第22話 あたしメリーさん。いま魔王国に向かっているの……。
8/20 以前に投稿したものを修正して再投稿しました。
「……出会いが欲しい」
都会に出てきて一カ月あまり。変態殺戮幼女人形や大ニ病を患った先輩、金魚鉢をかぶった管理人さん……と、微妙にイロモノ系の女性としか知り合いになっておらず、アパートにいると四六時中濡れた女の幻覚を見るほど女に飢えていることに危機感を覚えた俺は、古本屋のアルバイトの金が入って懐が温かくなったところで、出会いを求めて都心へと足を運んだ。
そして二時間後――。
うん、出会いなんてそうそう転がってなかったんや。
と、適当に目についた児童公園でベンチに座って黄昏ながらそう思った。
いやまあわかっちゃいたけど、特に目的もなしに徘徊していても、リ○さんじゃないんだからラッキースケベイベントとか、出会いとかそうそうないのはわかるけれど、なんつーかそもそも都会人の行動速度が田舎の人間とは根本的に違うというか、平成ライダーのように高速移動能力がデフォルトなんじゃねーかと思うほど、声を掛けようと思った瞬間にはズンドコズンドコ遥か彼方へと過ぎ去って行くのだ。
なんか俺だけ違う時間流に取り残されたような気持で、ぼーっとしていたところへメリーさんから着信が。
>【メリーさん@●●●●●●●●●●休休休休休休休休休休(来場所ガンバレ)】
日本人力士の取り組み内容か、それとも俺に対する当てつけか!? いずれにしてもろくでもない要件なのが窺い知れるタイトルであった。
「あー、悪いがいま新宿にいるから後に――」
『あたしメリーさん。新宿? ワセリン持って二丁目あたりで新しい自分でも発見しに行っているの……?』
「お前は俺に何を期待しているんだ!??」
『普通に新宿といったらそれしか思い浮かばないの。名古屋県と言ったらエビフライ、博多県と言ったらドンタク、横浜県といったら八○島シーパ○ダイス、大阪県と言えばヒョウ柄なの……』
「お前の知識は偏っている上に、ピンポイント過ぎるな。あとそれらは独立した県じゃないぞ……ちなみにお前の中では東京はひ○こか?」
『東京と言えば大阪のヒョウ柄に対抗してトラ柄なの……』
いやいや! トラならやっぱり大阪だろう!? なんでそうなるんだ??!
『そう思うあなたが無知なの。東京と言えば世界的にも有名な、葛飾帝釈天近辺に出没するタイガーさんが名物なの……』
「それはフーテンのタイガーさんだ! つーか、出先でスマホの充電もできない場所だから、いつもの馬鹿話だけなら切るぞ!」
『ちょっと待つの! メリーさんいま人生が左右される問題に直面しているの……!』
メリーさんの人生……?
「あれか。棒人間を車に挿して、ルーレット回して遊ぶ人生か?」
『ゲームの話じゃないの! 本気で困った選択を迫られているの……!』
「選択? 納豆は右回しか左回しかで、グループが解散の危機にでも陥っているのか?」
『あなたメリーさんの人生、無茶苦茶軽く考えているわよね……っ!?』
「うん。ぶっちゃけ『モー〇ング娘。』の『。』か『藤〇弘、』の『、』くらい、俺には不要に思える」
なんか邪魔。
『うわああ悲しいの><。ちょっと隣の家の旦那殴って来るわ……!』
と、興奮しているメリーさんの背後から、聞きなれたオリーヴの声が聞こえた。
『慟哭の闇が拡散される前に全てを終わらせねばならないというのに……まだ駄々をこねているの、メリーさん?』
『メリーさん絶対に魔王国に行かないし、まして最強決定戦なんて物騒な殺し合いには参加しないの……!』
『闇の王は天の地に降臨し、星の中で目覚める。知ったらもう元には戻れない……それでも拒絶するというの……? つーか、あんた以外の戦闘系の勇者が全員収監されたり、余罪が判明して〈獅子舞勇者〉やその兄貴や従弟みたいに火炙りとかで処刑されたりしちゃったんだから、諦めておとなしく参加しんしゃい。国王名義で命令書も届いてるんでしょう?』
『メリーさん外出慣れしていなくて、基礎体力がなくて、日光に弱いから無理なの~……!』
『あんたは連載抱えた小説家か漫画家か!?』
オリーヴの説得にも関わらず、その場でネ〇マールのように転げ回って駄々をこねるメリーさん。
『だいたい王都には二十万人を超えるメリーさんのファンがいて、ちょっとパンツを見せれば内臓を売ってでも、メリーさんの欲しいものを買ってくれる紳士ばかりだもん! 放置するわけにはいかないの……!』
『その紳士はだめな紳士よ!』
絶叫するオリーヴ。まあ確かに変態という名の紳士であるのは確かだろう。
『あとメリーさん知ってるもん! 他にも勇者は残っているって。例えば月産560Pを叩き出すチート能力を持った〈漫画家勇者〉とか……』
『それってチート能力じゃなくて、単なる石〇森章太郎の転生なのでは……?』
スズカ(前世、昭和生まれ)が小首を傾げて伏字になっていない感想を口に出した。
『とにかくメリーさんは地方は嫌いなの! 三食昼寝が保証されて冷暖房完備の場所以外には行きたくないの。今年の座右の銘は「今年はコンビニまで行った、来年から頑張ろう」なの……!』
剣と魔法の異世界にいるとは思えない、自堕落なニートみたいな要望を口に出すメリーさんであった。
つーか、その姿勢は『メリーさん』本職としての存在意義とも、著しく乖離しているのではないだろうか?
