第43.5話 あたしメリーさん。いまクリスマスケーキが消滅したの……。
クリスマスのみの特別版で本編とは関係ないです(;^_^A
クリスマスイブが明けた翌朝。
前日にみんなで分けて食べた巨大なクリスマスのホールケーキの半分を、今晩中に食べようとローラがホテルの部屋に備え付けの魔道冷蔵庫(なんか謎パワーでものを冷やす箱)を開けて中身を確認したところ、前日の夜には半分残っていたはずのケーキが、ものの見事に消えていた。
昨晩から今朝にかけては、部屋の中を出入りしたのはメリーさん、オリーヴ、ローラ、エマ、スズカの五人だけ。
つまり犯人はこの五人の中の誰かということになる。
「あたしメリーさん。だが待って欲しいの。もしかするとサンタクロースが入ってきてつまみ食いをしたという可能性も……」
「「「「ねーわよ・ないですね・ないない・ないです」」」」
暖炉の隅で背中を包丁で刺されて息絶えているサンタクロースの●体を横目に見ながら、他の四人が一斉に首を横に振った。
ちなみにジリオラは荷物を持って交渉のために質屋に、イニャスはトナカイを連れて肉屋に行っていて留守である。
『サンタクロース失踪!? クリスマス中止のお知らせ!!』
なお、今朝がたから新聞各紙の紙面を踊らせている事件の真相がここにあるんだが、本筋に関係ないので割愛する。
「つまり、ここにいる五人の誰かがケーキつまみ食いの犯人ってことなんだけど……」
オリーヴがそうメリーさんを凝視しながら念を押す。
「誰が勝手に食べたんでしょうね~」
じーっと、メリーさんを見据えるローラ。
「メリー様、残っていたデコレーションの砂糖菓子を食べたがってましたよねー……」
昨夜のことを思い出してそう付け加えるエマ。
「あのジジイの人形と掘っ立て小屋だったら、そんなに美味しくなかったの……」
やれやれとばかり首を振るメリーさん。
「なんで知っているんですか!?」
と、スズカ。
「このふたつだけはこっそり食べた……じゃなくて、そんな気がするだけなの! というか、最初からメリーさんを疑うなんて失礼なの! 昨晩だって、オリーブがケーキの角度、他の連中より四度も多く取って自分の分を分配していたの! オリーヴが怪しいの……!」
すかさすオリーヴに罪をかぶせるメリーさん。
「いちいち分度器でケーキの角度を測りながら、文句言うからその分、あんたにイチゴを一個多くあげたでしょう!」
オリーヴも反論する。
「……まあ、それでも頑なにケーキの交換はしなかったオリーヴさんも、十分にケーキに対する執着はあったということで、仮にご主人様でなければオリーヴさんのどちらかが犯人でしょうね」
ため息をついてそう推測を口に出すローラ。
言われてみれば……という視線が、メリーさんと交互に向けられ、
「嘘よ! ローラは適当なことを言ってるわ!」
オリーヴは慌てて否定する。
「まあ、あたしは昨夜は殺サンタの後始末――じゃなくて、クリスマスパーティの跡片付けで忙しくて、ケーキのつまみ食いをする暇もなかったから関係ないけど」
微妙にやるせない表情でなるべく暖炉の方向を向かないようにしながら、ため息とともにぼやくエマ。
「う~ん、見事に意見がバラバラですね~。私も犯人は――あ、殺人以外のケーキのつまみ食いですよ?――メリーさんだと思っていましたけど、推理モノだと、案外無関係を装うエマさんも怪しいような……」
「なんでそうなるのよ!?」
スズカの一周回って考え過ぎな推理に、エマが泡を食って食って掛かる。
こうして『クリスマスケーキつまみ食い事件』は迷宮に入りかけたのだった――。
『あたしメリーさん。ということで、バイトの売り上げ報告を信用しない店長みたいに、証拠もないのにメリーさんに犯人の疑いがかかっているの……! 頭にきたから、バッ〇ベアードを呼んでロリコン撲滅させようかしら……』
プンプンという擬音が聞こえてきそうな感じでメリーさんが電話の向こうで憤っている声を聞きながら、クリスマス商戦ということで商店街主催で配られたサンタクロースの赤い帽子をかぶってバイトをしながら、俺はため息をついた。
「クリスマスになにやっとるんだ、お前は……つーか、その会話だけでも犯人がわかったぞ」
『そうなの!? みんな嘘つきばかりだと思うけど……』
「意見はバラバラだけど、よくよく整合性を合わせれば、おのずと真相が浮かび上がる――つーか、ウソつきはひとりだけだぞ」
幸いにしてクリスマスでもさほど混まない古書店ということもあって、俺は暇つぶしに事件を推理する。
「誰かが嘘をついていると仮定して、オリーヴの『ローラの証言である「メリーさんかオリーヴが犯人だ」という推測』は嘘となれば、犯人はローラ、エマ、スズカの三人になる」
『きっと三人で共謀して食べたの!』
「いやまて。そもそもお前が最初にオリーヴの推測である『メリーさんが食べた』が嘘であった場合、お前が犯人ということで矛盾が生じる」
『むう。あなたまでメリーさんを信じないの!? ふたりで熱い夜を過ごしたというのに……』
「お前が信用できないということに関しては、絶大な信頼を寄せているから安心しろ」
『???』
「次にエマの『自分ではない』が嘘であった場合には、エマが犯人ということになり、これも矛盾が生じる」
『メリーさん、前言撤退するの。この際、エマが犯人でいいと思うの……』
ころころ意見を変えるなよな! 推理モノにならねーだろう!
首尾一貫して主張しろよ!!
そう言いたいのを我慢して続ける。
「さらにスズカの『メリーさんかエマが犯人』という推理が嘘であった場合、『犯人はオリーヴ、ローラ、スズカのいずれか』ということになり、犯人が存在しないことになる」
『あなたの推理が間違っているのはわかったの……』
「やかましい! ではここで逆に全員の意見が正しいとして考えると、『メリーさん:オリーヴが犯人』、『オリーヴ:ローラの話は信用できない』、『ローラ:メリーさんかオリーヴが怪しい』、『エマ:あたしじゃない』、『スズカ:メリーさんかエマじゃないかなぁ』となって、これまた犯人がいないということになる」
『無茶苦茶穴のある推理のヘボ探偵なの……』
「で、すべての可能性を考えると、お前が嘘をついている――つーか、お前が犯人以外のナニモノでもねーんだよ!」
そう事実を突きつけてやると、
『あたしメリーさん。その推理はおかしいの! 根本的に無理があるの! だいたい全員が嘘とか本当とか、確実に言えることでもないのに、矛盾もなにもないの……! というか、メリーさんは知らないの!!』
逆切れしたメリーさんの叫びがスマホ越しに轟いた。
◆
異世界の街並みを、トナカイを引き摺りながら進むガメリンの背中に乗ったイニャスが、半分に切られたホールケーキをガメリンに与えて喜んでいた。
「美味しいらも? ガメリンの分もあったからコッソリ持ってきたらも」
「♫」
ご機嫌でケーキをパクつくガメリンと、ゆるキャラ王子はゆっくりと大通りを進むのだった。




