番外編 あたしメリーさん。いま第二波が来ているの……。
【転生者の塔】の二代目ダンジョンマスターになったスズカだが、わずか三日で放逐されたらしい――。
『明智光秀なの。羽田孜元首相なの。ホリ○モンなの。清武の乱なの……! あと関係ないけど、成り上がり者って、なんでこぞってロケットで宇宙へ行きたがるのかしら……?』
何とかと煙は高いところに登りたがるって言うからな。ともかく高いところから民衆を見下ろして、精神的なマウントを取りたいんだろう。
そうスマホに返事をしたところ、ちょうでアパートの入り口に戻ってきたところだったので、
「たかだか地表二〇〇~三〇〇㎞程度の、重力圏内のお遊びですけれどね」
アパートの庭で風船のような、でっかいドローンのようなものの調整をしていた管理人さんが、「ふっ」と鼻で嗤うように口を挟んだ。
「――あ、どうも。管理人さん、何やっているんですか?」
「こんにちわ、学生さん。いえ、ちょっと観測装置の改良を……この間、この列島を北上させたところ、ちょっと高度が足りなくて、この惑星の報道機関にも映像付きでバレてしまったので、ステルス機能を拡充させようと思いまして」
ちょっと甘く見ていましたね。原始惑星の原住民にはこの程度で十分だと思っていたのですが、と口惜し気にボヤく管理人さん。
「はあ……というか、何を観測する目的で?」
なんとなく気になったので聞いてみた。
「ええ、実は私の惑星のウィルスの一部を、この惑星に散布してみたのですが、それが現住生命地にどのような影響を与えたかについてですね。いまのところ発熱、咳、だるさ、食欲低下、息切れ、痰、筋肉痛などの免疫反応が現われているようですが、本来の目的である感覚器の矯正――我々の惑星に住む生物の感覚に近づけるための処置――が、嗅覚異常と味覚異常といった――」
『あたしメリーさん。おごれる人も久しからずで、風の前の塵に同じなの。しょせんは泡沫の夢だったの。バブルみたいなものなの。バブルの塔だったの……』
管理人さんの話の途中でメリーさんからの通話が続いたので、俺は管理人さんに挨拶をしてその場を後にした。
『というか、あんな砂漠の中の何もない、生活感もない松〇秀喜の館みたいなもんもらってもいらないの……!』
まあメリーさんにとってはそうだろうな。
スズカ以外はさっさとその場を後にしたかったらしいが、スズカが強固に反対したため、とりあえず斃した怪鳥を焼いて食って――
『メリーさんがガメリンの背中に乗って、包丁で突いて斃したの! 飛行タイプの弱点は『つつく』に決まっているの……!』
あとから合流したローラとエマ姉妹ともども、しばらくはその場にとどまっていたらしい。
あと、それは弱点ではなくて飛行タイプの基本技だ。
するとなぜか塔の正面に【不許葷酒山門入山門】という文字が浮かんで、さらに夜になると月に向かってバッ○サインのように投影されたとか。
『そうしたら、続々とスズカへの挑戦者が現われたの……』
その場にいた全員が意味不明の事態に、こたつの中ですかしっ屁こいた奴の犯人探しみたいな、誰が何をした? という疑心暗鬼になったらしい。
ちなみに【不許葷酒山門入山門】はいうのは昔の禅宗の寺の門前に掲げられていた『挑戦者求む!』というような看板で、寺の看板を掛けて坊主同士が「そもさん!」「せっぱ!」と禅問答をして、勝ったものが寺の住職になれて、負けると唐笠一本持って追い出されるルールの事である。
どうやら塔の機能として新たな主人が決まると、「誰の挑戦でも受ける!」というシステムがあったらしい。
『あたしメリーさん。そんなわけで転生系チート主人公に感情移入する、失敗続きの人生を解答付きでやり直したいって願望持ってる読者みたいな、転生者や転移者がごちゃごちゃ集まってきたの……』
「……だから自分から読者様を敵に回すなよ、この餓鬼」
『あと、メリーさん思うんだけど、「チート」が卑怯の代名詞じゃなくて、すごく強いとかプラス方向の意味で誤用されることが多くなったのも、この手の人生舐めてる連中のせいだと思うの……』
さらに全方向にケンカを売るメリーさん。
「……まあいいけど。つまりオタククイズ合戦で負けたわけか、スズカは」
『そういうことなの。気のせいかスズカを圧倒的な知識で破った、帽子にサングラスにマスクをした謎の坊主は、蛭○神建にそっくりな気がしたけど、声じゃ正体はわからないプ○キュアシステムが働いているから、正体不明なの……』
ついでにメリーさん相手にはあはあと声に出して興奮していたらしい。
マジでオタク界の完璧超人始祖とも謳われ、宅○郎はコレの真似をしているだけのオタクでも何でもないただの一般人レベルというのが、コアなオタクの共通認識であるオタクにしてロリコン、そして坊主でもある蛭○神建本人じゃないのか、それ!?
