番外編 あたしメリーさん。いま強盗団に誘拐されたの……。(後編)
漫画版『あたしメリーさん。いま異世界にいるの……。』(竹書房/バンブーコミックス)著:佐保先生、おめでとうございますスペシャル☆彡
ということで急遽UPしました。
【異世界・クラウドホース辺境伯領山中】
王国民でも『ヤベー連中の吹き溜まり』と呼ばれる未開の地クラウドホース辺境伯領(通称“グンマー”“アチャー・ダンベ”)。赤城の山。
その麓の洞窟を本拠地にしている強盗団――地元の言葉で「とても生意気な」と呼ばれ、血気盛んな原住民に石やら槍やらを投げられる連中――〈ナッカラジューク団〉が、夜半過ぎという時間にも関わらず根城で気炎を上げていた。
「領主が雇った勇者を含めた討伐隊220万人が、いよいよもって迫っている。こうなっては赤城の山も今宵限り、可愛い子分のお前達とも今生の別れになるんだなぁ。ああ、今宵の月も泣いている。だがたとえ一人になったとて、俺にはこの万年溜の雪水に洗い清められた、ゴロー=ノグチ=コマツの鍛え上げた業物……生涯手前ぇと言う、強い味方がいる。最後の最後まで戦い抜こうぞ!」
『造反有理』『革命無罪』と書かれた鉢巻きを締めた、若い男がお立ち台に上って、片手に抜身の剣を振り上げ、片手にメガホンを持って絶叫する。
この青年こそ〈ナッカラジューク団〉の団長であり、地元の〈勇者〉チュージィ・ダサ肉であった。
ちなみに〈勇者〉の称号は、小学校時代、堂々と学校のトイレでウ●コをしていたことから、卒業と同時に称号を賜ったものである。
言うまでもなく、小学校時代、個室でウ●コをたる試練の過酷さは誰しもが知っている――ウ●コ中に友達から放水されたり上から覗かれ、『ウン●マン』とあだ名をつけられ馬鹿にされる――ことから、学校時代はトイレで大をするのは命がけの決死の覚悟が必要なのだ。
それを六年間やり遂げた〈地元勇者〉チュージィ・ダサ肉率いる〈ナッカラジューク団〉は、鋼鉄の団結によって結ばれていた。
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なお、盗賊団の名称を聞いた時のメリーさんたちの反応は、
「子供が五人で“ゴ○ッパーV”とか、赤ガエルな“レッドビッ○ーズ”とか80年代を彷彿とさせるダサいネーミングなの……」
と、すげなく一刀両断であったが、
「え、そうですか? トンチが利いていて私的には好きですけど」
逆に好意的だったのはスズカで。
「「「???」」」
オリーヴ、ローラ、エマの三人は諧謔(というか方言)の意味が不明でいまいちピンと来ていないようだった。
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「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおーーーーっ!!!」」」」」
ちなみに盗賊団とされているが、本人たちはあくまで《革命の志士》であり、レジスタンスのつもりであった。
活動資金をちょっとその辺の集落や町を襲って徴収しているだけで、正義のために青雲の志で行動を起こしている輩なのである(主観的には)。
このあたりは百年戦争でジャンヌダルクが正規軍ではなく、敵からも味方からも盗賊団の団長扱いされ、いざとなったら蜥蜴の尻尾切りされたのと似たようなものだ。
「この狂った世界を正すために、我々は草の根の活動をしてきた! 正義は我にありっ! 愛と勇気と希望を胸に。我々は世界に変革をもたらすのだ!!」
それに応えて、モヒカン刈りやアフロヘア、ドレッドヘアなど思い思いの髪形をした、筋肉モリモリで肩パットなど半裸に防具を付けただけの部下たち100人あまりが、大盛り上がりに盛り上がっていた。
