乾杯!
会場は熱気に包まれていた。惜しみない拍手を受けているのはオズワルド。
それもそのはず、今回オズワルドが発表したスクロールのレベルは3.44。レベル3の壁でさえ去年突破したばかりだというのに、目まぐるしい進歩だ。
(でも……3.44か)
次の発表者として客席からは見えない壇の端で待機しているフィンを、オズワルドが去り際にちらりと見た。どうだとばかりに自信に満ちた視線がフィンを射抜く。
だからフィンは負けじと笑みを浮かべた。それを見てオズワルドは軽く眉を上げた。どうやら笑みを浮かべる意味がわからないらしい。
オズワルドが壇から去り、入れ替わるように逆からフィンはスピカとアーロンを連れて入場した。壇に出てきた見知らぬ発表者に、好奇や疑問などの様々な目が向けられる。
(落ち着け。落ち着け。落ち着け)
逃げ出したくなる意思を抑え、立ち止まろうとする手足を動かして壇の中央へ。
正面を見れば、ずらりと並んで自身に注目する人の多さに眩暈すらしてしまう。ちらりと視線を上げれば、二階から見下ろす貴族の方々もいるのだろう。
声を出す前に、ゴクリと唾を飲み込むも、喉が急に狭くなったかのように息苦しい。唇は乾いてかさつく。
レオナルドの後ろで発表の手伝いをするのとは大違いだ。こんなにも違うとは思わなかった。
(落ち着け。落ち着け。一回深呼吸だ。咳払いをしてもいい)
すぅと息を吸い込む。そしてゆっくりと吐こうとしたところで、こちらを見ているレオナルドとリンジーに気づいてしまった。
知り合いが見ているというのはそれはそれで恥ずかしい。というかよくよく見てみると最前列にはシルベットやコンラッドを含む伝通人がずらりと並んでいる。
(結構知ってる顔がちらほらと)
ここで失敗したらどうなるんだろうとか考えただけで嫌になる。体中が自分の体ではないかのようにふわふわと浮いているような気がしてきた。
いい加減発表を始めなければ。自分に必死に言い聞かせ、無理矢理口を開き、第一声を放つ。
「きょ、今日ばっ!」
噛んだ。
会場中から沸く失笑。それに顔が熱くなるのを意識しつつ、フィンは誤魔化すように笑った。そんな時、頭に声が聞こえた。
『フィン落ち着いて』
平坦なこの声、スピカだ。どうやら魔術で直接話しかけているらしい。いつの間にか魔力経路を作っていたようだ。ただフィンが少しでも抵抗すれば切れてしまいそうなほど弱い魔力経路で、フィンからは声を送ることは出来そうにない。
周りの反応を伺うも、元々魔法技術発表会というだけあり、会場に魔力が満ちているせいで気づいていないようだ。
『別にオズワルドみたいにしなくていい』
ドキリと心臓が跳ねた。フィンにとって最も印象深い発表が去年の発表だったために、意識していたのは実はオズワルドの発表だったのだ。
『ただスクロールの性能さえ提示すればいい』
それはわかっているのだ。自分たちの作ったスクロールを堂々と紹介すればいいことなんて。だけど緊張しすぎてそれすらも難しいことのように思えて進まない。
『考え過ぎてもしょうがない』
それは前回の発表会でアーロンに言われたことと同じだった。悪いことを考えたとき、事態を変えられるものとそうでないものの二つがある。
(これは……もう考えても仕方ない場面だよな)
中々話し始めないフィンを不審そうに見つめる人々。それを見て、もうどうにでもなれとばかりに口を開いた。
『だからあとは頑張れ』
わかってる。
「ボクたちの工房、フィン工房ではスクロールを作ってます。それで、今回はボクたちの開発したスクロールを紹介します。えーとああ、そうだ。レベルは3です」
たどたどしい発表だが、レベル3と聞いて会場がどよめいた。
「術式は簡単に言いますと、スクロールの中に小さな魔術師を作り出して魔術を使ってもらうという方式です」
首をかしげる人が目立つ。フィンとしてはわかりやすく言ったつもりだが、反応が悪い。