ともあれ謎のオタク男にケチョンケチョンに負けたスズカは、マザーコンピューターに失格を言い渡されて、唐傘一本渡されて塔から追い出されたらしい。
戦いとは虚しいものである。特に今回は。
「まあ、直接暴力や武力を行使しない分、平和っちゃ平和か」
『そういえばチンパンジーは喧嘩っ早くて、同族同士でも殺し合いのケンカをするけど、似たようなボノボという猿は、いさかいがあると性器を刺激したり、し合ったりして解決するの。一部ではオス同士、メス同士で一線を越えるらしいけど、そういう平和的解決手段を人間も取ればいいと思うの……』
それ平和か……?
なお、後で確認したところ、そのコミュニケーションのことを『ホカホカ』というらしい。
『とはいえ傍で見ていても、謎の僧侶オタク相手に、スズカがハイス○アガールの小春ちゃんレベルの負け戦を強いられてて、さすがに気の毒だったの。とりあえずいまスズカは宿の机の下で、唐傘一本抱えて放心しているけど……』
あ~、まあ、やっと脚光を浴びたと思ったらただの前座だったわけだからなぁ。ショックで放心もするか。
「少しはいたわってやれよ、お前らも」
『あたしメリーさん。ここのとこスズカに付き合って、もともと興味もないドラゴンカーセックスみたいな、下手に首を突っ込むと真夜中の炭水化物並みに危険な嗜好に付き合わされたので、全員が子育てが一段落した主婦みたいな開放感に浸っているので、その提案は断固として拒否するの。あえて言うなら、ミン○ーモモの名言にもある「黙れ!俗物!」という気分なの……』
その台詞は別なのとごっちゃになっているぞ。
とはいえ、確かに特殊な性癖というのは理解しがたいし、興味ない人間にとっては果てしなくどーでもいいことだからなぁ。
メリケンであるドロンパ曰く、
「ドラゴンカーセックスは『文明の象徴とも言える車がファンタジーの象徴と言えるドラゴンに凌辱されるのが良い』という人もいれば、『現実と幻想が愛を育んでるのが良い』という人もいて、本国でも百花繚乱デ~ス」
とのことで、深いんだが理解できる気がしないジャンルである。
「とはいえ、ショックでスズカがニートになったら困るだろう?」
『ニートはニートで常に戦っているともいうの……』
「なにと……?」
『……孤独じゃないかしら?』
それはそれで説得力のある言葉だが、異世界で通用するのだろうか?
