番外編 あたしメリーさん。いま強盗団に誘拐されたの……。(中編-⑤)
【クラウドホース辺境伯領】
リバーバンクス王国のどっかにあると言われている秘境。
その実態は謎に包まれており、『成人の儀式で女子はバンジージャンプ。男子は槍一本で毛無峠のプテラノドンを斃して一人前とされる』との伝聞もあるが、王都からの探索隊が行方不明になったり、辛うじて帰還してもショックで精神が赤子になる程の秘境にも程がある非文明圏。秘境感マシマシの人外魔境。
そこら中にヌーやシマウマなどの他、謎の怪生物が闊歩し、モンスターハウス並みに魔物が跋扈しまくりエンカウントする上に、左右を挟んだ隣国のナガォノ公国(境界のシンボルであったマサア山は実質ナガォノに占有されている)や、宿敵トツィギ首長国との武力衝突は日常茶飯事であるため、首都や他の領土の人間からは『群魔圏』呼ばれ、深窓の貴族の令嬢ならその名を聞いただけで失神するほど、恐怖と戦慄に満ちた土地なのであった(※注釈者不明:なお地球にはグンマ王国(現在のエチオピアの一部)という王国が実在した)。
領都はシバエマ市とされるが、これは王国が勝手に定めたルールであり、原住民はアキルダンロ(現地語で『タオオ市』)を実質的な領地の中心と見做し、その中心地には世界的にも有名な『URABUS』や、業界で二位にダブルスコアつける絶対王者『ダマヤホールディングス』といった王国を支配する技術集団の中核がある……と言われているが、前記の通りそこまで行って帰ってきた者はいないので真実は謎に包まれている。
クラウドホース辺境伯は別名『ナマズ長者』とも呼ばれ、領内の予算の五割は辺境伯家を潤すために搾取され、残り五割を領民たちが奪い合っている。
なお旗下の私設騎士団には「アカギ団」「ワタラセ団」「アヅマ団」「ハルナ団」「シラネ団」などがあり、いずれも一騎当千である。彼ら/彼女らによって領内の治安は保たれているものの、しかしながら限界もあり、内憂外患で現状維持が精いっぱいであるという。
なおこの騎士団の朝礼では「起立! 注目! 礼!」という点呼がとられ、また並ぶ列によって「一の川」「二の川」「三の川」という風に呼ばれ、移動するときに「じゃあ、一の川の隊員から移動してー!」と指示されるのだが、何らかの事情で他の土地に行った際に、「注目!」や「○○の川」という言い方がないことに、「これって常識じゃないの!?」とカルチャーショックを受けることが多々あるとか。
また、有名なレッドキャッスルマウンテンには〈ナニカ〉もしくは、〈名状しがたきもの〉と呼ばれる謎の存在が封じられていて、年がら年中強風が吹き下ろしているという言い伝えも――おや、こんな時間に誰かが……?
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辺境伯の令嬢を誘拐した山賊団を退治するため、遠路はるばる領都アキルダンロの町へとやってきたメリーさんたち。
『あー、懐かしいですねDQⅡ。カセット、フーフーしながら延々とプレイしていました』
とりあえず街の中央にある領主の城へ連れ立って歩いて行きながら、スズカが感慨深く独白した。
『カセットに息を吹きかけるのは都市伝説なの。水分が付いてかえってよくないの……』
『都市伝説が言えた義理ッ!?』
すかさずツッコミを入れるメリーさんと、それにさらにツッコミを入れるオリーヴ。
ちなみに町の近くには『アキルダンロの洞窟』というダンジョンがあり、屈強な辺境伯領の冒険者ですら、「二度といきたくないダンジョンアンケート」で、ぶっちぎりで堂々一位を独走している鬼畜ダンジョンらしい。
なんでも地上一階地下六階の中難易度ダンジョンにされているが、推奨レベルを遥かに超えるモンスターが出没する……のは、ある程度対応できるが、いきなり状態異常(多いのが、睡眠→タコ殴り)をかけてくる奴がわんさかいる上に、各フロアに罠が満載されちょっと選択を誤ると出入り口(なお毒沼の中央にある)に戻される無限ループ。
さらには満身創痍でボスを斃したと思えば、強制的に雪山にテレポートさせられる鬼畜仕様。
途中で挫折する者も数多く、またクリアできた者も「二度と行くか!」と逆切れかます。ある意味人気の不人気ダンジョンであった。
『チェーン展開してB級グルメとしては有名だけど、地元民からもイロモノ扱いされるシャ○ゴの元祖「高○パスタ」みたいな存在なの……』
知ったかぶりをするメリーさん。
