番外編 あたしメリーさん。いま呪術の回線なの……。
寒の戻りでストーブを出すべきか出さざるべきか悩んでいたら、いつものようにメリーさんからスマホに通話が入った。
『あたしメリーさん。いま異世界にいるの……』
「……いまさらなんだ?」
『気のせいか、ひさびさに電話したような気がするので、改めてタイトルを回収したの。ぶっちゃけ漫画版でしか最近メリーさん活躍してないから、今後の推移が見えないの。漫画はこのあとどうなるの!? 教えて! でないと夜しか眠れないの……!』
「一回落ち着け」
つーか、お前が当事者なんだから漫画版は漫画版で原作版は原作版で、どっちでも活躍はできるだろう。
『同じ締切に間に合わなくても、部屋に篭っているのが「病気」で、外に行ってしまったのが「取材」って言うようなものかしら……?』
「多分、ぜんぜん違うと思うぞ」
『異世界転生だと思ったら群馬に転勤したくらいの違い……?』
「だからヤンキーとジジババしかいない限界集落出身のトーホク人が、グンマーをいちいち槍玉にあげるな! 田舎じゃ常識だと思っていたら、東海地方からあっちは“ずんだ餅”と“ウグイス餅”の区別がつかなくて、大学で話していてショックを受けた俺の気持ちがわかるか!?」
『ずんだ餅』って全国区じゃなかったという二重の驚愕。
あれ以来、迂闊な事喋ったら田吾作扱いされるんじゃないかと、なんかうっかりシャアの正体気付いてしまって消されるんじゃないかという感じで、日頃からおっかなびっくり具合に気を遣っているのだ。
『あたしメリーさん。忍者○ャプターがスーパー戦隊扱いされなかったり、シャリバンとヤキソバンが混同されるレベルで、“ずんだ餅”と“ウグイス餅”の区別がつかないなんて、そんな馬鹿な事あるわけないの……!』
「忍者○ャプターの話は『女性オタクならア○ジェリークは必須』という前提で会話するくらい微妙なのでやめろっ。あと、せめてバジリスクとコカトリスを比較に出すとか……てか、メリーさん自身が知ってるのか、ずんだ餅の作り方?」
この幼女は「まず考えてから話す」っていうマントラが基本的に抜けてるんだよな。
『もちろんなの! まず、獲れたての“ず○だもん”を流水で洗い、塩をふりかけ両手でよくすりこんでおくの。たっぷりの熱湯が煮え立った鍋に“ず○だもん”を放り込み、茹で上がったら笊であげて湯きりして、色止めのためさっと流水に放り込むの。手早くするのがコツなの……』
とくとくと語るメリーさん。
『“ず○だもん”を取りだし、薄皮を脱がせて、すりこぎでつぶし、砂糖、塩、水を適量加えると粘り気のある餡になるの……』
「微妙に鬼太郎のカマボコ回のエピソードが混ざっているぞ」
『ずんだの妖精を使うところがミソなの。グルメ番組とか漫画とかでは、だいたい珍しい食材を使ったから旨いみたいな風潮なの……』
「珍しい食材ってのは、実際のところあんまり旨くないから一般に広まらないんだと思うがなぁ」
誰が食べても美味かったら、多少値段が張っても一般的に普及するはずだろう。
「つーか、生存報告に電話してきただけなら切るぞ?」
『そーいえば、原作者って当初は、佐○先生のメリーさんが「∩(・ω・)∩ばんじゃーい」「幼女の破壊力えぐいな」という描写を期待……』
「漫画版に口を挟むな! 用がないなら切るぞっ!!」
マジで舌禍が取り返しのつかない段階になる前に会話を打ち切る気配を感じたのか、メリーさんが本筋に話を戻した。
『あたしメリーさん。ローラとエマ宛に国から召集令状が届いたの……』
「『ショーシユウレージョー』ってなんだそれ?」
『赤紙なの。徴兵なの。国民総動員なの。醤油を一升瓶で飲んで健康診断不合格で回避するの……!』
そう重ねて言い募るメリーさんの背後では、たぶん無理やり一升瓶の醤油を飲ませられようとしているのだろう、
『『ぎゃああああああああああっ!!!』』
というローラとエマ姉妹の絶叫と、
『安心するがよい。汝が肉体の虚弱さをもって丙種の烙印を押されしならば、血煙舞う戦場へ赴くことは避けられようぞ。スズカよ、セバスチャンよ其方らには、この計略を万全に遂行する責務がある。決して怠るでないわ!』
『わかりました! 大丈夫です、ローラさんエマさん。一気飲みしても、ちょっと内臓にダメージを喰らって、血圧が高くなるだけですから』
『あきらめなされ。大魔お……じゃなかった、執事からは逃げられませんぞ』
醤油一升瓶持って無理やりラッパ飲みさせようと迫るオリーヴと、それぞれ姉妹を羽交い絞めにしているらしい、スズカと執爺のセバスちゃんのやり取りが聞こえてくる。
「……お前んとこ、いつから戦争になったんだ?」
それもルーズベルトとヒトラーとレーニンが揃って、「「「日本軍は頭おかしい」」」と言った旧日本軍並みの破れかぶれなレベルで。
『よくわからないけど、国の秘密機関“王の耳はロバの耳”から、ふたりに「精神感応網の再構築のための出頭要請」が来たの。国が絡むことは戦争もオリンピックも万博も税金掴み取り大会で一緒なの。そういうのに利用されないように、メリーさん心を鬼にして二人の身柄を確保するの。タダじゃないんだし……』
「――よくわからんが、国からローラとエマ姉妹に出頭要請がきたので、金出した奴隷を取られないよう、有耶無耶にしようと変な方向に弾けている最中ってことか……」
相変わらず、目的とコマンドを撃ち込むと最短距離で処理をする、どこぞの聖杯みたいな幼女であった。
あと自分と対等に扱ってるだけなのに「奴隷なのにこんなに優しくしてくださるなんて??」ってなる感じの――ほんまキモいなこいつら――というテンプレがないこいつ等の雇用関係はある意味正常で安心するわ。
それにまあ、今回はメリーさんが直接関与する問題ではないらしいのは不幸中の幸いである。
メリーさんが役に立つ時ってのはつまり役に立たない時だけだからな。
『ちなみに「精神感応網」のことを、異世界では“呪術回線”って言うらしいの……』
「どっかで聞いたことがあるようなネーミングだな」
つーか、テレパシーって呪術なのか?
