番外編 あたしメリーさん。いま結びの一番が始まるの……。
町を破壊し、目についた食い物屋に入っては貪り尽くし(当然無銭飲食)、しまいには牛や馬や犬、猫までパクパクと食べ始めた御嶽山怒羅衛門関を前にして、メリーさんたちは深刻な表情で話し合っていた。
『あたしメリーさん。新型感染症で千○真一が亡くなったらしいの……』
(´・ω・`)ショボーンとしたメリーさんからの衝撃ニュースを受けて、
『はあ?』『へー?』と、当然のごとく気のない返事をするローラとエマ。
『えええええっ!? 柳生十兵衛が!!? 日本を代表するアクションスターのTOPがですか?!』
対照的に愕然としたのはスズカであった。
『えーと……ハリウッド映画によく出演している、真○広之の師匠だったんだっけか?』
いまいち覚束ない相槌を打ったのはオリーヴである。
『真○広之もそうだけど、なんと言っても志穂○悦子の師匠であるという功績が高いの……!』
『ああ、そういえば一時期話題になりましたよね。前の奥さんに対するDVで離婚した長○剛と結婚して、新婚早々志穂○悦子相手にDVを加えようとした長○を、反射的にカウンターの蹴り一発で失神させて、当人は手加減したつもりでも、普段当然のようにアクションをしている武道、拳法のプロと、自分より弱い女性相手にしか暴力を振るえない素人の耐久度の落差を知らなかったがゆえに、完全にノビている長○を前にして取り乱し、師匠の千○さんに「旦那殺しちゃった!」と電話をして「もちつけ」と諭されたエピソードとか』
『その後は借りてきたチワワのように家庭内では長○は大人しくなったらしいの……』
『リアル「ざまぁ」ですね~』
感に堪えない調子でしみじみと呟くスズカ。
「……まあ、噂では家庭内で鬱憤を晴らせなくなった分、職場で立場が弱い相手に苛立ちをぶつけていたという噂もあるが」
なお、俺がスマホで不特定のSNSを確認したところ、
『訃報に際し、心よりお悔やみ申し上げます』
とか殊勝なことを呟いている連中の過去記事で、
『社員旅行とか飲み会とか謎の球技大会とか滅びればいいのに! ありがとう新型君ウイルス』
とか書かれてあるのだが。つくづく人間というものは矛盾や混沌の雛型であると思う。
あとついでに言えば、メリーさんたちが脅威を前にしてのんべんだらりと喋っている理由は、連れてこられた肝心のロバート・権田原が織女星の男によって、ほぼ原形をとどめないほど破壊され謎の物体になっていたからである。
『えーい、どいたどいた。てやんでぇべらぼうめ! おっ、なんでぇこれは?! 喧嘩か? 辻斬りか? 弱い者いじめをするやつぁ黙ってられねえぜ! 花のお江戸をすっ飛んで、喧嘩三昧。一心太助たぁ、俺のこってえ!!』
そこを通りかかった謎の魚屋が、何やら啖呵を切ってそのままどこかへさっさと行ってしまう。
『あたしメリーさん。いまのなに……?』
『さあ? ただの野次馬ではないでしょうか』
呆気に取られて見送ったメリーさん同様、いささか腑に落ちない調子でローラが答えた。
『てゆーか、このスクラップでどう御嶽山怒羅衛門関と戦わせるわけ? 戦う前からHPもSAN値もほぼ底辺まで落ちてるわよ』
オリーヴの指摘にメリーさんも首を捻った。
『何かいい方法はない……?』
珍しく助言を求められた俺の答えはただ一つ。
「そんな時のための核だろう?」
〝あなた平和主義とか自称しているわりに、事あるごとに核の使用を示唆するわね?”
