番外編 あたしメリーさん。いまキツネ狩りをしているの……。(その②)
新年あけましておめでとうございます。
今年もメリーさんをよろしくお願いいたします。
【夜明け前・ビーチネーム湖湖岸】
そのときERDL迷彩――通称リーフパターンとかジャングル迷彩と呼ばれる、緑色を基調とした森林に溶け込む戦闘服を着こみ、じっと息を潜めていた一見するとただの猟師にして、コードネーム《ソルジャー・ツェーン》(なお潜伏している村では「へーじゅう」と愛称)で呼ばれている青年は、怪しげな気配を感じてふと顔を上げました。
「♪渦巻く婆アの腹の闇 やってきたのはウナギマン ウナーギマン♪」
見れば全身真っ黒でヌメヌメした見かけの鰻魚人が、鼻歌を歌いつつ湖から上がってきたではありませんか。
「♪ゴーリキーゴリオシー アーヤメゴリオシー♪」
音もなく愛銃を構えるコードネーム《ソルジャー・ツェーン》。
「♪ウナギマンから ナマズマン!」
勝手に自慢の喉を披露しつつ、その場で「ギフのポーズ!」と謎のポーズを取るウナギマン。
なんでウナギが変身してナマズになるんだ? という素朴な疑問が頭の隅に湧いましたが、鰻魚人の存在に比べれば些細な問題だと棚に上げして、
「そのテカテカのキレイなハゲ頭を吹っ飛ばしてやる!!」
引き金を引こうとしたその瞬間、どこからともなくドングリが飛んできて、咄嗟に身をよじったせいで僅かに《ソルジャー・ツェーン》の狙いが逸れたのです。
明後日の方角に放たれる銃弾。
「ぎゃあああああああああああああっ!?!」
「どこのどいつだ、いきなり誤射しやがって!!」
その拍子に離れた場所にいた他の猟師にあたったらしく、怒りに燃えた猟師たちが時◯沢◯一が銃を乱射するレベルで怒り狂って、《ソルジャー・ツェーン》がいると思しき方角へ応戦する。
銃弾の雨に慌てて川に取って返すウナギマン。
一方、寸前のところで邪魔をされた《ソルジャー・ツェーン》は、即座にその場から離脱すると、目の端に映った怨敵の姿をとらえて歯噛みするのでした。
――こないだ鰻を盗みやがった、あのゴン狐め。また悪戯をしに来たな!
「クソ狐め。ここで会ったが百年目。死ねさらせ、狐狩りだ~~~~っ!!!」
兵10は愛用のM16アサルトライフルの代わりに、しまっていたAO-18機関砲(R国から密輸品)を設置して、弾帯が途切れるまでゴン狐目掛けて全力で放ちます。
跳弾で他の連中もバタバタ倒れますが、正義の為なら多少の犠牲は仕方ないのはハ◯ス相手に病院やら一般住宅やらを爆撃している、『力が正義』であるイス◯エルとア◯リカが言っているので正しいのだ。
「ひゃっほ~~~~っ!!!!」
完全にトリガーハッピーと化した兵10は、弾切れになった機関砲の代わりに、地面に置いたM16アサルトライフルを、半ば焦土と化した岸辺目掛けて連射します。
さすがに息の根が止まっただろう。
そう留飲を下げた兵10でしたが、その油断した刹那、密かに丸太を身代わりにした空蝉の術で、狐穴に退避していたゴン狐が、
「ヒト族が……潰すぞ……」
怨嗟の声とともに地面から上半身を出すと、AK-47でヘッドショットを決めたのでした。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
『間一髪、ゴン狐こと本名カルロス・リベラ・ゴンは胸ポケットに入っていたドングリのお陰で、《ソルジャー・ツェーン》は防弾アデ◯ンスのお陰で、致命傷は避けたみたいなんだけど、いまでは姿を見ると挨拶代わりにショットガンで撃ち合いをする関係になったの。銃がない時には、取り合えず目の前にあるものを掴んで全力でぶん殴ればいい精神で、バナナで殴り合っている姿も目撃されて、両方とも重度のパンチドランカーでパーになっている説も流布しているくらいで、後はもうどっちが死ぬかの生命のやり取りしか残らないの……』
「後先考えずにからんでくる神室町のチンピラか!?」
『あたしメリーさん。ともあれ暴力はいけないの! 力に頼る人は最低なの……!!』
「まずは鏡見ろや! ……つーか、おかしいな。途中までは『あ、これ進◯ゼミで見たやつだ!』というくらい既視感があったのに、後半、殺伐とした話に落とし込まれてるんだが? あと何で兵=ソルジャーと英語なのに、10だけドイツ語なんだ?」
『レッド◯ラージュがツァ◯トウストラ・アプ◯ーブリンガーになったようなもので、とりあえずドイツ語つけとけばカッコいい理論なの。ドラゴンだってドイツのリントヴルムの方が洒落てるし……そういえば昔、人工芝が出た頃って中日ドラゴン◯ズが負けまくって、「ドラゴンなら人工芝に弱い」というデバフ効果がさんざんネタにされたらしいの……』
「どいつだ、ここのアホな幼女に、んな忘れられた黒歴史を吹き込んだのは!? つーか、FSSは『神は死んだ』で有名な『ツァラトウストラはかく語りき』を踏襲したネーミングだろう。――あ、いや。正月からそういう攻めの姿勢がなくて、現実的な角度でちゃんと説明が欲しいんだけど……まあメリーさんには無理だろうなぁ」