ならば次はどう説明しようか、それを悩んだところで後ろから咳払い。振り返るとアーロンが一本のスクロールを取り出していた。
「見せる方が早い」
「あー、うんそうだね。スピカ、的よろしく」
「了解」
スピカが腕を一振りすると、土魔術で壇上に土で出来た三角柱が設置された。
それを確認したアーロンが宙にスクロールを投げると、封が燃えるように解かれ、空中で開いた。すると青い光を放ち、小さな魔法陣が展開し、それが一瞬で巨大化した。小人方式の特徴だ。
そしてレオナルドの処理術式の応用の性能の良さが活き、すぐさま魔術が発動する。
魔法陣を中心に黒い渦が巻き起こり、さらにその中央がバチバチバチ! とスパークしている。そのスパークの音は徐々に大きくなり、そして、轟音と共に青い閃光が走った。閃光は会場一杯を照らしつつ、壇上の三角柱に落下し、ガッ! という鋭い音が響いた。
そして閃光が消えた会場に静けさが訪れた。頭上に発生していた黒い渦も消えている。
誰もが三角柱を見つめていると、やがてそれはゆっくりと二つに割れ、倒れた。
「レベル3の『召雷魔術』です」
細かく言えばレベル3.12。オズワルドのレベルには及ばない。だが会場は二組目となるレベル3の壁を破った者が現れたことに興奮し、歓声が沸き起こった。
その歓声に胸の内が喜びで満たされていくのを感じながら、フィンは身振りで落ち着くように伝えた。まだ発表は終わっていない。
それに気づき、ようやく静かに、だけど期待で熱気を持った会場を確認し、続きを始める。
「もちろんオズワルド……オズワルドさんのスクロールよりもレベルは劣ります。だけど今のは実用性を重視して、展開速度やコストに気を使ったスクロールです。そして」
懐から一本のスクロールを取り出すと、自然とそこに視線が集まる。その視線はもう好奇や疑問に満ちたものではなく、期待に満ちたものだった。
「これは実用性やコストを度外視したスクロールです。始めに言っておきますが、魔術を発動するまで長いですし、使われている紙もインクも高級な素材です。……量産も難しいです。だけど、レベルは高いです」
一度息を吐き出した。そして勢いよく上に向かってスクロールを投げ飛ばす。
回転しながら宙を飛ぶスクロールは、その金色の封を青い炎で燃やし、中に閉じ込められた魔術を発動せんと脈動した。
始まりは拳程度の魔法陣。それが弾けるように巨大化、その魔法陣の周りを指先程度の小さな魔法陣が囲むようにして回る。そこからさらに一段階巨大化。天井を覆いつくすほどの巨大な魔法陣が出来上がる。
その魔法陣の中を、小さな魔法陣が躍るように周り、時に別の魔法陣とくっつき離れ、そして交差する。そのたびに金色の火花が散り、魔法陣を一段と完成に近づける。
カチリと全てがハマる音がし、誰もが息を呑んだ。
瞬間、魔法陣から炎が噴き出した。どよめく彼らの目の前で、炎はうねり、次々と姿を変えていく。鳥、魚、犬、猫、ウィズニャン、馬、猪、竜、と炎は様々な姿を形作った。
散る火花はスピカがそれこそ視認できないほど薄く張った結界に遮られるので怪我の心配はない。観衆はただひたすらに目の前の炎の踊りを楽しんだ。
そして最後に、花火のように盛大に輝き、あっと言う間に消えた。会場中が怖いくらい静かになった。フィンは恐る恐る言った。
「今のはレベル3の『炎舞魔術』ですね。精確に言うとレベル3.65……です」
どんな反応が返ってくるか内心ドキドキしながら言うと、言い終わるや否や振動が伝わるほどの拍手と歓声が響き渡った。
レオナルドやリンジー、シルベット達も溢れんばかりに拍手をしている。
一際大きな歓声がしたので驚いて見れば、ウィズニャンガチ勢のニコラスが帽子を指先でクルクル回しながら騒いでいる。その隣に座っている銀髪の老婦人が、見かねてパシリと頭をはたいて止めた。
(何やってるんだか……あっ)
