番外編 あたしメリーさん。いま王家の避暑地にいるの……。①
下書き書いたのが真夏だったので、ちょっと季節感がズレてます(;^_^A
今年の夏も各地で40℃を越える酷暑が連日猛威をふるっていた。
「――暑いっ。エアコンかけても滅茶苦茶暑い……」
さすがは埼玉、アパートの部屋でガンガンエアコンかけても、薄いアパートの壁を通して外の猛烈な暑さが伝播して来る。
「うえ~~……暑い、あついよお義兄っ」
"ホント、暑くてもう一遍死にそう……てか、この状態、なんかトラウマが”
蒸し風呂状態の部屋の中、夏休みで遊びに来た、従妹にして義妹である野村真李と、俺の妄想幻覚――もしくは認めたくない事ながら、イマジネーション・フレンドの可能性もある自称・地縛霊(仮称)幽子が、下着姿でぐでーっと河岸のマグロのように揃って転がっていた。
「はしたない格好だな、嫁入り前の娘が。つーか、親父やお袋が見たら卒倒するぞ」
あと、幽子は今度こそ成仏するのではないだろうか?
「田舎じゃ、夏でもこんなに暑くなかったよな? むしろ涼しいくらいで……」
六畳間用のエアコンの下、胸元をパタパタとあざとく開けて涼を取っている真李に確認してみた。
"田舎って……仙台だった?”
「…………うん。そうだね、仙台はこんなに暑くなかったよ」
"かなりの確率で嘘ね! おおかたの宮城県民は仙台人を名乗って、愛知県民は名古屋人を自称し、修羅の国の民族は博多人を詐称するくらい定番の出身地偽装よね!?”
億劫そうに俺の問いかけに応えた真李に、幽子が猛烈な勢いでツッコミを入れる夏の日の幻影。
まあ確かに、ウチの地元はヤンキーとジジババしかいない限界集落で、電子マネーなんぞ使わずに現金一択で、場合によっては物々交換(爺ちゃん家で取れた米と引き換えに、野菜やら山菜、キノコなんかを貰う)か、下手したら金券代わりに『お米券使えます』という感じで昭和の遺物がまかり通っていたからなあ。
「てゆーか、義兄ちゃんの部屋が特別涼しかったんだけどね。ちょくちょく、隣の家の雪女が来てたから」
唇を尖らせて、心底忌々し気に吐き捨てる真李。
"雪女?”
小首をかしげる幽子だが、『雪女』というのは真李が勝手に呼んでるニックネームみたいなもので、本名は『氷室 深雪』という同い年の幼馴染である。
ストレートの長髪が特徴的な楚々とした美少女で、なぜか真李は目の敵にしていた。
「そういえば基礎体温が低いとかで、夏でも傍によるとヒンヤリしてたな深雪は」
もともとの出会いは、近くの山に爺ちゃんの修行とやらで道着一枚で冬場に登らされたんだけど、異常気象でやたら気温が上がって喘いでいたら、同じく日射病でぐったりしていた女の子を見つけて、涼しい場所までおぶって運んだのが切欠だった。
すると次の雪の降った晩に、ウチの玄関を叩いて、
「雪に降られて難渋しております。土間の隅で構いませんので、今晩一晩泊めてくれませんか?」
と来たのが、隣に引っ越してきた深雪と、偶然再会して吃驚したものである。
"……いや、それってどう考えても本物でしょう?”
