番外編 あたしメリーさん。いま最凶力士が襲来しているの……。
さて、メリーさんがアーサー王を倒すための助っ人として、勇者パーティを追放された元Sランク冒険者のロバート・権田原に、出門=コーグレ閣下の特別コーチを専任してもらってから、はや――半日が経過した。
『あたしメリーさん。いまアーサー王のところへ向かっているところなの……』
「マジで早いわ!」
早朝からかかってきたメリーさんからの電話に、思わず素でスマホにツッコミを入れる俺。
団長の手刀並みに早い行動力だ。俺でなければ見逃していたところだろう。
「つーか、半日足らずで素人のおっさんが大関に勝てるようになったのか!? いくら閣下でも無理だろう。ドーピングでもしたのか、ゲッ○ー線でも浴びさせて?!!」
『人聞きが悪いの。というかゲッ○ー線もビ○ラーもイ○゛もクワ○チカも、とかく意思を持ったエネルギーはタチ悪いと相場が決まっているの……』
最近は光○力エネルギーまで、進化だなんだと始まったけど……ヤレヤレ┐(´д`)┌と、メリーさんが嘆息した。
「……じゃあどうやったんだ?」
ブ○ワーカーの宣伝でもそこまで劇的に効果がないと思うのだが。
『あたしメリーさん。とりあえずおっさんを半日しごきまくって、乾いた心にスト○ングゼロを注いで……』
それはほぼ麻薬だな。
『銭湯に連れて行って、閣下が魔力を注いだらたちまち顔に歌舞伎の隈取りみたいな紋様が浮かんで、体を砲弾のようにして空中を水平移動して頭から突っ込むという、謎の頭突き技のほか、Ⅴシステムとかスーパーコンボとかが使えるようになったの。もっともその無敵モードは五秒しか持たないけど……』
「エド○ンド本田化してるじゃねーか!」
あれは相撲取りじゃない、ジャパニーズスモウファイターだ! あと無敵モードが短すぎる。マ○オ並の短さだ。
そんな俺に叫びにはしゃぐメリーさん。
『おお、ダ○オージャなの! ミー○・エドモンドなの……!」
「それは違うエドモンドだっ! 天然を装ってあざとく間違えるな。この天然危険物」
『大学を卒業したら社畜……社壊人になるしかないバカ田大学生にとやかく言われる筋合いはないの』
そんなやり取りをしている間にも、メリーさんたち一行(メリーさん、オリーヴ、ローラ、エマ、スズカ)は早朝のリョーゴク国を突き進む。
『どうでもいいですけど、このリョーゴク国って江戸時代の日本みたいな町並みで心が和みますね~』
スズカのどことなく弾んだ声がメリーさんかオリーヴに同意を求めたようだが――。
『そう? なんか幕末も元禄も様式を全部ちゃんぽんしたような感じで、チープな映画村感がモリモリするんだけど……』
オリーヴが釈然としない口調で異を唱えた。
『そ、そうですか。ま、まあ〝江戸時代”というくくりで、細かいことは目をつぶったほうが平和な気がしますけど』
うわ~、これだから設定厨は……と言いたげな口調で歯切れ悪く、この話題をあやふやにしようと努力するスズカ。
そこら辺の気遣いを無視して、メリーさんが無遠慮に言い放つ。
『あたしメリーさん。たまに現代日本から転生や転移してきた奴が、こことか隣の戦国時代そっくりな〝風雲戦国絵巻列島”を過去の日本だと思って「未来知識で技術革新!」「歴史を変えるぜ」とかハッチャケるのがデフォらしいけど、ぶっちゃけ周りは生暖かく見守っているの。そもそも現代語が通じる時点で変だと思わないのかしら……?』
「ああ、現代語の「です・ます」口調ってのは、当時の「でやんす・でがんす」と同じ底辺の人間が使っていた言葉遣いだからなぁ」
そんな言葉づかいをしていたら、自分から『下賎な人間で~す』と自己紹介しているのも同然で、真っ当な人間からは相手にされないだろう。
『だいたい建物もそうだけど、町民が洗濯されたカラフルな衣装を着て、そこらへんに普通に孟宗竹が生えてる時点でおかしいと思わないのかしら……?』
「思わないんだろうな~」
なお、孟宗竹が中国から渡来したのは十八世紀である。真竹はそれ以前からあったが、主に西日本で『竹山』『竹林』として管理されていて、そこら辺の山に自然に生えているものではない。
『あたしメリーさん。だけどまだリョーゴク国はマシなの。風雲戦国絵巻列島では、転移者や転生者がマジで「弱小領主だけど天下統一!」とか息巻いていて、周囲の失笑を買っているの。ぶっちゃけ隠しているつもりでも、〝トイレで小をしながら上司の悪口を言ってたら、個室にその上司がいた”状態なんだけど……』
「映画の『トゥ○ーマン・ショー』状態だな、ほぼ」
あれは主人公が日常生活や家庭だと思っていたすべてがセットと俳優で、知らぬは本人ばかりとという状況で、その様子を逐次テレビで娯楽として放送されていた……という話だったが、聞く限り異世界の場合は相当にザルな状態のような気がするのだが、それで気が付かない方が悪いのでは?
