番外編 あたしメリーさん。いま大一番が始まるの……。
【新釈カチカチ山】
タヌキに騙されてババ汁を食べてしまったお爺さんは、嘆き悲しみながらお婆さんの墓の前でむせび泣いていました。
そこへお爺さんとお婆さんに餌付け――もとい、いつも世話になっているウサギがやってきました。
「あたしウサギさん。今日の飯を食べに来たの……!」
「ウサギか。悪いが今日はそれどころではないのだ、それというのもあの性悪タヌキが(以下略)、儂はもう死んでしまいたい……」
消え入りそうなお爺さんの独白を聞きながら、
「おおっ、共食いなの! ひかりごけなの! 人肉食うと耳の後ろ光るって本当なの……?」
興味津々でお爺さんの耳をめくって覗き見るウサギ。
「見るじゃないっっ!!」
思いっきり振りほどかれたウサギがはずみで土間まで転がった。
「あたたたt……」
そのまま勝手知ったる他人の家とばかり、土間に上がって囲炉裏にかかっていたババ汁を勝手に茶碗によそる。
「いただきま~~す!」
「食うんじゃねえぇえええええっ!!!」
2号ライダー並みに会話が成り立たないウサギを、助走をつけて走ってきたお爺さんが鍋ごと蹴り飛ばす。
「――あいたたた、なの」
家の外まで蹴り飛ばされたウサギをさらに追いかけて、お爺さんはケン○ロウがジ○ギにやったみたいに顔を掴んで、「きさま、いい加減にしろ!」と切れまくる。
「つーか、どういうつもりだ、草食獣っ! あれだけ世話になった婆さんを食おうとか、鬼畜にも劣る真似しやがって!?」
「パンダだって笹以外にも肉が食える時には食うの。野生の世界ではたまにはタンパク質を摂ることも重要なの。それにお婆さんも可愛がっていたウサギさんの血となり肉となり脂肪となれば本望だと思うの」
「本望なわけがあるか!! だいたいにおいてお前を餌付けしておいたのは、こういう事態に備えて戦力として確保しておいたためじゃ!」
「そーいう下心はどういうことだ説明しろジジイ案件なの。というか、あの身長二m三cm。体重百五十㎏の『お前のような婆がいるか!』と素で言いたくなるような、『ジャ○アント台風』に出ていた母親のようなババアを倒すようなタヌキ相手に、ウサギさんにどうしろと……?」
ジャイアント婆の墓を横目に、やる気ゼロを表明するウサギをジャーマン・スープレックスから卍固めへと、流れるような動きで極めるお爺さん。
なお、目撃者の証言によればジャイアント婆の死因は直接的なタヌキの攻撃ではなく、その後医者が止めるのも聞かずに寿司やらリンゴやら炭酸飲料水やらを暴飲暴食したせいである……という説もあった。
「……それって自業自得――って、ぎゃあああああああっ! チョーク、チョークなの。ゴッ爺さん!」
「だったらかたき討ちするか!?」
「ちょっと待って欲しいの。ウサギさん先代のタヌキを山で火をつけ、火傷痕に芥子を塗って、最後泥船に乗せて溺れているところを包丁で滅多刺しにして、湖に沈めて以来、いまのタヌキ二世から目の敵にされているの……」
現在、ウサギ絶対殺すマンと化しているタヌキ相手に、迂闊に近づけないウサギであった。
それを聞いてさらにエキサイトするゴッ爺さん。
「だったら手前のとばっちりで、お前を可愛がっていた婆さんが殺されたも同然じゃないのか!? 先に儂にこの場で殺されるか、婆さんの敵討ちに行くか、いますぐ決めろ!!」
「復讐は何も生まないの。負の連鎖は断ち切る――ぎゃああああああ、いま骨が立てちゃいけない音が鳴ったの! するの! いますぐ行ってくるの!」
ということでお爺さんの嘆きっぷりを見て義憤に駆られたウサギさんは、悪いタヌキを退治するために旅立って行きました。
「……とりあえず仲間を集めて七人くらいにしてから数の暴力で押し込むの。まずはタヌキと言えばキツネだから、『土下座してガチで頼んだら何でもしてくれそう』と評判の白狐を誘うの」
昔話風なら犬とか猿とか雉、もしくは臼とか栗とか蜂とか牛の糞、もうちょっと強力な面子であれば、猿、豚、河童を連れて行くところだが、そういう主要面子を無視して、マイナー路線を突っ走るウサギである。