「だよねぇ? なんかうっかりシャアの正体気付いてしまって、消されそうなおっかなびっくり具合な危機感を持つ状況なのに、うちの義兄ちゃんは、そのあたりのJアラートが丸ごとないから、あたしが防波堤になってるのよ」
何やら顔を寄せ合ってヒソヒソ話に興ずる二人(?)。
「いや、真李の場合は、俺の近くにいた女子を大抵目の敵にしてただろう? 近所にいた不動産屋の美須麻の事も面と向かって敵視してたし」
彼女も単なる近所の遊び友達だったというのに。
俺が混ぜっ返すと、真季はなおさら不快指数が上がった様子で渋面になった。
「なんであんな『八尺』まで一般人扱いするのか、あたしはお義兄ちゃんの方が信じらんないよ!」
「女性の身長とか、身体的な特徴で毛嫌いするのはどうかと思うぞ。だいたい今どきは2メートルくらいある女性も世界を見れば珍しくないし」
「八尺(二メートル四十センチ)は世界広しと言えどもそうそういないよ!! 『でかーいっ、説明不要!』ってレベルでおかしいと思わない訳、お義兄ちゃん!?」
思わんな。
「山野不動産の社長――美須麻の親父さんも二メートル二十センチあったから、父親似なんだろう。あと本人曰く『成長期に毎晩夜中に起き出してかけうどん二杯食べたから』とか言ってたし」
まあ長身ではあるけど瘦せ型でスタイルも良かったのは救いだよな。親父さんの場合は横幅もあったから、無茶苦茶圧迫感と迫力があったけど、中身は子供好きの子煩悩な親父さんだった。
つーか、ウチの爺ちゃんも二メートル超えてるし、そういう風土なんだろう。俺だって1.9mあるし。
「そういえば『絶対に追いかけて行くからね!』とか言ってた割に、手紙ひとつないのはちょっと寂しいな」
そんな幼馴染ふたりを思い出して、しみじみ感慨にふけっていると、なぜか真季がげんなりした顔でこぼした。
「どうにか封印してあるからね。てゆーか、東京の大学に行く時も、『絶対に逃がさない!』と本性出して追いすがろうとしたのを、あたしとメリーとで『『ここはわたしたちが防ぐから、わたしたちに任せて先に行って(行くの……!)』』とやってる間に、マジでお義兄ちゃん、時間を気にして振り返りもしないで、さっさと一日二本しかないバスに乗って行っちゃうし」
いや、別れがつらいので振り返らなかっただけで、なんで途中からメリー(自宅にあった人形)の話になってるんだ?
「さらに増援の妖怪とか相手に半日奮闘する羽目になって、最終的にメリーが『捨てられたの! 許せないの……!』と逆恨みして、木乃伊取りが木乃伊になる結果になるわ……だけど、さすがにあたしも消耗して追いかける間もなかったし」
"ああ、『捨てられた』とかいう『メリーさんの電話』の真相ってそれなのね”
平仄が行ったという顔で、何度も何度も頷く霊子(仮名)。
「そうなのよ。だけど誰も信じちゃくれねえから、いつの間にか『ゴミとして捨てられた』という話に矮小化されちゃったのよね」
しみじみ肯定する真季。どうやら熱中症の初期症状らしい。
そもそもメリーさんが役に立つ時ってのは、つまり役に立たない時なんだよな。
"隣で電話聞いててもわかるけど、メリーさんって目的とコマンドを撃ち込むと、最短距離で処理をするどこぞの聖杯みたいなもんだもんね”
「いまどきのAI以下よね」
割と言いたい放題である。
――同時刻・異世界――
「くしゅん! 誰かがメリーさんの噂をしてるの……」
「……なんでもいいけど、人の馬車に相乗りしながら、豪快にクシャミしないでもらえるかしら?」
不機嫌そうに、対面の豪華なソファに座り込んでいる、派手なドレスにいかにもな縦巻きロールの髪形をした幼女が、迷惑そうに言い捨てる。
「どうせ行き場所は同じなの。だったら道連れなの……」
異世界でもこの暑さに辟易したメリーさんたちだが、同じ幼稚園へ通うイニャス王子に招待されて、現在、ジリオラ公女ともども王家の避暑地へ向かっている最中であった。
「……アンタが言うと『地獄へ道連れ』って感じに聞こえて胡乱なんだけど」
不機嫌さを隠すことなくジリオラが悪態をつく。
「あたしメリーさん。親しき中にも礼儀ありなの。『まず考えてから話す』っていうマントラを忘れちゃいけないと思うの……」
「アンタにだけは言われたくはないわよ!!」
「いわれなき誹謗中傷なの。メリーさん断固抗議するの……!」
「王都の匿名掲示板にいろいろ書かれててたわよ、アンタ」
いきり立つメリーさんをジト目で睨むジリオラであった。




