第42話 あたしメリーさん。いま決戦のときがきたの……。
冬が迫るこの時期は、最後の講義が終わるとすっかり日が暮れるようになった。
夕飯を兼ねてヤマザキと一緒に漫画喫茶に寄る話になったところで、なぜか神々廻=〈漆黒の翼〉=樺音先輩こと佐藤華子さんと、留学生のドロンパも付いて来たので個室を借りて、入ってすぐに各自の荷物を置いたのだが――。
「ちょうど四人いることだし、ここでゲームしない?」
飲み物も漫画も選ばないうちから、樺音先輩がそんなことを言い出した。
「「「麻雀でもやる(んですか)(のでござるか)(ですかー)?」」」
四人でやるゲームということで、全員が同じことを考えたらしい。
「――っても、俺はド○ジャラならできるけど、麻雀はルールがわかんないですよ?」
「拙者は本場中国は上海式の麻雀ならともかく、日本式はうろ覚えでござるよ」
「私は日本語覚えるのにPCゲームで学びました! 指で麻雀牌を削ってイカサマしたり、負けると脱ぐんですよね♪」
ドロンパ流の超ルールを前に、
「「よし、やろう(やるでござる)! いま、やろう(やるでござる)!! すぐ、やろう(やるでござる)!!!」」
俺とヤマザキのレスポンスがマッハで揃った。
まあ俺とヤマザキとが(日本式)麻雀のルールを知らない以上、ギャグ○ンガ日和の麻雀(全員ルール知らない)みたいな感じになると、容易に予想はつくけれど。
「やらないわよ! つーか、麻雀なんて一言も言ってないでしょう! 四人で夜の密室でやるゲームっていったらスクウェアよ。スクウェアっ!」
だが、樺音先輩はそんな俺たちに向かって、羞恥に顔を朱に染めて即座に反論するのだった。
「「「スクウェアって……エ○ックス(でござるか)?」」」
FFでもやるんか?
「そっちのスクウェアじゃないわよ! 雪山の山小屋とかで、部屋の隅をグルグル回るやつよ!」
その説明でヤマザキが理解したらしい。ハタと手を打って、合点がいった顔で頷く。
「ああ、冬山で遭難した四人が暗闇の部屋の四隅に立って、お互いに①⇒②⇒③⇒④⇒①と肩を叩いて行って、眠らないように頑張ろうとしたアレでござるな」
「……そのゲームのなにが面白いんだ?」
ただ単に部屋の中をグルグル回るだけじゃないか? 回り過ぎてバターにでもなるというのか?
と、何やら考え込んでいたドロンパが、腑に落ちない顔で首を捻った。
「ん? ん~~? そのやり方だと、最後のひとりは誰にも触れないんじゃないですかー?」
言いつつ自分の鞄から鉛筆だの消しゴムだのを出して、テーブルに置いて説明を続ける。
「ほら、最初の①が移動して②の場所に来ると……」
【最初の状態】 ⇒ 【移動後】
① ― ④ ○④←④③
| | ↓ ↑
② ― ③ ①②→②③
言われてみればその通りだ。つまり五人目がいないことには、部屋の四隅をグルグル回るという行為は成立しないことになる。
「いきなり詰んでるやんけ! そいつらアホの集団か!?」
最初に納得しかけた自分の失態を糊塗するために、ことさらに馬鹿にした口調で俺は言い放った。
「まあまあ。フライングパンケーキとか、スケルトン戦車とか、客観的にはお笑い兵器でござるが、開発者はいたって真面目に仕事したのと同様に、案外本人たちは真剣だったのかも知れないでござるよ」
苦笑しながらヤマザキがそうフォローを入れる。
「とにかく。理論上は確かに四人じゃできないけれど、これをやるとまれに五人目の、この世ならざる存在が現れて、ゲームに参加する……として、一種の降霊術として使われているのよ」