『「いやだいやだ」って、あんたはル〇ちゃんか。あぁ、でも大丈夫っぽいわ。いま国境が緊迫しているんで、魔王国に行くにはいったん獣人国を経由するルートを使うんだけど、次に泊まる予定のコノキ村にある〝ロイヤル・プリンスメロン・ホテル”は、王侯貴族も泊まる高級ホテルで冷暖房も完備。さらには従業員が、ドアボーイから客室メイドまで、全員マッシュルームカットで、おまけに前に進むようで後ろに下がる不思議な歩き方で見るものを楽しませる……と、〝地球〇歩き方〈異世界版〉”にも紹介されてるくらいだし』
『ムー〇ウォーク……!? それプ〇ンスじゃなくてマ〇ケルなの! というか想像するだけでも滅茶苦茶鬱陶しいの……!!』
異世界にもあるのか、あの雑誌は!?
『へーっ、名物料理は各種キノコ料理。美容にも良いし、ローカロリーだからお腹いっぱい食べても平気だそうですよ』
オリーヴから〝地球〇歩き方〈異世界版〉”を受け取って見たらしいスズカが、『美容』とか『健康』とかの女子らしいマストな意見を口に出す。
『キノコなんて大量に食べるものじゃないの! どんなキノコでも多少は毒を持っていて、食べられるかどうかは毒の強弱にしか過ぎないから、大量に食べたり違う種類のキノコを食べ合わせると副作用が出ることがあるの! だからメリーさんはキノコは嫌いなの……!!』
だが、メリーさんは揺るがない。
『そうなると、隣のタケコノ村にある〝ザ・プリッツ・チャールストン”かしらね。なんかお互いの村同士で張り合っているらしいけど、ここはタケノコ料理が自慢で、なおかつ老若男女が本気のゾンビ・ダンスで対応してくれるらしいわ』
『ス〇ラーなの! なんか方向性が変なの……!』
『ふむふむ……。もともと二つの村の間に〝ギスノコ村”というのがあったそうですが、名物のスギノコ料理を巡って、「そんなものは食べ物じゃない!」「そもそもスギノコ料理って何だよ?」と、二つの村の住人から総攻撃を受けて、あっという間に滅んだそうですね。現在ギスノコ村は廃村になり、元住民は地下レジスタント活動をしているとか、隣の大陸へ渡ってジンギスカン鍋屋になって再起を図っているとか。で、その慰霊の意味を込めて村ではゾンビ・ダンスを踊るそうです』
スズカがやんわりと補足するも、
『あたしメリーさん。そんなこと、たまに出る黄緑の鼻糞並みにどうでもいいの……!』
『あ、でもキャッチコピーは〝キノコよりも栄養価が高くてカリウムたっぷりのタケノコを堪能しよう!”ですよ。これならメリーさんも満足するのでは?』
『キノコのカロリーは100グラムあたり22.2kcalで、タケノコは26.1kcalだからたいして変わらないの! 袋閉じを開けて見るか、すき間から見るかの差くらいなの……!』
いや、男にとってその差は大きいんだが。
『つーか、ほら。可愛い子には旅をさせろって言うじゃない。きっとメリーさんが可愛すぎるから旅に出そうという国王陛下のお志よ』
『いまさらそんな言葉で懐柔されるメリーさんじゃないわ。てか、ゆるキャラの親父のことなんてどーでもいいし。いっそ、いまからメリーさん始末してくるの……!』
『『『『わ~~~~~~~~~~~~っ!!』』』』
本気で両手に包丁を握り締めて王宮に特攻をかけようとするメリーさんを、オリーヴ以下全員で止めにかかった。
『やめなさいっ! 相手は国王よ! 無茶苦茶警備だって厳重なんだから無理だって!!』
『あたしメリーさん。メリーさんが本気を出せばゴ〇ゴの背中でも取ってみせるの……!』
『その殺意を〝魔王国最強決定戦”の相手へ向けなさいよ!』
