SS あたしメリーさん。いままだダンジョンにいるの……。
本日(11/3)久々に佐保先生のコミカライズ版がガンマぷらすで更新です!
読んでみて、ぱっと思いついたのでほぼ一瞬で書いていました(;'∀')
オークキングがいるダンジョンを当てもなく彷徨っているメリーさんとオリーヴ。
出てくるスライムとかどこぞの版権に引っかかりそうな蝙蝠のモンスターとか、スケルトンなどをあたるを幸いに包丁で切りまくって前に前にと我武者羅に進むメリーさんと、金魚の糞よろしく後をついていくオリーヴのふたり。
「メリーさんって脊髄反射でしか生きていないわね。普通レベル上げなら、もうちょっと効率とか、弱点属性とか、適正レベル帯とか考えながら賢く立ち回るものだけど」
そう言って嘆息しながら、メリーさんが打ち漏らしたモンスターに水晶玉でトドメを刺すオリーヴ。
「あたしメリーさん。無能な人間って無能な癖に他人のアドバイスだけは一丁前に具体的な対策を提示してくるの。なぜかというと自分も大体同じ失敗をしてるから……」
「――うっ……!」
メリーさんの鋭い指摘に図星を突かれたのか覿面に狼狽えるオリーヴ。
「そもそもどいつが強いとか弱いとか考えてる暇があれば、ネット上で自分の気に喰わない作品があったら、とりあえず『なろう』って言ってぶん殴ればいいと思っているナーフと同じで、細かいこと考えずにさっさと手を動かすの……!」
その勢いに逃げ出すスライムやスケルトンを追いかけて行って、執拗にトドメを刺すメリーさん。
「いや~理屈はわかるんだけど、熊とかの野生動物じゃないんだから、なにも逃げる相手にまで追いすがって包丁刺さなくても……」
思わずたしなめたオリーヴだが、都市伝説を思えばメリーさんに背中を見せる方が悪いのか……と自問自答するのだった。
「これがメリーさんの愛情なの! 『可愛がりバイオレンス!』訳して『KV』なのっ。あと、とりあえず無心で手当たり次第にぶっ殺していれば、知らないうちにボスとかも倒している可能性もあるの……」
「いやいや、さすがにそんなザッパな事態ありっこないから!」
「理論上不可能ではないの。よってできる。『Q.E.D.』。机上の空論がたいてい可能なのがなろうなの……」
意味もなく自信満々なメリーさんと、どこまでも常識的(と言うより命大事)なオリーヴの意見は平行線をたどるのだった。
「てかさー。いきなりボスと戦って大幅レベルアップって、漫画やラノベならともかく、リスク高すぎるわよ。あんたメリーさんでしょう!? だったら目標に向かって、だんだんと段階を刻んで行くのが信条なんじゃないの。都市伝説の持ちネタを忘れたの?!」
オリーヴのいつになく説得力のある言葉に、虚を突かれた表情でポンと手を叩くメリーさん。
「一理あるの。“ヴィーガンは野菜ばっかり食べることで肉の美味しさを再確認するための思想”って世間では言われているけど、メリーさんも先に雑魚狩りをして、メインディッシュのオークキングは最後に残しておくの! ということで、とりあえずオリーヴのヘボ占い通りに進むの……」
「誰がヘボよ!! まあ、なんにせよ納得してくれて助かったけど」
心から安堵の吐息を放つオリーヴに、メリーさんが手当たり次第に雑魚を蹴散らしながら(やっていることは同じ)、心なしか鷹揚な態度で言い放った。
「メリーさん陳健一並みに物わかりがいいの……」
「アンタの自己評価と周りの意見は、神絵師が自称する『底辺イラストレーター』程も信用できないけどね」
そして15分後――。
ボス部屋に悠然と仁王立ちする巨大な直立した豚を指さし、
「なんで適当に占った場所に、ピンポイントでオークキングがいるわけよ!?!」
物陰からささやき声で絶叫するという器用な真似をオリーヴがしていた。