「だいたいドリフの西遊記でも、原作にいなかったカトーってキャラがいたし、ちょっと定石を外れても問題ないの……」
ブツブツ言いながら白狐のいる山へと向かうウサギさん。
「だいたいあのババアを殺せるタヌキとか、ジャンプ力は無限大で五十トンの物体を軽々と受け止め、おまけに三億ボルト電撃光線とか超高温火炎に超低温の冷凍ガスを発射するとかいう、無茶なスペックの仮面ライダー○ーパー1と戦うことになったドグマ王国並みの絶望感なの……」
このままブッちしたいところだが、その上空にはカール・ゴッ爺さんが、自宅を改造した空飛ぶ家で、常に監視していたため逃げるに逃げられないのであった。
その後、仲間を集めたウサギさんがタヌキを襲撃して、危うく返り討ちにあいそうになっている最中、颯爽とゴッ爺さんが乱入してタヌキを自力で仕留めたが、まあそれはまた別の話である。
****************
【ここから本編↓↓↓】
さて、復活した御嶽山怒羅衛門関を前にして、「お前が」「いやアンタが」「いえいえ貴女こそ」と、逆日本のサラリーマン的な譲り合いの精神で対戦を擦り付け合いしていたメリーさんたち。
『メリーさん思うんだけど、封印されてたんだから封印した奴が責任を持って再封印するべきだと思うの。製造無責任法なの……!』
人任せにする気満々で、そう言い切る。無責任幼女。
『ふむ、封印であるか』
閣下がその叫びに呼応して、説明を始めた。
『一説には太古の昔に〝旧神”と呼ばれる存在が、ほぼ相打ちの形で〝外なる神々”〝旧支配者”とも呼ばれる邪神群を、各地各惑星に封印したとされている』
『球審?』と訝し気にメリーさん。
『救心じゃないですか、ご主人様』とローラ。
『意外と急診かも』と小首を傾げるエマ。
『話の流れからして旧臣ではないでしょうか。大石内蔵助的な敵討ちで』と一番まともに聞こえる意見を口にするスズカ。
『〝旧き神”、別名〝Elder God”と呼ばれる神々よ!』
じれったそうに口を挟むオリーヴ。
『なお、その後旧神はドリームランドに落ちのびて、地球の神になって弱体化したとか、そもそも存在しないヒトの妄想の産物だとか、大陸に渡ってジンギスカンになったなど根拠不明の諸説もあるものの、現在の所在は不明である。なお、外なる神々の王であるアザートースが盲目白痴なのも、旧神の封印によるもの説がある』
『ま、封印関係なしに元から阿呆説もあるけど――ぐはっ!?!』
余計な一言を加えたオリーヴの喉元・鳩尾・弁慶の泣き所へ、瞬時にローラ、エマ、メリーさんの攻撃が決まった。
『あたしメリーさん。なんか無性に腹が立ってやったの。晴れやかな気持ちで、後悔はしてないの……』
「つーか、ドリームランドって言えば、確かメリーさんが以前に攫われてノーデンスとかいうジジイと諍いを起こした場所だよな?」
ふと思い出してスマホ越しにメリーさんに助言したところ、「???」と首を捻る気配がした。
「お前の記憶力は初期のスーファミ以下だな。ほら、いただろうイルカに乗った髭を生やしたジジイで、銀色の義手をした」
『……ああ、メリーさんイルカで思い出したの。アレって「のーでんす」っていったの? 顔はわかるけど名前は現象だからいちいち覚えてないの』
まあ、そこまで興味がない人から見ればガ○ダム知らない人にザ○の種類見分けろって言ってる様なもんだろう。
『ほほう、よく知っているな。ノーデンスはその旧神の一柱とされておる。仮にも地を司る主神とも謳われる御嶽山怒羅衛門関をどうにかするなら、ノーデンスに助力を仰ぐのが一番であるが……』
『あのジジイに頭を下げるくらいなら、世界の一つ二つ滅んだところでメリーさん痛くも痒くもないの……!』
閣下の提案をほぼゼロコンマで却下するメリーさん。
『だったらどうするわけ? アンタが体を張って止めるの?』
オリーヴの嘆息混じりの――八割方予想通りという諦めが大きかったが――問いかけに、メリーさんが胸を張って答える。
『メリーさん水○黄門ポジションだから、戦闘に関しては格さんにタスキを投げるだけが見せ場で、後はいつでも逃げられるように物陰に隠れているだけの存在なの。なお、同行している娘は脱がないもよう……』
