番外編 あたしメリーさん。いまオークと斗っているの……。
タイトルの「斗っている」は「たたかっている」と読みます。
元ネタはゴラ◯オンの主題歌「斗え ゴラ◯オン」からです。
なお作中に出てくる人物、名称、団体など架空のものであり、元ネタなど断じてありません。
延々と続くかと思われた、お互いのプライド・趣味嗜好・特殊性癖を賭けたオークソルジャーたちの同士討ちを制したのは、意外やレベルが一番低いオークソルジャー・アーダルベルト(幼女好き)であった。
たぶん『そこにメリーさんが一匹おるじゃろう?』という感じで、支援効果が発生して実力以上の力が発揮されたのだろう。
『ぶもおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』
死屍累々たる元仲間たちの屍の中、こん棒を持ち上げてプ◯トーンポーズで、勝利の雄叫びを上げるアーダルベルト(ロリコン)。
たぶん「勝った! 勝ったぞーーっ!!」とメリーさんにアピールしているのだろう。
【アーダルベルトのレベルが上がった!】
●オークウォーリア(名前:アーダルベルト) Lv20
・HP:70(-59) MP:25 SP:14
・スキル:悪食1。臭気追跡1。強靭2。剛腕1
・装備:腰蓑の切れ端。ロリこん棒(←武器も進化した)
・性癖:幼女大好き
・弱点:切れ痔
同時にレベルが上がって種族名も『オークソルジャー』から『オークウォーリア』に変わったことをオリーヴの【簡易鑑定】が見て取る。
歓喜に震えるアーダルベルト……の背後から――
『あたしメリーさん。いまブタの後ろにいるの……』
『――ぶも?』
不意に聞こえてきた幼女の声に振り返ろうとしたところで、一切の躊躇も懊悩もなく、激闘の末にほとんど腰蓑が破れて見えるアーダルベルトの剥き出しの●●*に、ひと際ぶっとい食べ終えたタラバガニのトゲトゲした脚が、根元まで一気に突き刺されたのだった。
『~~~~~~~~ッッッ!!!!!!』
すっかり油断していたところで弱点を的確にエグられ、拷問されるよりもなお過酷な、肉体が発する痛みのおそらくは限界であろう激痛に、ケツを押さえて声にならない断末魔の絶叫を放つアーダルベルト。
だが、なおも無慈悲に、
『こーくすくりゅーなの……』
さらにダメ押しで手首から回転を加えるメリーさん。
限界を超えた痛みに神経が先にくたばったらしいアーダルベルト。
口から泡を吹いてその場に膝をついた姿勢のまま失神し、痙攣しながら半分魂が抜けかけたところへ、オリーヴが思いっきり振りかぶった水晶玉でアーダルベルトの脳天を殴打してトドメを刺した。
どーでもいいけど御大層な来歴を誇っていた水晶の割に、思いっきり雑に扱ってるな。
「……お前ら、エグイことをするな……」
痔の相手に容赦ってものがないのか、この狂幼女は。
カレー鍋をつつきながら、思わず俺はげんなりと呟いた。
心なしか幻覚である霊子(仮名)も、箸を止めてドン引きしている。
『毛ガニの方が良かったかしら……?』
「同じだ同じ! せめて表面がスベスベなズワイガニにしておけ」
『スベスベマンジュウガニ……??』
「無茶苦茶毒持ちのカニじゃねーか。なおさら質が悪いわ!」
ちなみにこの毒カニの身には、ゴニオトキシン(麻痺毒)、サキシトキシン(麻痺毒)、ネオサキシトキシン(神経毒)、テトロドトキシン(フグ毒)、という数多の毒が含まれている毒のスーパーマーケットなので、見かけても迂闊に触ったり食ったりしないこと。そして●●の穴にツッコんだらまず間違いなく死ぬ。
と――。
【メリーさんのレベルが上がった!】
・メリーさん 蟹好き狂幼女人形 Lv15
・職業:勇者兼王立フジムラ幼稚園在園
・HP:29 MP:51 SP:37(9/37)
・筋力:19 知能:1 耐久:23 精神:26 敏捷:27 幸運:-59
・スキル:霊界通信。無限柳刃・出刃・麺切り・牛刀・三徳包丁。攻撃耐性1。異常状態耐性1。剣術5。牛乳魔術2。情けの一撃Lv1(new!)