今夜にも領主軍220万人(人民○放軍の現役+予備役とほぼ同数。現実にも存在する以上文句は言わせないし、なろうで異世界だとこの手の風呂敷は大きければ大きいほどいいのだ!)が攻め寄せてくるというのに、まるでテルモピュライの戦い(敵21万人で前後を挟撃された)におけるスパルタ兵300人のように、よーするにヤケクソな盛り上がりである。
ちなみに領主軍220万人の人数はともかく、武器は自前で用意できなかった者たちも相当数いて、そういうのには、メリーさんがスキル『無限包丁』による在庫一掃処分で、各種包丁を売り払っておいたのだった(お陰で奥義のレベルが上がって、ついでに思いがけない臨時収入となってホクホクである)。
そんなわけで、一部の兵隊・傭兵・冒険者・賞金稼ぎ・原住民などは、竹槍の先に包丁を括り付けただけの貧弱装備で、さながら百姓一揆のような風情を放っており、あとドサクサ紛れに人間をつまみ食いしようと集まった、ゴブリン・コボルト・オーク・オーガ・人狼・吸血鬼・グール・ケンタウロス・ミノタウロス・マンイーター・ハギーワギー等も、ウヤムヤの内に頭数に組み込まれている。
いずれにしても「勝ったなガハハ! 風呂入ってくる!」状態で、領主軍総司令官のヨックモック・シガール将軍は、葉巻に見せかけたバタークッキーを貪り食っていた。
一方、〈ナッカラジューク団〉のアジトでは、〈地元勇者〉チュージィ・ダサ肉の鼓舞に応えて、
「「「「「愛よ! 勇気よ! 力よ――三つの心がひとつになって……!」」」」」
一斉にスローガンを連呼する部下たち。
「なってない、なってない! 最後で別な要素が入ったぞっ!! ――おいイワテツ」
「へいっ、若親分!」
すかさず岩石顔をした厳つい顔の鋲打ち革ジャン(黒)に黒の皮パンツとサスペンダーを着込んだ、ハードゲイまっしぐらという感じの乾児(『子分』と書かないところに作者のこだわりがある)が走り寄ってきて、油断している〈地元勇者〉チュージィ・ダサ肉のケツに向かって“カンチョー”を繰り出した。
「ぬお~~~~~っ!?!」
咄嗟に躱すチュージィ・ダサ肉。
「いきなり何をする!?」
「え? 今晩が最期だから遂に親分子分の一線を越えるという意味じゃ?」
心底不思議そうに太い首を傾げる乾児のイワテツ。ゴツイオッサンがやっても可愛くない仕草であった。
(俺はコイツを乾児――じゃなかった同士だと思っていたが、お互いに根本的なところで齟齬があったのかも知れん)
ダラダラと脂汗を流しながらイワテツと対峙するチュージィ・ダサ肉。
「それよりも人質な領主……辺境伯の令嬢はどうしている?」
こうなったら人質交渉でどーにかできないもんかと、苦し紛れの策を弄するが。
「昼頃に『ちょっと出かけてくるわ』と言って、まだ帰ってきてませんね」
「はあぁぁぁぁぁっ!?! どういうことだ!!?? 逃げたってことか?!?!」
「いや~、飯食いに行ってるだけかもしれないし」
全員、ウンウン頷いて同意を示す。
また別なところから挙手する部下がいて、前置きなしに私見を述べた。
「つーか、拉致――誘拐した場所がパチ屋だったし、辺境伯の令嬢って言えば別名『パチカスの令嬢』って有名だし、ここんところパチしてないので相当鬱憤が溜まってたので、抜け出してパチ屋に行ったのかも」
辺境伯の令嬢(16歳)曰く、
「パチンコはワタクシにとって、日常生活から少し遠ざかってリラックスする場であり、他の女性と異なる独自の世界を演出する手段なのよ」
というパチカス女が口にする定型文を日頃から吹聴していた。
話を聞いたチュージィ・ダサ肉が、愛刀のゴロー=ノグチ=コマツの業物を振り回しながら、
「馬鹿しかいないのかここはっ!」
今更ながらの絶叫を放つのだった。
