番外編 あたしメリーさん。いま夏真っ盛りなの……。
暑いので、なーんにも考え付きませんでした。
夏である。
夏といえば海! プール! 水着! 怪談! 都市伝説! 八〇島シーパ〇ダイス! 常〇ハワイア〇センターである!
ということで、薄着になる機会も多いので、最近は部屋の中でできる筋トレを中心に、都会暮らしで鈍った体の焼き直しをするのを日課にしていた。
とりあえず半裸で、腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、腹筋100回、背筋100回、ス〇フキンの真似100回やったところで、軽く体が温まってきた。
〝軽く!? 温まってきた程度?! 普通の人なら頭が禿げるレベルのトレーニングよ! あと、最後のス〇フキンの真似ってなんの意味があるわけ!?”
ロボット掃除機ノレソバの上に乗っている自称地縛霊の霊子(仮名)が、窓際でギターを弾いて黄昏ている俺の姿に、愕然とした顔で何やらショックを受けている。
別におかしくはないだろうこの程度の運動量。
「まあ、田舎にいた時に比べればまだまだ序の口だよな」
夏休みともなれば、爺さんに一日中鍛えられて、いきなりライブではしゃいだ次の日のオタクみたいに、手足がプルプルになっていたもんだ。
ふと思い出して、軽くウチの流派の徒手空拳時に使う技のいくつかを演舞してみる。
「一秒間に十二連撃か。う~~む、一日トレーニングを抜くと元に戻るまで3日はかかるってのは本当だな……」
以前はあと二つは技を叩き込めていたのに、鈍ったものだ。
〝いやいやっ、十分に凄いから! これ以上鍛えてどうするつもりよ!?”
「いや、だが先日、アルバイト先で本の万引きがいたので、追いかけて捕まえようとしたら、反撃にあって結構、ボコボコにされたからなぁ」
ちなみに相手はグレイシー柔術の元チャンピオンだったらしいが……。
「まあ、人間には二種類の人間がいて、体を鍛えることを実践できる人間とできない人間がいるから、わからん奴にはわからんだろう」
なお、基本的に筋肉を増やすことと贅肉を増やすことは表裏一体でもある。
炭水化物とタンパク質を一日に3000カロリーくらい摂って、なおかつ消費エネルギー > 摂取エネルギーにすれば筋肉が増え、逆に消費エネルギー < 摂取エネルギーとなると太るのだ。
「あと太りたいんなら時間だな。午後11時以降にたくさん食べると、普通に食うより20倍以上太りやすいといわれているからな」
〝――うっ……!”
『暑いから』という理由で、夜中に勝手に冷蔵庫を開けてアイスを食っていた霊子が、愕然とした表情で腰回りを確認したところへ、メリーさんからの電話が掛かってきた。
『あたしメリーさん。このクソ暑いのに出歩く都市伝説の気が知れないの……』
と、夏の暑さの中、怪談というおのれの存在意義を立派にやり通している同類を余所に、王都にある拠点屋敷の魔導エアコンの利いた部屋で腹を出して寝ているという、ストレスフリーの異世界生活を満喫して、自堕落そのもののうちの都市伝説がのたまう。
「お前が、そういう風にいい加減にしているから、他の怪談や都市伝説とは違って〝イロモノ枠”・〝またお前か枠”にカテゴライズされるんだぞ?」
ちょっとネットで『メリーさん』もしくは『メリーさんの電話』を検索してみても、
『メリーさんも異世界行かされたり、ヨハネスブルクやハバロフスクに行ったり、梅田ダンジョンに囚われたり、迷子にされたり、ゴ〇ゴと戦ったりニ〇ジャスレイヤーと背後の取り合いをしたりと大変だな……』
「と、変な伝説がどんどん後付けで増えて行ってるわけだし」
ある意味、『Re:CREAT〇RS』に出てきたアル〇イルみたいに、どんどこ二次三次創作の能力を使えるようになると無敵なんだが、確認した限りほとんどがアホに描かれているので、まったく実体に反映されないというか、これ以上アホの能力を増幅させてどうすんだ――と思ったが、ゼロに何をかけてもゼロなので問題はないかと思い直す。
『有名人はつらいの。婚活女のこれを逃したら後がない感と同じで、この時期しか出番のない弱小幽霊や妖怪や都市伝説、半べそかきながら消えてったのにどのツラ下げて戻って来たんだと後ろ指さされた白〇ォズとは違うの……!』
あ~、平成・令和ラ〇ダーも、もうギ〇ガさえ有れば他必要ないってかんじだしなぁ。
「まあ確かに、メリーさんは信長並みにフリー素材にされているけど」
メリーさんも大概だけど、信長に至っては、現代のJKが魂を継承したり、異星の話になったり、女体化したり、とんでも戦国アニメのラスボスになったり、これら全部盛りの学園の学園長になったり、巨大ロボを操縦したり、本人が巨大化してビーム出したり、男子高校生がタイムスリップして瓜二つの信長に成り代わるとか、ゴロゴロと転がってアニメ化もしてるくらいだから。
