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奴隷騎士ベルツの国家奪還劇  作者: もっさん
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第一話 聖都陥落

王国歴813年セントレイア王国聖都オーレリアにて


城門にいた兵士たちが轟音と共に吹き飛ばされた。敵方の破城槌が城門を破壊し、同時に大勢の兵士が聖都になだれ込んできた。

 

その先頭集団にいた兵士の頭に両手剣を叩き込む。兜はひしゃげ頭蓋を砕く、今度は薙ぎ払う様に剣を振るう。二人目の首が飛ぶ、反撃と突き出された槍を剣の腹で受け流し返す太刀で三人目の首を落とす。

 

敵の勢いは落ちず濁流の如く兵士がなだれ込む。その数の多さに辟易しながらも無我夢中で剣を振るう。

 

首を断ち、喉を突き、顔面に手甲を叩きつける。血と油で刃は鈍り、欠け、ついには折れた。

 

それでもそれでも戦い続けた。もうこの国に後は無い、なら前に進み続けるしかない。

 

半ばから折れた剣を投げつけ一人、更にその兵士から直剣を奪い斬りつける。しかし、いつもと勝手の違う直剣では力の勢いに耐えきれず根本からまた折れた。


折れた剣に気を取られ彼方から飛来する多数の石弩の矢に気付くのが遅れる。


俺が覚えているのはここまでだった―――――





王国歴813年セントレイア王国に対しヴァン帝国は突然の宣戦布告を行う。


ヴァン帝国は機動力の高い騎兵を主軸に電撃戦を仕掛け僅か三ヶ月で聖都に侵攻、占領したのだった。


聖都では王国騎士団の奮戦空しく散りじりになり最後まで戦っていた者たちは捕らえられた。


――セントレイア王国荒猪騎士団――


荒猪騎士団はセントレイア王国唯一の平民出身で構成された騎士団である。


平民出であるもののこと勇猛さにおいて他の騎士団に劣るもではなく民からの信用も厚かった。


しかしその実態は騎士団の損耗を抑えるために編成された先鋒部隊であり、常に最前線に送り込まれ、過酷な戦闘を強いられる部隊であった。


だがこの荒猪騎士団は必ず戦果を上げて帰って来た。


それも全て団長であるマグノリアと名乗る女傑によるものが大きかった。


絶大なカリスマにより部隊の人心を掌握し、天才的、または奇抜的な戦術や用兵を用いて戦果上げて来た。


今回の戦でセントレイア王国が三ヶ月間抵抗出来たのも彼女の功績が大きい。


だが彼女の力をもってしても王国の約三倍の兵力をもつ帝国軍を押しとどめることなど出来なかった。


幾ら荒猪騎士団が戦果を上げようとも帝国側は戦力差を活かし、同時多発的に侵攻してきた。


その為荒猪騎士団は後退を余儀なくされ、最終的に聖都まで押し込まれる形になった。


この圧倒的な戦力差に部隊ごと逃走する騎士団も存在し、聖都防衛時には荒猪騎士団の他に数騎士団しか残ってはいなかった。


そんな彼女が重用していたのが副団長のバーガンディーと切込み隊長のベルツであった。


二人は優秀な戦士であった。バーガンディーはまれにみる巨躯を持ち(ましら)の如き顔つきではあるが知性的な男であった。しかしひとたび戦場でその戦斧を振るえば風貌の通りの凶悪さを見せた―――


切込み隊長のベルツはバーガンディーには劣るとも恵まれた体躯を持ち、両手で扱う剣を軽々と片手で振り回し敵を屠るその姿は大狼を思わせた。その大狼が屠った敵の返り血に染まりながらも次の敵を求めて戦場を駆け回る苛烈な姿、故にその二つ名は『血飢えの大狼』と――


