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第27話 あたしメリーさん。いま奴隷売買しているの……

 ブラッドムーンと言うのだろうか。やけに赤々とした満月がビルの間から覗いていた。

「赤い月は地震の前兆なんて言うけどな……」

 裏口から出たところにあるゴミの集積場に、不要な紙屑を詰めたゴミ袋をまとめて置いて、軽く伸びをしながらそう独りごちる俺。


 まあ実際にスマホで検索してみると、《ブラッドムーン:大気の影響によるもので、朝日や夕日が赤く見えるのと同じ現象である。》と、身も蓋もなく書かれているわけだが。


「……ま、そんなもんだろう」

 納得して職場に戻った俺は、赤ペンと目録片手に陳列棚に並んだ書籍の点検を再開するのだった。

 ふと、窓越しに月の前をでかい蝙蝠が二匹飛んでるように見えたけど、あんなでかい蝙蝠が東京にいるわきゃないので、多分に目の錯覚かカラスの見間違いだろう。


(――つーか、さすがに目が疲れてるのかね)

 なにしろ本日は、ここバイト先『ロンブローゾ古書店』の半年に一度の在庫点検の日だ。

 そのため、こうして早朝から店で本の破損状態の確認や在庫リストとの照合をしていたのだった。


 照合といってもこれが結構大変な作業である。

 なにしろ本は店に置いてあるだけが全部ではなく、五階建ての雑居ビルの三階、四階が丸ごと倉庫となっていて、文字通り山となっていたのだ。

 その山に分け入って切り崩し、古い本に特有の臭いと埃のなか、箒とハタキ、雑巾片手にマスク姿で本の整理に追われていたら、いつの間にやら日がとっぷり暮れて一日が終わろうとしていた。この分ではもう一日くらいかかりそうな塩梅である。


 なお、さすがに数が数なので、バイトの俺一人では手が足りない――店長は高齢で足腰が悪いので戦力外――ため、先に店長が手を回してくれ、本業の方の部下だという黒い覆面を被り(ホコリ対策だろう)、動きやすい戦闘服みたいな揃いの黒い制服を着た大人たちが十人ほど、無駄口も叩かずに朝から黙々と作業にあたってくれていた。


(……噂には聞いていたけど、都会のサラリーマンって色々と大変なんだな。日本のサラリーマンを外国人が見ると、全員が喪服みたいな真っ黒のスーツで見分けがつかないっていうけど、さもありなん。ほとんど悪の組織の下っ端戦闘員だね。つーか俺も大学を卒業したら、こういう社畜になるんだろうなぁ)


 そんなことを考えていたところで、スマホに着信があった。

 ちなみに着信音はメタ〇ギアで、ス〇ークが敵に見つかった時に鳴る「テデン!」というアラート音である。

「ん、ワタナベか?」

 スマホを確認して、ちょっと休憩を取ることを伝えて――快く三十分の休憩を貰えた――いま出てきたばかりの裏口へと向かいながら通話にする。


「おー、ワタナベか? どうしたんだ、こんな時間に。つーか、体調はいいのか?」

『やあ。お陰様ですこぶる元気だよ。なんだか生まれ変わったみたい(・・・・・・・・・・)に元気だよ』

 ワタナベの先日とは打って変わった朗らかな声に、俺はほっと胸を撫で下ろした。

「そりゃ良かった。じゃあ大学へは戻るんだろう?」

『う……ん。そう……だね。ところで、いまシンジョウさんと、神保町に来てるんだけどさ』

「おっ、そうなんだ。じゃあ俺のバイト先のすぐ目と鼻の先じゃないか! ここって近くに新紀〇社もある神田錦町の裏路地だし」

『へえ? まだバイト中なんだ――って言うか新〇元社?』

「あ~……気にするな。最近メリーさんから」


『メリーさんの活躍について、せっかくオファーが来たんだけど、小説だけでは物足りないの! つーか、いまの読者は三行以上の文章読めないから漫画にするべきなの! こうなったら出版社に脅迫状……じゃなかった、直訴の手紙を書くの! とりあえず文面はメールで送るから、そっちから投函するようにして! 当然、足がつかないように指先にマニュキュアを付けて指紋を消して、DNAも付着しないようにアルコールで拭いた手紙を、消印でバレないように直接夜中に出版社のポストに入れて……』


