番外編 あたしメリーさん。いま強盗団に誘拐されたの……。(中編-②)
4/5 21:00~1時間でどこまで書けるかチャレンジ[その2]
『あたしメリーさん! におうのにおうの。臭い虫の臭いがするから、ガサ入れなの! もどったら泥棒猫と一緒に滅多刺しにしに行くので、さっさと浮気現場と日時を白状するの……!!!!!!』
やたらしつこくメリーさんから着信が入っていたので、いつも通り閑古鳥が鳴いているのをいいことに、俺は帳場にひとり座ったままスマホに出た。
相変わらず騒々しい上に意味不明な幼女である。
「俺、平和君。いまバイト中なんだけど……?」
『やかましい! どーせ、手を抜いて十分なその場しのぎの仕事なの! それよりもさっさと調子に乗った浮気相手のことを白状するの……! おおかたナントカいう名前の出てきそうなのに思い出せない、いつも一緒にいる地縛霊か、宇宙人の管理人か、物理的に悪魔なエロゲ―義理妹か、絡新婦なJCとの背徳か、厨二病でアホな爆乳先輩あたりが鉄板なのっ。自信を持って、はら○いらさんに5000点なの……!』
興奮しすぎて一部特定の田舎者にしか理解できない、方言になっているメリーさんであった。
(アホの子な幼女にアホ扱いされるとは、先輩も不憫な……)
そういえばウチのオヤジから聞いた話だけど、そのむかし仙台の人が人気クイズ番組に出た時に――。
出題者「問題です。体の部分で「し」のつくところは?」
解答者「背中!」
出題者「それは、方言ですね。もう一度チャンスを差し上げます」
解答者「膝小僧!!」
ブブー!!!
解答者のゴンドラは無情にも降りていった……。
かように哀しい出来事が全国放送された……という悲惨な歴史を踏まえて、俺らの年代はだいたい標準語を普段から話すように、心がけているのだ。
まあ実質的にまったく別な言語を習得する、土着の沖縄や青森の人間に比べれば、難易度はスペイン語とポルトガル語程度の違いなので、まだマシではあるが。
ちなみにウチの地方では、ケン○ッキーフライド○キンのことを『ケンチキ』。ブルーイ○パルスのことを『ブルーハッパラパー』と言うのだが、これが方言だと知ったのは都会に出てきてからであった。
「なんかそう並べられると、俺がどーしょうもないハーレム野郎みたいに思えるなあ。――ま、確かにさっきまで先輩と一緒にはいたけど。あと爆乳先輩でも手品先輩でもなくて、佐藤華子先輩。――ほれ、妹が異世界へ家出したという設定の」
『あたしメリーさん。ああ、DT遠藤の姉なの……』
「いや、十七歳の元……と言っても、現在は先輩の尽力で高校は休学中になっているので、書類上は現役JKのままな〝佐藤里緒”の姉だ。――つーか、誰だよDT遠藤って!?」
お前が一緒に行動しているのは『DJ伊藤』じゃなかったのか? 漫画に描いてあったぞ。
『あたしメリーさん。むかしからDTで変態と言えば、伊藤でも加藤でも内藤でもなく、〝遠藤”というのが世間の共通認識なの。〝THE 遠藤”なの……』
「全国におよそ32万6,000人いる遠藤さんと、本家がある静岡県が憤慨しそうな偏見だな」
『ねえ、なんかすごい勢いでディスられている気がするんだけど?』
そこへオリーヴの不機嫌そうな声がした。
『オリーヴには関係ないの。彼の先輩の「サトウハナコ」と、その妹の……えーと……?』
案の定自分に直接関係ない名前は、メモリーに記憶していないらしいメリーさん。
「『佐藤 里緒』17歳だ。千葉県出身で、都内の高校に樺音先輩のタワマンから通っていたらしいけど、現在は行方不明なので高校には『見聞を広げるために海外に留学している』という形で休学しているそうだ。もっともクラスメイトも担任も、まことしやかに囁かれている『本当は頭の盲腸が重篤になったので、鉄格子付きの病院に強制入院させられた』説を、さもありなんと有力視して触れちゃいけない扱いになっているそうだけど」
前に先輩がぼやいていた。
『――ということらしいの……』
『どーいう理解の仕方よ!? てか、それで納得されたわけ!?! それなりに学校では信頼関係や友情を育んできたつもりなのに! どいつもこいつも人がいないと思って、好き勝手憶測を垂れ流して!!』
なぜか猛烈な勢いで地団太を踏むオリーヴ。
『よくわからないけど気にすることないの。JKなんて「可愛い」って連呼するけど、実際にはテンデン虫も猫も同列で興味なくて、たいてい「カワイイと言ってる自分が可愛い」と思っているだけのあざとい生物なの……』
とりあえずよくわからん例えでオリーヴを宥めるメリーさんであった。
『それよりも問題はメリーさんの彼にモーションかけてきた、その「小野妹子」なの……!』
「『佐藤 華子』もしくは『神々廻=〈漆黒の翼〉=樺音』先輩だっ。もはや原型も留めていない上に、そいつは女ですらないんだが?」
『サトー・ハナコ?』
激昂するメリーさんに訂正すると、幼児がたどたどしく「イトー○ーカドー」と言うような発音で繰り返した。
『お~、なんかこう……子供の頃、大好きなお人形で遊んでいた時のような、萌えるものがありますねー。――はい〝∩(・ω・)∩ばんじゃーい”』
その様子に何かのスイッチが入ったのか、エマがメリーさんの両手を取って万歳させたらしい。
『??? ――おい、なの……?』
お人形さん扱いされて、メリーさんが不本意そうな声を出すも、
『ご主人様……いえ、無防備な幼女の破壊力がえぐいですね』
『か、可愛いすぎる…...あれはずるいです』
ローラとスズカもあっさりと陥落したらしい。
ただ一人、心ここにあらずだったオリーヴが、
『「佐藤 華子』!!?? 華姉がメリーさんの殺害対象と付き合っているの!?』
素っ頓狂な叫びを張り上げた。
『オリーヴには関係ない話なの……』
『いやいや、滅茶苦茶関係者だし。あの色気のイの字もなかった華姉がつき合う男ってどんな人なわけ? 身長は? 体重は? 趣味は? 家族構成は?』
矢継ぎ早に俺のことについて質問をメリーさんにぶつけるオリーヴ。
やめろ。人の個人情報を迂闊に開示するつもりか、メリーさん!?
と、釘を刺す前に、
『勝手につき合っていることにするな、なの。その前に本人はもちろん、親兄弟姉妹一族郎党メリーさんが皆殺しにしてやるの……!! ――ん? 姉……⁇』
メリーさんが一蹴してくれた。
『イエ、ナンデモナイデス。ワタシトハゼンゼンムカンケイデス』
オリーヴも興味本位で聞いたことを反省した様である。