・奥義:包丁乱舞
・装備:ストラップシャツ(ラベンダー)。レトロリボンタイ(赤)。ショートキャミワンピース(赤系)。リボン付きハイソックス(白)。スノーブーツ(ブラウン)。巾着袋(濃紺)。殲滅型機動重甲冑(現在差し押さえ中)。妖聖剣《煌帝Ⅱ》【※もともと聖剣であったが、不本意な扱われ方によりグレて変質した。持つ者の正気を奪うが、無垢な子供とはじめっからおかしい狂人には効果がない】
・資格:壱拾番撃滅流剣術免許皆伝(通信講座)
・加護:●纊aU●神の加護【纊aUヲgウユBニnォbj2)M悁EjSx岻`k)WヲマRフ0_M)ーWソ醢カa坥ミフ}イウナFマ】
「……どーでもいいけど、いい加減に知能上がらんもんかなぁ。アザトースだって、いつまでも『齧り付く白痴』とか呼ばれてフリー素材扱いされるのは嫌だろう?」
『何のことなの??? まあ細かいことはどーでもいいのっ! それよりも新しいスキルに着目するの! 瞠目するの! 刮目するの……!』
どうせしょうもないスキルなんだろうなぁ……。
クリスマスにサンタさんにゲー◯ボーイ頼んでたのに、キテレ◯大百科のゲー◯ウォッチ出てきた時の小学生時代の苦い絶望と哀しみを思い出しながら、俺は仕方なく、我儘な子供をなだめる要領で詳細を聞いてみた。
【情けの一撃:抵抗できない相手にトドメの一撃を加えることができるパッシブスキル(Lv1だと確率5%)。なお物理的攻撃の他に、口撃で文脈的にトドメを刺す場合にも発動する】
「……また微妙な技を覚えやがって……」
卓上コンロに再度火をかけ、鍋に〆のうどんを入れながら俺は思わずうめいた。
【情けの一撃】って、本来は重傷を負って苦しむ人間や動物を救うため、慈悲の心から止めを刺す行為だが、要するに切腹における介錯。銃殺刑にした相手がまだ息があった場合に、立会人が頭に一発撃って安楽にさせるとかだが、どっちかと言うとイメージ的には――。
『素晴◯しきヒィッツ◯ラルドなの。指パッチンの最期なの。メリーさん「生きて恥をさらすのも辛いだろぅ? 助けてやるよ……」な忍ぶ気ゼロの忍者と同じなの……!』
はしゃぐメリーさんの言う通り、だいたいのイメージがアレなんだよなぁ。悪人が無抵抗の相手に「苦しいか? いま楽にしてやるぜ」という悪意満載のオーバーキル的な。
“まあいいんじゃないの、五パーセントくらいなら。あってもなくても誤差の範囲内でしょうし”
一緒にうどんを啜りながら霊子(仮名)が投げやりに合いの手を入れてきた。
「いや、5%って結構洒落にならない確率だぞ。赤ん坊がハチミツを食べて乳児ボツリヌス症にかかる割合がだいたい同じくらいで、『絶対に一歳未満の赤ん坊にはハチミツは食べさせないで!』と全面禁止にしているくらいなんだから」
“ああ、まあ……命に係わることだからねぇ……命は大事……無理はいけない”
なぜか遠い目になる霊子(仮名)。
さて、その後もレベルが上がったメリーさんたちの快進撃は続く。
●オークウォリアー(名前:エーベルハルト) Lv17
・HP:62 MP:20 SP:9
・スキル:悪食2 超回復1 大食2 強化1
・装備:腰蓑。錆びた剣
・性癖:作者存命時の大山ドラしか認めない派
・弱点:痔
●オークアーチャー(名前:フェルディナント) Lv18
・HP:63 MP:18 SP:12
・スキル:悪食2 臭気追跡2 強靭1 遠目1
・装備:腰蓑。粗末な弓矢
・性癖:作者没後も含めて大山ドラしか認めない派
・弱点:痔
●オークランサー(名前:ゲープハルト) Lv19
・HP:66 MP:22 SP:13
・スキル:悪食2 投擲1 俊足2 突撃1
・装備:腰蓑。錆びた槍
