第4話 甲賀神社(こうがじんじゃ)
空が、舞の家に辿り着き、ガラガラと玄関の戸をあける。
「こんにちはー、空でーす。舞さん、いますかー」
「そこは、『かわいいまいちゃんを、おむかえにきました』でしょ!」
「え?、舞? どこにいんの?」
「ここ、ここ!」
玄関正面の木の置物の裏から、ひょっこりと舞が、顔を出す。
「うわ、ひょっ〇りかよ!」
「アハハハ、やっぱり、空の驚いたかおって、おもしろーい。さあ、妹の唯に見つかる前に行こ!」
白いスニーカーを履いて、空の手を引っ張る。
「ちょ、ちょっと! もう、しょうがないな」
舞に、引っ張られるまま、鳥居の方へと軽く走り出す。
「空にーちゃーん、来たの?ねえ、舞ねーちゃーん!」
ツインテールのジャージに、パーカーの唯が、玄関に走り込んでくるが、2人の姿はなかった。
「逃げたな、あの2人。もう、帰ってきたら、ただじゃ済まさないんだから、プンプン!」
玄関の戸を閉め、部屋へと戻っていく唯
その頃、空と舞は、手を組んで、甲賀神社に向かって歩いていた。
「へえ! 空ん家って、円空の末裔なんだ!」
「そうなんだよ、もう、びっくり」
「ところで、円空って、偉い人なの?」
「えー、知らないの?」
「ぜーんぜん、しーらない、アハハハ」
「いや、まいったな。今、向かってる、甲賀神社にも、円空が彫った仏像がいくつも残されてるんだ。有名な仏師だよ」
「えー、刀鍛冶じゃないの?」
「そうなんだよね。だから、ちょっと調べようと思ってさ」
「じゃあ、空の調べものにおつきあいする、かわいい舞ちゃんへのご褒美は、美味しいスイーツで。Are you ok?」
「ハハハ、喫茶店のパフェでつきあってもらおうかな?」
「よーっし、手を打った。ルンルン」
1時間程、山道を歩き、甲賀神社に辿り着く。
参道にはお土産屋さんと喫茶店、水を汲む小さな建物、鳥居をくぐった境内には、神社の本殿、社務所、神楽殿、そして、円空仏が展示してある建物がある。
「あー、つかれた。前払いで、パフェ、パフェ!」
「よし、パフェ、食べて休憩しよう」
「やったー、パフェ、パフェ!」
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ!」
「ストロベリーパフェとカフェラテ、空は?」
「ワッフルとあったかいコーヒーを」
「はーい、直ぐにお持ちしますので、好きな席にでお待ち下さい」
店内には、数人のお客さんがいたが、テラス席は空いていた。
「舞、テラスでいい?」
「いいよ、パフェ、パフェ!」
席に座って、5分ほど待つと、注文したものが全て運ばれてきた。
「いっただきまーす、あ、美味しー!」
「うん、ワッフルも美味い」
「パクパク、で、このあとは、仏像見るの?」
「うん、仏像もだけど、境内を見て回るつもり」
「あ、カフェラテも、美味しー!」
スイーツと飲み物を堪能し、店を出る。
鳥居をくぐり、境内に入ると、手水舎があり、手を清める。
少し進むと、左手に社務所、右手には大きな杉の木が立ち並ぶ。その杉の木の奥に、何かの石像があるようだ。
舞が、気付き、空の手を引く。
「ねえ、空、あれってなに?」
「なんだろう、気にしたことがなかったけど、ちょっと見てみよう」
杉の木の奥に進むと、武士(?)が、何かを退治しているような石像が目に入る。
「空、これって、昨日、消えちゃったのに、何だか似てない?」
「似てる、何だこの石像は。台座に何か彫ってあるぞ。カスレて読み難いな、漢字も古い字体みたいだ」
