番外編 あたしメリーさん。いま新学期が始まるの……。
なんか調子が悪いので、気分転換に書きました。
テレビの中では、やたらまつ毛の長いミステリアスな美女と、へちゃむくれでチンチクリンの少年が向かい合って汽車に乗っていた。
徹郎「フーテル、またひとつ会社が消えたよ」
フーテルは悲しそうに窓の外を見つめていた。
汽車の汽笛の後にナレーションが続く……。
『徹郎はふたりがバックレるまで好調だった会社が、突如として倒産した背景に関してフーテルが何かを知っているのではと思ったが、何も言えなかった』
ちなみに物語は、保証人もない学歴もない住所不定の少年・夜野徹郎が、誰でも就職させてくれるという噂のある外資系大企業のある場所を目指して、謎の無職の美女フーテルと旅をしながら行く先々でバイトや日雇いの仕事をするのだが、なぜか毎回トラブルに巻き込まれるという、典型的なロードムービーのアニメである。
かつては何度も映画化され傑作と謳われた昔の作品なのだが、夏休みということで専用チャンネルで一挙再放送をしていたのを、なんとなく懐かしくなって観たのだが、いま見るといろいろツッコミどころがあるなぁ……。
と、思いながら朝飯を掻っ込んでいると、いつものようにメリーさんからスマホに着信があった。
>【メリーさん@○核開発禁止条約とすると卑猥な文字に見えるの】
朝から猥談を送信してくるんじゃねえよ、幼女が!
『あたしメリーさん。いま新学期が始まって幼稚園に行くのでローラとエマにド〇ベンのキャラ弁作らせているところなの……』
ああ、そういえば小学生以下は今日から新学期か、大学はまだ一カ月近く休みがあるのでピンとこなかったけど。
「つーか、序盤の展開なしにいきなりメリーさんの電話から始まるとか、序盤でR団が出たり戦隊でいきなり巨大化戦があるみたいな、シナリオの都合で先に消化したか(w)? 感じするなぁ」
いや、実は本来は序盤に樺音先輩から、
「夏らしく百物語をして、霊を呼び出さない?!」
という提案があって俺が、
「一晩に百話話すとか、逆算すると一話20秒くらいでないと無理ですよね? 例えば『放射能は恐い。その証拠に一回でもフクシマに足を踏み入れた者は確実に何時か死ぬ』とかの大喜利を連発しなきゃならないわけで」
「それは怪談じゃない! 霊とか妖怪とか宇宙人とかの話をしなさい!」
「いやいや、霊とか邪神とか非科学的ですよ」
と塩対応をして、
「科学なんて世界のごくわずかしか解明していない、それこそオカルトよ! この世は神秘と奇跡に満ちているのよ! それを証明してみせるわ!」
起きないから奇跡って言うんですよ、と口にしようとした俺の機先を制する形で、
「ほほう、なるほどもっともでござるな」
ムキになった樺音先輩の言い分を、脇で聞いていたヤマザキが感じ入った様子で頷き、先輩を満足させていた。
「……お前、霊とか妖怪とかUFOとか宇宙人とか信じているタイプだったのか?」
オタであっても、あくまで洒落で参加しているもんだと思っていた俺は意表を突かれた。
「中二病の女子の『アイタタタ……』という言動。当方はその手の対応にはすでに耐性があり、どちらかと言うとご褒美にあたり体力が回復するくらいなのでござる」
自慢げに答えるヤマザキ。
「ワタシ知ってるね。この手の人間をアスペ……」
「差別用語になるから言うな! 『他人とは違う独特の世界観を持った人』と婉曲に表現しろっ」
ジュースを飲みながら、空気を読まない発言をしたドロンパを黙らせる俺。
「ということで、ともかく明日の夜にうちの部屋で始めるので、各自二十五話、怖い話を準備すること!」
決定事項という感じで、無理やり参加させられるイベントがあったんだけど、百物語が終わっても何も起きないと盛り上がりに欠けるな。奇跡かぁ……。
と思った俺は、しかたなくヤラセ覚悟で、メリーさんに電話をして適当な都市伝説に、ゲストで来てもらえないかと相談した。
すると電話の向こうでメリーさんが応じる――。
『わかったの。ならば、明日、ひとりの超大物都市伝説が埼玉にいき、その場を恐怖のどん底に落とすの……!』
「えっ……、そ、その超大物とは!?」
大きく目を開いた俺に対して、電話の先で目を閉じて自信をもって答えるメリーさん。
『あたしなの……』
驚愕に絶句する俺。
『それともメリーさんでは超大物ではないというの……?』
「ゴッチ……じゃなかった、メ、メリーさん!」
というやり取りがある予定だったのだが、作者がSNSで公開したところ、まったく誰にもネタを理解されなかったため、ヤケになって取りやめたという経緯があったのだった。
「――ということで、前置きなしでメリーさんがいきなり出てきてるんだなぁ」
『なんか微妙にメタい発言があった気もするけど、別に問題はないの。メリーさん、そもそもヒロインじゃなくて実質主人公だから。あなたの存在って、ト〇コの小松みたいなものよね……』
メリーさんが俺のことをどんなふうに見ているのかだいたいわかった。
「つーか幼稚園? って前に潜入したリヴァーバンクス王立フジムラ幼稚園のドリアン組か?!」
あの設定、まだ生きてたのか!?