『「そんな水戸○門があるか!」』
という俺やオリーヴのツッコミに対して、『チャンバラ~チャンバラ~♪』と、謎の歌を歌って煙に巻くメリーさん。
あとなぜかスズカと閣下が苦笑いがしている気配がした。
『……ナッ○ですねえ』
『うむ、あの時代は何でもありだったからな』
『あたしメリーさん。つーか、こんな時のために冒険者を雇ったの! とりあえずダメもとでアレをアレにぶつけるの……!』
メリーさんの鶴の一言で、急遽《御嶽山怒羅衛門関VSロバート・権田原》という、結果が見え見えのインパール作戦よりも無謀な対戦が決定したのであった。
『仮にも地の主神格とも呼ばれる邪神相手に、真っ向勝負でどうにかなるわきゃないと思うけど……せめて他の邪神か「歩く自己矛盾」「愛すべきはた迷惑」「とりあえずラスボス」「便利過ぎて逆に使いづらい」と呼ばれるニャルラトホテプでも召喚しないと無理だと思うんだけどなあ』
オリーヴのぼやき声が聞こえる。
だが残念ながらナイアルラトホテップ(ニャルラトホテプだと、微妙なキャラクターに限定されそうな気がするので、こっちの呼び名で)は、召喚しても多分来ないぞ。もう割とそばに這い寄って来てるから。
『腹減ったーーーーっ!!!』
その間にも御嶽山怒羅衛門関が、そのあたりのちゃんこ鍋屋や食い物屋に押し入って、勝手にモリモリと腹を満たしていた。
『あたしメリーさん。そういえば朝ごはんがまだだったの……』
『ああ、そうですね。ロバート・権田原も朝の稽古で消耗して空腹でしょうから、合流したら朝食にしましょうか?』
ローラの提案に、メリーさんが面白くもなさそうに答える。
『とりあえず回復アイテムにはゲゲゲの鬼○郎のゲームでお馴染みのイモリの干物を準備しているから問題ないの。あと、オッサンの食費に二百A・C以上使うつもりはないので、その予算内で食わせるの……』
かなりしみったれたメリーさんの要望に、『う~~ん』と悩むローラ。
そこへ待ってましたとばかりスズカが口を挟んだ。
『そういうことなら、名古屋のソウルフード〝たません”の出番ですね!』
『『『『たま○ん?』』』』
『違います! っていうか申し合わせて間違えたフリしましたよね、いま!? いいですか、たませんというのは、薄焼きのえびせんの上に両面を焼いた目玉焼きをのせて、ソースと青のりをトッピングしたものです。関西のたまごせんべいと違って、えびせんを半分に割って上下に挟む形で、両手でハンバーガーみたいに掴んで食べるのがオツですね。私の子供の頃は百円でお釣りがきましたので、いまだと百円くらいするかも知れませんが』
メリーさんが分かったような口調で、小っちゃい手をパンと叩いた。
『おーっ、オワリのグルメなのね』
『……尾張ですよね? 微妙に終末のグルメっぽい言い方で気になるのですが……』
そう呟くスズカをよそに、言われて気になって「たません」とやらをスマホで検索してみた。
「……おい、いまではB級グルメ扱いされて、一個三百円くらい。さらにチーズ、ベーコン、ソース焼きそばなどのトッピングを添えると、追加で五十円から百円くらいかかるから、五百円は必要らしいぞ」
俺の説明をそっくりメリーさんがスズカに伝えると、
『なんですかそれは!? 知らない間に卵が一個百円くらいに値上がりしているんですか!?!』
『あたしメリーさん。卵は昔から変わらずに一個二十円くらいだけど、どーいうわけか原価と関係なく「B級グルメ」という名目で値上がりしたみたいなの……』
『そんなの間違ってます!!』
スズカの怒りの咆哮が木霊した。
スズカ「というか、今どきはチーズ、ベーコン、ソース焼きそばとかをトッピングするんですか?」
メリーさん「そうらしいの。お好み焼きにチーズをトッピングするのも割とよくあるので、普通なんじゃないかしら……?」
スズカ「なるほど~。美味しそうですね! ……でも、私的には邪道です(ドスの利いた声)」
珍しくスズカの地雷を踏み抜いた瞬間であった。