最後に樺音先輩がそう総括した。
「面白そうでしょう?」
「「「別に~ぃ」」」
「…………。ここのメニューってちょっとしたファミレス並みに揃っているのよねぇ。……せっかく奢ってあげようと思ってたんだけどな~」
ということで注文前に『スクウェア』をやることになった。ちなみに順番は①俺。②樺音先輩。③ドロンパ。④ヤマザキの順番である。
「……つまり、万一霊が現れた場合、ヤマザキが霊にタッチして、俺が霊にタッチされる側ってことですか?」
言い出しっぺの樺音先輩に、ヤマザキと一緒に半眼で眺めながらそう確認する。
「男の子でしょう。か弱い婦女子を矢面に立たせるなんて男が廃るわよ」
「そーそー、男はマッチョじゃなければいけないねー」
臆面もなく受け流す先輩とドロンパ。――つーか、ドロンパって性別女だったのか……。
「男女差別でござる。男だからとか女だからとかいうのは、今日日の男女平等の精神に反するものでござる……」
ぶつぶつと不平を漏らすヤマザキともども、結局は押し切られて所定の位置へ待機させられた。
「じゃあ電気消すわよ。いいわね?」
「「「うーす・でござる・ほい」」」
樺音先輩が個室の電気を消すと、俺たちのいる部屋が薄闇の中に沈んだ。
仕切り越しに他の部屋からの明かりが入ってくるので真っ暗というわけではないが、目が慣れないうちはモノの輪郭くらいしか見えない。逆にいえば輪郭はわかるので、例えば誰かがインチキをして部屋の四隅を通らず横切ったりすれば、見分けがつくということでもある。
(どーでもいいけど、暗い密室に男女二組がいるっていうのに、トキメキが欠片もないのはスゴイな……)
やるせなさを感じながら、まずは俺が樺音先輩のいる場所へ移動して……下手なところは触れないので、二の腕と思しき場所を両手で掴んで揉む。
むにゅん……。
「――きゃ……ひゃああああ……!」
「「「ん?」」」
「な、なんでもない……ううう、振り返るんじゃなかった……」
はて? なんだったんだろういまの感触は? 柔らかかったんだけど、微妙に硬くて、張りがあって、ずっしりと重いような、フワフワしているような……?
両手で掴んだ謎の物体の感触を、俺がワキワキと反芻している間にも順番はどんどん進み――。
「ヤマザキー。コレ腹肉~?」
「拙者の生の尻肉でござる」
「パンツを下ろして待機してるんじゃないわよ!!」
ドロンパがヤマザキにタッチしたところへ、樺音先輩も駆け寄って行って蹴りを入れたりして、ひと悶着起こしたりはしたものの……。
「――別に何も起こらなかったでござるな~」
ヤマザキの手が空を切り、誰にもタッチできずに終わったところで、改めて電気が点けられた。
部屋内にも、特に異常は見られない。
「まあこんなもんだろう」
こんなメ○カリに出品する程度のお手軽感覚で降霊術が成功するなら、この世の中怪奇現象だらけだろう。
そんな俺の感想にドロンパも「そーですね」と頷き、樺音先輩は「尻のせいよ……」と、うらめし気にヤマザキを睨んだ。
「あー、拙者、そういえば今週号のジャ○プとマ○゛ジン読んでなかったでござるよ。ちょっと読んでくるでござる」
風向きを察して、ほとぼりが冷めるまでこの場から退散することにしたらしいヤマザキ。
「じゃあ私はちょっとお手洗いに行ってくるねー」
「あ、じゃあ私も」
ドロンパに続いて樺音先輩も付いて行った。
なぜ女は常に群れでトイレに行くのだろうか……?