「と、言われて出版社の場所を確認したので――いや、なんでもない。こっちのことだ」

 思わず愚痴をこぼしながら、バイト先に持ってきた手荷物の中に入っているメリーさんからの手紙――ついメリーさんの鬼気迫る勢いに飲まれて、メールできた文面をホイホイ大学でプリントアウトして、茶封筒に入れて持ってきたもの――を思い出した。

 けど、よくよく考えるとこれ完全に犯罪の片棒、いや、確実に実行犯に仕立て上げられているよな。

 …………。

 よし、落としたフリをして処分しておこう。


 ワタナベからの電話で正気に戻った俺は、そう密かに決意を固めるのだった。

 つーか、なんでこんな悪事の片棒担ごうと思ったんだろう? 思い返せばメリーさんの手紙の頭が痛くなる文面を読んで、少しばかり判断力が麻痺してしまった気がする。


【こんちには、あたしメリーさん。

 本日わメリーさんの話しをするの。

 メリーさんいまの日本のエンターティメントには、ファンタジックが足りないと見れられるの。

 いわば最小公約数の毒者に媚びてフューチャリングされておらづ、腹ただしいことに分かりずらいとして、真っ当な日木語がないがしろにされているの。

 そこでメリーさんなの。この際だから日木文学を前面的に札信するの! 過去のノーヘル賞作品にも負けるとも劣らない、メリーさんのファンタジックで高まいな話しこそ、いまの日木に求められている至上命題だと言っても禍言ではないの!

 と言うことで袖触れ合うも多少の縁。特別に弊社にメリーさんの漫画を出版させてあげるの。振るってご参加を期待しているの

 P.S:我ながら( ;∀;)イイハナシダナー】


 いま思い返してもある意味、読み手に対する挑戦としか思えない手紙であった。


「……つーか、誤字脱字が多すぎてプロの編集者が読んだら反吐吐きそうだな」

 もはや嫌がらせ。これを読むなど、ゴキブリを逃がした寝室での就寝並みの苦行だ――と、メールの文面を何度も見直して、思わずそう率直な感想を述べたのだが、

『大丈夫なの! な〇う小説なんて誤字脱字ばかりで、ろくに推敲もしてない作品でもポンポン出版されている現状だから、編集者も慣れているの……!』

「そーか? 高校時代の友人に聞いた話では、『あそこは推敲する暇があるなら毎日更新しろ!』という世界だそうで、そのせいか誤字脱字に対するスルースキルが鍛えられるらしい」

『あたしメリーさん。それって、ただ単に誰にも読まれてないんじゃないかしら……? メリーさんの知っているなろ〇作家は、「毎回毎回誤字脱字を懇切丁寧に知らせてくれる読者と、どっちが先に気が付いて訂正するかのチキンレースの日常」「小説版の初版は誤字脱字の発見を楽しむものと割り切って欲しい」とか言ってるけど……』

「それはダメな作家の言い訳だ!」

 とか、やってたんだけどいつの間にやらメリーさんに丸め込まれてたんだよなぁ……。

 そんなことを思い出しながら、ワタナベと駄弁る。


『いまからちょっと会えないかな? ほんの五分くらいでいいんだけど。ちょうどシンジョウさんも一緒にいて、この間のお礼の挨拶して言っているものだからさ』

 弾む声でそう言われて、内心「リア充爆発しろ」と思いながら、

「ああ、じゃあ店の裏口のところで落ち合おうぜ。場所は――」

 そこは如才なく取り繕って、場所の詳細を知らせたところ十分ほどで来るとのことだった。


「じゃあ裏口の傍の休憩室で休んでるから、着いたら改めて連絡してくれ」

『そうするよ。ああ、そうそう悪いんだけど、こちらから呼びかけるから君の方で屋内に招き入れてくれ(・・・・・・・)ないかな? そうでないと、入れないからね(・・・・・・・)

