番外編 あたしメリーさん。いま幼稚園VS保育園の戦いがおきたの……。⑥
文字通り暴走する桜前線とそれを擁護して火炎魔術で、
「自然を破壊する汚物は消毒だっ!」
ヒャッハー! する自然崇拝のエルフ集団。
ドサクサまぎれに海戦を開戦したリバーバンクス王国と、隣国リバース・ハズバンド共和国。
ついでに伝説の屍術師による「このあと滅茶苦茶召喚した」ゾンビ津波と、噛まれてどんどん増殖していくゾンビたち。
そして等しく犠牲になる王立フジムラ幼稚園の園児たちとJ・J・ルソー保育園の園児たち。
ついでに花見に出店していた露店のオヤジ連中が本気になり――異世界はなぜか飯屋と薬局と農業が多い上に、本気を出すとどいつもこいつも完全体の巨◯兵並みのビームを放つ――周囲一体、艦隊や蠢く桜前線やゾンビごと薙ぎ払われた。
『混乱のハッピーセットか、じゃなければ関西に得◯うどんっていうチェーンがあって、とんこつ唐揚げうどんのトリプルとかいうカロリーをガン無視した代物があるけど、それみたいなものなの。ここぞとばかりに、どいつもこいつもまるで水を得たサカナみたいに……』
「それを言うなら“水を得た魚”だ」
なお収拾がつかなくなっている現場では、メリーさんもとりあえず目についた相手を誰彼構わず包丁で刺しまくっていたらしい。
『……ううう……た、助けて……ぐあああああああっ!?!』
明らかに瀕死の相手にトドメを指してるよな!?
『弱い相手はもう飽きたの。強い相手はどこにいるの……?』
さらに包丁を構えてうろつく狂幼女。
もはや目的も何もなく、周りにいる連中がお手頃な経験値にしか見えないのだろう。
相変わらず敵に回すと厄介だが味方にすると頼りにならない、ジャンプの敵役みたいな幼女であった。
「混乱のドサクサまぎれに手当たり次第に不意打ちで殺しておいて、何を強者みたいなことを言っているか!?」
喫茶店のレジで精算を頼みながらスマホの向こうにいるメリーさんにツッコミを入れる俺。
『メリーさん、またなんにんか殺っちゃいました、なの……?』
とぼけたことを抜かすメリーさん。実際に聞くと滅茶苦茶腹立つ台詞だな、おい!
つーか、なろう系俺TUEEE主人公の何が腹立つって、他の連中が算盤で頑張ってるところ、EX◯EL使っていきり散らしているところだよな。
同じ土俵じゃねーだろう! お前が凄いんじゃなくて能力が凄いんだろう! 不正行為で努力した人間を見下すな!! 算盤できる努力の方が数段凄いわ!
そう声を大にして言いたい。
『なんかもう関節の上から手足吹き飛んでダルマ状態で人狼になってたから、メリーさん幼女の情けでぶっ殺したの。だいたい死ねば助かるの』
「それは人狼じゃなくてバイ◯レンスジャックにでてくる人犬だ! つーか解決方法が力業過ぎるだろうがっ!」
『そんなことないの。殺人事件があっても皆殺しにすればあと腐れなくてスッキリするの。関係者全員殺せば自動的に犯人も殺せて、事件解決! メリーさんこの方法で、犯罪組織を末端からボスまで――たまに裏ボスがいて、拍手しながら階段を下りてくることがあるけど、口上を聞く前に有無を言わせず殺すの――皆殺しにして、事件解決に導いたことが何回もあるの……!』
「……相変わらず、要件定義を間違えたAIみたいに、思いつくと行動するとの間の壁を知らない奴だな」
相手にとっては、包丁持った幼女の姿をした災害か通り魔に狙われたようなもんで、不幸なんてもんじゃないだろう。
なお、アパートの自室へ戻った時に、独り言でこの話をしたら、幻覚である霊子(仮名)が思いっきりジト目になって、
“いや、それアナタがいま現在遭遇している事態というか、怪談なんですけど?”
