番外編 あたしメリーさん。いま戦勝祝いなの……。(後編)
この後、完結編へ続きます。
膂力に優れたミノタウロスだったが、種族的な問題なのか魔法を使うことは非常に不得意な脳筋ばかりであるのが弱点であった。
対する冒険者の擁する魔法使い――なぜか少女が多い――たちが一斉に、魔法の媒体(ステッキだとかバトンだとかコンパクトだとか)を振りかざし、各々が得意とする攻撃魔法を放った。
「マハリクマハリタヤンバラヤンヤンヤン!」
「テクニク・テクニカ・シャランラ~!」
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン 焼肉にな~れ!!」
「フレール、フレール、フレール!」
「ピピルマピピルマプリリンパ パパレホパパレホドリミンパ アダルトタッチでビールに合う、牛スキ焼になぁれ」
「パラリルパラリルドリリンパ ティアランティアナンマリリンパ ミンキータッチでしゃぶしゃぶになぁれ」
「パステルポップルポッピンパ!」
「リリカル・トカレフ・キルゼムオール!」
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」
いずれも昔から名の知れた歴戦の魔法少女(?)とあって、狙いたがわず魔法の光が風が炎が爆発が銃弾が(?)釘バットが(??)ミノタウロスの軍勢へと叩き込まれる。
さらに今回は王国のジューモリ公爵家のアンジェリータ公女(5歳)も討伐に参加していた。
「むう、あれがアンジェリータ・ジューモリ」
「知っているのか、スズカなの……?」
真剣な眼差してアンジェリータ公女を注視して呻くスズカに、メリーさんが問いかける。
「リバーバンクス王国の次期王太子妃の有力候補のひとりで、たぐいまれな精霊魔術の使い手として名高い公女様です。同じ公女のジリオラさんとはライバル関係ですね」
「ライバルじゃなくて、ぶっちゃけジリオラは悪役令嬢ポジションなのに違いないの……!」
独断と偏見による勝手な決めつけだが、実際、世間の評価も同様な上に、交友関係にも問題がある――具体的には『勇者メリーさんと悪友の同類』――と眉をひそめられている状態なので、
「あははははは……」
スズカも困ったように笑って誤魔化すしかなかった。
と、アンジェリータ・ジューモリの気合のこもった声が反響する。
「出でよ、守護聖霊〈サクリファイス〉たち!」
それに合わせて九つの魔法陣が浮かび、そこからいずれもイケメンの聖霊たちが召喚された。
「光の守護精霊ジュピタリス! 闇の守護聖霊 グラディウス! 風の守護聖霊 ランティス! 水の守護聖霊 リュミエル! 炎の守護聖霊 オスカル! 森の守護聖霊 マイセル! 金の守護聖霊 ゼファー! 心の守護聖霊 オリバー! 地の守護聖霊 ルシファー!」
実力はわからないが見た目はそうそうたるメンツである。
「お~、派手だね~。さすがはプロの魔女や精霊魔術の専門家。やっぱり殲滅力のある火力は浪漫だね、お姉ちゃん。――あたしたちの職業の『メイド』とか『ニンジャ』とか、基本的にレベル上がっても特定のアイテムとか使わないと、単にバフとデバフのレベルが上がるだけだし」
漫画みたいに吹き飛ぶミノタウロスたち。と、そこへ両手に使い込まれた肉切り包丁を両手に構え、神速で踊り込んで、たちまち神業で肉ブロックのパーツに分解していく〈肉勇者〉ブッチャー・ザ・阿武隈を眺めながら、エマが姉であるローラに話を振った。
「そう、ね……確かに魔法は便利だけど……でも、あんな呪文を臆面もなく、踊りながら唱える羞恥攻めを耐えられる鋼の神経が必要なわけで、世間体を思えばまだしも『メイド』と『ニンジャ』で良かったと思うわ」
嘆息しながらローラがしみじみ語った。
なお課金アイテムを使えば『覚醒』をして、より上位のスキルや必殺技、奥義などを覚えられるが、第一段階・覚醒だけで125,000A・C。
