そのままシェイーラの家に招かれた。公爵たちは俺がいることに驚いていたが、学園での出来事を聞くとみるみる怒りの表情へと変わっていった。シェイーラのことを可愛がっているからな、公爵は。
「シェイーラ、何も心配しなくていい。陛下の元へ行って私がなんとかしてくる。マルコ君はこのままシェイーラの傍に居てくれ」
公爵はにこやかに笑うと、そのまま王宮へと向かっていった。
「マルコがシェイーラと一緒にいるのを見るのも久しぶりねぇ」
公爵夫人はそう言ってにこにこと笑って、楽しそうだった。
その後、俺はそのまま公爵夫人に「泊まっていったらいいわ」と言われて客室に泊った。
それから一週間、俺はシェイーラを落ち着かせるためにと公爵邸にいた。
一週間もここにいていいのだろうか……、此処にいるのもバイアレン殿下の命令だから仕事言えば仕事だが、仕事をしなくていいのだろうか……と不安になる。
もちろん、俺がいることでシェイーラが落ち着いてくれるのなら嬉しい。シェイーラとこうして過ごせる日々が幸せで仕方がない。シェイーラと一緒に紅茶を飲み、シェイーラと今までのことを話す。
十三歳で俺が学園に入学してから空いていた俺とシェイーラの距離が、昔のように近づいていた。
その日はシェイーラと共に紅茶を飲んでいた。
「マルコ、あのね……」
「どうしたんだ、シェイーラ」
「あのね、マルコはこんなこと言われたら困るかもしれないのだけど……」
「俺はシェイーラの言うことなら何でも困るわけがない」
俺は断言した。シェイーラの言う言葉なら俺が困るわけがない。シェイーラは俺が困るようなことを言ったりはしない。
そんな発言をした俺にシェイーラはくすりと笑った。
やっぱりシェイーラは、綺麗で可愛い。
「マルコは相変わらずね。私、マルコと昔のようにまたこうして話せてうれしいの。マルコと一緒に笑って、沢山話が出来て、幸せなの」
「ああ。俺もだ」
「あまりにも楽しくて、バイアレン殿下のお言葉に甘えて騎士である貴方を一週間も拘束してしまったわ。ごめんなさい」
「気にしなくていい」
「そろそろバイアレン殿下に、マルコを返してくれって言われちゃったの。でも、あのね、私……、マルコとまたこんな風に一緒に居たいの」
「シェイーラが望むならいつでも来る」
「えっと、そ、そうじゃなくてね。その……」
シェイーラは、そう言いながら下を向く。どうしたのだろうか。シェイーラを困らせるような存在が何処かにいるのだろうか、何か考えているのだろうか……と思っていたら、予想外の言葉を言われた。
「私、フィラリー殿下に婚約解消されてほっとしていたの。フィラリー殿下に恋をしていたわけではなかったから。私、改めてね、他の誰でもないマルコと一緒に居たいって思ったの。……そ、その、マルコは婚約者がいないでしょう? 私も婚約解消されたから、マ、マルコさえよければなんだけど……、わ、私と婚約してほしいの」
予想外の言葉に俺は固まってしまう。
何を言われたのか分からなかった。
固まった俺に勘違いしたのか、シェイーラは続ける。
「ご、ごめん。急に妹みたいに思っている私にこんなこと言われても困るわよね。私マルコが優しいのは、私の事を妹のように思っているからだってわかっていたけど。でも、私、マルコのこと、ずっと好きだったから。マルコと婚約出来ないかなって……ごめんね、わすれ……」
「違う!! 困ったわけじゃない!!」
俺はシェイーラの言葉を理解して叫ぶ。こんな大きな声を出したのは久しぶりだ。シェイーラが驚いた顔をしている。
「シェイーラ、俺もシェイーラが好きだよ」
「え」
「俺はシェイーラの事が好きなんだ。俺もずっと昔から。俺が騎士として強くなろうとしたのもシェイーラのためなんだ。シェイーラが昔、将来を心配していたから。だからシェイーラの不安を取り除くために強くなろうと思っていたんだ。いつだって俺の心にはシェイーラがいたんだよ。
でもシェイーラは殿下と婚約をしているから……だから俺は生涯結婚せずにいようって思ってたんだ。父さんや母さんには女の子は沢山いるのよ? って言われたけど、俺はどんな女性にあってもシェイーラしか見れなかったんだ。
固まってしまったのは、シェイーラが俺を好きっていってくれると思わなかったから。夢かと思って、信じられなかったから。嫌だったわけじゃない。俺はずっと……、シェイーラが好きだったから」
シェイーラの目を真っ直ぐ見て言えば、シェイーラの顔が徐々に真っ赤に染まっていく。俺はたちあがり、跪いて椅子に座るシェイーラの手を取る。顔が赤い。
「シェイーラ・メア公爵令嬢。俺は貴方の事がずっと好きでした。俺と結婚してください」
