番外編 あたしメリーさん。いまキツネ狩りをしているの……。(その⑤)
【都市伝説:ベッドの下の男(上)】
一人暮らしをしている女性の部屋に友人が遊びに来た。部屋にはベッドが一つしかないので、自分はベッドに寝て、友人は床に布団を敷いて寝させることにした。夜も更けて寝ようとする女性に、突然友人は外へ出ようと誘う。あまりにしつこく誘うのでしぶしぶ部屋を出ると、友人は血相を変えて彼女に「ベッドの下に包丁を握った男がいる!」と言った。
【真シンデレラ】
魔法使いのオリーヴがかけた魔法によって、ボロ服がドレスに、カボチャがなかったので代わりの西瓜が馬車に、二匹のクマネズミがジョセフォアルチガシア(史上最大・体長3m、体重1tの超巨大ネズミ)に、通りかかった馬と鹿(なぜかシンデレラの傍に従う)を御者と従者へと変えてもらい、王子様が主催する『愛妾選抜ダンスパーティー』へと参加することができたシンデレラ。
「どうせなら魔法で金塊とか出してもらった方が手っ取り早いの……」
「身も蓋もないわね! つーか、時間制限があるのよ、この魔法。12時になったら切れるから、それまでに王子を誑かしてなんとかモノにしなさい!」
「実態は王妃は王妃でどっかの政略結婚でもらって、それとは別に愛人囲うための、『ブサイクと結婚するの嫌だから未来変えたろ』っていう、の○太並みのカスな理由の愛人検定グランプリなの……」
「うっ……!」
「メリーさん――じゃなくて、シンデレラ的にポリコレに配慮し過ぎた、ミスユニバース以上にどうでもいいの。ぶっちゃけ、災害の時に小学生が無理やり折らせられる千羽鶴並みの徒労イベントかつ、王子なんて潰しの効かないボンボンなんて、貰った方もゴミでしかない誰の得にもならない催しだから、ぶっちゃけ興味ないの……」
「いいから、タダ飯食いにいくだけでも行きなさい!」
つーことで、お城の大広間で開かれていた舞踏会場へと乗り込んだ。
ちなみに一子相伝の暗殺拳のような継承をしているイギリスと違って、フランスは子供全員に爵位を継がせるので、ほぼ佃煮状態(その分、領地と財産は分割されて減る)。おおよそ66人に1人の割合で貴族がいたので、貴族といっても国から生活費給付されている『ちょっち金持ち』程度で、ぜんぜんありがたみがありません。
良い服着て『貴族です』と言えばほぼフリーパスでお城へ入ることができました。
「あたしシンデレラさん。いまお城にいるの……」
「おおおおっ! なんという美しい幼女だっ!!」
現れたシンデレラに王子の目は釘付けです。
なお死体の白雪姫(7歳)に興奮して連れ帰った王子(18歳)の事例があるように、王子は等しく幼女に欲情するものと相場が決まっているのであった。
まだしも死体フェチでないだけ、ここの王子はマトモな部類と言えよう。
なお、ぶっちゃけ本人自身が思っているほど、王子は女子からモテてない。
しかし楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。
時計の針が12時を示し、
『ね~っこねっこどうが♪ ネコネコ動画が12時をお知らせします』
定時の時報を知らせるネコネコ割り込みが、シンデレラの頭から冷や水を浴びせかけました。
「「「「「時報しね」」」」」
なぜかシンデレラと周りにいたヲタクっぽい連中が一斉に不満の声を張り上げます。
「――もはやこれまでっ。では、諸君、さらばなの……!」
とりあえず目についた金目のモノと、ご馳走を袋に詰められるだけ詰めて、シンデレラはその場から逃げ出しました。
慌てて取り押さえようとする、フルアーマーで完全武装をしたフランス国家警察特別介入部隊『RAID』。
だが、シンデレラの手から放たれた出刃包丁が、訓練された警察の特殊部隊を蹴散らし、あっという間に城からの逃亡を果たすのだった。
「鉄の鎧を叩いて壊す。メリーさん――じゃなくて、シンデレラがやらねば誰がやるの……!」
「……なんという素晴らしい幼女だ」
カーペットに転がっている出刃包丁を手にして、王子は闇に消えたシンデレラを想って、陶然と呟く。
「決めた。余はあの幼女を妻とするぞ!」
「「「「「「「「「「「えっ!?!」」」」」」」」」」
決然とした王子の宣言に、その場に集まっていた全員から驚愕の声が放たれた。
その頃、お城の駐車場にツッコんでいた馬車を動かすのに苦労しながら――シンデレラに喉元に出刃包丁を突きつけられ、周りの馬車を蹴散らせつつ――無理やり出発させる御者。
「真正面からツッコむか普通? 自宅の車庫に前から突っ込むやつとかおらんだろう。普通一旦止まってバックでケツからいれるよね? アッーーーー!」
いろいろと難儀な幼女である。
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異世界の空を木魚顔の謎の白いロボット――ゴーレムが、物理学的にあり得ない二本のロケット噴射で飛び回っていた。
