第6話 妖狐といしくま童子
金曜日、学校で、良くない噂を耳にした。
「ねえ、聞いた? 甲賀神社の近くで、また、通り魔が出たらしいよ。」
「ええ、うそー」
「ねえねえ、何があったの?」 舞が通り魔の噂を聞きつけた。
「うん、昨日の夜、甲賀神社から、郡上に抜ける山道で、暴走族が通り魔にやられたんだって」
「え?昨日の夜?」
「そうそう、5人いたらしいよ」
「舞ん家も結構近くない?怖いよね?」「怖いよね?」
「うん、そうだね」
「あんまりこわそうじゃないけど、あ、舞には、空君がいるから大丈夫か」
「そんなんじゃないし、もう!」
バスでの帰り道、空と唯は、舞から、通り魔の話を聞いていた。
「舞ねーちゃん、それって、結構ヤバくない?家、近いよね?」
「ううん、甲賀神社から郡上に抜ける山道だから、家からは結構遠いと思う」
「あ、そうか」
「ねえ、空、これって、この前の通り魔と関係あるのかな?」
「うーん、調べてみないとわからないな。でも、暴走族ってことは、バイクに乗ってたんだろ?餓鬼じゃ追いつけないと思うぜ」
「そうか、そうすると、餓鬼よりも強い奴かもしれないってこと?」
「ああ、妖狐とか、童子ってことかも考えられる。調べるなら、しっかり準備しねーと、ヤバいかもしんねーな」
「じゃあ、よろしくね、空」「よろしくね、空にーちゃん」
「え???」
「「だって、怖いじゃーん!」」
「って、事で、今日は、泊ってくれるって事で、家から不動明王もってきてね、待ってるから、ね」
「唯も、まってるから、ね」
美少女2人の笑顔は、破壊力抜群だ、空は直ぐにおれてしまった
「準備したら、直ぐに行くよ」
「「じゃあ、このまま家に送ってもらって、帰ってくるまで、家でまってるから。直ぐに来てね」」
「「「「「クソ、お泊りだと? 爆発しろ、リア充め」」」」」 バス中の男子から、怨念のような声が聞こえる。
「何だか、空気が淀んでるし、寒気がする」 空には敵が多かった。
部屋の神棚から、不動明王の剣を取り出し、竹刀袋に詰め方に担ぐ。
左手には、木杖(金剛力士の刀)を持つ。
「母さん、今日は、舞ん家に泊まってくる。母さんも、通り魔には気を付けてね!」
「はいはい、気を付けていきなさい」
「はいよー」
「おう、空、舞ちゃん家に行くのか?」
「う、何も言えねえ」
「ハハハ、おら、急げ!」
「親父、通り魔が捕まってねえ。何かあったら、鍛冶場の神棚にある、じいちゃんの太刀を使ってくれ、母ちゃんをよろしくな」
「何言ってんだ。あれか、お前が言ってた悪意ってやつか?せっかくのアドバイスだ、毘沙門天の太刀を身に着けとくよ」
「おう、こっちの刀は、不動明王だ!」
「はやく、行け」
「おうよ!」
「さて、何かあるといけねえからな、毘沙門天の太刀を取ってくるか」
父 明は、鍛冶場へと向かった。
不動明王の太刀を担いだ空が、須原家に急ぎ、直ぐに辿り着く。途中、特に嫌な気配はなかった。
「こんにちはー、空でーす。舞さん、いますかー」
「いらっしゃい、空!さあ、こっちこっち!」
「空にーちゃん、いらっしゃい!舞ねーちゃん、こんな面白い生物を独り占めは良くない!」
「この、面白い顔はゆずらない」
「独り占めしなくったっていーじゃん」
夕食を賑やかに頂いて、お風呂上りに、客間で不動明王の太刀を紹介する。
「これが、不動明王の太刀です。先日、お持ちした狛犬の太刀も天の領分の太刀ですが、こちらの方が神格が上なんです」
「へえ、何が違うの?」舞の母親が興味深そうに聞いてくる。
「ええ、両方の刀身を見比べて下さい。波紋の鮮やかさと、きめ細かさが違うのは分かりますか?」
「ええっと、こっちのほうが、鮮やかさで、きめ細かい感じに見えるわね、見た目の違い?」
「ええ、そういう違いです。特に、切れ味に違いがあるわけではないんです。」
「空、それだけなの?」
「もしも、酒呑童子があらわれたら、狛の太刀では、立ち向かわないで下さい。って感じ?」
「アハハ、太刀だから、立ち向かわないって、つまんないギャグ」
「いやいや、ギャグじゃないけど」
「「つまんなーい」」 賑やかに夜は、更けていった。
翌日、甲賀神社に調査に向かう、空
「流石に、危ないと思うから、一人で行ってくる。舞と唯ちゃんは、須原神社の鳥居の内側で待ってて。ここには、悪意は入ってこれないと思う」
「わかった、待ってるから、早く帰ってきてね」
「お土産まってるね」
「遊びにいくんじゃないんだけどね」
「「アハハ、面白かったから許す」」
「じゃあ、行ってきます」
「「頑張ってねー!」」