そう思いながら俺も席を立とうとしたところで、メリーさんからの着信があった。
『あたしメリーさん。いまあなたの後ろ一メートルのところにいるの……』
「……またそれか。天丼ネタも三度目からくどくなるぞ」
以前にも同じネタを振られたのを思い出してげんなりしながらそう返した瞬間、不意に妙な気配を感じて振り返った俺の目に、『筋引き』と呼ばれる三十センチを越える長い包丁の柄を両手で持って、無明○流れの構えを取った金髪碧眼、フランス人形のような整った造形で、ドレスを纏った五歳くらいの幼女の姿が飛び込んできた。
『あたしメリーさん。メリーさんがログインしたの……』
「あたしメリーさん。メリーさんがログインしたの……」
同時に電話から聞こえる声と、目の前にいる幼女の声が見事にシンクロする。
「あー……キャン、ユー、スピーク、ジャパニーズ?」
「他にメリーさんに言うことはないの……!?」
どっかの外国人の子供の迷子かと思ってスマホをテーブルに置いて尋ねた瞬間、幼女の手から放たれた包丁が滑って俺の耳元を通り過ぎ、ダーツのように仕切りの壁に突き刺さった。
「うわっ、あぶねー! って、本物の包丁じゃねーか!? どこのどいつだ、ドイツ人か? こんな幼女に刃物を持たせたのは?!」
「――むう、ここに来る間に人を斬り過ぎて力が入らないの……」
悔し気に空になった自分の小さな手を握る幼女。
「いや、そんな。『顔が濡れて力が出ないよぉ』っていうアンパン男みたいな口調で、凄惨な内容のことを口走られても……」
「アンパン男の顔が濡れる原因も、だいたいにおいてバイキン男を殴ったことによる返り血だから問題ないの……! あと、ドイツもスイスも関係ないの! 地名つながりのついでに言うと、エロマンガ島でエロマンガ家が量産されているわけでもないし、マレーシアのパンティ山はパンティ穿かないと登れないルールはなく、ボイン川の戦いではオッパイに活躍の機会はなかったの……!」
「いや、待てっ。オランダのスケベニンゲンって海岸には、その名の通りヌーディストビーチがあったはず――って、このアホな会話のノリは……お前。もしかして本当にメリーさんか?!」
「いまの会話で納得されるのは、微妙に不本意なの! あと、いきなり半径一メートル以内から、メリーさんの電話を始めるのも、メリーさんにはなはだ不本意なの! やり直しを要求するわ……!」
地団太を踏む金髪幼女――メリーさんが、いままさに俺の目の前に降臨したのだった。
◇
「――〝その者、妙ちくりんな衣を纏いて混沌の野に降りたつべし”」
「〝失われし大地との絆を結び、ついに人々を破滅の地へと導かん”」
「ひひひひひひひひっ!」
その頃。いきなり姿を消したメリーさんを探して聞き込みをしているオリーヴたちの前に、突然でてきた三人のババアが、延々と若かりし頃の過去回想を語り始めるサイドストーリーが展開されていた……。
「ババア三銃士を連れて来たよ!」
「エマぁ……」
余計なことをしたエマに対して頭を抱えるローラ。
ちなみに老婆たちが語るその内容というのは、工業高校の女性生徒だった当時のババアたちのモテた逸話であり、いわばオタサーの姫の惚気話を聞かせられるようなものであったとか。
いつまでも続く意味のない話にどんよりしながら、スズカが誰にともなく語りかける。
「小説でも漫画でも、本編に関係ないサブキャラの過去話やり始めたら、だいたいがネタに詰まった引き伸ばし案件なんですよねー……」
「……作品によるんじゃないの?『指○物語』でもフ○ドよりア○ゴルンの話のほうが面白いし、『○じめの一歩』だって、主役よりも○村VS○ーク戦が至高だし。……以降はグダグダだけど」
同じくトロンと腐ったような目で、ババアの話を聞き流しながらオリーヴが相槌を打つのだった。
◇
「つーか、なんで急に戻ってきたんだ?」
アイス食べたい! と駄々をこねるメリーさんの前に、セルフのソフトクリームを置いて、俺はホットコーヒーを飲みながら尋ねた。
幸いヤマザキは雑誌コーナーから動かないようだし、女性陣のお色直しは時間が掛かるのが相場だから、まだしばらくは誰も戻ってこないだろう。
「――さあ?」アイスで口元をべとべとにしながら首を捻るメリーさん。「あたしメリーさん。なんだか誰かに肩を叩かれたような気がして、振り返ったらここにいたの……」
つまり、アレか。さっきのスクウェアが成功して、間違ってメリーさんを召喚しちまったってことか……?
失敗した~~っ!
まさかこんな形で失敗するとは。これならまだ異次元から邪電王国ネジ○ジアか大シ○ッカーが攻めてきたほうがマシってもんだ。
さっきまでの俺の阿呆っ! こんな結果になると知ってたら、晩飯を代償に降霊術なんてやらなかったのに!