テレビを見ていた霊子(仮名)が、振り返ってげんなりとした表情でぼやく。
何を言う。現在の平和は大国の核兵器あってのバランスの上に立っているんだし、死蔵しているばかりじゃなくて、パッと派手に使わなけりゃ損じゃないか。
『う~~~ん…………』
電話の向こうで珍しくメリーさんが渋った――と思ったら、メリーさんではなくてロバート・権田原が再起動した唸り声であった。
『お、起きたの。メリーさんとっても慈悲深いから、使えないオッサン相手でも治療してあげるの。――ほい、イモリの黒焼き。あとローラは万能治療薬を塗りつけるの』
『万能治療薬って、この「オロ○イン軟膏」って書かれているコレですか?』
『そうなの。「オロ○インは何にでも効く」って不気味くん(by:吾妻ひでお先生) も言っていたの……』
『ぶほっ――やめろっ! そんなもん効くか!!』
無理やりイモリの黒焼きを口の中に詰め込まれ、ベタベタする軟膏を全身に塗りつけられ、正気になった(つまり効果があった?)ロバート・権田原がメリーさんとローラを振りほどく。
『水……そんなものより水をくれっ』
タイ○ント戦でぶっ殺されたまま一週間死体を放置されたゾ○ィーのように、熱気籠る銭湯で倒されたまま捨て置かれていたロバート・権田原。
失った水分を求めて砂漠の遭難者のように喘ぐ、その口元へ閣下が柄杓で水を差しだす。
『力水である。存分に飲むがよい』
『!!』
喜色満面。一気に飲み干すロバート・権田原。
と、一息ついたお陰か、その腹の虫が盛大に鳴いた。
『はい、カニパン』
『甘食です』
『メロンパンだよ』
『名物えびせんべい「ゆ○り」です』
すかさず予算二百A・Cという縛りで、オリーヴ、ローラ、エマ、スズカが食料をロバート・権田原の口の中に放り込む。
「……どーでもいいが、狙いすませたかのように、水分摂取しないと完食できないもんばっかりだな」
『ぐあああっ、口の中と喉がカラカラに……!』
身もだえするロバート・権田原を尻目に、
『メリーさんもお腹がすいたから帰って朝食にするの。あとは頑張って御嶽山怒羅衛門関斃すの……』
『がはっ、がはがh――って、なんだあのバケモノは!?!』
無責任にもその場を後にするメリーさんたちであった。
◇
昼食のインスタント焼きそばを食べてまったりしていたところ、メリーさんから緊急の連絡が入った。
『あたしメリーさん。いま刃物を持ったやべー幼女が、勝手にメリーさんの家に入ってきて暴れているの……!』
「………は?」
『異常者なの! 刃物を持っている上に、不法侵入とか頭イカレているの……!!』
「……いや、それ自己紹介乙ってやつか?」
そう反射的に聞き返したスマホ越しに、何やら刃物同士が交差している物騒な音が聞こえてきた。
『誰がヤバい幼女よ! それはあんたの事でしょう!!』
ついでに轟く怒りの声は、メリーさんの悪友と書いて絶対に友とは呼ばない、犬猿の仲たるジリオラ公女のものである。
『いきなり有無を言わせず剣で切りかかってくるような、ハードコアな交友関係はメリーさんにはないの。つーか、ジリオラ前から友達いないなーと思ってたけど、殴り合うならともかく真剣で殺し合いをしないと友情が確認できないとか、どう考えても友達減っていくだけだと思うの。物理的に……』
包丁で応戦しながらメリーさんがジリオラを宥めるんだか、挑発するんだかわからない言葉をかける。
『友達いないとか、アンタに言われる謂われはないわよ! つーか、これは友情の確認とかじゃなくて、純然たる殺意に基づく行動よ!』
幼女ふたりが鍔迫り合いをしているのを眺めていたスズカが、オロオロしながら提案する。
『あの、これはさすがに警察だか衛兵だかに通報しないとマズい状況なのでは……?』
『その場合、二匹とも引き取ってくれるのかしら?』
真剣な口調で懸念を口に出すオリーヴ。
『ああ、最近は近隣でも冒険者ギルドでも、どういうわけかウチに関するトラブルは冗談か出鱈目だと、端から取り上げてくれませんからねぇ』
それに応じて嘆息するローラ。
『というか、あたしたち自身もなにが常識でなにが非常識なのか、曖昧になっているし』
エマも危機感を覚えた口調でそれに応じる。
『いわゆる〝カサンドラ症候群”ですね。あまりにも突き抜けた異常者が身内にいると、自分の常識が揺らぐ上に、世間にその異常性をいくら説いても「そんなバカな」と理解してもらえないという』
最後にスズカがそう総括した。
その間にもメリーさんとジリオラの剣劇は続く。
『知らないとは言わせないわよ! リョーゴク国の惨劇の件! アンタらが元凶なんでしょう!?』
『??? メリーさん、何にもしてないの……?』
『何にもしないのが問題なんでしょう! お陰で外交ルートで非難轟々よ!!』
どうやらリョーゴク国で暴れ回っている御嶽山怒羅衛門関の件で、メリーさんの関与がバレてお鉢が回って来たらしい。
『ん……ん~~ん? 今回は別に何かしたわけじゃないわよね? 啓蟄の蛙みたいに、勝手に封印を解いて出てきただけだし』
『はい、ただ現場に居合わせただけで』
元凶扱いされたオリーヴが、「意義あり!」とばかり首を捻り、ローラもそれに同意する。
『ほら見ろなの! メリーさん別に関係ないの。それどころか対抗するために、自費で秘密兵器を準備して投入したくらいなの……!』