甲賀神社を超えて、暴走族が通り魔にあったという、郡上に抜ける山道を進む。1時間程進むと、山麓へと続く山道があった。手前には、空き地があり、バイクなら数台停められそうだ。
「こっちに、何かありそうだ」
木杖(金剛力士の刀)つきながら、慎重に、山道を登る。
「やっぱり、暴走族が、踏み荒らした足跡が残ってる。こっちか?」
しばらく進むと、お地蔵さまが、2体、倒されている。穴も2(ふた)つ開いている。背筋を悪寒が走る。
「2体いる?」
腰を落とし、『クンッ』と金剛力士の刀のこいくちを切る。
『ザザザザザ、ガアアアアア!』正面の草むらから、白いキツネ?が飛び掛かってくる。と、背後からも、強い気配が近づいてくる。
左足を引き、半身になって、左右を同時に牽制する。と、左右から、白い狐が飛び出し、目の前で威嚇体制をとる。目が赤く、尻尾が2本にわかれている。
「妖狐、しかも2体。妖狐なら、こいつで、行けるか?」
「スウウウウー」と、深く息を吸い止める。
妖狐は、荒く息を吐きながら、体を屈めて、から若干の時間差で2体が正面左右から飛び掛かってくる。
「フ・ウッ」 抜き打ちざま、太刀を横に一閃し1体を仕留め、、流れのままに上段から袈裟に振り下ろし、2体目を仕留める。妖狐が霧散する。
『カチンッ』と、刀を鞘に納める。
「戸隠流、居合三の型」
「フウウー」大きく、息を吐く、吐き切る前に息を止め、再び構える。
左手、山麓から、強い気配が近づいてくる。
「甲賀神社の守護かえ。餓鬼だけでなく、妖狐も倒すとは、いしくま童子が喰ろうてくれよう」
木杖を腰に差し、背から、不動明王の太刀を取り出し、居合の姿で構える。
「なにものだ?」
「喰われよ、げろう。フハハハハハ!」
疾風のように駆け降りてきたかとおもうと、黒い太刀を抜き飛び掛かってきた。
居合の間合いに入ってから、逆袈裟に切り上げて敵の刀を弾き、瞬時に袈裟掛けで切り下げ、中段、正眼に構える。
一瞬怯んだ、いしくま童子に向かって踏み込む。
いしくま童子が、遅れて突き出してきた黒い太刀を、「セイ」と、上段から不動明王の太刀で叩き折る。『バキィッ!』
「ウ、こうがごときに、」
『ボフッ』と、黒い霧となって霧散した。
不動明王の太刀を鞘に納める。「フウウー」大きく、息を吐き、片膝をつく。
「戸隠流、居合伍の型」
「名を持つ童子? いしくま? 不動明王の太刀がなければ、やられていたか」
「ふう、ふう」と呼吸を整える。
その後、穴を埋め、お地蔵さまを戻し、手拭いで、汚れをふき取る。すぐさま、いしくま童子がおりてきた参道を登る。
お堂の狛犬が倒され、本尊と思われる地蔵菩薩もお堂の前に打ち捨てられていた。
「これも、暴走族の仕業か」
「急いで、元に戻そう」
直ぐにご本尊をお堂に戻し、お堂を掃除する。狛犬2体を戻し、こちらも手拭いでキレイにする。
お参りを済ませ、不動明王の太刀を背負い、木杖をつきながら参道を降りていく。
「疲れた、早く戻りたいけど、唯ちゃんにお土産買ってかないと」
木杖も竹刀袋にしまい、甲賀神社の喫茶店で、ワッフルを5人分お持ち帰りさせてもらう。
「ただいまー、舞、唯ちゃん。お土産買ってきたよー」
お土産のワッフルを唯ちゃんに手渡す。
「おっそーい、心配したじゃない、プンプン」
「そうそう、舞ねーちゃん、とってもしんぱいそうだったよ」
「こら、唯!」
「おちゃいれてくるねー」
「もう!」
「いや、本当に大変だったんだから。でも、もう大丈夫!」
「やっぱり、餓鬼がいたの?」
「だと良かったんだけど、妖狐が2体と、いしくま童子っていう、名持ちの童子がいて、流石にヤバかったよ」
「うええ、空大丈夫だったの?ケガはない?」
「ハハハ、大丈夫。不動明王の太刀があったから、何とか倒せたよ」
「もう、笑いごとじゃないよ。でも、よかった」
「うん、もう安心だ」
「でも、どこから来るんだろうね?」
「うん、いしくま童子って、確か、酒呑童子の手下の鬼だよね」
「ってことは、京都?」
「多分ね」
「じゃあ、京都に旅行する?二人で?ええー、ちょっと、ヤバくない」
「いやいや、酒呑童子の本拠地に乗り込むって、それは、別の意味でヤバいよ。もっと、良い太刀を鍛えてからだね」
「ちぇっ、つまんなーい」
「お茶はいったよー」
「はーい、今行く。空 おつかれさま、さあ、おちゃのもう」
「ああ、ありがとう」
舞に抱き着かれて、客間へと向かっていく。
こうして、甲賀神社周辺の通り魔事件は、犯人の悪意を空が退治したので、犯人が見つからないまま終焉を迎えた。