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番外編 あたしメリーさん。いま王家の避暑地にいるの……。④

『ッ――!! あの声は……間違いなく、この辺りを荒らし回る凶悪な盗賊団"上毛(ジョーモー)カルタ団”の団長ゴロー=コマツのものです!』

 馬車の窓についているカーテンを少し開けて、外の様子を確認した女騎士が顔色を変えた。


「本名は意外と平凡な名前だな……つーか、聞き覚えのある声だけど、生きてたのか()()

 既視感を覚えて俺がそう額のあたりを片手で押さえて呻くと、メリーさんが心底不思議そうに尋ね返してくる。

『知り合いなの?』

「書籍版だと第三話。コミカライズ版だと第二話で、お前が不意打ちでぶっ殺した盗賊団のロリコン頭目じゃねえのか?」

 何で生きてるのか、あるいは蘇ったのかは知らんけど。


『?????』

 と、ここまで言っても、すでに相手の存在は完全に忘却の彼方らしい、メリーさん。


 まあ幼児ってのは、その場限りの衝動で生きているから、昨日のことも覚えていないとはいえ、あんだけインパクトがある相手の事も忘れるのは、さすがにどうかと思うぞ。

「ほら、幼稚園児のスモックとか黄色い帽子とか着せられた――」


 そう水を向けたところ、携帯の向こう側でメリーさんが掌をポンと叩いた。

『思い出したの。コミカライズ版で「バッグ」を「バック」と書いて、ナントカ動画で一斉にツッコミを受けて、単行本では修正した話なの……!』

「そういう重箱の隅をつつくよう(メタ)な、覚え方はよせっ!」

 それ以上言ってはいけない!

「ともあれお前が有無を言わせずぶっ殺した盗賊だ。ロリコンだから、話せば和解できたかも知れなかったというのに」

『ニンゲン話し合いなんて野蛮な事では決着がつかないから、まずは理性的に殺し合いから先にするのが一番手っ取り早いの……』

「お前、人間じゃない設定じゃないのか?」


 そんな俺たちの不毛な会話をよそに、管理人さんが手軽に空中に立体映像を浮かべて(一部では普通に使っていると聞いたことはあっても、実際に見たのは初めてである)、真季たちと動画だか漫画だかの鑑賞をしている。

「ん~、鬼とか天狗とかは実物を知ってて食傷気味だから、同じ作者さんの『月代(サカヤキ)さん家の義兄妹』の方がいいわね。親の再婚で兄妹になった、代々男は月代(ちょんまげ)結ってる普通の高校生兄と、発達の良い美少女小学生の妹との禁断の関係を描いた名作なのよ!(※言うまでもなく実在の漫画や漫画家様とは一切関係がございません。ええ、まったくありません)」

 熱弁する真李。

 聞くともなしに聞き流していたけど、現代高校生が月代剃って丁髷結ってる時点で普通とは思えんがなあ……と、微かに引っかかった。


「……公式ジャンルは全年齢向けの日常・兄妹もの、と提示されていますけど?」

 何やら空中タッチパネルを操作しながら管理人さんが小首を傾げ、霊子(仮名)がウンウンと頷いている。


「それは表向きに決まっているわ。第一巻の初対面後の密着ハグシーンとか、第二巻のベッド共有の夜シーンとか、第三巻、文化祭準備中の風呂上がりのタオルシーンとかに、あたしには作者さんの声にならない禁断の愛にかける情熱が透けて見えたのよ! そう心眼よ心眼っ!」

‟その目は腐ってると思うわ。()()


 霊子(仮名)の反駁もどこ吹く風で、

「♪作者公認~王道よりも~、あたしは持ちたい腐のこ~こ~ろ~♪」

 何やら歌い始め――気を利かせ過ぎた管理人さんがタッチパネルを操作すると、どこからともなくカラオケの曲が流れ始めた。


 さて一方、メリーさんからの通話の向こうでは、いまだに盗賊団の頭目が胴間声(どうまごえ)を張り上げて咆えている。

『がははははっ! まさか公爵家の幼女の他に、あの因縁の幼女まで一緒に捕らえられるとは、まさに奇禍(きか)勿怪(もっけ)の幸い、盲亀(もうき)浮木(ふぼく)優曇華(うどんげ)の花、此処(ここ)で逢ったが百年目!』