「……けど、どうしょうもないね、失敗したって。にんげんだもの」
「何に開き直っているんだかわからないけど、メリーさんを呼んだ理由ってわかるの……?」
「あー、多分ゲームのせいだろうな。四人でやってたんだけど、五人目を呼ぶって儀式だったらしいから……」
「??? メリーさん、麻雀の二抜け要員として呼ばれたのかしら……?」
こいつも『四人でゲーム』となると同じ発想になるのか……。
「当然、負けたら血液2000cc搾り取るルールよね? なにげにメリーさん麻雀強いわよ。基本的に全ツッパだけど……」
さらにはなにげに麻雀用語を駆使して、俺よりも麻雀に詳しいことをほのめかすメリーさん(※全ツッパ=ド素人の麻雀の打ち方)。
「いや、麻雀じゃないんだが。つーか、異世界から勝手に戻っても大丈夫なのか? 王国の遺産争奪戦の真っ最中だったんじゃねーのか?」
「あたしメリーさん。そうね。いま遺産が隠された封印の扉の前で、イニャスの叔父と異母姉の軍勢一万人同士が睨み合っているところなの……」
「アイス食べながらさらりと口にするけど、ちょっとした合戦だな、をい」
「イニャスが持っている封印解除の腕輪がないから、爆発物で入り口を吹っ飛ばそうとしているみたいだから、メリーさん遠距離からでっかいスリングショットで狙い打って、爆弾を誘爆させて両方が共倒れ! ナニワゲンジン全滅になったところを、ウマウマと漁夫の利を得るつもりでいたの。これをスーパーストリング理論というの……」
エッヘンと真っ平らの胸を張るメリーさん。
「いや、その理屈はおかしい。つーか、躊躇なく合わせて二万の人間をぶっ殺そうとか、お前つくづく人間相手に容赦ないなぁ。水○燈だって、もうちょっと穏便な手段を選ぶぞ……」
「メリーさんを、あんな姉妹でバトルロイヤルするような、低能な人形と一緒にするな……なのっ!」
薔薇の乙女と比較されるのは不本意なのか、メリーさんが小さな拳でポカポカ叩いてきた。
鬱陶しいだけの、へな猪口パンチである。
「あと、狙撃の技能なんてお前持ってなかったろう? それともまたなんか裏技でチート能力を持ったのか?」
「メリーさん、チートとかって能力自体がスゴいんであって、使っている人間は全然スゴくないのに、自分の手柄みたいに思うバカが量産されるから嫌いなの。一生懸命走っている人の隣でバイクに乗って、『お前ら遅いなー』って言っているようなもので、逆にみじめったらしいの!」
マグ〇ットパワーを否定する完璧〇人始祖のように、微妙に真っ当な主張をするメリーさん。
「あと、メリーさんが最近覚えた能力は、森羅万象全てを傘の上で高速回転させるお正月用の技なの……」
「これからの季節にピッタリだな! つーか、意味ねえじゃねえか!?」
「大丈夫なの。狙うのはメリーさんじゃなくてイニャスだから……」
「……? イニャスって狙撃の能力があったのか?」
「さあ? でも、アヤトリと昼寝は天才的だったから、多分、射撃も天才的なんじゃないかしら……?」
「そんな決まりはない!」
つまり、自分を狙う戦場のど真ん中に、パチンコ持った幼児を放置して、トンズラした形になったわけか!? イニャスにとっちゃ、天才どころか天災だな……。
「あたしメリーさん。でも、天界で確認したけれど、イニャスって前世はシモ・ヘイヘだったらしいわよ……」
「前世自体がチートやんけ!」
なにがあってゆるキャラに転生しとるんだ、シモ・ヘイヘ!