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【現世・神保町にある雑居ビルのワンフロア】
ナンバーディスプレイで『バカだが金になる』相手だと確認した、30歳前後の見るからに半グレっぽい雰囲気を放つ、ノーネクタイに金のブレスレット、黒のスーツにワニ革の靴という――どっからどう見ても真っ当な社会人には見えない男が、面倒臭そうに電話に出た。
「はい、こちら“エポック・ソサエティ・カンパニー”」
『やあ、鬼沢さん。俺だよ俺、筑井建設の筑井 毅祐』
「――ああ、チー……じゃなくて筑井建設の馬鹿息子の」
ちなみに筑井建設千葉県でそれなりに名が通った大手建設会社である。
位置的には”チーバくん”の目のあたり(だいたい成田)に本社があるが、千葉県の主要都市は鼻から舌(ここにDLがある)に沿った場所に集中しているので、そこから離れている以上、あくまでローカルメジャーな地元大手であるが。
『ふふふふ、ご無沙汰ですねぇ(にちゃ)。今日はひとつお願いがあって電話したんですよ(ねちゃ)』
なんでコイツは普通に喋っているだけなのに、こんなに粘着質で気持ち悪いんだろう……と思いながら、受話器を耳から放してオープンで通話する。
『ボクちゃんの愛しい子猫ちゃんにちょっかい出している男がいるみたいなので、ちょいとお仕置きをして欲しいんだ』
「ほう。それはそれは……(120%嫉妬と逆恨みだろうが、まあ報酬次第だな)」
『調べたらバイト先がそっちの事務所の割と近所にある古本屋らしいし』
「それは手間が省けますねぇ。すぐにでも若い連中に乗り込ませてもいいのですが……」
報酬はいくらだ? と暗にほのめかす半グレ集団のボス。
『黒いピーナッツ2個で、ど、どうだ?』
「……なんでいまどきロッキード事件のワイロに使われた符牒なんですかねぇ」
建設業界はまだ使っているのだろうかと、どうでもいい感慨に浸る。
ちなみにピーナツ1個=100万円のこと。
「ここはレンガ半分になりませんかね?」
レンガ1個=1000万円。なおザブトン1枚=1億円。
その後、丁々発止のやり取りを経て、最終的に双方ピーナツ3.5個で手を打ったのだった。
そしてその後、神保町にある『ロンブローゾ古書店』に押し入った輩共は誰一人帰らず、さらにいつの間にか――謎の黒覆面の集団を見たという噂もあるが――事務所ももぬけの殻になっていたという。
「お疲れ様っしたー!」
「ご苦労様♪」
イマドキ珍しいタイムレコーダーにタイムカードをパンチして、バイトを終えた平和が通用門から出ようとしたところで、妙に上機嫌な上司――真蔵さん――が、挨拶を返してきた。
「何か良いことでもあったんですか?」
ふと気になって平和が尋ねると、
「ええ、最近不足気味の戦闘員――パートタイマーを大量に拉致……雇用できたので、大助かりだわ。まさか自分から悪の秘密基地にカチコミかけるおバカがいるなんて、飛んで火にいる夏の虫とはこのことよ……クククククッ」
という答えと、見ようによってはあくどい含み笑いが返ってきた。
「ああ、最近はバイト不足って聞きますからねー。良かったですね」
「ええ、まったくよ」
「「ははははははははははっ」」
と、軽く世間話に花を添えて朗らかに笑い合うふたりであった。
なお“エポック・ソサエティ・カンパニー”はいつの間にやら夜逃げしたことになったが、東京ではよくある話であり、居なくなったところで誰も気にしない連中だったので、大した話題にもならなかったと付け加えておく。
なおこの後、(インタールード2)を挟んで(完結編-①)と続きます。
ついでに。
メリーさん「きっとメリーさんみたいないい子に育つの。ここから念を送っておくの……」




