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出来ると、ボクは思ってる

 さて、ザックが戻るとフィンは全員に話があると言った。だがフィンが話す前に、グレンが割って入った。


「その前に! オズワルドと何を話したのか教えてくれよ」

「想像通り、買収の話。ま、断ったけど」


 それにしても手に入れば儲け物という感覚で来たと言っていたが、オズワルドは暇なのだろうかとフィンは思う。結局彼が手に入れたのはレオナルドの置き土産のぬいぐるみが一つのみ。他に何か用があるのかとも考えたが、特に何もなかった。もしかしたら実際にどんな様子か見に来ることが目的だったのかもしれない。


 実際今の工房はやる気に満ち溢れているとか、充実した研究の日々を送っていますとかそういうものはない。あるのは工房の将来やトップが変わったことによる不安だけ。


「とにかく、今から今後の方針を話すよ」


 フィンを見る面々は緊張した面持ちに変わる。その変化を見て、工房の様子を見に来たというのもあながち外れた予想ではないのかもしれないと思う。


 彼らを見れば、今この工房が陥っている危機から脱出する手段を有していないことを推測することは容易い。そればかりか工房に期待をしていないので、誘いをかければ人材を引っこ抜くこともできるかもしれない。

 それもこれもトップであるフィンが解決しなければいけない問題だ。


「ボクたちはこれから新しい技術の開発をする。レベル3にも届く技術だ」

「それはつまり今やってるのとは違う技術ということか? それこそオズワルドの立体魔法陣みたいな」

「その通りだ、アーロン」

「それが出来れば苦労はしてないだろ?」

「まあね」


 ザックの抗議にも軽く答える。そう言われることは予想済みだ。


 立体魔法陣のような画期的な技術はそうポンポンは出てこない。だがゼロではない。そのことを理解させるために、フィンは懐から一枚の紙を取り出す。


 論より証拠だ。


 自分のアイデアを出すことに心臓がバクバクと凄い音を立てている。それを振り切り、折りたたまれていた紙を広げ、全員に見えるように机に置く。


「まずはこれを見てくれ」

「これって……」


 一度見たことがある魔法陣であることに気づいたスピカが声を漏らした。瞬間すごい勢いで首が周り、フィンに顔を向けた。


「あの時の?」

「うん、それ」

「じゃああの箇所?」

「うん」

「そっか……うん、やってみよう」


 それだけで理解したスピカはフィンから目を離すと、熱心に魔法陣を眺めだした。

 これに困ったのは残された理解していない三人だ。何やらわかっている二人だけで話を進められても、前提知識のない人々は追いつくこともできずただ眺めることしかできなくなる。グレンが慌てて口を挟んだ。


「ちょっと待った。スピカはわかっているのか?」

「うん」

「スピカには前に説明したことがあるからね」

「へ、へー。それでこれは何なんだ? 見た感じ変形魔術を利用してるのはわかるけど」

「ボクが趣味で作った連続起動術式もどき」

「連続起動? どこに起動させる他の術式があるんだ?」

「ここ。ここに予め変化先のテーブルを用意して、魔術の起動に合わせてテーブルから術式に必要な要素を引き出すのが大まかな仕組み」

「……なるほど。術式そのものに変化するよう設定しているのか」


 工房で第二位の魔術の腕を持つ男はすぐさま納得の声を上げた。それに負けじと「俺も丁度そう言おうと思ってたんだよね」と言うグレンを無視して、アーロンはパイプでトントンと紙を叩いた。


「これだと何の術式に変化するんだ?」

「浮遊術式。鳥形になってから飛ぶようにしたんだ」

「ほう。となるとここの部分が識別で、こっちが探索か」

「よくわかるな、さすがはアーロン。……あーでも確かに。どことなく連続起動の原型が見えてきた。でも術式間の移行じゃなくて術式を変形させるとなるともう別物だろ、これ。変形っていうより書き換えだな。それでスピカ、どうだ?」

「うん。ザックの言う通りネットワークにも完全に合致するものはない」

「やっぱし!」

「既存の術式変換の要素もあるね。ほらここ。まあ天才の俺ならもっとうまくやれるけど。これ雑過ぎ」

「だがやはりこっちが肝だろう。何をしているのかぱっと見ではわからん」

「―――それで」


 期待で頬を上気させながらフィンは全員の注目を再び集めた。


「どう? これをスクロールに活かすってのは?」

「何? 今までの研究成果全部捨てるの? 嫌だよ俺」


 顔をしかめるグレンに、フィンは首を振った。それは違う、と。


「捨てない。むしろその技術も使ってより性能のいいスクロールを目指す」

「出来るのかよ? これ確かにすごいけどどうなるかわからないぞ?」

「出来ると、ボクは思ってる」

「……悪くない」


 アーロンが唸った。


「スクロールにそのまま利用できるわけではないが似通った部分を考えれば試す価値はある。俺はいいと思うぜ」

「……そう。ならわかったよ、やるよ」


 降参するかのように両手を上げたグレンに続いて全員が頷き、賛同した。フィンはほっと息を吐いた。何はともあれこれで目標が決まった。

 安心したら視界が広がったかのように、部屋の様子が目に入った。


「さてと……あれ? 何あの袋?」

「何の話だ?」

「ほらマティアスの机の上のやつ」


 全員が一斉にフィンから目を逸らした。


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