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番外編 あたしメリーさん。いまキツネ狩りをしているの……。(その④)

【都市伝説:ウミガメのスープ】


ある男が、とある海の見えるレストランで「ウミガメのスープ」を注文した。


しかし、彼はその「ウミガメのスープ」を一口飲んだところで止め、シェフを呼びました。


「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」

「はい。ウミガメのスープに間違いございません」


男は勘定を済ませ、帰宅した後、自殺をした。

「へい、ラメーンおまちアル!」

 ドイツ人を綿棒で叩いて伸ばして調理場に消えたチャイナ料理人は、慣れた手際でカウンターで待っていた客に謎の麵料理を提供する。


 なお他のテーブルでは、レンゲでスープを一口飲んだ紳士が、

「これは本当にウミガメのスープなのかね?」

 再三店員に確認して肯定されたところで、

「うわあああああっ!!! あの肉は――私が長年追い求めていたあの絶品の肉の正体は、アレだったのかあああああっっっ!」

 いきなり錯乱して、料金を置くや否や店にあった中華包丁を掴み、Bダッシュで外に飛び出して通りがかりの人間に襲いかかのだった。


「包丁の使い方がなっていないの。包丁だったらメリーさんが一番上手く使えるの……!」

『アホロレイやめろ』

 そんなメリーさんと交信していた平和(ひろかず)がうんざりとツッコミを入れた。


「チャーハンはまだかね?」

 そんな騒ぎもどこ吹く風で、壁際のテーブルに座っていた、タキシードにシルクハットの紳士が注文を催促する。


「「「「……この店はダメ(です)ね」」」」

「?????」


 一瞬で見切りをつけたメリーさん以外の四人が、そっと扉を閉じて店を後にする。


 とりあえず次の飯屋を探して港町をうろつくメリーさんたち。

 改めて見渡すと、心なしか通行人のほとんど八割方が、完全武装した兵士や騎士、傭兵、冒険者たちといった面々といった物々しさで、心なしか鉄火場のようなピリピリした雰囲気が漂っているのだった。


「つかさ屋」

「焼きまんじゅうだるま」

「マルセ……『まるまつ』なの」

「ツルヤ」

「焼肉おはる」

「る!? る……ル・パティスリー・ヒデ!」

「で、で、田園(でんえん)なの……!」

「それチェーン店の名前ですか? 本当に?」

「和風レストランなの。地元では半田屋や東一屋、ときわ亭、味太助、アンカーコーヒーなんかと並んで鉄板のチェーン店なの……!!」

「う~~ん、まあ確かに地元民以外にスーペルメルカドとか、キオスケ・シブラジル、登利平、シャンゴ、今万人珈琲、朝鮮飯店、いっちょう、おおぎやラーメンとか言っても通じないかも知れませんけど」

「『おおぎやラーメン』はマイナーメジャーなの。さしずめ、こっちで言う『牛たん炭焼 利久』みたいなもの……」


 思わず息を殺すオリーヴやローラ、スズカの緊迫感を無視して、歩きながら暇つぶしに(ある特定の条件(しばり)で)しりとりをしている、メリーさんとエマの能天気二人組。

『てゆーか、「田園」って『ん』が付いたからメリーさんの負けだろう』

 メリーさんの脳裏にツッコミが入ったが、当然のようにスルーした。


 と――。

 裏通りへ抜ける細道で、なぜかバニーガールの衣装をまとった青年(ヘンタイ)が屈みこんで、ひとりの少年に真剣な――命を賭けたひたむきな――眼差しで語り掛けている様子が、否応(いやおう)なしに目に留まる。

「アルス、いいかい。よく聞いてくれ。この包みの中には、俺がいままで体を張って盗んだ(手に入れた)、えっちな品が入っている。もし、俺が戻って来なかったらこれを憲兵に届けてくれ。大人がこれを見たら、多分興奮すると思う」