『大丈夫なの。いつまでも出てこないようなら、荒療治で転生者の元隊士によって再結成された〝シン・新撰組”にでも叩き込むの。ア○デバロンの戒律並みになんかあれば死刑の厳しい場所なの……!』
【アルデバ○ンの戒律(鉄の戒律)】
一つ、勝手な行動は死刑
二つ、敵に背を向けた者は死刑
三つ、敵に情をかけた者、かけられた者は死刑
四つ、戦隊を乱す者は死刑
どうでもいいけど、名前は庵野風味のある新撰組だな。
『ちなみに土方副長はまだ生きていて、なんとかという漫画家をやっているからいないらしいの……』
「うん、知ってる」
『うき~~っ! こうなったら再度挑戦して再び塔へ返り咲いてみせます!』
と、意気消沈していたスズカが復活して捲土重来を誓って、鼻息荒く言い放った。……勝てるとは思えんが。
『まあまあ、落ち着くのスズカ。深呼吸なの。「ひっひっふー」なの……』
「……どうでもいいけど、お前のラマーズ法は間違っているぞ。『ヒッ(吸う)ヒッ(吸う)フー(吐く)』ではなくて、『ヒッ(短く吐く)ヒッ(短く吐く)フー(長く吐く)』で全部吐くんだが」
まあメリーさんには必要ない知識だろうけど。
『あたしメリーさん。ギネス記録では五歳や六歳で出産した例もあるから、メリーさんもいつでもオッケーなよ……?』
張り切らんでいい、張り切らんで。それよりもスズカの不安定な精神状況をケアしてやれ。
『ぶっちゃけ「行けたら行く」とか、店員の「ここになければありませんね」的な興味しかないけど、プロレスってエンターテイメントなので、勝てないまでも戦う姿を見るだけでも退屈しのぎにはなるから、スズカの二回戦は見物人を集めて料金を取ってもいけそうな気がするの……』
投げやりなメリーさんだったが、リベンジに燃えるスズカを眺めながらもうけ話につなげていたのだった。
【おまけ:マッチ売りのメリーさん】
寒い寒い大晦日に、街角でメリーさんがマッチを売っていました。
「マッチ! マッチなの……!」
けれどもエアコンが普及し条例で煙草がほぼ禁止された現在マッチは一本も売れません。
「ううう……やっぱり時代が違うの。ジャ○ーズの最古参で、昔はたの○んトリオでバカ売れだったマッチも、いまの時代では全然売れないの。せめてキン○キッズならいけたのに……」
「「「「「なにを売っているんだ、お前はっ!?!」」」」」
嘆くメリーさんに、すかさず通行人からツッコミが入ります。
そうしている間にも、しんしんと降る雪がメリーさんの体の上に覆いかぶさります。
今日中にマッチを売って帰らないと、アル中で無職の父親から家庭内暴力――と、迎撃のためのメリーさんの包丁の応酬で、ただでさえ少ないカロリーが余分に燃焼されてしまうでしょう。
「……あの親父、酔っぱらうほど強くなるので無駄に手強いの。酔拳なの。ジャッキーなの……」
ぶつぶつ言いながら――それで余計に通行人が避けて通る結果になっているのですが――駅前のコンビニに入ったメリーさんは、雑誌コーナーで目に入った『刑務所●中』という漫画に目を通しました。
「むう、メリーさんの食生活よりもよほど充実しているの……」
そう思った瞬間、メリーさんが手にしたマッチの先端に火がともったように、ハッとひらめきました。
「そうなの! 親父が酔っぱらって寝ている間に家に火をつければ、クズな父親を始末して、なおかつメリーさんは快適な刑務所に入れるの……!」
そうしてじっくりと夜が更けるまでコンビニで時間を潰したメリーさんが、雪の中家に戻ると案の定、深酒をした父親はすっかり眠り込んでいました。
しっかりと家の鍵を閉めて、燃えやすそうなゴミを家の周りに積んだメリーさんがマッチを擦って……最近のマッチを使えない子供らしく、ポキポキと何本もへし折って失敗しながらも、どうにか火をつけると、たちまち安普請の家は火だるまになり、消防する間もなく全焼し、アルコール漬けだった父親も骨も残さず燃え尽きたのでした。
そうしてメリーさんは無事に刑務所に入って、念願の三食暖房付きの部屋で幸せに暮らすことができました。めでたしめでたし。
ただし、受刑作業が毎日毎日マッチを作る仕事で、微妙に釈然としなかったそうですが……。
「というか、こんなもの作っても売れないの。結果的に第二第三のメリーさんが、今日もどこかで生まれているんじゃないからしら……?」
そんな風に思うメリーさんでした。
7/5 追加。
おまけは、『童話』のほうへ投稿しようかと思ったのですが(童話ジャンル、ほぼコメディになってませんか?)、さすがに節操がないかなぁと思ってついでに付け加えました。
あと二巻の発売予定は順調に延びています(´・ω・`)