『あたしメリーさん。とどめ刺して死体に「メリーさんカード」を置いたはずなのに、なんで生きてるの……?』

 メリーさんも気になったのか、勝手に窓を開けて頭目に尋ねた。


「というか、なんだその『メリーさんカード』ってのは?」

『どの怪異や妖怪が倒したのかわかるように、死体のところに添付するの。この業界の風習なの……』

「………。作者も途中から設定を忘れそうな風習だな」


 と、声をかけられた頭目が、明確にメリーさんに向かって語り掛けてきた。

『いたな、幼女! ふふふふふふふ、これぞ「お医者さまでもクサーツの湯でもチョチョイのチョイ」というグンマーの奇跡。あの時、致命傷を負った俺は最期の力で、秘湯中の秘湯「湯殿風呂湯温泉」へと逃れたのだ』

『意味が重複している上にくどいわね』

「勝ったなガハハ! 風呂入ってくる!」状態で悦に耽っている頭目に向かって、ジリオラが思わず――という風に合いの手を入れた。


『だが、幼女に刺された傷は深く、もはやこれまでと覚悟した俺だった。だが、その時、不思議なことが起こった!』

『能書きが長いの……』

『と、とりあえず降参しましょう。降参。なんか白い布ないですか? 白旗上げないと』

 飽きたらしいメリーさんのボヤキと、泡を食った女騎士が狭い車内をドタバタひっくり返している音がする。


『あたしメリーさん。白旗は徹底抗戦のあかしなの。イデ○ンで観たの……』


「お前らこの状態で余裕あるな。つーかさ、冷静に考えるとおかしいぞ。公爵家の令嬢を狙いすませて襲って来るとか、警備がザルだとか、普通に考えて誰か内通者がいるんじゃないのか?」

『あたしメリーさん。ここに裏切者。「スパ○ラル」の結崎ひ○のポジションの奴がいるの……?』

『――っっっ!!?』

 メリーさんの呟きを受けて、なぜか侍女が大きく息を飲んで動揺した。


貴女(あなた)、どうかした?』

 怪訝そうなジリオラの問いかけに、侍女が露骨に狼狽しながら、

『な、何でもありません。ただ急にそんな、「お前平田だろ」みたいなこと言い出されて、お、お、驚いただけで…た、他意はありません。ええ、まったくありません』

 メチャクチャ胡散臭い反応をする。

『あたしメリーさん。なんか声が上ずって、童話も書いてる守銭奴キャラの声から、セイバーの声に変わったような気がするの……』


 で、もって――。

『――そう、グンマーの守護獣グンマーちゃんが目の前に現れ、俺を背負って秘湯へと連れて行ってくれたのだ!! そうして温泉に浸かっていると、あれほどの怪我が徐々に回復してゆき、俺は「そうか…そういうことだったのか…」と、グンマー温泉の真の効能を理解したのだ!』

 ゲッター線並の気付きを熱く語る頭目だが、無論、メリーさんたちは聞いちゃいない。


 ついでに言うと、俺の周りでも真李たちが熱く語っていた。

「だ・か・ら! 乙女ゲームを題材にしてるとか吹聴している癖に、草分けであるアンジェ○ークすらプレイしたことがない野郎が書いた、『乙女ゲームの世界に転生した』とか『婚約破棄モノ』とかちゃんちゃらおかしいのよ! 少なくとも無印とリモージュとコレットはプレイして、守護聖のCVとラストの台詞くらい暗唱できなきゃモグリと言わざるを得ないわ!」


 相変わらず変なこだわりのある義妹である。

 と、その瞬間、スマホの向こう側から、これまた既視感のある展開で、第三勢力が猛烈な吶喊(とっかん)の雄叫びとともに騎乗したまま突撃する、ドラマの合戦みたいな音と声が響き渡った。


辺境警備隊(グラニチャリ)!? 魔境であるグンマーとトチィギとの国境(ボーダー・)地帯(リーヴァーズ)に駐屯して治安維持や敵襲への対応を担う超実戦部隊が来てくれました! キャーキャー、助けてーーっ!!』