『あと、現職のラスボスだと、プー〇ンのコラ画像とか有名だし、最近は異世界に行ったりしてるの。ついでに、トラ〇プも快〇天の常連でイジらているの……!』
「なんで快〇天の内容なんて知ってるんだ、このガキァ!」
『それは置いておいて、メリーさんも頑張ってアニメ化を目指すの!』
「軽くスルーするな! つーか、いつもそれだな……」
『言霊なの! メリーさんが連呼してたら二巻も出ることになったし、この調子で漫画化、ドラマCD、アニメ化へと順調に刻むの……!』
「漫画や小説のアニメってアニメが終わった後の原作の終わった感って半端ねえよな」
『どうせ本編は終わっているからどーでもいいの……!』
思いっきりぶっちゃけるメリーさん。
「だからといって一日中エアコンの利いた部屋でだらだらするのもどうかと思うんだが……」
『昭和以前の暑さをやせ我慢で乗り切っていた怪談とは違うの! 文明の利器を知ってしまった現代の都市伝説はだいたいメリーさんと同じで、部屋でゴロゴロしながらゲームの傍ら、ネットや電話で恐怖を振りまく、これが在宅ワークなの……!』
道理で最近、アクティブな都市伝説の噂が減ったと思ったら……。
「差し迫った恐怖がないな、をい」
『考えが古いの! だいたいニュージェネのウル〇ラマンだって、道具だよりでおまけに基本ペラペラ喋りまくってるの。「ジュワッ! ジュワジュワッ!」しかなかった昔の神秘性なんて、欠片もないの……」
え、いまのウル〇ラマンって普通に喋るんか!?
『字幕付きで喋ってるの。だったら、初代ウル〇ラマンは最初口も動かす予定で、あと口から溶解液吐く技とかあったらしいのを、ちょっと見たかったので、ニュージェネで実践して欲しいの……!』
「言霊っ!」
まさか本当になったらどうする!?
『あたしメリーさん。ともかくもエアコンの快適さと、冷たいジュースやジェラートを知った以上、タコが蛸壺に入り込むように、女騎士がオークの巣に捕まって「くっ、殺……」と言うように、中国の子供が隙間を見ると挟まれるように、岡山県民が雨の日の用水路に吸い込まれるように、もう戻れないもう帰れない……』
太陽の牙ダグ〇ム。さらばホラーな日々よ……。
「お前な、そうやってゴロゴロしながら甘いものばっか食ってると太るぞ?」
『メリーさんちゃんと節度はもってゲームしているの。昔のゲームの名人も言ってたの、「ゲームは一日じゅう」って……』
「都合よく曲解するな!」
お前は『贅沢は敵だ』→『贅沢は素敵だ』。『足らぬ足らぬは工夫が足らぬ』→『足らぬ足らぬは夫が足らぬ』とか、戦時中のプロパガンダをパロディ化した、当時の国民か!?
『アナタ頭が固いの。世の中テキトーでいいの。メリーさん前から思ってるんだけど、アニメのるろ剣の主題歌「そば〇す」とか、タイトルも何もかも内容と合ってないのは、きっと作品の内容を一ミリも知らない、しらべもしないで「アニメの主題歌」と聞いて、「アニメ=キャ〇ディ・キャ〇ディ=ソバカス」というわけのわからない三段論法で、一週間くらいでテキトーに作詞作曲したに違いないと睨んでいるの……』
「そんないい加減な話があるか!」
※事実である。
『メリーさん思うんだけど、北海道編が終わったら描くことなさそうだし、次は自爆覚悟でぜひロリものを描いて欲しいの……』
「さすがにそれは洒落にならんわ! あと昼間暑いんだったら、涼しくなる夕方からでも動けばいいだろう。都市伝説らしく」
俺の忠告に面倒臭そうに答えるメリーさん。
『夕方から動くとやぶ蚊が凄いの。なぜかメリーさんの頭の上で柱みたいにまとまって飛ぶし……』
蚊柱か、確か関西ではアホ虫といって、頭の上にたかるとアホの証明になっていたな。
『メリーさんの金髪が目立つのかしら? それだったら栃木県民の学生の被害も凄そうだけど……』
「唐突に栃木をDisるな!」
なお、栃木の学生は髪を明るい色に染めているのが多いという噂。
『……とはいえ、システム障害で冒険者ギルドの電子マネーが廃止になるという噂で、かなり暴落して溶けましたし、あとご主人様の連日の無駄遣いでかなりの貯金が減りましたので、早急に現金収入の道を模索しておいたほうがよろしいかと』
そこへローラの声が割り込む。
「お前、なんに無駄遣いしたんだ!? 怪しい壺か健康食品かイルカの絵か?!」
『ちゃんとした商売道具なの。戦国時代初期、明応~大永年間(15世紀末~16世紀初期)に活動していた越前国の刀工、南冲尋定作の伝家の宝刀――もとい、包丁が、夜店で売ってたので衝動買いしたの。ちなみにこの包丁を主婦が振るうと通常攻撃が範囲攻撃で、さらに二回攻撃に……!』
「ニセモノだ~~~~っ!!!」
アホな幼女を騙してわけのわからん包丁を売りつけるとか、なんと阿漕な真似を!