『ドリアン組? そんな敗北を知りたい死刑囚みたいな名前じゃなくて、可愛らしいコニウム組だけど……?』
「あれ、設定がバグってるのか……?」
前回と違うな(※なお、コニウム=ドクニンジンのこと。花言葉は「あなたは私を死なせる」である)。
『なにを言っているのかよくわからないけど、細かいことは気にしたら負けだと安西先生も言っているの……』
「いや、安西先生なら、メリーさんに向かっては多分『お前なぁんか勘違いしとりゃせんか?』とか言うと思うぞ」
実際スラ〇ダンクはいい漫画だ。あの顛末を見て谷沢のようになりたくない、謙虚な姿勢を持たなければならないと肝に銘じたスポーツ選手に限らず、人間は万単位でいるだろう。
「……まあ、お前には無理だろうけど。ともかくも、俺の知っている未来と違うなーと思ってな」
メリーさんもなぁ、一枚の決め絵だけ見て台詞さえつけなければ普通に美幼女で書籍の表紙を飾っても恥ずかしい存在じゃないんだけれど、中身はみせちゃいけない子だよな。
二巻もきっと『表紙詐欺』と呼ばれる見た目になるんだろうな。幼気な幼女を装って。
『??? もしかして、あなた未来ノートでも持っているの? あれってマルバツで答えられない問題を出して自ら攻撃を無効化するのよね……』
「ネタが微妙に古いなー」
『じゃあ最新のゼ〇ワンの話でもするべきかしら……?』
なんでこいつ異世界にいるのに、現在進行形のライダーとか知っているんだ? 都市伝説メリーさんよりも謎なんだけど。
『えっ、ゼロ〇ンって現代でも復活したんですか!?』
不意にスズカの嬉し気な声が聞こえてきた。
『そっかー、面白いですもんね、01! 仏像の中から登場して、太陽電池で駆動して、トランペット吹きながら登場するイ〇ロー兄さん!』
多分、スズカが想像しているゼ〇ワンと、いま話題になっているゼロ〇ンとは別物だと思うぞ。
「あれは令和に引っ掛けて、レイ・ワン→ゼロ・ワンになった説と、令和初のライダーだからという二重の意味がある説があると、作者がツ〇ッターで教えてもらったらしいけど」
『なんか、敗戦の日を終戦の日と言って誤魔化すようなものなの……』
「いやいや、人は過去ではなくて未来に向かって進まなければならないから、『終戦』(戦いの時代は終わった)でいいんだ」
『その通りなの。だから次にアメリカとやる時は、勝てるように頑張るの……!』
「お前は先を見据え過ぎだ!!!」
そんな俺のツッコミを無視して、異世界でスズカにゼ〇ワン違いを指摘している。
『あたしメリーさん。それベルギーにある小便小僧と小便小娘くらい違うと思うの……』
『いや、違いが判らないんですが……?』
『小僧の方は、爆弾の導火線に小便をかけて消し、町を救った少年の武勇談(都市伝説)が由来だけど、小娘の方は『小僧がいるんだから』というついでで作られたものなの。小僧の方は世界的に有名だけど、メリーさん個人的には小難しい顔で小便している小僧よりも、いかにも限界まで我慢して我慢して、そうして満面の笑みで放尿している小娘のほうが好きなの……』
メリーさんが蘊蓄語っている間に弁当ができたらしい。
『こんな感じでどうでしょう? ド〇ベンの坂〇三吉が通天閣打法を放っている場面を再現しました』
「選定のチョイスが微妙だぞ!!」
あと、なんで異世界でド〇ベンが通用しているんだ!? 雑だろう。いくら番外編でも設定がブレまくって何でもアリになっているぞ! さすがに読者にツッコまれるぞ、おい。
『あたしメリーさん。いまさらこの作品に常識を求めるような読者は、読者ガチャがハズレたと割り切ればいいの……』