今回の聖都防衛戦は主にこの二人が指揮し団長のマグノリアは姿を見せなかった。


結果ベルツは体に四ケ所に矢傷を負い、意識を断たれ敵方に捕まり、バーガンディーは団長の後を追うように姿を消した。


聖都占領から三日後、ベルツは目を覚ます。


頭の中で鐘を鳴らされているかの様に痛み、未だ意識がはっきりとしない。だが周りを見渡せば薄暗さの中ぼんやりと蝋燭の火が灯り、石壁やそれにこびりついた血痕が確認できた。


辺りに漂うカビや血の染み付いた臭いが鼻につき不快感と共に意識も戻ってくる。


すると扉が開く音と複数の足音が聞こえてくる。


「ご機嫌いかがかね?切込み隊長どの?」


錆びついた鉄扉から鉄仮面を付けた異様な集団が現れた。思わず身構えようとしたが体を拘束されていることに気付き鎖を鳴らすだけだった。


「悪いが拘束させて貰ってるよ。キミに暴れられると我々が大変なことになるからねぇ。」


鉄仮面の中からくぐもった笑い声が聞こえてくる。その声に不機嫌になりながらも今の状況を探るためにもこちらからも質問する。


「それで?おおよそ察しが付くんだがよぉ、ここまでして何しようってんだ?」


その声を受けて一人の男が前に出てきた。周りの鉄仮面より少し装飾の凝っている服装の男だ。


「ふむ、拘束されてなおその様な口が利けるとはな。フフフ、楽しい時間になりそうじゃあないかね。」


鉄仮面で表情で見えないがその声は何かを期待する様な、獲物を前に舌なめずりをする捕食者特有の嗜虐心に満ちた声だった。


その声に眉をひそめるが肝心の目的が分からず更に問いを重ねる。


「俺を拷問したところで情報何て持ってないぜ?」


「いや、決してそんな目的でキミを拘束しているのではなくてね。」


その答えに訝しがるが続く言葉に衝撃を受ける。


「我々の帝国では戦に負けたもの全てが我々の物となる。土地も、民も、キミ達のような捕虜も全て・・・ね。」


鉄仮面の無機質な瞳がこちらを見つめている、正に物を見るような目で。


「物にさほど気を遣う必要もあるまい?まぁ知っていることを話してもらう気でいたがこちらも時間が無くなってしまってねぇ。」


「一体何を言っていやがる・・・。」


「うむ、そうだな端的に言ってキミは我々の奴隷だ。そして今からその奴隷を使って実験をさせてもらうのだよ。」


そう言うとおもむろに鉈の様な刃物を持ち近づいてくる。それを見て鼓動が早鐘を打つ。


「我々が開発した魔道具なのだが、見てくれたまえ。」


手に取ったのは鋼鉄の手甲を思わせる義手の様な魔道具だった。


「見ての通りの義手でねぇ、だけど凄いんだぁこれ。殺した相手の生命力(プラーナ)を吸収することができるのさぁ!そして!その吸収した生命力を自らの力とすることが出来ぃる!」


上機嫌な様子で語る鉄仮面の男。これだけは確認しなければならない。


「その義手に俺の生命力でも吸わせようってか?」


「とんでもない!キミを殺すのでは無い!キミにはこの義手を使って実験に協力してもらうのさ!」


突然大声を出してまくし立てる鉄仮面の男。広くない部屋に声が響く。


「っと失礼興奮しすぎてしまったようだ。何しろ今回のは自信作でねぇ、早く結果を出したくてうずうずしてるのさぁ・・・。」


「それで、何をさせるんだ?」


良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに鉄仮面の男は言った。


「うむ、キミにはこの義手を付け一週間後に開催される剣闘大会に参加してもらう。ということでこの腕は落とさせてもらうよ。」


そう言うと鉄仮面の男は手に持っていた鉈をおもむろに振り落とす。鉈はそのまま左腕に吸い込まれていく。


ベルツは激痛と共に絶叫する。彼の奴隷騎士としての第一歩はこうして始まった。

つたない文章ですが読んで頂きありがとうございます。これからも不定期に書いていきたいと思います。どうかよろしくお願いします。

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