「行くぞ、ベイ・フォックス! 今日こそ兵拾を斃すのじゃ!!」
内部で操縦しているのは、萌え絵を意識した巫女装束をまとったキツネ耳が象徴的な緋袴から三本の尻尾が特徴的な、十八歳くらいのキツネ娘である。
旋回する〝ベオ・フォックス”とやらを仰ぎ見ながら、メリーさんが忸怩たる口調で地団太を踏んだ。
「あたしメリーさん。完全に日頃からスズカにかけておいた洗脳……じゃなかった、仲間意識がなくなっているの。まさかゴーン狐近づけただけで、ぷ○ぷよみたいに[融合]して解けるとは思わなかったの……」
「味方が敵に洗脳されて対峙するのがお約束ですけど、味方に洗脳されていたのが敵に解かれて、正気になって敵になるパターンというのも珍しいですよね」
傍らでしみじみと感慨に耽るローラ。
「あー、あの毎晩毎晩、スズカの目の前で蚊取り線香みたいな変なクルクルを回してたの、あれ洗脳だったのか~」
メリーさんとスズカの日課を思い出して、エマが腑に落ちた様子で膝を叩いた。
「この暗闇は怖くない。私はもっと怖いのを知っているから……って、そりゃあんな初対面な上に、いつ経験値と毛皮にされるかわからない生殺し状態で、何の危機感も抱かずにのほほーんとしている時点で、変だと思ってたわ。出会った当時からそうなると言われてた風潮はあったけれど、いまからは別々の道。でも突然のことに心の準備が出来ていないわ! でも諦めるしかない……」
ついでにオリーヴが『当時からそうなると言われてた風潮はあったおじさん』と化して、ついでにここぞとばかりに厨二病セリフを爆発させるのだった。
「うおおおおおおおおおおおっ!!! キツネ狩りじゃあああああああああっ!!! 喰らえ、ダムダム弾っ!!」
一方、今回の依頼主である兵拾は、飛び回る〝ベオ・フォックス”目掛けて、血走った目で銃を乱射していた。
「ぎゃあ!?」
フレンドリーファイアーで、背中から撃たれた〝アキタ=コマチ”。背中に背負っていた米俵が爆発したように弾け飛んで、勢いよく地面に激突して当たり所が悪かったのか、ピクリとも動かない。
「つくづく不運な……」
そっと涙を拭いて同情するローラであった。
「あたしメリーさん。お前らはマ○オとゼ○ダから何を学んだんだい? 諦めない心だろ、あきらめたらそれで試合終了なの――と、角替和枝も言っているの。とりあえず困った時のドラ○もん――じゃなくて彼なの。この小説って、ほとんどボケツッコミが戦場のど真ん中レベルで飛び交うのがウリなのに、異世界の連中がツッコみ不足でッ問題なの……」
あっさりと考えることを止めたメリーさんが、異世界から毒電波を発信する。
(((このややこしい事態を相談される《彼》も気の毒に)))
オリーヴ、ローラ、エマの思いが一つになった。
プロアスリートの女並みに気持ちの切り替えが早いメリーさんは、躊躇なく彼に連絡を入れる。
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牛丼チェーンでもコスパが違う。
吉牛は味はいいけどコスパは一番低い。
す○屋は並みがコスパが良いので、特盛なら並盛二個食う方がお得である。
だが一番コスパ的に最強なのは、松○の特盛。す○屋の並盛二個よりもさらにお得なので、俺はもっぱらこれを持ち帰って昼食にしていた。
そんなわけでテイクアウトの牛めしを手にアパートに帰ったところ、猫の額ほどの庭で管理人さんがぽつねんと所在無げに佇んでいるのが窺えた。隣では毎回異なる「ゴジ○の顔」のように定期的にポーズが変わる二宮金次郎の像が、本の代わりにスマホを手に操作している。
「こんにちは、管理人さん。何かお困りですか?」
「あら、学生さん。お帰りですか、実はゴミを捨てるのに『ディメンション・パイルバンカー』で地面に穴を開けたのですけれど、座標が微妙に狂って地獄――じゃなかった。位相空間を貫通する穴を開けてしまったようで、どうしようかと悩んでいるところですの」
見れば管理人さんの足元にはでっかい杭打機と、1.5mほどの真っ黒な穴が開いていた。
【都市伝説:ベッドの下の男(下)】
と、その時女性のスマホが鳴って、反射的に通話に出てみると、
『あたしメリーさん。いま貴女の後ろにいるの……』
ハッと思って振り返ると、いま出てきたばかりの部屋の扉の向こうから、包丁と包丁が切り結ばれるキンキンという金属音と、続いて湿った袋を、何度も何度も突き刺すような音。
そして断末魔の絶叫と……最期に何か重いものが、ビシャリと叩きつけられ倒れる音が扉越しに響いてきた。
思わず友人とふたり抱き合って震える女性のスマホが再び鳴り、震える手でぎこちなくも、どうにか操作して出た女性の耳に聞こえてきたのは、
『あたしメリーさん。とりあえず仕留めたの……』
というメリーさんからの電話であった。