なお、「高○パスタ」というのは、たっぷりの太麺スパゲッティ(アルデンテとは程遠いブヨブヨの麺)の上にトンカツ(脂たっぷりのロース)をのせ、さらにミートソース……のような八丁味噌のような、トマトの風味が一切ない謎のソースがかかっている創作パスタである。
味はまあ好き嫌いが分かれるところだろう。俺は嫌いじゃないけど、試しに一度食べた時に店主から、
「いいかい学生さん。高○パスタをな、高○パスタをいつでも食えるくらいになりなよ。それが、人間えら過ぎもしねえ貧乏過ぎもしねえ、ちょうどいいくらいってとこなんだ」
含蓄があるようなないような、どこぞの名言にあやかったような言葉で突然諭されたものである。
なお、続いて、
「ただそんぐらいの稼ぎがつくくらいになると、胃がトンカツとかミートスパゲッティとか重いものは食えなくなんだよなぁ」
と、しみじみ続けられたものであるが、若い胃袋にも結構くるものがあり(S160g・M200g・L250g・LL300g←重さは乾麺の状態。茹でると約2.5倍になる)、知らずにLを注文した俺は地獄を見ることになった。
幸か不幸かそれ以後、高○パスタを食べる機会は巡ってこない。
『どうでもいいですけど、十代の若い住人のほとんどがジャージを着ているのはどうしてでしょうか?』
『それは多分……』
通りを歩く人々の服装を値踏みしながらローラが首を捻ると、スズカが頭の上のキツネ耳をピコピコ動かしながら言いかけた――そこへ猛烈な突風が吹いてきて、
『『『『きゃーーーーーーっ!!!』』』』
と、スカートを押さえて悲鳴を上げる少女たち。
「ぐああああああああああああっ! なぜ音声だけしか伝わってこない!? 生殺しじゃないか!!」
俺はどこぞの『ラッキースケベの呪い☆彡』にかかったことに苦悩する、三年のくせに受験そっちのけで恋愛にうつつを抜かす男子高校生ではないので、そーいう体質になったらなったで「眼福♡眼福♡」と楽しみますが何か?
なお――。
「聞いた話では美少女な男の娘とのキスシーンもあったそうなので(©佐保先生/竹書房)、連載が続いていたら主人公の種が割れて、新たな境地が覚醒したと思うんですよ」
以前にメリーさんたちと地球のマンガについて雑談していた際に、若干腐女子度が高いエマがしたり顔でそう断言したものである。
『ねーよ! つーかそんな種、発芽せずに埋もれたまま腐ってしまえ!』
俺の反論を間接的にメリーさんから聞かされたエマは、なおも諦めがたい口調で、
「それでも佐○先生なら…」
「○保先生ならきっと何とかしてくれる…!!」
「そういう腐臭をしている……!!」
SNSや創作で書かれたことを読まずに、作者が書いてないことを読んで納得や反論する、訳の分からん読者のような断定をしたものである。
と、突風の音とともになぜか急激にオリーヴたちの声が遠くなっていった。
『あああっ、ご主人様が風に吹き飛ばされて糸の切れた凧のように――!』
ローラの悲痛な叫びに合わせて、現地人の、
『駄目だよ、子供はからっ風が吹いているところでは背中を向けて歩かねえと吹き飛ばされるよ~』
今更ながらの助言が聞こえてきた。
『あたしメリーさん。いま風に乗っているの……』
「ゼ○ダのガタキサの祠か?」
そんなメリーさんを誰かが素早く確保する。
『あ、角の生えた〝ぐ○まちゃん”なの……!』
途端、「違う!」と言いたげな馬のいななきのような咆哮が響いた。
『おおおっ! ユニコーンが勇者様をお助けしたぞ!!』
再びオババ様の気合の入った声が響く。
『『『『ゆにこーん……?』』』』
対してオリーヴたちの不信感と当惑丸出しの疑問が噴出するのだった。
『白い色と短いとはいえ角は確かにそれっぽいですけど……』とローラ。
『どう見てもゆるキャラそのものじゃない」とオリーヴ。
『想像していたよりブサイクですねー』歯に着せないエマ。
『むかしリングリングサーカスにいたユニコーンの方がマシなレベルというか……』ホント? と言いたげなスズカ。
『ブヒーーーンッ!!!』
言いたい放題言われた暫定ユニコーンは、メリーさんを小脇に抱えて、すたこらサッサとこの場を後にするのだった。
『あたしメリーさん。山賊団に攫われた娘の捜索にきて、いきなり誘拐事件に巻き込まれたの……』
呑気なメリーさんの感想に、俺もげんなりと返すのだった。
「攫われるの何回目だ、お前?」
※作中における描写は、実在する某県とは全く一切何の関係もございません。あくまでフィクションです。
4/10 若干加筆しました。