「ああ、そのつもりだ」

 防犯上の理由で普段から裏口にも鍵を掛けているから当然だろう。

 そう請け負って電話を切った。


「さて、とりあえず一休みするか……」

 そうひとりごちながら、裏口の近くにある三畳ほどの畳張りの休憩室へ上がり込んだところで、再びスマホが鳴って、今度は聞きなれた法螺貝と「アホが出たぞーっ!」という鬨の声が上がった。


 メリーさんからの着信である。


『あたしメリーさん。女の子のアンダーとトップの差7.5㎝でAAカップ、5㎝でAAAカップ、2.5㎝でAAAAカップ、0㎝でAAAAAカップだけど、ぶっちゃけ男でもAAカップくらいあると思うから、それ以下は一律に「なし」でいいと思うの……』

「藪から棒に、なんの話だ!?」


 何故そのように荒ぶるのかー!!!!!


『いまはるばる三千里を旅して獣人国にいるのだけれど、「あのグラビアアイドルが全部脱いだ!」と書かれた雑誌の袋とじみたいに、とんだ期待外れだったの……』

「三千里って……生き別れの母親でも探しに行ったのか!?」

『メリーさん、獣人の可愛い奴隷を買いに来たのだけれど、予想と違っていてショックなの……』

「いや、まあ理想と現実はいろいろと違って当然だろう」


 大好きな萌える漫画の作者を写真で見たらキモオタだったり、毎週のように欠かさず食べている学食の安くてボリュームのある総菜が手作りではなく、同じものが業務〇ーパーで売っていてなおかつ某国産で添加物が山盛りだったとか……よくある話だ。


『なんか小汚いし、メリーさんたちを警戒するし。だからブラはAAカップ以下は海抜0㎝でいいと思うの……!』

「だから、なぜそこでいきなりブラのカップ談議に頭がシフトするんだ?! お前の発想がミッシングリング過ぎてわけわからんわ! ちゃんと順を追って話せ!」

『あたしメリーさん。獣人国で一息入れようとしたんだけど、なぜか飲食店といえばコ〇ダ珈琲店で、シ〇ノワールが元祖扱いされていたり。定食屋で日替わりランチを頼んだら、ご飯に味噌煮込みうどんがセットになっているという、意味不明の嫌がらせを受けたの……』

「……おまえ、そこはもしかして獣人国ではなくて、尾張」

『おまけにメリーさんたちがイ〇ーヨー〇ドーに入店すると、な〇でも鑑〇団のテーマソングが流れて店内放送で「従業員は、至急8番業務をお願いします」って放送が入るの……!』

「あー、それはあれだ、スーパーでの『8番(パチ)られる恐れがあるから、従業員は警戒しろ』という、暗黙の注意喚起だな」

『これはきっと秘密結社NNNの陰謀なの! せっかくメリーさんが、汚い猫人間の子供に菩薩のような慈悲で、奮発して山盛りのチョコレート。新鮮なアワビのフルコース。生の玉ねぎとアボガドのサラダ。デザートにミカンを、これでもかと食べさせてあげたのに! あと汚い恰好をしてたから、まとめてお風呂にいれて、ついでに髭も刈ってさっぱりさせてあげたのに……!』

「お前、わかっていてわざと猫にやっちゃダメなことばかりしただろう!?」

『??? 何のこと? メリーさん知らないの。とにかく、あれ以来メリーさんに対する獣人の風当たりが不当にキツイの……』

「無茶苦茶妥当だとおもうけどなあ……」

『あたしメリーさん。ところがメリーさんとは対照的にスズカがモテモテなの! なんかAAAカップのスズカが、獣人国(ここ)では〝ナイスバディ”の美女扱いで、飲み会後のラーメン屋並みのもてはやされ方なの……!』


 ここでようやく最初の話に戻ったか……。


「獣人って胸がないのか?」

『ぶっちゃけ全員、AAAAかAAAAAAカップの虚乳なの……』

「あ、あー……動物って基本的に乳房が発達してないからなー。だからAAAでも巨乳扱いか。――ん? それなら、もっとでかい場合はどうなるんだ?」

『ホルスタイン扱いなの。大きすぎて逆に奇形扱いされるらしくて、面と向かって「醜い」と言われるの。だから、オリーヴたちはやさぐれていま馬車の中に引きこもっているの……』