周りに合わせてといった調子で軽く手を叩いているオズワルドを見つけた。歯をむき出しにして、悔しそうに顔を歪めている。それを見て、ようやく実感が湧いてきた。
(そうか……これは全部ボクらの成果なんだな……)
予想以上の盛り上がりに言葉を失って茫然としていたフィンだが、
「……は、はは」
気づけば自分でも知らないうちに笑っていた。
(負けた……だと)
実際には処理速度やコストを犠牲にして得たレベルなので、一概にオズワルドの負けではない。しかしそれらを犠牲にしても、オズワルドの術式ではそれだけの性能を引き出せないことを彼自身が一番理解していた。
思えば一度目が合った時に笑みを浮かべていたのも、オズワルドの発表したレベルを超えていたからだったのだろう。だが本当にたった一年でここまで来るとは。
素直に悔しかった。
この場においての主役を睨みつける。会場中の賞賛を浴びておきながら間抜けづらで目を丸くしている。このオズワルドに勝ったというのにだ。
その時、目が合った。
(やってくれるじゃないか)
苦い思いを隠さずに睨めば、フィンはようやく実感したのか、嬉しそうに笑みを浮かべた。オズワルドは拍手を止めると、その場を離れた。平静ではいられない自信があった。
出口へ歩きながらも、オズワルドの内で大きく分けて二つの感情が暴れていた。
一つは負けたことへの悔しさ。
どこかで当たり前のように勝てると思い込んでいた。フィンのことは認めているが、まだ自分が勝てると信じていたのだ。だから今回だってフィンたちにしか得がないと知りながら、先に発表したのだ。
だが結果はこの通り。
まったくもって不甲斐ない。あまりの悔しさに、体中を締め付けられているようで、思い切り叫びたくなる。吠えるように叫べば、少しは紛れるような気がするのだ。
だがそれと一緒に、マグマのように熱い闘争心が湧き上がる。
(負けた……負けた負けた負けた! だがしかし!)
体中に力がみなぎっていくのを感じる。脳が活性化していくように熱がこもっていく。
(認めよう。お前はもうレオナルドと同じ、いやそれ以上の好敵手だ。しかし次はそうはいかない!)
立ちふさがる壁を幻視し、舌なめずりした。周囲がひいて道を開けるのを気にせず、ギラギラと目を輝かせる。
「失礼」
そんなオズワルドに、声をかける者がいた。
「大成功だ!!」
フィンが感情を吐き出すように喜びの声を上げると、工房に集まった面々は「イエーイ!」と笑顔で応えた。性格的に無理なスピカだけは小さな声だったが。
発表会が終わり、レオナルドとリンジーも一緒に工房に凱旋したフィンたちは早速飲み会の準備を整え、既に皆の手にはグラスが握られ、机の上には食事が用意されている。
発表後は様々な人たちに声を掛けられたが、そんな疲れなどないかのように、皆興奮し、そわそわと体を動かす。その様子に笑みを浮かべながらも、フィンはグラスを高く掲げた。
「そして正直何話せばいいかわからないし皆も早く騒ぎたいだろうからこれだけ言う! お疲れ! ありがとう! そして乾杯!」
『乾杯!』
グラスを傾け、半分程飲んだところでフィンはまだ釘を刺していないことに気づいた。早速チーズを物色しているレオナルドにニヤッと笑いかけた。
「そうだ忘れてた。博士、今回は魔術かけちゃ駄目ですからね? かけようとしても防衛魔術が働くようにしてますけど」
「しませんよ!?」
「あはは!」
やばい。まだ酔ってないのにテンションがおかしい。
だけど抑えるつもりは毛頭ない。今日一日はこの幸福感に浸るのだとフィンは決めている。
「あまりレオナルドをからかっちゃ駄目だぞ。気にしてるんだから」
軽くたしなめるリンジーから逃げるように、今度はザックに絡みに行こうとする。とりあえずルドルフに「認め、認め……ちくしょー!」と泣き叫ばれたザックは、交際は見逃してもらったらしい。認めるではなく見逃すなのが妥協点なのだろう。
