番外編 あたしメリーさん。いま異世界から地球世界へ戻るの……。
『あたしメリーさん。いい加減に番外編ばかりだと、読者に飽きられそうなの……』
「気にするな。世の中には『すごいよ!!マ○ルさん』という、中身が外伝しかない漫画もある」
メリーさんからの殊勝というか、微妙にメタな発言を受けて、俺はTVで放送中の緊急特番、『甲子園の魔物、ついに復活する!!』という番組を眺めながら適当に相槌を打った。
なお、専門家いわく(なんにでも専門家がいるな、この国は)、その存在を封じるために球場を建てて、ナニワパワーと謎の猛虎弁による呪文で魔力に対抗してきた――時たまその魔力が漏れて「甲子園には魔物が潜んでいる!」と言われるゆえんであるとか――だったのだが、このところのイベント関係の自粛によって、ついにその封印が解けたそうである。……阿呆らしい。
『漫画やアニメと一緒にするな、なの! だいたい萌え特化アニメになった鬼○郎で、花子は出ているのにメリーさんの出番がないとか、気に食わないの……!』
「――ああ。そういえばトイレの花子さんは萌えキャラになってたな」
バスタオル巻いて鬼○郎と風呂に入るサービスシーンありで。
『異議ありなの! そもそもトイレにいない花子なんて、花子じゃないの!! あれを花子と認定するなんて、ケツの穴に体温計つっこんで測ってた時代の死亡推定時刻みたいにガバガバ鑑定なの……!』
鼻息荒く言い放つメリーさん。
「いいじゃないか。お前だって『ぬ~○゛~』には出てたろう? その上で実質的に圧勝したわけだし」
『あれってメリーさんが「実はいじめられていた霊能者の怨霊が正体」だとか「被害者になる女の子に手足のない人形が無理やり渡される」とか、「バラバラの人形の手足を一週間以内に集めないと、被害者がバラバラにされる」とか、他の都市伝説の設定がテンコ盛りで、もはや原型をとどめてないの。腹パン肩パン案件なの! あれで唯一メリーさんが学んだことは、「茄子ってソースとしょう油とマヨネーズと味噌つけるとステーキの味がするんだ」ってことだけだし……』
「なるわけねーだろう! デマだそれは!」
・きゅうりにハチミツをかけるとメロンの味になる。
・プリンに醤油をかけるとウニの味になる。
・トマトを砂糖で食べるとイチゴ味になる。
・アボカドを醤油で食べると大トロになる。
とかの錯覚は聞いたことがあるが、さすがに茄子でステーキはねーよ!!
ステーキ食ったことない○学生や貧乏人に、茄子食わせて「ステーキですよ~♪」と誤魔化そうという意図が見え隠れするな。
「つーか、設定が全部盛りのほうがお得で、お前なら喜びそうな感じだと思うんだがなぁ。電化製品でいえばソ○ーの初期ロットみたいに、ムダに高性能部品もりもりにしたみたいなもんだろう?」
『冷蔵庫にテレビが付いてたり、戦闘しながらインターネットで通販ができる国産次世代戦闘機F-X、洗浄トイレのボタン並みに無駄なの! メリーさんの美学に反するの。せいぜい「それは包丁言うにはあまりにも大きすぎた。大きくぶ厚く重くそして大雑把すぎた。それは正にクジラ包丁だった」という感じで、誇張する部分は一点豪華主義でやって欲しいの……』
「あー、あれの出だしか……。まさか本当に生きている間に未完になるとはなぁ。――とはいえ、お前は実物のインパクトが強すぎて、あのくらいしないと追いつけないだろう?」
いや、まだ足りんか? そういや俺も『ウ○娘』から実際のゴー○ド○ップ知ったけど、アニメのキャラ以上にキャラ立っていて驚いたものだ。
アレは本当に馬なのか? 馬の姿をした別のナニカじゃないのか??
「まあともかく、意外とそっちの設定の方が定着するかも知れんぞ。スマホや黒マスク、ポテトに箸とか出始めは『流行らないだろ~な』と思ったものが、無茶苦茶流行ってスタンダードになったわけだし……というか、今回の電話はお笑いの方向性についてアドバイスが欲しいわけか?」
『コンビのお笑い芸人の打ち合わせじゃないの! あたしメリーさん。そろそろ異世界から脱出をはかろうと思っているの……』
「……いまさらか!? 異世界生活も謳歌していることだし、このまま骨を埋めるのかと思っていたが」
『そんなわけないの! ちゃんと地球の日本に戻って「あたしメリーさん。いま大阪駅にいるの……」から「あたしメリーさん。いま梅田駅にいるの……」「あたしメリーさん。いま北新地駅にいるの……」と、電話越しにひたひたと忍び寄っていく恐怖をあなたに囁くの……』
「近づいてない近づいてない。それ現在地から一歩も動いていないから」
というか、もしかして駅構内で迷子になっていないか? その場合、俺が迎えに行く展開になったら本末転倒のような……。
『とにかく、ここらへんで現世に戻って、これまで無駄に過ごした時間はこのための飛翔のための準備期間……ガッキーンショーライ、ケンドーコバヤシということにするの!』
「臥薪嘗胆に捲土重来な」
『……そうとも言うの。つまり再起動するための準備期間なの。オナ禁みたいなものなの!』
「堂々と開き直って下ネタに走るな!!」
仮にも幼女が。
『あたしメリーさん。そういえばオナニーとマスター・ベーションってどう違うのかしら……?』
「だからやめろと言っているだろう! ちなみにオナニーはドイツ語で、マスターベーションは英語で自慰を意味する言葉で同じだ。あとマスター/ベーションじゃなくて、区切りはマス/ターベーションな」
『マジなの!? ヘリ/コプターじゃなくて「ヘリコ/プター」的な……?!』
「お前、英語を間違えて覚えてるくせに、なんでギリシア語を知ってるんだ!?!」
こいつはバカなのか賢いのかまったく分からんな。
「まあいい。で、具体的にどうやって帰るつもりだ?」
『あたしメリーさん。小耳に挟んだんだけど、こっちの世界には〝ドラゴン・ポール″という伝説があって……』
「うん、聞かなかったことにするから、それ以上しゃべるな」
いろいろと危険すぎるネタと語感の話題に俺が即座にストップをかけるも、『混ぜるな危険』を平気でネルネルするメリーさんは聞いちゃいない。
『七本のトーテムポールを集めると、他の世界に行ける扉が開くらしいの……!』
「ほーーーー」
心底胡散臭い。
『世界各国に散らばっているらしいから、全部集めて今度こそ異世界脱出なの! とりあえず近くにあるリョーゴク国にいるアーサー王が一本持っているらしいから、それをかっぱら――譲ってもらいに行く予定なの……!』
えっ、アーサー王!?
「あの有名な!?!」
『そうなの! 超有名なの! 歴代のアーサー王も「アーサー・シヲ王」、「アーサー・ショーリュウ王」、そして現役の「アーサー・ノヤマ王」と知らない人がいないくらい有名だし……』
「…………」
いや、確かに有名人ばかりだけど、それは俺の知っているアーサー王と違うな。
『メリーさん頑張るの! ということで首を洗って待っているの……!』
ウキウキのメリーさんがそう宣言をして電話を切った。
「……まあいいか」