「なるほど。ところ変われば品変わる。獣人国で正常な人間扱いされるのは、お前とスズカだけか」

『あたしメリーさん。スズカと同類扱いされるのは心外なの。メリーさんが17歳になれば、ぼっきゅんぼーんのメリハリの利いたモデル体型なの……!』

「はははははははっ、ワロスワロス」


 ナニヲ妄言ヲ吐イテイルノヤラ。


「つーか、そんだけ獣人国でハブにされてるってことは、こっそり獣人の奴隷を買うとかいうメリーさんの計画は、結局頓挫したってわけか?」

『あたしメリーさん。奴隷商のところには行ったんだけど、どいつもこいつも血統書のないミックスばかりだから、メリーさんには合わなかったの……!』

「お前、ペットをブランド物感覚で買おうとするなよ」

『メリーさん生まれが高級品だから廉価品は好きじゃないの。あとお嬢様育ちだから、お互いに呼び掛ける時には「~嬢」って付けてたし……』

「ほう? 例えば?」

『「ごきげんよう。幡坊田(はたぼうだ)家のお嬢様。――幡坊田嬢(はたぼうだじょう)」とか』


 こいつの話はまともに聞くと前頭葉にダメージを受けるな……。


「つーか、お前のギャグは『はいはい昭和通りまーす』って感覚で全体的に古いんだよ。知ってるか、いまの弁当屋には『日の丸弁当』って売ってないんだからな?」

『それこそ、笑止千万なの。メリーさんあなたのアパートに向かう途中の水戸駅で日の丸弁当を買って食べたの。なにしろ、前日の夜に釜めしの販売を待たずに買った幕の内弁当が失敗だったから……』

「常磐線で泉〇之の『夜行』ごっこするんじゃない!」

 とととと……いかんいかん、休憩時間も残り少ないのにアホとのアホな会話で無駄に気力を消耗してしまった。


「んじゃ獣人国にはもう用事はないんだな?」

『あたしメリーさん。そうなの。奴隷商のところでは、スズカを売ってくれというから五千万で手を打ったし……』

売っ(ドナドナし)たのか!? 何やってるんだお前は! これまで一緒に旅してきた大事な仲間だろう?! オリーヴやローラやエマはなんて言ってるんだ?」

『ス〇ーウ〇ーズの8とエヴ〇ンゲ〇オンのQはなかった事にしても、ファンが怒らない風潮と同じで、「巨乳扱いされてチヤホヤされるこの国の方が幸せなんじゃない」という冷めた反応なの……』

 うわ~、所詮、女の敵は女か。

『きっとスズカも獣人国の方が合っているの。獣人に育てられるバケラッタの子になるの……』

 なんかその呼び名だと途端に悲劇性が薄れるな。


「……まあ俺がとやかく言ってもしょうがないけど。あ、そうだ。これから友人が訪ねてくるから電話は切るぞ」

『友人? こんな時間に珍しいの……』

「ワタナベだよ。ほら、この間四方山話で話したろう? しばらく引きこもっていた奴が元気になったみたいで」

『あたしメリーさん。それは怪しいの……!』

「はあ――?」

『急に引きこもったのも変なら、こんな夜中に来るのも変なの! きっとそいつの身の上に恐ろしい出来事が起きたの。メリーさんが思うに、謎のイモムシに刺されて体が腐って脱皮して、恐怖のイモムシ人間になったの……』

「うん、まじめに聞いた俺がバカだった……」


 ため息をついて通話を切ろうとする俺の気配を察したのか、電話の向こうでメリーさんが、

『待つのっ。そうして無理解な世間や家族に猟銃で撃たれて、母なる海に帰る――あら? こんな時間に誰か来たみたい。水道局の検針員かしら……?』

 続けようとしたところで、メリーさんの何かのフラグのような台詞に混じって、ドアを激しく叩く音と『助けて~! 剥製にされる~っ!』というスズカの切羽詰まった声が、聞こえてきたような気がした。