 その足元には鞭や蝋燭、ピンク色の表紙の本が隙間から覗い見える風呂敷包が置いてあった。

 さらに少年に向かってこんこんと言い聞かせる青年。

「俺が直接、憲兵に自首しようかと思ったんだが、なんていうか、そうするのは逃げるみたいに思えて、ここで戦うのをやめると、自分が自分でなくなるような……。女騎士がエロいとか、領主夫人の下着を盗もうとして捕まった隊長達の仇を討ちたいとか、そういうんじゃないんだ。うまく言えないけど、手薄なこの機会に俺も領主の御令嬢の下着を盗んでみたくなったんだ」

 さらに熱を持ってかき口説く。

「俺が変態だからなのか、理由は自分でもよく分からない。アルス、俺は多分捕まるだろうが、そのことで、町の憲兵や、領主の御令嬢を恨んだりしないでくれ。みんなだって俺と同じで、自分がやるべきだと思ったことを、やってるだけなんだ。無理かもしれないけど、他人を恨んだり、自分のことを責めたりしないでくれ。これは俺の最後の頼みだ。――これでお別れだ。じゃあな、アルス。元気で暮らせよ」


 立ち上がって振り返らずに自分の信じた道を真っ直ぐに向かって行く、そんな青年に向かって少年の悲痛な叫びが追いすがる。

「嘘だと言ってよ、バニィ!!」


 そうかと思えば、槍を持ってビキニアーマーを来た冒険者風の男が、

「ボクは必死にマーニャの内臓をかき集めたんだ。だけど左足首が見当たらないんだ……猫の死骸はゴロゴロしているんだが」

 PTSDによる記憶障害で何やら意味不明なことを呟いていた。


「あたしメリーさん。女がみんな水着を着ている『コ○゛ラ』みたいな世界観ならともかく、下着泥棒がバニーガールの格好をしていたり、オッサン冒険者もビキニアーマーを着るこの異世界っておかしいと思うの……」

((((だからメリーさん(ご主人様)も許容されてるんだろうな~))))

 一斉にそう思うメリーさん以外の一同であった。


 ともあれ、そんな愁嘆場がそこかしこで繰り広げられている光景を眺めながら、

「なんだかいまから戦争でも始まりそうな剣呑な雰囲気ね」

「ああ、その感想は正解だす。まんず、その通りでして……」


 オリーヴが小首を傾げると、なぜかさっき(主にメリーさんから)石を投げられていた、着物姿に市女笠(いちめがさ)(『(むし)垂衣(たれぎぬ)』という薄いベールみたいなのが垂れてる笠)をかぶった娘が、なぜか一行についてきて訳知り顔で解説してくれた。

「「「「誰っ!?」」」」

 陰キャが集まって身内ネタで盛り上がっているところに、「なになに?」と空気読まない陽キャが乱入してきたかのように、またはL○NEに勝手に友達追加されていた見知らぬ他人のように、レズのカップルの間に入って来るウザい男のように、露骨に邪険にするのもアレだし……と良識と警戒感の板挟みで、微妙な雰囲気になるメリーさん以外の一同。


「そーしゃるでぃすたんすなの……」

 その遮蔽物越しに16~17歳くらいの色白の美少女であった彼女の顔を見上げながら、そう時事に則った感想を口にするメリーさん。

『たぶん違う』

 即座に平和のツッコミが入る。


「「「「だす? まんず??」」」」

 一方、彼女の言葉遣いの方に首をひねるオリーヴ、ローラ、エマ、スズカ。

「ベタベタのズーズー弁なの……」

 対照的に、メリーさんだけが娘の喋る言葉を理解する。


「あ、やっぱしお嬢ぢゃん微妙さ東北訛りがあるで思ってだんだども、やっぱしそっちの出身だべ? んで、話ば戻すど、この沖合に〝鬼ヶ島ランド”ど呼ばれるオーク住み着いでら島があるんだけんじょ、オーク征伐するだめに『桃がら生まれだ勇者ピーチ=タロー』で領主様のおい兵団『チーム・ケルベロス』、凄腕傭兵団『ブラックエイプ』、そしてベテラン冒険者集団『雉撃ぢにえぐ男だぢ』だぢが共同で攻めるごどになって。いま町は大わらわなのさ。――あ、おいの名前は〝小町(コマチ)”っていうす」