『メリーさん戦うのが好きなんじゃなくて、一方的に不意打ちするのが好きなだけだもん! あと、将来の夢は普通のOLになって、お嫁さんになることなの……!」
オリーヴの説得にも梃子として動かない。
つーか、幼女が『将来の夢は普通のOLになって、お嫁さんになることです』と口すれば微笑ましいんだが、メリーさんが言うと何か壮大な野心か、一見普通のOLにして主婦……だが、その実態は、と続きそうで怖いところである。
『そうですよご主人様、短慮はいけません。国王陛下もメリーさんを信頼しているからこそ、国の代表として任せたわけですから!』
『そうよ。鮭の稚魚は大海に出て大きく成長して生まれ育った川に帰ってくるのと同じよ。きっと広い世間に出て一回りも二回りも大きくなって帰ってくるのを期待されてるんですよ!』
ローラとエマ姉妹も加勢するが、
『鮭が川に戻ってきたときは産卵して死ぬだけだもん! メリーさん、サクラマスよりも一生を川で生活するヤマメでいいもん……!』
『そ、それにこの時期に国王陛下に何かあったら、メリーさんへ疑いの目が向けられますよ』
スズカの精一杯の説得にも、
『国王なんてどーせ権力闘争で家臣や親戚からも命を狙われているものと相場は決まっているの! 殺されたところで、SA○のア〇ナの暗殺があったとしても、他のヒロインの誰が犯人でもおかしくはないという風潮と同じで、民衆にも納得されるに違いないの……!』
なんか色々とヤバい方面の暴言を口走るだけであった。
『えええぃ、ああいえばこういって口の減らないお子様ねぇ! あたしたちだって行きたくないんだけど、前金ですでに――じゃなくて、あんたは微妙に脇が甘いところがあるから、支えるように冒険者ギルドから依頼を受けてるのよっ!!』
厄介な子供を前に、焦れた口調でそう憤慨するオリーヴ。
そんな彼女に向かって、
『うるさいの! オリーヴこと脇が甘いの! このワキ毛処理アマアマ女っ……!!』
そうメリーさんが吐き捨てた刹那、
『……。スズカ、例の注射器』
『あ、はい。猛獣用のこれですね……』
『あと記憶を消すインデラルとプロプラノロールもね』
完全に感情がなくなって平坦になったオリーヴの指示に、スズカが素早く圧力注射器を渡したかと思うと、有無を言わせず〝プシュー”と、注射が打たれる音がした。
つーか、効くのかメリーさんに注射?
てっきり物理的に血も涙もない幼女だと思っていたけれど……まあ、ド根性○エルみたいに言葉も喋るし、飯も食うんだから、薬効も効くかも知れん。
『疲れているみたいね、メリーさん。これは明日の朝まで起きないし、今日の記憶も消えている筈だから、寝ている間に私たちで準備して出発しとくわね』
『あたしメリーさん……いま首筋に……プシュって……ぐうぐう』
即座に注射の影響が出てメリーさんが高鼾をかきはじめた。
『じゃあメリーさんはここに寝かせておいて、私たちは二階で旅支度を整えておきましょうか』
いっそ朗らかとさえ言えるオリーヴの反論を許さない声に促されて、
『『『あ、はい……』』』
ローラ、エマ、スズカが頷く気配がした。
次にメリーさんに毛布が掛けられる音がしたかと思うと通話が途切れた。
スマホを懐へしまった俺は、メリーさんのことは考えないようにして、どこかで昼食を食べることにした。
そういえばメリーさんじゃないけど、東京って何でもあるけどこれが美味いっていう名物ってあんまり聞かないな。
「しゃあない、ラーメンでも食うか」
呟いてベンチから立ち上がって伸びをした。