きちんと言いたかった。うやむやに言いたくなんてなかった。それにシェイーラが、こういうプロポーズに憧れている事は知っていたから。だから少し恥ずかしかったけれどはっきりと告げた。
「……はい。喜んで」
そしてシェイーラは、頷いてくれた。
頷いてくれたシェイーラに「俺は一生シェイーラを守るよ」と告げて、手の甲に口づけをした。
真っ赤になったシェイーラが可愛かった。
ちなみに婚約解消後すぐに俺と婚約を結ぶなんてシェイーラの評判に傷がつくのではないかと思ったが、そんなことはなかった。寧ろ驚くほどに皆俺とシェイーラの事を祝福してくれた。
「卒業してマルコのお嫁さんになるのが楽しみだわ」
「俺も……」
シェイーラは学園卒業後、俺のお嫁さんになってくれる。にこやかに微笑むシェイーラが一生俺の傍にいてくれるのだと思うと、俺は幸福を感じてならない。
――心配性な幼馴染のために、伯爵子息が頑張った結果。
(心配性な幼馴染のために『完璧騎士』と呼ばれるようになった伯爵子息は、愛しい少女と幸せになる)
以前投稿した「心配性な幼馴染のために、伯爵子息は頑張る事にした。」のその後の話です。
長編で書くか中編で書くかなどと考えてましたが、短編で投下することにしました。
幼馴染同士の話は読むのも書くのも好きなのでこんな感じになりました。
マルコヴィチ・ゴルーフト
伯爵家の三男。シェイーラの幼馴染で、二歳年上。幼馴染が心配性なため、その不安を取り除きたいと無意識な恋心で宣言し努力していた人。学園入学時に恋愛感情に気づくが、婚約者の居る相手なので結ばれる事はないと割り切っている。でも幼馴染は守りたいため努力を欠かさない。結果、『完璧騎士』とか呼ばれている。
卒業後、騎士になった。王太子からも覚えが目出度い将来有望な騎士。一途でずっとシェイーラ一筋。
学園にいた頃もシェイーラが心健やかに過ごせるようにというのに全力を尽くしていた。シェイーラが学園で好かれていたのは、彼の行動の結果でもある。(マルコの前ではシェイーラが優しく笑っていたりとかしていた)
後輩にも慕われていて、シェイーラと同学年の後輩たちにとってシェイーラはマルコの幼馴染ということで何かあってはまずい! と言う認識。情報は後輩からもらってた。近しい人にはシェイーラを好きな事はバレバレである。
学園生活中も騎士としての生活中も、女性に大変もてているが、本人はシェイーラ以外興味ないのでまったくなびかなかった。そんなところが素敵などと思われているが、把握していない。
シェイーラと結婚できるということで幸せ。
シェイーラ・メア
公爵家の長女。実は前世の記憶持ち。この世界が乙女ゲームで自分が悪役令嬢の立場だと知って、とても心配していた。幼馴染の発言を嬉しく思っている。幼馴染に好意を抱いているが、王家の希望があったために第二王子の婚約者になった。(ちなみに王家からの希望がなかった場合は両家の当主はマルコとシェイーラを婚約させようと思っていたが、王家の方がはやかった)
マルコが学園に入ってからマルコと距離が出来て悲しんでいたため、入学してから話しかけていた。
吊り目の美人さんに成長していたが、親しい人の前では優しく笑う。前世の記憶があるのとマルコの影響で乙女ゲームの頃とは違い、とてもやさしく育っている。
ヒロインが同じ転生者っぽいことで絶望気味だったが、周りが優しく守ってくれて、マルコも守ってくれて、ほっとしていた。
ちなみにマルコへの好意は昔からあったが、本格的な恋愛感情に気づいたのは最近。でも殿下と婚約していたため、断罪がなければこのままフィラリーと結婚しようとは思っていた。断罪されたから、それならマルコと結婚したい! と勇気を出してみて、いま、幸せ。
バイアレン
王太子。マルコとは学園時代からの付き合い。マルコの事を友人と思っている。剣もたしなむ。
マルコがシェイーラのことを好きらしいという情報は前から聞いていたので、フィラリーがシェイーラへの態度がひどいこととかも把握していたからどうにかできないかなーと考えていたところに弟がやらかしていると聞く。
丁度よいと、そのままマルコとシェイーラをくっつけさせようと動いていた。二人が幸せそうで満足している。
ちなみに仲が良い婚約者がいる。
フィラリー
第二王子。シェイーラの婚約者。シェイーラが優秀で元々気に食わなかった。コンプレックスをつかれて、ヒロインになびく。ちょっと頭が弱い。平民に落とされて、大変な暮らしをしている。
リベッカ
ヒロイン。前世の記憶がる。乙女ゲーム大好きなお花畑ちゃん。シェイーラがゲーム通りに動かないから自作自演したら自滅した人。
さっくり処刑された。