「おーいザック───」
「ザック様! こちらどうぞ!」
「悪いなロレイン。じゃあお礼にほら、あーん」
「あーん……ふふ、幸せです」
「オレもだよお姫様」
「お姫様だなんてそんな! うふふ」
「……」
ザックに絡むのは止めておく。あのピンキーな空間に近寄ればこちらが死ぬ。これから酒が進んでどうなるのかは考えたくもない。
トロトロのチーズを乗せた薄いパンを齧りながら、見渡し、ハリエットと談笑しているマティアスに近づいた。内容は前に失敗した儀式魔術を使った魔術についてのようだ。
「それで花火を想像しろって言われたんだけど、こう派手なやつを想像しちゃってさ。こう爆発したみたいに火の玉が暴れまわって大失敗だったよ」
「それは見て見たかったなぁ」
このタイミングだと見計らい、話に割り込む。
「もっとこう想像しやすくて簡単なものから始めるべきだったね」
マティアスが重々しく頷いた。
「全くだよ。派手な魔術に憧れてつい、ね? 出来ることなら今日の発表で出したあの炎。ああいうこれこそ魔術っていうのを出したかったんだよ」
「『炎舞魔術』のこと?」
「そうそれ」
確かに次々と形を変える炎は派手で見栄えがいい。スピカに派手な魔術と言って頼んだものだが、中々いいチョイスだったと思う。
「うーん……炎は失敗した時に爆発するかもしれないから水あたりがいいんじゃないかな?」
ハリエットの提案に乗っかるように、フィンも意見を出す。
「光とかどう? こう光をバーッてまき散らすだけでも綺麗だと思うけど」
「いいね! マティアス、今度やってみましょう」
「うん」
小人方式を思いついたのは夢からしてあの儀式魔術のおかげだ。だからフィンもその時は協力すると告げ、グイッとグラスの残りの酒を飲みほした。
さておかわりをと思い、フィンは机上の酒瓶に手を伸ばす。しかしその前にアーロンが横から瓶を持って行った。
「確かにこいつは良い酒だ。だがフィン、俺はてっきりコイツを貰えると思ってたぞ」
フィンが用意した酒瓶を振って不満を言ってきた。シルベットから教わった酒屋で買ったその酒の値段は、フィンが普段買う安酒の5倍はする。
「違う違う。お前には後で別の酒を買ってやるから」
アーロンを内通者と勘違いしたことに対しての謝罪の酒はまた後でだ。今回の発表でスポンサーになってくれるという人が多く出来たので、この酒よりも良いものを買える予定だ。
だがアーロンは違うと首を振った。
「俺は別に違う酒が欲しいとか独り占めしたいとかは考えてない。お前が俺にこの酒を渡していても、俺はこの場で開けるぜ。酒を肴に煙草もいいが、こうパーッと飲むのも悪くない。だろ?」
「……そうだね」
アーロンは満足気にパイプを咥え、一息吸うと、続いて酒を口に含む。
「ぷはぁ。やっぱりこれが上手い。フィンもどうだ?」
「遠慮するよ」
アーロンから酒瓶を受け取り、グラスに注ぐ。零れるギリギリまで注ぎ、口を近づけて少し飲む。
「フィン、下品」
さっきまでレオナルドと話していたが、肉の切れ端を取りに来ていたスピカが窘めた。罰が悪くて笑って誤魔化す。
「たまにはいいだろたまには」
スピカはため息をつくと、ポイっと口に肉を放り込んだ。頬を膨らませたまま喋る。
「それもそう」
「そうやって食べてると、膨らんでるのを突きたくなるね」
「……」
「ごめん」
肉を飲み込んだかと思えば今度はチーズと一緒に肉を頬張るスピカを眺めて、酒を一口飲む。アルコールの香りで気分がいい。
「あのさスピカ」
「ん?」
顔が熱くなるのは酒のせいだとばかりに、まだたくさん入っている酒を一気に飲み干した。手で口元を拭い、その勢いのまま続きを話す。
「今度皆にお礼を渡したいからさ、今度の休日手伝ってよ」
「了解」
「……二人で」
「……了解」
互いに顔が赤くなるのはきっと酔っているからだ。
(ぐわぁーーー! もう無理!)