「あたしメリーさん。牛丼屋やラーメンのチェーン店で一席飛ばしで座っているときに、間にデブが座る確率は異常なの……」
したり顔で解説するメリーさん。要するにろくでもないことは高確率で起こると言いたいのだろう。
弱い敵が居そうな場所を選んだつもりが、思いっきりババを引いたオリーヴは即座に回れ右をしたいのだが、いまにも飛び出していこうと出刃包丁構えてうずうずしてメリーさんを前にして、制止する言葉や行為の無力さを悟るのだった。
それから改めて2メートルを優に超えるオークキングのサイズを見て、
「でっか!」
「確かに無駄にでかくて、将来確実に垂れそうなオリーヴのおっぱいくらいあるの……」
「いやいや、うちの愚姉に比べたら私なんて――じゃなくて、いくらなんでもあんなにはないわよ!」
感心しているようで貶めるメリーさんの相槌に真面目に答えかけて、慌てて否定するオリーヴ。
途端、きょとんとした顔で目を瞬かせるメリーさん。
「オリーヴ、姉がいるの? 初耳なの……」
「初対面の時から何度も何度も説明したわよね!?」
「メリーさん、オリーヴの話って常にうっすら聞き流していたから記憶にないの……」
「……それはそれで腹が立つわね」
釈然としない表情のオリーヴを置いて、早速特攻しようとするメリーさんを、慌てて押さえつける。
「無理だって! アンタとは身長で倍以上、体重に至っては十倍以上は差がある相手に勝てるわけないでしょう!!」
「きっと男塾方式なの。なんかこうオーラによって大きく見せてるだけで、実際に戦ってみればいきなり弱体化するの……」
そんなわけあるか! と思いながら、オリーヴは時間稼ぎのために水晶玉を取り出して、
「必勝のための筋道を占ってみるわ」
そうほざきながら朗々と言葉を紡ぎ出した。
「『影が静かに伸びる 始まりの時 始まりの戦いの静寂に 一人の魔術師が立ち上がり 灼熱の息吹に包まれる。世界の終焉を告げる炎に抱かれ 魂、地獄の業火に焼かれながら 彼女は選ぶ 永遠の苦しみを 昇天など望まず ただ立ち向かう道を 狂気すら纏う憎しみの中 静寂など見つからず。血潮は沸騰し、復讐の炎を燃やし続け 闇の領域、暗黒の荒野を駆け巡る。汝、勇者の冠を戴き 白銀の牙で敵を蹴散らす者 その名は伝説に記される』」
内心ビビりまくっているオリーヴがあの場に行くのを先延ばしにするため、長々と妄言を吐き続けるのを聞き飽きたメリーさん。
暇つぶしに平和に電話をするのだった。
『――ん? メリーさんか。今日は(電話が)遅かったな?』
「あたしメリーさん。電車が遅れていま出たところなの。もうすぐあなたの後ろに着くの……」
『蕎麦屋の出前の言い訳か! 実際には何もしてなかったんだろう!?』
「そんなことないの。いまオークキングと戦うところなの……」
『オークキング……?』
怪訝な様子の平和にメリーさんは鞄から女児限定おやつの定番、おまけが本体、お菓子売り場の宝石箱セボ◯スターを取り出して開封しつつ、カクカクしかじかと現在の状況を話し始める。
「――って、私を放置しないで電話してんじゃないわよ!」
完璧に無視されたオリーヴがオラつく。
「問題にはキッチリ線引きしろとアドラー先生が言ってたから、メリーさんも線引きしただけなの……」
「誰が問題よ! あとおやつがあるなら私にも分けてくれてもいいでしょう。どうせアンタのことだから、おまけの85種類にシークレットも含めたコンプリート目指して複数買ってるんでしょう、セボ◯スター!」
飢饉で追い詰められ、人間を喰うことを覚悟した農民のような目つきのオリーヴの圧に押されて、メリーさんが舌打ちしながら鞄から箱を取り出して渡した。
「――ちっ、目敏い女なの……」
「ありがとー……って、代わりにセブ◯スターを渡すとか、ベタなギャグをするんじゃないわよ!!」
渡された煙草の箱を地面に思いっきり叩きつけるオリーヴ。