 最後に下半身はがに股、両手は指先までまっすぐ。両手を股間のやや下に持って行き、ハイレグの角度にセットし、「コマチ!」と言いながら、両手を斜め上に引き上げる一発ギャグをかました。


 ああ、あれかぁ……と微妙な表情になるオリーヴとスズカ。

 無言になるふたりの頭の上を潮風と、少女漫画に出てくるようなダレたデザインの猫の身体に、カモメの翼を持った()()()()がミャアミャア騒ぎながら飛んでいる。


「なるほどオーガ討伐ですか。指揮が桃から生まれた勇者っていうのも変わってますね」

 対照的に異世界ならではの純朴さで話の内容に感心するローラ。

「聞いだ話では、勇者でいうだげあって、身体能力だげだばバイオ4のレオンぐれぁあるらしいんだわ、ピーチ=タローは」

「凄いんだか凄くないんだか。オーガが相手でどこまでできるのか微妙な線じゃないの?」

 勇者に対する評価に対して、微妙に懐疑的な口調でオリーヴが呟いた。


「まあいずれにしても領主も含めて町の皆から信頼を集めているようですから、それだけ人望があるということでしょう」

 比較的好意的な意見のローラ。

「あたしメリーさん。ぶっちゃけ桃から生まれた時点で〝勇者ピーチ=タロー(そいつ)”って人間じゃないの。おおかた化け物には化け物をぶつけろ理論で、いいように利用されているだけなの」

 そして身も蓋もないことを口にするメリーさんであった。


「――で、お姉さんなんで町の人間に石投げられていたわけ?」

 エマが遠慮なく尋ねる。

「おいだば補給部隊のためさ米たがいでぎだんだども、この通り余所者だでいうごどで、怪しまれだ上にありもしね冤罪かげられでおい()刑にされでだんだす」

 聞くも涙語るも涙という感じで語る彼女の背中には、『あやしいコメです。放射能塗れのセシウムさん』という落書きが描かれていた。


「東海岸地方の連中は鬼だす。特さナゴヤ人ど名乗る連中の陰湿な事ったらね!」

 憤怒に燃えるコマチ。

「えー、いやー、そーいうのは一部というか、誤解というか……」

 視線を彷徨わせながらしどろもどろにスズカが弁明していた。


「メリーさん、よくわかるの……!」

「やっぱしわがってくれるすか!」

 ガシっと両手で握手をするメリーさんとコマチ。妙な連帯感が生まれた瞬間である。


 そんなこんなでなぜかコマチも並んで目についた店に入ることになった。

『……ウヤムヤのうちにメンバーに加算されるんじゃないのか、えーと……秋田=小町?』

 平和の懸念に対して、シレっと答えるメリーさん。

「世の中には100人の彼女がいる奴もいるから、いまさら2~3人増えても問題ないの。てゆーか、あなたの周りにいる女どもの方が問題なの。そっちに帰ったら、先に目障りなハーレムメンバーを始末するの。伝説の〝正妻戦争”なの。メリーさんは金髪だし、だからなぜか全員同じ顔をしている剣士(セイバー)の位を得て現界するの……」

『お前はどっちかというと暗殺者(アサシン)だろう。まあアホ毛はあるが……』


 ちなみに『アサシン』の語源は『薬物依存症(ヤクチュウ)になって頭おかしい連中』である。


「まあいざとなればオリーヴがいなかったことにして、代わりに入会させればいいだけだし……」

「さらっと心友(しんゆう)を裏切るんじゃないわよ!」

 こっそりと聞き耳を立てていたオリーヴが、血相を変えて異議を申し立てる。


「あたしメリーさん。自分から心の友とかいう奴はジャイアンと同じで親友でも何でもないの。山○隆夫が脱退した後のずう○るび、国生○ゆり、高井○巳子が脱退した後のおニャ○子クラブなら問題山済みだけど、オリーヴがいなくなっても、荒○注が抜けたドリ○ターズみたいに、まったく影響がないの……」