『誰なの~……?』

『私です、スズカです!』

『スズカはいないの。多〇万里のように、踊りながら光の中に消えていったの……』

『勝手に亡き者にしないでください! 変態に売られて剥製にされそうなんですーっ!! 助けて~~っ!!』

 嗚咽交じりのスズカの叫び。


 同時にキャッチホンになったので、メリーさんとの通話を切ってそっちの電話に出た。

「もしもし」

『やあ、いま着いたところだよ。〈ロンブローゾ古書店〉って看板が出ている、ここだね?』

「ああ、そっちは正面だから裏に回ってくれ。いま鍵を開けるから」

『うん。あと結構人の気配を感じるんだけど?』

「今日は半月に一度の在庫点検の日だからな。十人以上詰めているんだ」

『へ……え。それは楽しみ……助かるな(・・・・)


 意味ありげにそう含み笑いをしたワタナベ。

 気のせいかバサバサという羽音と、風を切るような音が聞こえてくる。


『じゃあいまから――』

 その刹那、室内に突如として警報が鳴り響き、『ロンブローゾ古書店』のある雑居ビル全体が煌々と輝き、気のせいだろうか頭上に向かって、機関銃やミサイル、バズーカー、高圧電流、謎の光線などが一斉に放たれたような、重低音と色とりどりの光の乱舞、爆発が同時に起こった。


「な……なんだ、こりゃ?!」


 唖然とする俺の背後から、特有の音楽(なぜか「中間管理職のテーマ」と黒服の連中が囁いていた)を流しながら、現場で陣頭指揮にあたっていた、周りの黒服たちから『真蔵(マゾ)様』と呼ばれ、一目置かれている白髪で細面の男性がやってきて、微妙にかん高いオカマ口調で、

「気にしなくていいわよ。うちの店長が蝙蝠嫌いなものだから、近くに蝙蝠がくると自動で駆除する装置が働いたのよ」

 そう説明してくれる。


「はあ、そうなんですか……? ですが野生の蝙蝠って勝手に駆除していいんですか?」

 適当に相槌を打つ俺に対して、投げやりに肩をすくめる真蔵さん。

「ナゾ――いや、社長の判断だからねえ。勝手にシステムを弄るわけにはいかないし、そもそも社長はいま月面基……海外の事務所に視察に行っていて不在なのよ」

 決裁者が長期不在、社会ではわりとよくあるシチュエーションらしい。


「そういうわけで、ワタシがいまのところ責任者だから。あとあなた、そろそろ休憩時間も終わりだから、もうひと頑張りしてちょうだいね。頑張り次第では、大学卒業後にウチの組織に就職も世話してあげるわよ?」

「ははは、ありがとうございます」


 超適当に愛想笑いで受け流す。

 それからふと、気になってワタナベとの通話が切れているのを確認して、裏口を開けて表を見てみた。

 今の騒ぎでびっくりしたのか、他に理由があったのか、店の正面まで来ていた筈のワタナベと恋人のシンジョウさんの姿はなかった。

 ただ、夜の風に乗ってどこから飛んできたのか、灰のようなものが地面にふたつ山になって落ちていた。ふと、その灰の中に見覚えのあるシャツの柄が見えたような気がしたのだけれど、次に吹いたビル風にあおられて、灰はバラバラになって飛んで行った。


「ま、あとで埋め合わせをするか」

 ワタナベたちには悪いことをしたなぁ。でも今頃は恋人とふたり夜の街だし、やっぱ爆発しろ! 


 そう密かに怨念を飛ばしながら、俺はバイトへ戻ったのだった。


 なお、この後、ワタナベは突如失踪して手掛かりすらなく。その恋人のシンジョウさんに至っては、存在を記憶している人すらいないという、わけのわからない状態となり、俺は大都会の闇の恐ろしさに震えることとなった。

8/5 最後、若干変えました。

同 指摘により誤字訂正しました。

×俺は大都会の闇の恐ろしさに震えることとになった→〇俺は大都会の闇の恐ろしさに震えることとなった

ヽ(`Д´メ)ノ<おの~れ、おのれガッ〇ャマン

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