「いろいろ問題になりそうな、新たなパワーワードを作るんじゃない!」
ともあれ出来立ての弁当の匂いを嗅いで、満足するメリーさん。
『うん…この匂いなの』
わざと言っているな、この餓鬼。
『はあ、ありがとうございます?』
微妙に疑問形で一礼をするローラ。
『さすがはローラとエマなの。料理に関してはS〇riほどにも役に立たないオリーヴやスズカとは違うの。まるでチャー研の透明人間に投げナイフ当てるモブ有能兵士みたいなの……』
『『はあ……』』
褒められているのか微妙な調子で相槌を打つ、ローラとエマ。
『……役立たずですみません』
『その代わり冒険者ギルドの依頼では、ちゃんと戦闘で役に立っているでしょう! もうすぐレベル四十だし、そうなったら二次職へ転職可能よ!』
忸怩たる口調で謝るスズカと、憤然とした口調で言い返すオリーヴ。
『あたしメリーさん、夏休み中は冒険者ギルドで仕事を請け負ってばかりで、彩りに欠けていたから幼稚園パートが必要だと判断したの。なにしろ、冒険者ギルドってボ〇ムズみたいに、主人公とヒロイン、あと仲間の少女以外は、おっさんおっさんおっさんおっさん、おっさんってこんなに種類あるんだなって思うくらいおっさんのオンパレードだったし……』
まあ普通に考えて若い女の子がやる仕事じゃないわな。モンスター退治とか。
『オリーヴは嬉々として、水晶玉でゴブリンやコボルトを殴り殺していたの。ネアンデルタール人でも、もうちょっと道具や頭使って戦うと思うんだけど……』
『いつもいつも、アンタが群れの真っただ中に蹴り込むからでしょうが!』
相変わらずギスギスした職場だな。
「お前、一番初期のメンバーなわりに、オリーヴに対してパートナー感が欠片もないよな」
『あたしメリーさん、どっかの月の戦士の火も、初期三人組なのに主人公との絡みがなくて、緑以上に不人気なのと同じなの……!』
あー、そういえば田舎の義妹も、小学生だった当時、月水金木火の順で人気だって言ってたな。
水は『今よセー〇ームーン!』と、サポートに専念してるからわかりやすいんだけど、個性が強い奴は置いてきぼり法則が作用するんだろうな。
『それはともかく、次は二次職に進化する予定なので、オリーヴがゴブリンやオークの群れの真っただ中で、どう進化するのか楽しみなの……』
「待て、確か『ぼくら〇ウォーゲーム』は進化中に攻撃されたんだったよな。大丈夫なのか?」
『最近の合体ロボは合体中はバリア張ってるから、同じように大丈夫なんじゃないかしら……?』
あー、あれ、バリア張る能力あるなら、ずっと張りっぱなしにしておけよと思うんだが、勇者シリーズでも合体中に攻撃されたパターンがあったような……。
『それは仕方ないの、人間も合体中は隙だらけだし……』
「だから下ネタはやめろと言っているだろう!」
そんなことを言っている間に通園時間になったらしい。
『とりあえず行って来るの、その間にオリーヴたちは冒険者ギルドで依頼を受けてくるの。なるべくオークの群れの討伐がいいの……』
オリーヴを犠牲にする気満々だな。
『無事に帰ってきたら、オリーヴを無限責任社員、略して無責任社員へ取り立ててあげるの……』
C調で職場で歌いだしそうな名称の社員だな~。
『給料据え置きにして、責任だけ取らせるつもりでしょう、アンタ!』
メリーさんの思惑を看破したオリーヴの怒鳴り声を最後に、メリーさんが玄関を出た音がして通話が切れたのだった。
9/8 一部加筆修正しました。




