第8話 童子切安綱(どうじぎりやすつな)
月曜日、空は、舞の家に迎えにきていた。
「こんにちはー、空でーす。舞さん、いますかー」
「かわいい、舞ちゃんならいますよー」
「ちょっと、舞ねーちゃん、それは、唯のせりふじゃない!」
「おはようー、舞、唯ちゃん、2人とも、今日もかわいいね!」
「ありがと、舞」「ありがと、空にー」
「さあ、早く行こう」
「「おー!」」
いつもと同じ、制服姿に白いスニーカーを履いた、ポニーテールの舞。こちらも、水色のスニーカーを履いた、ツインテールの唯
今日は、空が、2人の美少女の手を引っ張って、須原神社前のバス停で、バスに乗り込んだ。
「ふーっ」
『バシッ』と、背中を叩かれる。
「空、何、ため息ついてんの?何か悩んでるんでしょ」
「うーん、そうなんだよ。分かんなくなっちゃって」
「舞ちゃんが、お悩み相談にのってあげるよ」
「唯ちゃんも、お悩み相談にのってあげる!」
「ハハハ、ありがと。でね、悩んでんのは、菩薩と如来の事なんだよ」
「ん? ああ、明王の上の格ね」
「で、なに、なに?」
「うーん、うまくいえないけど、菩薩と如来って、ほんとに打てんのかなってのを悩んでんの」
「「???」」
「だよなー、童子切安綱って太刀があるじゃん」
「国宝の太刀だよね」「聞いたことある」
「そう、この世で一番つえーくらいの太刀なんだぜ、童子切安綱って。それが、明王だとしたら、菩薩と如来なんて、人間には打てないんじゃないかって、悩んでんのっ!」
「ふーん、確かに、それは一理ある」
「いやいや、空にー、思い違いしてんじゃないの?」
「いや、おれじゃなくて、じいちゃんの隠し部屋の紙に、書いてあったんだけど」
「でも、空にーの、おじちゃんでしょ?じゃあ、空にーみたいに、思い違いしてるだけかもよ?」
「おー、唯それ言える!」
「えー、じいちゃんが思い込んでるって?」
「だって、は、こっちのセリフ。空のおじいちゃんでしょ、血がつながってるから、よく似てるんだって!」
「おー、唯それ言える!」
「アハハ、舞ねーちゃん、そればっか!アハハハ!」「おもしろーい、アハハハ!」
「いやいや、いやまてよ? そうかもしれないな、よし、だったら、見に行くか!」
「はい、はい! 舞も行きます!」「はい、はい!唯も行きます!」
「いや、東京だよ!」
「「美少女2人のエスコート、よろしくね!」」
「ほんと?」
「ぜったい、3人の方が楽しいってば!」「そうそう、岐阜駅から高速バス使えば、お財布にもやさしいって!」
「「それに、家が買った『狛の太刀』で、臨時収入があったんでしょ?」」
「とほほ、金曜日の夜便で良いでしょうか?」
「「いいね!」」
という事で、土曜日の朝、東京国立博物館の前に、空、舞、唯、3人の姿があった。
「「「おおー、やっと着いた!」」」
「偶然、展示会やっててよかったよ」
「だって、美少女が2人もついてきたんだから、当然でしょ」「そうそう、幸運の女神ってやつね」
「ありがたや、ありがたや」
「さあ、空、バカやってないで見に行くよ」「レッツゴー!」
展示室へと足を進めると、最も目立つ位置に、それはあった。
国宝 童子切安綱 長さ 2尺6寸4分7厘(80.2cm)反り 8分9厘(2.7cm)
他の太刀とはくらべものにならない、異様な迫力がある。
「うわ、なんかスゴい!」「空にー、の、不動明王の太刀とは違う気がする」
「うん、これは、ただの太刀じゃない」
「この波紋を比べてくれ、どうみても、不じゃない」
「「うん、確かに。」」
「地、月、日、薬って、これ、薬じゃないか!薬師如来の格だ!」
「不動明王じゃなかったってこと?」
「これが如来か!」
「よかったね、空」「よくわかんないけど、よかった、よかった」
「ああ、人の手でも、如来が打てることが分かった。よーし、頑張る目標ができたぞ!」
「「頑張れ、空!、この後は、東京でスイーツだ!!」」
「いくらでもおごるから、もう少しまって。気になる刀があったんだ、これこれ、鬼切?北野天満宮所蔵?」
重要文化財 鬼切國綱(安綱) 長さ 2尺7寸9分2厘(84.4cm)、反り 3.69cm
「童子切安綱と、名前が、ちょっと似てるね」「これも、鬼を切ったの?」
「うーん、そうかもしれない。と、これは、不だ!」
「「と、言う事は?空のおじいちゃんは、こっちをみちゃったって事?」「って事?」
「いやいや、と、言いたいけど、そうかもしれない。だって、童子切安綱は、見間違いようがないからね」
「うん、そうかもね」
「空にーちゃん、ちょっと元気になった?」
「ああ、舞と唯のお陰で、童子切安綱や鬼切國綱が見れたし、目標もできた」
「明日から、頑張れそうだ!」
「やった!じゃあ、スイーツいこう!」「やった、スイーツ、スイーツ!」
「よーし、スイーツ食べて、岐阜に帰ろう!」
「おー!先ずは、チョコケーキ、次は、パフェ、最後は、フレンチートーストだ、レッツゴー!」「おー!」
美味しいスイーツを堪能してから、高速バスで岐阜へと帰る。
舞と唯は、スイーツに満足したのか、すっかり寝入っている。
「童子切安綱か、凄い太刀だった。どうやったら、あれほど素晴らしい太刀が打てるのか全くわからないけど、できなくはないって事だ」
「よし、つきあってくれた2人の為にも、頑張ろう」
バスは、深夜の高速を、岐阜へと向かってひた走る。出口を見い出した空は、未来へ向かって走るような感覚を覚えていた。