正月ということで実家でゴロゴロしながら、家族や新年の挨拶に来た親戚たちと鍋(じゃっぱ汁)を囲み、正月伝統の子持ちナメタガレイやエゾイソアイナメの煮つけ、いかにんじん、豆腐カステラ、雑煮代わりのホタテ出汁のこづゆ、ハタハタの飯寿司、からかい煮といった東北ならではの郷土料理を肴に、特製の米ジュース・麦ジュース・芋ジュースなどで一杯やっていたところに、メリーさんからの電話がかかってきたところである。
ちなみに異世界では、今年も餅スライム(亜種で納豆スライム、ずんだスライム、海苔醤油スライム、小豆スライム、きなこスライムなどもいる)が大量発生して、無理やり気管に入ってきて大量の犠牲者を出している(という設定)らしい。
『とりあえず消化に良い大根おろしで対抗すべく、冒険者はみんな大根とおろし金を常備してスライム狩りしているの……』
「シュールな正月の恒例行事だな」
『メリーさんは寒いし面倒だからコタツでぬくぬくしながらミカン食べてるけど、そっちのお正月料理って、聞いた限り東北全部の郷土料理が一堂に会した欲張りセットなの。そっちって宮城じゃなかったの……?』
「それは漫画版の設定だろう。原作版では「東北」だけで特に明言してないぞ。だいたい漫画版だって『あたしメリーさん。いま仙台駅にいるの……』から始まっているだけで、仙台在住って一言もないし」
『あたしメリーさん。勝手に記憶を捏造するななの! 最初は「あたしメリーさん。いまゴミ捨て場にいるの……」だったの。捨てられた哀愁から始まったの……!』
「嘘こけ。お前に悲しき過去とか一切ねーだろう! あ、ちょっと待て、いま確認するから。――お袋~、俺の麦わら帽子…じゃなくて、漫画の本ってどこにいったん?」
「エッチな漫画や本だら、とっくに真季がお爺さんのいる山に持って行って焚火にして芋焼いだよ」
「なに勝手なことしてるんだ、このアホ!」
あっさりと言い切られて、俺は思わず振り袖姿で親戚からチヤホヤされ、
「真季ちゃんは将来何かなりたい仕事とかあるのがい?」
「当然、お義兄ちゃんとの永久就職ですけど、それ以外ならY◯utuberかプロゲーマー。漫画家やラノベ作家みたいな“ラクして好きなことだけやって儲かる”仕事がいいですね」
お年玉をもらいつつ、小学生の『将来なりたい職業』みたいな、仕事を舐めまくっている義妹の真季を怒鳴りつけた。
「え? どうしたのお義兄ちゃん?」
「俺の漫画とか勝手に処分するとかどーいうつもりだ!?」
「卑猥な本は良くないと、爺ちゃんにも確認してもらって焼いたんだけど?」
ぐう、さすがにいまだに俺よりも強い爺ちゃんを引き合いに出されては、文句を言い辛い。親戚一同の前だし。
「いや、別に卑猥な内容じゃないだろう。竹◯房のメリーさん……」
「竹◯房の――っていうと『メリーさんとコ●ルさんと』?」
「それは違うメリーさんだ!!」
そもそも持ってないわ!
「メリーの話なんてだいたい同じじゃないの? ほら、『ジェッター◯ルス』と『鉄腕◯トム』。『氷河の戦士ガイ◯ラッガー』と『サイボーグ0◯9』みたいなもんよ」
思いっきり暴論を吐く真季。
『“さん”を付けるの、このスベタ……!』
すかさずメリーさんから、今時珍しい表現での罵倒の声が響いた。
メリーさんの他、金田とフグ◯サザエとキ◯ィと並んで、『さん』付けしないと許せない風潮だからな。
「いや、それは作者が同じで、いろいろ背景があってそうなっただけだ。こっちは作者も芸風も何もかも違うわ!」
「違う作者で似たようなキャラが出るって割とあるわよね~。『ガンダム◯GE』のユリンと『W◯RKING!!』の山田とか、『学園◯リス』の佐倉蜜柑と『こども◯おもちゃ』の倉田紗南。『Re:ゼ◯から始める異世界生活』のナツキ・スバルと『聲◯形』の石田将也とか。これも「メリーさん」っていう共通点があるから、ほぼ同じじゃないの?」
「カップ焼きそば現象に無理やり収斂させようとするんじゃない!」
無理やり話を誤魔化そうとする真季を俺は一喝した。
1/4 訂正しました。
×メリーさんと同じで取り合えず目の前にあるものを掴んで全力でぶん殴ればいい精神で、バナナで殴り合っている姿も目撃されたくらいで、後はもうどっちが死ぬかの生命のやり取りしか残らないの……』
◯取り合えず目の前にあるものを掴んで全力でぶん殴ればいい精神で、バナナで殴り合っている姿も目撃されたくらいで、後はもうどっちが死ぬかの生命のやり取りしか残らないの……』
×「神室町のチンピラか。……つーか、おかしいな。途中までは『あ、これ進◯ゼミで見たやつだ!』というくらい既視感があったのに、
◯「神室町のチンピラか!?」
『あたしメリーさん。確かにそうなの。暴力はいかないの! 力に頼る人は最低なの……!!』
「鏡見ろや! ……つーか、おかしいな。途中までは『あ、これ進◯ゼミで見たやつだ!』というくらい既視感があったのに、
真季の台詞変更
×「メリーさん」→「メリー」
メリーさんの台詞追加
『“さん”を付けるの、このスベタ……!』
すかさずメリーさんから、今時珍しい表現での罵倒の声が響いた。
メリーさんの他、金田とフグ◯サザエとキ◯ィと並んで、『さん』付けしないと許せない風潮だからな。