『距離関係なく相手に念を送るので基本は同じなの。より明確に意思を伝えるために、怨み憎しみといった強力な感情を、儀式にして生贄を捧げてさらに増幅して、特定の相手に放つのが、ふぁんたじー世界のテレパシーなの。ローラとエマの間の相互テレパシーは肉親同士の共鳴なので、魔術とは無関係なスキルらしいけど……』
なお言うまでもなく呪われた相手は死ぬ。
ただし即死はしないので、断末魔の間に送られてきたメッセージを伝えて、それをさらに術者が次の相手に向かって呪って伝える……という伝言ゲームをやるのが“呪術回線”。
具体的には、例えば『ジョン・スミス』という相手に「魔王軍が攻めてきた」と伝言を送る場合――。
補助の人間が太鼓叩いて、魔法陣で術者がトランス状態のまま精神感応魔術を発動しつつ、素早く生贄の黒い鶏の首を刎ねる。
「バロン・サムディよ、あなたは血を欲し、骨を欲する
歩くジョンを地に倒し、その体を砕き、魂を壊し、平和も休息も与えず、『魔王軍が攻めてきた』と、一刻も早くこの言葉伝えて
バロンよ、私のために彼を連れ去り、苦しめなさい!」
そう念を送ると、遥か彼方にいる所定の連絡員『ジョン・スミス』(実際は同姓同名を避けるために、もっと『寿限無』みたいな長くて普通はつけないコードネームを本名として登録される)が、苦しんで死につつも使命に沿って、伝言を誰かに伝えたりダイニングメッセージで遺したりするらしい。
「『ダイニングメッセージ』じゃなくて『ダイイング・メッセージ』な」
『呪われて死んだのがダイニングキッチンだったので間違いないの……』
なお最期は『北斗○ケン』のモヒカンみたいに全身膨れ上がって爆発しながら、ケチャピで床の上にメッセージを遺したらしい。
『てか、儀式とやり方が、心なしかブードゥー教で「ロア」って精霊や神に呼びかける呪術に近いわね』
というのはオリーヴの見解だった。
さらに距離と威力を伸ばす場合は、これの上位バージョンがあるらしい。
赤い布に相手の名前を書き、釘で刺しながら唱え。さらに生贄は黒い羊が必要だが、
「エズリ・ダントールよ、勇敢な母よ、私の魂は血と痛みを叫ぶ、あなたの鋭い刃で彼らの心を切り裂き、代償を払わせ、嘆かせなさい、ダントールよ、『魔王軍が攻めてきた』と、一刻も早くこの言葉伝えて、私と共に進み、ポンポコ村を粉砕して!」
何らかの事情や情報を受け取る相手がそもそも常駐していない場合には、村一つを呪って火急の要件を広範囲に伝達する魔術もあるとか。
『あたしメリーさん。その場合は、混沌と破壊を招くらしいの……』
「混沌ねえ」
一週間待ってください。本物の混沌をご覧に入れますよ、と反射的に言いたくなった。
『問題はこれをやると、確実に情報員が減って行くのと、いざという場合にきちんと使えるかわからないの。実際、ストロングニートタウンがアースドラゴンに襲われた時には、伝言ゲームで最終的になんでか魚屋の話になってたらしいし……』
「馬鹿しかいないのか異世界ってのは!?」
まあメリーさんがすんなり受け入れられいる段階で、その疑いは多分にあったが。
『あたしメリーさん。魔術も呪術もアレンジ次第なの……』
「結婚式用のワンピース売りつけようとする店員みたいな慰めはやめろ」
なお、この後、“呪術回線”は、
「『クリストッファー・アレクサンドロヴィッチ』を呪ったら、『クリストファー・アレクサンドロヴィッチ』と間違えてとばっちりで死んだ」
「えっ、『バーソロミュー・ドストエフスキー』か『 バーソロミューズ・ドストーフスキー』かはっきりしない!?」
「この際、ドサクサ紛れにウチの女房に手を出した隣の亭主を呪ってやる……。あの野郎、女房の方から誘ったなんて言いやがって、貞淑なウチの女房がそんなことするわけないだろう。殺してやるっ!」
とか。
「儀式を行っている間に魔獣が攻めてきて、間に合うかこんな難儀なやり方!」
「生贄が逃げたぞ! 間に合わないから適当にその辺にいる人間を生贄に――って、こら、貴様ら、なにをす」
「「「うるせえっ! 代官だからといって、いつもいつも偉そうに命令しやがって!!」」」
など浮き彫りになり、問題ありとして計画の見直しが図られたらしい。
『「人を呪わば穴二つ」なの……』
「お前がしたり顔でその台詞を口にするんじゃない!!」
ついでに無理やり醤油を一升飲まされたローラとエマは、二週間ほど具合を悪くして寝込んだそうである。