第二段階で250,000A・C。
第三段階500,000A・C。
第四段階1,000,000A・C。
第五段階10,000,000A・C。
と、よほど沼にハマった人間以外、真っ当な金銭感覚を持った一般ピープルには、初っ端から躊躇するぼったくり価格なので、ローラもエマもあえて覚醒するメリットを感じずに、『無印』のままで適当に過ごしている無課金勢である。
「だいたい第五段階ふたり揃って覚えようなA・Cがあったなら、余裕でご主人様への借金を返し終えて自由になることができるでしょう?」
「あ~~、そういえば二人とも借金奴隷の身分だったんでしたっけ」
ローラの微妙に世知がない内情に、いまさらながらスズカが掌をポンと打った。
「まあ私もメリーさんも、スズカも基本現代日本出身だから、奴隷とか意識してないし。五人とも、ほとんど実の家族みたいなものよ」
どっちが勝つかトトカルチョやっている賭け屋の隣で、急遽占いの出張屋台を出していたオリーヴが明るく放つ。
良いこと言っているが、日本に実の家族がいるのにまったく未練がない――姉も似たようなものだが――時点で、何をかいわんやであるが……。
だいたいのことは棚上げするのが、このパーティの根本原理である。
感極まったローラたちは阿吽の呼吸で集まって円陣を組んだ。
「「「「「そう!我ら生まれた時は違えども!!」」」」」
「死ぬ時も多分違うけど……なの!!」
「「「「黙れ殺人人形っ」」」」
無粋なツッコミを入れたメリーさんに、他のメンツの容赦ない叱責が飛ぶ。
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♪征け逝けベイクド・モチョチョ 喰え食えアンコリーノ♪
♪小麦と餡と 焼き型と ホ~モと誓った この名前♪
分厚い雨雲の上は様々なドローン……いわゆる”空飛ぶ車”が乱舞し、まるでSF映画の円盤大戦のような様相を呈していた。
「フクジュ星の『ずんどう焼獣』にマロヒ蛮星の『二重焼獣』。ギフ=セキ連合の『満月焼獣』。オーサッカ帝国の『回転焼獣』。連星ミエー・カザツマの『天輪焼獣』――他にも北銀河『おやき獣』『ドラ焼獣』『甘太郎焼獣』『ホームラン焼獣』に『七越焼獣』。辺境東北銀河産の『がめこもぢ獣』『黄金焼獣』。ちょっと毛色が変わって『あまやき獣』『あじまん獣』『きんつば獣』。中央レンズ系からは『たいこ焼獣』『ぎし焼獣』『どてきん獣』『じまん焼獣』……えーと、『太鼓焼獣』に『栗まんじゅう獣』。『花見焼獣』と『ピーパン獣』『大判焼獣』と『三笠焼獣』『たいこ焼獣』。さらに裏銀河から『じまん焼獣』『七尾焼獣』『七越焼獣』『ぱんじゅうやき獣』。あとは『焼き饅頭獣』。『どりこの焼獣』『どらこ焼獣』『ぎし焼獣』」
空飛ぶ車の種類をいちいち識別して、俺たちに教えてくれる管理人さん。
「チューブ域の『満月焼獣』『ちゃっぽろ焼獣』『画廊まんじゅう獣』『ずんどう焼獣』『しばらく獣』『望月獣』。さらには『たいこまんじゅう獣』『太閤焼獣』『巴焼獣』。マイナーなところで『御座候獣』『人工衛星獣』『尼い出焼獣』『太幸焼獣』『えびす焼獣』『めおとまんじゅう獣』。そして伝説の『都まんじゅう獣』!」
段々飽きてきた俺たちは、適当に持ってきたトランプでババ抜きを始めた。
「『ずぼら焼獣』『焼一番獣』『ホッペ焼獣』『ふうまん獣』『えびす饅頭獣』『お竹饅頭獣』『横綱饅頭獣』『びっくり饅頭獣』『ひぎり焼獣』『ヒット焼獣』、まさかの『蜂来饅頭獣』『六法焼獣』『やなぎ饅頭獣』『大砲焼獣』『あんこ饅頭獣』! さらにさらに外宇宙から『スタードパンケーキ獣』『車輪餅獣』『紅豆餅獣』。禁断の『オバントク獣』まで来るなんて!!」
戦慄する管理人さんをよそに、俺たちはババ抜きに熱中するのだった。
9/20 『二重焼獣』が二重に入っていたので削除しました。