・性癖:わさドラしか認めない派
・弱点:痔
●オークディフェンダー(名前:ハルトムート) Lv19
・HP:69 MP:20 SP:10
・スキル:悪食3 不退転1 鉄壁2 剛腕1
・装備:腰蓑。木製の盾。錆びた斧
・性癖:旧版も新版も日テレドラも全部好き派
・弱点:痔
『『『『ブヒブヒ……!? ブヒ~~~~~~~~~ッ!!!!』』』』
オリーヴの【簡易鑑定】でお互いの性癖がもろにバレた瞬間に、仲間意識はどこへやら、お互いに殺し合いを始めるオタ……じゃなくてオークたち。
そのドサクサまぎれに、
『これはエマの分!! そして……これは!! ローラとスズカの分なの!! 三人目はあの幼い兄弟の!! 最後にこれは……!! きさまによってすべてを失ったメリーさんの……あたしの……このメリーさんの怒りなの……!!』
メリーさんがカニの脚(時にはハサミ部分)でカンチョーを決め、悶絶するオークの脳天にオリーヴが水晶玉をフルスイングするコンボが見事に完成したのだった。
『護身完成なの……!』
『護身じゃなくて思いっきり攻撃よ! てか私のスキルに「共犯者1(※殺害行為を補助した場合、2倍の効果が出る)」っていう物騒なのがいつの間にか付いてるんだけど!?』
満足げなメリーさんと、それとは対照的に不本意そうなオリーヴの声が重なる。
“♪~~♬~~♪♪”
スマホから聞こえる殺人(殺豚? 屠殺?)の実況中継を聞きながら、隣で鼻歌を歌っている霊子(仮名)と肩を並べて、シンクで晩飯の跡片付けで鍋やら食器やらを洗う俺。カレーはすぐに洗わないと面倒だからな。
こうしていると食器洗い洗剤のCMみたいな爽やかな光景だが、あくまで俺の幻覚であり、実体はモテない大学生がひとりで洗い物をしているに過ぎないと思うと、やるせなさが倍増するというものだ。
『むう、あれだけ豚を屠ったのに全然レベルが上がってないの……』
『ああ、レベルも15を超えると経験値がしょっぱくなって、なかなか上がらなくなるらしいわ』
『あたしメリーさん。理解したの。よーするにスズカの胸みたいなものなの……』
『……アンタそれ間違ってもスズカ本人には言っちゃ駄目よ』
変な理解の仕方をしたらしいメリーさんに、オリーヴがやたら真剣な口調で念を押した。
『わかったの……!』
「わかってないだろうなぁ」
“わかってないでしょうね”
『わかってないわね、アンタ?!』
期せずして俺、霊子(仮名)、オリーヴの台詞が一致する。
信用できないことにかけては絶対の信用が置ける幼女であった。
『――それはともかく。マジでオークが集団発生しているわね。いまさらだけど、オークって雄ばっかりの種族でどうやって増えてるのかしら。まさか、こう……薄い本が厚くなる展開が現実なわけ?」
いまさらながらぐへへ展開の可能性に思い至って身の危険を感じたらしい。そわそわと落ち着きのない、「そろそろ帰りましょう」と言いたげな気配がオリーヴから漂っている。
『メリーさんも詳しくは知らないけど、ここのオークに関しては《スマイル・ピッグ》のせいなの……』
やれやれと言いたげな口調で、メリーさんが何やら話し出した。
『何よその《スマイル・ピッグ》って?』
『そう、あれは何日か前……』
SPがある程度回復したらしいメリーさんは(先天スキルの『霊界通信』と『無限包丁』はMPではなくSPを消費するらしい)、例の安全地帯を作って休憩をはさみながら《スマイル・ピッグ》とやらについて、オリーヴに尋ねられるままいい加減に話し始めた。
もうちょっとスマイル・ピッグまで書くつもりでしたけれど、病院で体調を悪くされたので今日は早めに切り上げさせていただきます。