『秘密兵器って、変なオッサンのこと? それなら次鋒レ○パ○ドンより短い0.5秒で食われたらしいわよ!』
『『『『『あ~、ああ……』』』』』
駄目だろうと思っていたが、やはり駄目だったという結果を聞かせられて、納得と失望の声を漏らすメリーさんたち。
『あたしメリーさん。つくづく使えないオッサンなの。金返せ――と、声を大にして言いたいところなの……!』
『現場に居合わせながら、勇者のアンタが仕事を放棄するから問題になってるんでしょう! そのせいで宰相も兼任しているうちの公爵が、国王陛下とかリョーゴク国とかの板挟みで大変だし。イニャスはイニャスで、勝手に見物に行って行方不明だし……全部、アンタのせいよっ!』
怒りを込めて押し込まれる剣を、メリーさんが両手の出刃包丁でどうにか捌く。
『意外と強いですね、ジリオラ公女。メリーさんと互角にやり合うなんて』
感心したスズカの呟きに、当人が胸を張って答えた。
『ほほほほほっ。貴族の令嬢の常として、最低限の護身術はマスターしているわ』
「ほう。フェンシングか何かか?」
なんちゃってとはいえヨーロッパ風異世界。その手の武術かとあたりを付けた俺の独り言が聞こえたわけではないだろうが、ジリオラが自信満々に言い放つ。
『このワタクシのクラヴ・マガにどこまで対抗できるかしら!』
「ぶっ! ガチの殺人技術やんけ!」
思わずスマホ越しにツッコミを入れる俺。なお、『クラヴ・マガ』というのは、戦火が絶えないイスラエルで考案された、相手が武器持ってるとか街中で戦うのが前提の格闘技のことである。
『メリーさん思うんだけど、自分の国の不始末なら、自分の国の勇者で対応するのが常識だと思うの……』
お前が常識を語るな! というツッコミを放つ前に、その答えをジリオラが叫んだ。
『全滅したわよ! プー太郎侍も、相合傘刀舟も、あんみつ同心も、必殺社畜人も、江戸の桃豹も、禿の軍団も、三匹の仔豚侍も、鍋奉行も、ちんちん侍も!』
『最後、なんか変なのが混入したの。例えるならアベ○ジャーズに、しれっとペプ○マンとかデン○ンマン、ムキム○マンが混じっているような微妙な違和感なの……』
「微妙どころではないと思うが……」
俺のボヤキに追随するかのように、オリーヴが合点がいった口調で、
『ああ。それで手に負えなくなって、メリーさんに責任をおっ被せようとしているわけね』
『それならそうと、頭を下げて頼めば良いものを、逆に恫喝して動かそうとするなんて、最低ですね。リョーゴク国もリヴァーバンクス王国も』
冷え冷えとした口調でローラも同意し、
『《無能な王様》《トラブルメーカー王子》とくれば《裏で魔物と糸引いてる大臣》で、ド○クエの王道設定ですねえ』
スズカが苦笑いした。
『そこの狐! うちのパパが悪の黒幕みたいな憶測を垂れ流すんじゃない! 不敬罪でぶっ殺すわよ!』
すかさずジリオラの怒りの矛先がスズカに向かうものの、
『いや、娘が刃物持って、いきなり他人ん家へ押し入ることを放置している段階で、確実にまともな大臣じゃないと思うんだけど』
エマの冷静なツッコミに歯噛みする。
『ぐっ……ぐぬぬ……!』
『あたしメリーさん。大丈夫なの。世の中には例外というものもあるの。「SHU○FLE!」というエロゲ―由来のアニメでは幼馴染、亜人、ロリっ子などを抑えて、最後に負けヒロイン筆頭である緑髪先輩とくっつくという番狂わせもあったし……』
「何の話をしている、何の!?」
まったく話の流れを無視したメリーさんのたとえ話に、俺が毎度のツッコミを入れると、メリーさんが神妙な口調で語り始めた。
『期待は裏切られるという話なの。ガ○アンの最終回で凍結されていた母親が解凍されて喋ったら、思いっきりオバサン声でがっかりしたとか、終盤でぶん投げたくなった鉄血のオ○フェンズとか』
それから一転してマジな口調で続けるメリーさん。
『メリーさん思うんだけど、ハーレムもので最終的に誰か一人を選ぶって間違っていると思うの。主人公は全員に責任取って、中東かアフリカあたり行って一夫多妻制で全員嫁にするべきなの。もしくは千石イエスみたいに誰とも結婚せずに、そのへんでシェアハウスするか……もっともその場合、「Nice boat.」案件の危険を回避しないといけないの』
「あのな、イエスの方舟事件なんて、いまどき知ってる奴はいないぞ」
まあスズカなら知ってるかも知れないが。
と、じれったくなったのか、ジリオラが地団太踏んで言い放つ。
『とーもーかーく。リョーゴク国の災害を、アンタ本人が行ってどーにかしなさい! これは国からの命令よ!!』
『え~~~っ……なの』
とことん面倒くさそうなメリーさんとは対照的に、オリーヴたちはどこか緊迫した雰囲気で相談し合っていた。
『メリーさんを直接投入するとか、国はわかってるのかしら?』
『事態は確かに収束するとは思いますが……』
『どういう風になるか、誰もわからないことになると思うなぁ』
『リョーゴク国だけで済めばいいですけど』
なんとなく「巣に持ち帰って全滅」させるゴキブリ駆除薬みたいな扱いをされているメリーさん。
そんなわけで再度メリーさんたちは御嶽山怒羅衛門関を倒すべく、ジリオラも同行してリョーゴク国へと向かうのだった。
すみません!
私事で時間が取れずに作品の感想などに返事をすることができません。
月末くらいにはちょっと時間が取れるかも知れないの、それまでお待ちください。
 