「つーか、お前、山ほど包丁あるだろうが。いまさらいらねーだろう!?」
『沢山あれば、選択肢が増えるの。あとメリーさんマザコンものは「八神君〇家庭の事情」こそ至高にして唯一だと思うの……!
「漫画に関しては同意するけど、最初の何かの時に役立つかもというオタのリュックみたいな思想はやめろ! いいか、世の中には二種類の人間がいるんだ――」
『メリーさん知ってるの。ロリに興味ない人間と、ロリに興味ある人間と、ロリにしか興味無い人間の三種類なの……!』
「違うわ! つーか、増えてるぞ」
『じゃあ、ター〇ネーターのテーマを口にする時「ダダンダンダダン」という人間と「デデンデンデデン」という人間の二種類なの……』
「そうじゃなくて、不要なものを貯める人間と、さっさと捨てる人間の二種類だ」
『メリーさんそのへんの割り振りはきちんとしてるわよ? 緊急事態の時に、最初に殺して食べるのはスズカって決めてるし……』
途端にスズカの『ぎゃああああああっ!』という悲鳴が聞こえた。
『ただ、それを事前に他の皆に伝えるべきか、「崖から落ちて死んでいるのを偶然発見する」パターンにすべきか悩んでいるの……』
「……お前は仲間を殺して食うことにためらいはないのか?」
『ノルウェーには77人も殺しといて、反省せず高級ホテルみたいな刑務所で暮らして、PS2じゃ物足りないからPS3よこせとほざいた殺人鬼もいるくらいだし……』
最底辺の屑を基準にするな。
「とにかく働け! 『働く喜びが、仕事を完璧なものにする』とアリストテレスさんも言ってるぞ」
『じゃあ、ローラとエマ、ちょっと冒険者ギルドに行って働いてくるの……』
『え~~~~っ』
不満そうなエマの声に対して、ローラは不承不承了解しながらも、
『まあご主人様の命令ならば。ですが、その間、お昼はどうされます?』
問われたメリーさんは、
『メリーさんはスズカと一緒にどっかでランチしてくるの(肉付き薄いから、きちんと脂肪を貯めさせるの)……』
本音駄々洩れでそう答えた。
「そういえばオリーヴはどうしたんだ?」
さっきから存在感がないけど。
『あたしメリーさん。朝っぱら街角でインチキ占いのバイトしてくるって行ったまま、まだ戻っていないの……』
『あ、オリーヴさんならさっき買い物の途中で見かけましたけど、どこかの老婦人の話を滝のような汗をかいて聞いてましたよ』
ローラの補足に、
『あたしメリーさん。老婆はここぞとばかりにネバーエンディングストーリーを物語るの……』
ということで、無理やりメリーさんと二人で出かけることになったスズカだが、
『メリーさんと一緒にモーニングですかぁ……?』
先ほどの発言もあって微妙に身構えていた。
つーか――。
『お昼にモーニングはやってないの……!』
『えっ、異世界ではそうなんですか!? うちの地元では、結構、やってましたけどお昼にモーニング』
『異世界が変なんじゃなくて、一日中モーニングをやっている名古屋が変なの! あとコーヒー頼んだだけで、がっつりトーストに小倉あんとソフトクリームが乗ったカロリーモンスターや、サンドウィッチとサラダはわかるけど、なんでそこに蕎麦と茶碗蒸しとスイカが付いてくるの……!?!』
ああ、名古屋の喫茶店に知らずに入ると狼狽えるよな。注文間違ったんじゃないかって。
『そんな変ですか? 名古屋では割とちょくちょくありますけど』
小首を捻るスズカに、ローラがげんなりした口調でコメントする。
『というか、トーストに小倉あんとソフトクリームとか、聞いただけでも胸焼けしそうですね』
『名古屋人は普段から、コ〇ダのシロノワールという化け物をたっぷりアイスミルクコーヒーと一緒に食べ慣れてるから余裕なの……! つーか、そんなんでなんで、スズカ太らないのか不思議なの……!?』
『さあ……?』
まあ、普通に考えて、消費エネルギー > 摂取エネルギーなんだろうな。
人化ってそれだけカロリーを消耗しているのかも知れん。
『では、私とエマは冒険者ギルドに行ってまいります』
『しょうがないなー』
ローラとエマが出かける後姿に向かって、メリーさんが手を振る。
『気を付けるの~。あと、ニンジャだからっていって、対〇忍みたいに奴隷役で潜入するのは、な〇う的にNGだからやめとくの……!』
『『やりません!!』』
きっぱりと言い切って、ふたりが出ていくと合わせてメリーさんとスズカも支度を整えて、
『個人的には揚げ物をガッツリ食べたいですね~』
『揚げ物ばかりだと胸焼けするから、メリーさんはサッパリしたものがいいの……』
『「間にキャベツを食べるとキャベツの成分が胸やけを防いでくれる」と、砂の超人も言ってましたよ?』
ランチに出かけるのを契機にスマホを切って、俺は冷蔵庫に入っているプロテインを摂取するのだった。
8/8 ちょっと修正しました。