『なお、いま風雲戦国絵巻列島では南蛮趣味の織田家がブイブイ言わせている模様……』
「織田か」
順当と言えば順当か。
『儲けた金でランボルギーニ・カウンタックLP500S。通称〝ウルフ・カウンタック”を乗り回しているの……』
「それは違う織田だ! つーか、そっちに転生してたのか!?」
なぜあの織田が幅を利かせている時点で、他の転生者や転移者は「なんか変だな? ここホントに過去の戦国時代?」と気が付かんのだ!?
『というか、仮に過去に転生したとしても、転生者事前に解答を知っていて、カンニングしながら天下とって虚しくないのかとメリーさん包丁を押し当てながら聞きたいの……』
「いゃあ、仮に過去にタイムスリップしたとしても、固定された過去から続く現代から過去へ行っても、歴史は変えられないと思うぞ」
過去に戻って自分が生まれる前に親父を殺そうと思っても、そうすると自分が生まれないという矛盾が生じるのでできない――いわゆるタイムパラドックスというやつだな。
『ああ、すでに負け組が過去に戻って、何も知らない勝った相手をぶっ殺そうと思っても無理な、スカ○ネット理論ね。セ○シ君が手っ取り早くの○太の存在をない者にして、歴史をやり直そうと思ってもできないので、本人を更生させて多少はマシな未来にしようとするようなものなのね……』
メリーさんが納得したところで、エマが唾を飲み込む音がした。
『あ、サンマを焼いている匂いですね。メリー様、せっかくなので朝ごはんを食べていきませんか?』
『エマッ、はしたないですよ』
『えー、でも久々に焼き魚定食とか食べてみたいと思わないの? 「新米〝ゆめぴかり”炊き立てです」ってのぼりも出てるし』
『あたしメリーさん。とりあえず朝飯前に、さっさと勝負をつけるの! メリーさん、ドラゴンポールのことが気になりすぎて、夜とお昼寝でしか眠れないの。だから、朝駆けで出てきたんだから……!』
そう発破をかけるメリーさんの声を聴きながら、ふと俺は先ほどから漠然とした疑問を抱いていた。
「なあ、お前ら勝負をかけに行くて言ってたけど、肝心のロバート・権田原はどうした?」
『アレなら朝風呂を兼ねて、実践稽古で銭湯を舞台にして織女星の男と戦っている最中なの……』
「……ああ、ベ○な。つーか、一緒に行かないで誰が勝負するんだ?」
俺はまたてっきり特訓とかなんとかであと何話か続くかと思っていたんだが……。
『メリーさん、そーいうジャ○プで看板背負わされたせいで、話をカ○ピスみたいに薄めて伸ばす手法はどーかと思うの。というか、メリーさんの目的はドラゴンポールなんだから、別に正面切って勝負する必要はないの。ロバート・権田原を囮にして、実際には適当に盗むなり、土俵に仕掛けをして吊り天井を落下させるなりしたほうが確実だと思うの……』
「江戸風世界とはいえ、宇都宮城釣天井事件を実地で起こすつもりか、この餓鬼ぁ!」
まともに勝負するかと思えばこれだよ。
無意味に地獄の特訓を受けているロバート・権田原はいい面の皮である。
なおその頃、ロバート・権田原は織女星の男にボコボコにKOされて、死線を彷徨っていたという。
そんなわけでメリーさんたちがアーサー王の相撲部屋……王宮を訪ねたところ、昨日の今日で建物は半壊し、誰もいないもぬけの殻になっているのを目の当たりにして、
『『『『『はあ……?!?』』』』』
啞然としたところへ、通りがかりの親切な町人が事情を説明してくれた。
『お嬢ちゃんたち、ここに用があったんなら残念だね。ここは昨日、褌一丁の裸同然の大男が、無理やり幼女を両手で抱きしめて放り投げた――という通報があって、怒り狂った伝説の横綱〝御嶽山怒羅衛門”関が襲来して全員を半殺しにした結果、一族は失脚したよ』
『『『『『はあ~~~っ!?!』』』』』
再度、メリーさんたちの素っ頓狂な叫びが早朝の空に木霊した。
次回、伝説の横綱怒羅衛門VS光の戦士
「ちなみに光の戦士というのは、外なる神々を封印した旧神の使いとされ、オリオン座あたりからやってくる光の巨人で、ビームを撃ったり投げ技でクトゥルーをぶん投げたりもしている!」
「ウ、ウル――」
「どーいうわけか、日本では出身地も見かけもよく似た存在が有名だが、単なる偶然の産物なのである!」
偶然だぞ。
「あと関係ないが、外なる神々の王であるアザートースが盲目白痴である理由も、封印が原因である説がある。あと封印と関係なく、もともとド阿呆説もある!」
「メリーさん、なんだか猛烈にディスられた気がするの……」