 身も世もなく体を乗り出して、必死に助けを求める女騎士。

 仮にも成人した戦闘員が、この場で一番恥も外聞もなく騒ぐのはどうかと思うのだが……。


『あれが‟辺境警備隊(グラニチャリ)”? 王都から出たことのない、なよなよした公爵家の騎士団とは違って、全員がいかにも(いわお)のような益荒男(ますらお)ばかりで、屈強そうね。でもなんで乗ってるのが馬じゃなくて河馬(カバ)なのかしら?』

 感心したようなジリオラの感想に、待ってましたとばかり女騎士が追従する。

『その通りです! 隊長ニチョメ=シンジクを筆頭に、副隊長キタシンチ=ドウヤマは一騎当千。さらには音に聞こえた剛の者として、コーエン=ウエノ。アズマ=イケブクロ、ニシ=イケブクロ兄弟と綺羅星の如き英雄、豪傑揃いなんですよ! あとカバってのは意外と凶暴で、野生動物で一番人を殺している猛獣なんですよ。それを手足のように操るから凄いんです!!』


『ケツ顎なの。オカマとホモ臭い集団なの……』

「お前な、そういう偏見はよくないぞ」

 今どきはLGBTQ問題は配慮しないといかんからなあ。

『最近は配慮し過ぎるのも問題だってなっているの。そもそも個人の主義主張を押し付けるのがおかしいの。食べ物の好き嫌いをしているだけなのに、なぜか道徳的マウントを取るヴィーガンとか……』


 と、迫りくる河馬に乗った屈強な‟辺境警備隊(グラニチャリ)”を前にして、盗賊団《上毛(ジョーモー)カルタ団》から期せずして悲鳴が上がった。

辺境警備隊(グラニチャリ)だっ!!』

『変態だ。変態集団が襲ってきたぞーーっ!!!』

『捕まったら若くて美形な男から順番に、無理やり掘られるって有名な!』

『『『『『キャーーーーッッッ!!!!』』』』』

 盗賊団の絹を裂くような悲鳴が響き渡る。


 同時に目を輝かせた‟辺境警備隊(グラニチャリ)”が、怒涛の勢いで盗賊たちに襲い掛かった。

『男♡ 男♪ 男! より取り見取りよン』

『うふふふふふっ、震えちゃって……皆、可愛いわね』

『男の子はいないかしら。年下が趣味なんだけど』

『馬鹿ね、いかにも経験のない筋肉質の男を無理やり屈服させるのがいいんじゃないの』

『あのデブ、アタシがもーらい♡』


『『『…………』』』

 目の前の惨劇を前にして言葉にならないメリーさん、ジリオラ、専属侍女に向かって、女騎士が歯切れ悪く弁護をする。

『まあこういう辺境というか、軍事境界線に送られる連中は、荒々しく、宮廷で疎まれた者や問題を起こした者が配属されるケースもありますし、逆に中央の目が届かないことから、のびのびと自分の趣味嗜好に従って行動するのも自由でして……』

 その結果が目の前の地獄絵図らしい。

コミカライズ版『あたしメリーさん。いま異世界にいるの……。』(竹書房/佐保先生・著)

2025年10月18日を持ちまして、連載が「WEBコミックガンマぷらす」から「竹コミ!」(TAKE COMIC)へと移行いたしました。

更新は月曜日【王道異世界作品】のラインナップです。

よろしくお願いいたします。

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i368160書籍版、『あたしメリーさん。いま異世界にいるの……。』新紀元社モーニングスターブックスより発売中です。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
お疲れ様です。 今回は更にとばしてますね。 なんだろう? 突っ込みたいが、今回は別な意味での突っ込み要員を作者様が用意してくれたの「腐、腐、腐・・」と笑うしかないのよう気が。 とりあえず、一つだけ…
一応コミカライズ版がこれまでのサイトが潰れ、竹コミ!に移籍したことを告知したほうが良いんじゃないかなって思いました。
これは酷いw 次号、地獄絵図(視覚的な意味で)。 ドッグとドック、ティーパックとティーバック、 書いても声を出しても間違える… そして頑なにバーガーをパーカーと商品名を書き間違える(多分本社にそう…
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