 臆面もなく答えるメリーさんの返答の内容に首をひねるオリーヴと、

「たとえが古いなぁ」

 昭和とかいう畜生の時代に苦笑するスズカであった。


 そんな馬鹿なやり取りをしていたメリーさんたち。ほどなく数軒先に、

【TAKE屋】

 と看板に竹のマークが描かれたこじんまりした食堂が見えた。


「あたしメリーさん。いま牛丼屋にいるの……」

「牛丼だけじゃなくて定食とかドンぶりものを提供する定食屋チェーンなんだけどね」

 メリーさんの持ちネタを即座に訂正するオリーヴ。


「オリーヴの好きな飯屋なの……」


「そう、私が飯屋(メシヤ)

「「「「お呼びじゃないので、店で中華鍋振っていなさいよ(いてください)っ!」」」」

 なぜか変な隈取りをした中華料理屋のオヤジが、シレっと会話に混ざったのをメリーさん以外の四人が慌てて追い払う。


「てゆーか、飯屋じゃなくて救世主(メシア)! てか漫画版のネタ引っ張るのやめようよ。読者も混乱するし、会話が首尾一貫しないし、佐保先生も気を使うから止めようよ!」

 そう力説するオリーヴに対して、メリーさんはポンと小さな掌を叩いた。


「なるほどなの。より過激なギャグを並べて漫画のインパクトを打ち消す……。二日酔いは迎え酒で止める理論なの……」

「なんで毒を以て毒を制する理論の綱渡りするわけ、いつも!?」

「メリーさん基本的に〝エレベーターが落下しても着地する瞬間にジャンプすればノーダメージ理論”で生きているの……」

「あんたはいいけど、周りを巻き込まないでよ!!」

 やいのやいの騒ぎながら、先頭で【TAKE屋】のドアを開けるオリーヴ。


「わ~。あたしこーいういかにもジャンクで、底辺労働者御用達って感じのお店に入るの初めてです!」

 エマが弾んだ声で、おもいっこそ失礼極まりない声を張り上げる。自重を知らない少女の声は、確実に店内全域を木霊して殺伐とした空気を作り出した。


 それなりに賑わっていた店内が途端に水を打ったように静まり返る。

 一瞬殺意を抱いたが、入ってきたのが年端も行かない幼女と少女たちということで、どうにか怒りを堪えて、額に青筋を浮かべながら、思いっきり仏頂面で飯をかき込む客たち。


「ああなるほど。西日本で見かける『まいど○おきに食堂』チェーンみたいなものですね。私は『は○海老』とか『朝○屋』とか『まる○食堂』とかならともかく、ここには入ったことないですけど」

 納得した風のスズカに向かって、

「あからさまな出鱈目なのっ。いくら大阪だからって、そんな突っ込みどころが多すぎてチュピチュパァ状態必至な名前の食堂があるわけないの……!」

 割と真っ当なメリーさんのツッコミが炸裂する。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「――それがあるんだなぁ」

 ちょうど似たような名前の定食屋で『牛めし(特盛)』の持ち帰りを注文した俺は、スマホから聞こえてくるメリーさんの疑心暗鬼に冷静に返答をした。 

【解説】

男は船に乗っていた。ある日、男の乗る船が遭難してしまった。


数人の男と共に救難ボートで難を逃れたが、食料に瀕した一行は、体力のない者から死んでいく。


やがて、生き残っているものは、生きるために死体の肉を食べ始めるが男はコレを固辞。当然、男はみるみる衰弱していく。


衰弱死寸前の男に他のものが、「これは海がめのスープだ」とスープを飲ませ、救難まで生き延びさせた。


だが、今日レストランで 「本物の海がめのスープ」を口にしたことで、男はすべてを悟ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メリーさんに中華包丁渡したら斬らずに挿しに行きそう。 [気になる点] そして男は思った「ウミガメの方が不味いな」 [一言] かつやというど直球な名前が好き・・・
[一言] 亀ののろいみたいな?
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