振り絞った勇気が空になったのを感じたフィンは、丁度良いとばかりにまた酒をおかわりする。グラスに酒を注いでいると、スピカが横からチョコンとまだ半分は残っているグラスが差し出した。
「頂戴」
「う、うん」
二人揃って酒を飲むも、目は合わない。合わせられないヘタレなフィンだった。
そんな時、工房に来客を告げる鈴の音に似た音が響く。
全員が顔を見合わせる。他に誰か来る予定はない。では一体誰だろうか。
不思議に思いながら防衛魔術で確認し、来客の胸元を見て慌ててフィンは飛び出した。
「どうした?」
疑問の声を投げかけるレオナルドに、
「貴族です!」
とだけ答えた。全速力で外への扉に飛びつく。
「すいません、少々取り込んでいまして」
扉を開けるなり頭を下げた。相手の気分を害すわけにはいかない。
「いえこちらこそこんな時間に申し訳ない。要件は手短に済みますので、どうぞ楽にして」
「はっ」
恐る恐る顔を上げれば、質のいい布をたっぷりと使ったゆったりとした服装を着こなす青年の姿が見えた。その胸元には艶のある金糸で盾と剣と竜を象った紋章がある。貴族の中でも国防を担う者たちの象徴だ。後ろには天馬者が控えているのが見える。
青年は眉一つ動かさず、一枚の紙を取り出し、広げた。それが国が発行する命令書だと気づき、冷や汗を流す。
「私はルーブル騎士団所属のブルーノです。フィン工房代表、フィンに相違ありませんね?」
「は、はい」
「よろしい。では読み上げます」
緊張で固まっているフィンに構わず、青年は滑らかに読み上げた。
「『王より国を守護する任を与えられし騎士団より命ず。
フィン工房のスクロール製作技術を評価し、オズワルド工房と協力してレベル4のスクロールの製作の任を与える。謹んで受けるように』……以上だ」
突然のことに事態を飲み込めずにいると、青年は「わかりましたか?」と抑揚のない声で聞いた。尻に火が付いたかのように慌てて答える。
「かしこまりました」
わかってないけど。
青年はフィンに命令書の写しを渡すと、「それでは」とだけ告げ、天馬者に乗り込んだ。天馬者は御者の合図で滑るように地面を離れ、夜空に消えていった。
それを黙って見送ると、震える手でもう一度命令書を確認する。しかし間違いであって欲しいという期待に反して、それは見れば見るほど本物だ。本当に嫌になり、親指の爪を噛みたくなる。
(やっとレベル3になったのに次はレベル4? しかもオズワルドと組んで?)
無茶ぶりもいいところだ。
だが国からの命令書となれば強制だ。フィンたちに選択肢はない。
国防関係となると、スクロールの性能が向上したことで高レベルの魔術を印刻出来るようになることに期待を持たれているのだろう。今日の発表会の後すぐに用意してくるとは、相手も本気らしい。
「はは、参ったな」
ぼやいていると、ぶるっと体が震えた。夜風は思いのほか冷たく、酒で温まっていた体温でさえも奪っていく。
「仕方ない。頑張るか」
まずはスピカたちに相談だ。酒を飲んで楽しんでいるところで悪いが、これはもうしょうがない。
壁を越えた先に待っていたのは別の壁。一難去ってまた一難。どうやら楽に過ごせるのはだいぶ先のようだ。
しかしオズワルドの立体魔法陣とフィンたちの小人方式を組み合わせたら、もしかするとレベル4なんてあっと言う間なのかもしれない。そう考えれば少しだけ、楽しみが増えたのだった。