「えー、どれどれ。舞さんが、読んであげる。『藤原高光 餓鬼を退治 正暦』って彫ってあるね」
「何だって、餓鬼を退治って彫ってあるって?どこ?」
「ここ、見て」
「本当だ、正暦って、なんだ?」
「平安時代の元号だよ」
「平安時代?」
「うん、酒呑童子が源頼光に退治された頃って言えばわかる?」
「なんだって?酒呑童子?名を持つ童子?」
「あれじゃん、超有名な、なんて刀だったかな?何とか切りとか?」
「童子切安綱」
「そうそう、それそれ。さっすが、日本一の刀工!」
「おいおい。でも、平安時代に餓鬼がいた?。それを退治した人がいる。酒呑童子を退治したのは、童子切安綱」
「舞、他には、何か彫ってないか?」
「うーん、ちょっと待ってね。あ、こっちの裏側にも字が彫ってある。良く読めないな。うーん、餓鬼退治 狛短刀?」
「狛ってあるのか?」
「ほら、ここ。消えかかてるけど、狛だと思うよ」
「本当だ」
「もしかして、この狛って、空の打った、『狛の太刀』と一緒ってこと?」
「うん、そうだと思う」
「うわ、鳥肌たった!。え、じゃあ、昨日のあれって」
「うん、餓鬼っていう悪意らしい」
「じゃあ、酒呑童子を退治した童子切安綱って?」
「うん、『不の太刀』らしいんだ。でも、不って意味がわからなくって、調べに来たんだ」
「えええ、ちょっと、鳥肌がひかない」
「この背中の木杖、これ、金の刀なんだ。金は、金剛力士の事だって、じいちゃんの遺した紙にかいてあった」
舞が、空の腕に抱き着いてくる
「そ、空、震えが止まんない。」
「ごめん、舞。先ずは、本殿にお参りしてこよう。きっと落ち着くよ」
「うん、そうする。それまで、このままね」
舞が、空の腕にくっついたまま、歩きだす。本殿でお参りを済ませてから、円空仏が展示してある建物に入っていく。
舞は、空の腕にくっついたままだ。
「なんか、ここ、落ち着くね」
「うん、円空の仏像が展示してあるだけなんだけど、落ち着くね」
「わあ、これ、とっても強そう。不動明王だって。不から始まってるよ、空」
「不動明王?不って、不動明王のってこと?円空仏にも不動明王がある?」
「何か、書いてない?」
「説明書きがあるね。『不動明王梵名アチャラナータ、魔を退散させ、煩悩や因縁を断ち切る』だって」
「魔を退散させ、煩悩や因縁を断ち切る?」
「お、興味深々だね。空さん」
空が、説明書きと仏像に見入っていると
「ねえ、空、ちょっと、さっきのお店で休憩しない?トイレに行きたくなっちゃって」
「あ、ゴメン、舞。調べものも終わったし、うん、さっきのお店に戻ろう。」
「で、文字の解読の褒賞は、パフェとカフェラテでいい?」
「ああ、助かったよ舞。急ごう」
喫茶店でパフェを堪能してから、舞の家に戻り始める。
「舞のおかげで、狛は狛犬、金が金剛力士、毘が毘沙門天、不が不動明王だってわかったよ。」
「えへへ、舞ちゃん、凄いでしょ?大事にしないとダメだよ?」
舞の家で分かれる。
「今日はありがとう、舞。調べものが進んだよ。明日は刀打ちだから、これないから、気を付けて」
「うん、ありがとう。月曜は、迎えにきてね」
「わかった、じゃあ」
「じゃあね!」
(「名を持つ童子が現れたらどうするんだ?じいちゃんの剣でも、倒せないって事だよな?うーん、そうだ、水。甲賀神社の水汲舎で水汲んでみるか」)
家に戻ると、自転車に給水タンクを載せ、甲賀神社の水汲舎に向かう。
「神水舎? 早速、水を汲ませてもらそう」
たっぷり神水を汲み、フラフラしながら家へと帰る空