「いや、でもそんな絶体絶命の状態で仲間を残してきたんなら、なおのことここでアイス食ってる場合じゃないだろう!?!」
「人生なる様になるの。それにメリーさんが応援すると、なぜか大抵負けるの……」
だから下手に応援しないほうが良いと言って、マイペースにアイスのお代わりを要求するメリーさん。
「……ここってラーメンが五種類くらいあるらしいわよ」
「OH~! いいですね。酸辣湯メン大好きです」
「拙者はカレーでいいでござる」
「飽きないわね。アンタも……」
とその時、通路側から樺音先輩たちの声が聞こえてきた。
「あっ、やばっ! つい話し込んでいまいる場所を失念していた!! お、おい。バレないようにメリーさん人形に戻って、鞄の中でじっとしていられるか!?」
「メリーさん、人形はもうやめたの。というか女の声が聞こえるの。ということで、ここはキッチリとメリーさんが正妻だということを世間に知らしめるの……!」
そう言ってソファの上に雄々しく仁王立ちするメリーさん。
「いやいや、待て! いまのこの状態は、どう見ても外国人の頭のオカシイ幼女を個室へ連れ込んだ変態大学生って形じゃねーか!」
「あたしメリーさん。大丈夫。ストーキングから始まる恋もある……ということで、警察に捕まる時はふたりとも一緒だから大丈夫なの。病める時も健やかなる時も、メリーさんと一緒いれば、常に元気になる罵声を浴びせてあげられるの……」
「ぜんぜん大丈夫じゃねえ! ええ、こうなりゃ実力行使で――!」
有無を言わせずに俺は両手でメリーさんを掴んで、傍らにあった自分のショルダーバックを開けて、中に押し込むべく荷物を放り出す。
……幼女を無理やりショルダーバックに詰め込もうとか、傍らから見れば猟奇事件だよな……。
「きゃははははははははっ! 手がメリーさんの豊満な胸に当たってくすぐったいの。エッチなの。夜はまだ長いの……」
そのメリーさんはといえば、猫の子みたいにくすぐったげに身をよじって爆笑していた。
「どこが豊満な胸だ! 『むねたいらさんに3000点』って張りたくなるくらい、鉄板で真っ平らなオッパイじゃねえか!」
そう言い返したところで、なぜか激怒した樺音先輩が、個室の扉を開けて飛び込んできた。
「――誰の胸が真っ平らですって!?」
その途端、手の中にいたメリーさんがまるで幻のように掻き消える。
「……へ?!」
「って、あら……? いま誰か子供がいたような……?」
樺音先輩にも一瞬だけ見えたのか、怪訝な表情で両手を広げて万歳した形で立っている俺の空っぽの手を確認するのだった。
「何事でござるか?」
そこへ一歩遅れて戻ってきたヤマザキ。
「いや、なんか。ここに金髪幼女がいたような……?」
「ほう………興味深い、続けるでござる。拙者らがいない間に金髪の幼子を連れ込んだとは……」
「――ははははははっ、そんなことあるわけないジャマイカっ。見間違いですよ先輩。世の中には時代劇に電信柱が映ってる瞬間を探すような暇人がいるそうですが、細かいことにこだわってちゃ面白さは半減ですよー」
フランクにそう笑って誤魔化す俺。
「ん~? どうしたですか。なんかオッパイがどうかしたとか聞こえたですが――?」
さらに漫画を山ほど抱えたドロンパも戻ってきた。
『オッパイ』の一言で樺音先輩の沸点が戻ったらしい。振り返ってドロンパに向かって捲し立てる。
「そうよ! 聞いて。コイツ、暗がりの中で私の胸を触っておいて、『真っ平ら』だとか『鉄板』だとか陰で言ってたのよ……!!」
そんなわけで――。
そんな樺音先輩の謂れなき誤解――つーか、アレは胸だったのか!?――を解くのに、この後、二週間ほどかかったのは御愛嬌である。
なお、この後二度とスクウェアをやる機会もなく、メリーさんが現れたのも一時的なもので、その後はどうやっても現世に戻れなかったらしい。
ついでに付け加えると、睨み合ったままのイニャスの叔父と異母姉の軍勢だったが、隠れていたイニャスに気付いてなし崩しに全面衝突となり、全軍が入り乱れての混戦になったところで、イニャスが適当に放った爆弾付きのパチンコの弾が山積みになっていた爆発物にピンポイントで着弾。
連鎖的に発生した爆発で山崩れが起き、二万人の軍勢の99.999%が犠牲になったという。
辛うじて九死に一生を得たアキレス摂政は、爆発で鬘が吹っ飛んだ頭で、
「ドッキリやろ!?」「ドッキリなんやろ!?」
と叫び続けていたらしい。
あとついでにダイアナ王女は、またもや逆さまになって、上半身生き埋めの状態で通りがかりのアナモグラ人に救助されたとのことであった。
そういうことで、結果的にメリーさんたちが財宝を独占できたらしい。……解せん。




