番外編 あたしメリーさん。いま強盗団に誘拐されたの……。(インタールード1)
ふと思った。
漫画版の佐保先生はひょっとしてBLと同じくらい、ラブコメ風の展開が好きなのではないだろうか……?
しかしメリーさんで恋愛要素ないから悪いな~。
ということでちょっと挑戦してみました。
スマホの液晶画面に、ふたりの若い男女が並んでポーズをつけて映っていた。
片や、いつものゴスロリ様衣装――と言ってもローテーションの特注品で、いろいろと違いがあるらしい。
「アレ○サンダー・マッ○イーンとか、エ○゛ィ・ス○マンとか、カー○・ラガー○ェルドとかにデザインさせているの。以前はヴィ○゛ィアン・ウエ○トウッドがお気に入りだったんだけど、お亡くなりになられたのは残念だわ」
という、世界的デザイナーたちの無駄遣い……というか金と権力にものを言わせて、超一流ブランドの筆頭デザイナーたちに、厨二病全開なゴスロリ服を作らせるという暴挙をやってのけている令嬢が、嘆息しながらかつて語ったものだ。
なおその令嬢(笑)は右目に眼帯をして、左手に包帯を巻いたピンク頭(当然染めている)に前髪にだけひと房銀髪メッシュを入れたコテコテの厨二病の美少女? 美女? ――微妙な年齢の、見た目だけは完璧な美人である。あるが、だがしかし、この写真を撮った時も、
「控えめに言って、ふたりの運命……いやディスティニー!」
と、訳の分からんことをほざいた。言ってやった感満載の満面の笑みである。
で、もう片方は同年代くらいに思える、ノーブランド服を着たトッポイ兄ちゃん。
それがぎこちない愛想笑いをしているという――いまさら言うまでもなく、昼休みに神々廻=〈漆黒の翼〉=樺音こと佐藤 華子先輩の提案で撮られた(サングラスをした見知らぬ美青年が快く請け負ってくれた)、俺とのツーショットであった。
❝2ショット・チェキなのはいいえど、なんで相手はハートマークなのにあなたの方は親指立てたグッドの手なの?❞
勝手に充電中のスマホを覗き見ながら、自称地縛霊である妄想幻覚女が小首を傾げる。
「『片思いハート』とかいうらしい。なんでか知らんけど、樺音先輩がこだわってな~」
キッチンで晩飯の支度をしながら、俺は適当に答えた(これも自問自答だが)。
まあふたり合わせてハートポーズとか、先輩も気恥ずかしかったのだろう。多分。
❝――あ……あぁ…………あ~……。❞
なぜか霊子|(仮名)の背後に無限に広がる宇宙と、なぜか猫が見えた(ついでに管理人さんも)。
「……なんだその何もかも見透かして、達観したような目は?」
幻覚とは言え思わずジト目で問い返すと、
❝別にィ。――ふーん。そういうことね。……いや、別にどうでもいいんだけど。いいんだけど、貴方って素材はまあ悪くないんだけど、コレと付き合っているとなると、せめてアル○ーニのシャツくらいは着てないと、釣り合いが取れないわよ?❞
どことなく面白くなさそうな態度で妄想幻覚女が言い放つ。
「アル○ーニ? なんでスーツ専門店でシャツ買わなきゃならんのだ?」
さすが幻覚。意味不明だ。
❝……駄目だわ。アル○ーニって言ったらスーツしか売ってないとしか思ってないレベルで、ブランドものに縁がない❞
うわ~~と、頭を押さえる妄想幻覚女。
❝てゆーか、お芝居とは言え恋人のフリをするんでしょう? あなたに男女の機微とかわかるの??❞
大いに疑問だと言いたげな懐疑的な目つきで口を尖らせる。
「フリだろうフリ。中学の時から義妹の真季相手に、さんざん恋人ごっこをさせられたので、こう見えても慣れたもんだ」
論より証拠とばかり、俺は壁際にいた(浮いていた?)妄想幻覚女の脇に手をつき、覆いかぶさるように顔を接近させる。いわゆる『壁ドン』をやってみた。
ただ壁に手を当てて接近するのではなく、タイミングや音の強弱、顔の角度など、少女漫画(『ヴァンパ○ア男子寮』とか)とトレンディドラマを参考に、それはそれは何度も何度も真季に、
「くうぅぅぅ、85点!」
「もうちょっとゆっくりと顔を寄せて、お義兄ちゃん。92点っ」
「今日は雑誌の巻頭グラビアに載っていたイケメンアイドルのこのポーズやって♪」
ダメ出しをされながら習得させられたものである。
当時は連日うるさいので、夜にひっそりと自室でメリーさん人形(自称メリーさんのあの幼女のことではなく、いつからか自宅にあった人形)を相手に、壁ドンの練習や目を見ながらの口説き文句――。
「絶対に幸せにする」
「君以外考えられない」
「とにかく君が好きだ」
「一緒にいるだけで幸せだ」
「君といる時間が1番幸せだよ」
といった、いま考えるとド直球過ぎる恥ずかしい口説く文句を、人形相手に囁きまくるという痛い真似をしていたものだ。
まあ若さゆえの黒歴史という奴で、なんやかんやあってあの人形ごと捨てた――もはや誰も知らない。知られちゃいけない――過去であるが、ともあれそんな感じで昔取った杵柄で、
「――俺のことをよく見ろよ」
口説きポーズをとってみせると、
❝ふぇ……?❞
つくづく都合よく――所詮は妄想、実際の女子がこんなにチョロいわけがない――頬を染めて、頭の上から湯気と♡を滅茶苦茶飛ばす妄想幻覚女。
「……と、こんな感じでなかなかイケるべ?」
妄想相手に何をやっているんだ。と、人形相手にしていた時同様の気恥ずかしさを覚えて、普段の調子に戻って(若干方言が出てしまったが)、キッチンで今夜の夕飯である手作りのミートソースに茹でたパスタをからめる。
「あー、乾麺は300gで足りるかー?」
俺の独り言に応えずに(当たり前か)、無言のまま風呂場に消えた妄想幻覚女。
❝…………❞
追い炊きをしてない筈なのに、途端、なぜか風呂場から大量の水に溶岩を放り込んだような音が響いてきた。
その夜はなぜかその後妄想幻覚女を目にすることはなく、俺は大盛りのパスタを残し、また風呂に入ろうとしたら、いつの間にか水が熱湯に変わっていたのを目の当たりにしたのだった。
壊れてるのかもしれん。明日も同じだったら管理人さんに言っておいた方がいいだろう。