とか相変わらず訳の分からん幻聴をほざいていた。
「……てか、お前前回変身して大人になったんじゃないのか?」
ふと前回を思い出して確認する。スマホから聞こえてくるのはいつもの幼女の声だ。
『♪大人になったら、何になる~♪ おおおとなになったら~~、「恥を知れッ、俗物!」という大人になるの……』
嫌な大人だなぁ。
『あたしメリーさん。ぶっちゃけ作者が前回の話をすでに忘却の彼方にしているので、ゴッドマ〇リセットでなかったことになっているの……』
「……プロットは?」
『この話にそんなもんあると思うの? 逆に漫画版にちゃんと伏線回収とか、今後の展望とか、ラストまで決まっていることに驚いているの……』
驚くなよ! 普通創作ってちゃんと首尾一貫して作り上げておくものだぞ。お前みたいにチャランポランでやっていけるか!!
『ちなみにラストはメリーさんにぶっ殺されたアナタが、ふと冥土へ続く道で気が付いて「やれやれだぜ」という感じで歩き出そうとしたところで、「あたしメリーさん。いまあなたの後ろにいるの……」というメリーさんのキメ台詞で振り返ると、そこにメリーさんがいて「あたしメリーさん。ずっと一緒にいるの……」という続く言葉でデレたアナタが、メリーさんと手を繋いであの世に行くという、嬉し恥ずかしいナウなヤングにバカ売れの最後なの……』
「ベタなラストだな、おい。つーか、普通自分を殺した相手とお手て繋いでランランランとはならんだろう」
佐◯先生は好きそうな気がするが……。
さてレトロ喫茶店でありがちなレジ前渋滞も緩和して、ようやく俺の番が来た。
なお、俺の前では営業中に休憩を取っていたらしいサラリーマンが、お互いの給食の話題で盛り上がって、
「やっぱり給食で思い出に残っているのは『ふかひれスープ』だっちゃ」
「「「そんなものが給食に出るか! いくら宮城でもそんな高級食材を使うわけないだろう。即座にわかる嘘をつくな!!」」」
「あ、じゃあ愛媛県民のソウルフード。給食でもお馴染み『ポ◯ジュースごはん』は?」
「「「だから名物だからと言って極端から極端に走るんじゃない! あるわけねーだろ、そんなもの!!」」」
「『ふかひれスープ』はあるよ」
「『ポ◯ジュースごはん』もあるよ、愛媛にあるよ。蛇口捻ればポ◯ジュースが流れるし」
「「「嘘乙!」」」
「給食の名物って言えば、群馬県民のソウルフード『しもつかれ』だろーがジョーシキ的に!」
ついでに関係ない、店内にいたグンマ―人が声高らかに異議を唱えた。
「はいはい。それよりもご当地名物の給食と言えば『金魚飯』だろうな。あれが全国区でないと知って逆にビックリ――て待て待て、そうじゃない! お前らが想像している飯と違う!」
「「「…………」」」
金魚飯ねえ、確か岐阜の方の人参ご飯にそんなのがあるとは聞いたことがあるけど。
「ふっ、いよいよ真打登場だな。給食の思い出に残る人気メニューと言えば――!」
「「「……と言えば?」」」
ゴクリと唾を飲み込むリーマン仲間たちにむかって、オッサンは傲然と言い放った。
「伝説の『味噌ピーナッツ』だ!」
「「「あんなもん食えるか!!!」」」
肩透かしを食ったリーマンたちが揉めに揉める。
あんまりアレ過ぎて広島が2年間しか給食に出していなかった、ある意味伝説だな。伝説過ぎて一気にオッサンの出身場所と生年(1974年前後)が特定されてしまった。
さて、いつまでたってもヤマザキが不動の姿勢を示しているので、業を煮やした神々廻=〈漆黒の翼〉=樺音こと佐藤華子先輩とスマホのLioneで示し合わせて、お互いにバラバラに喫茶店を出て外で合流することにしたのだが……。
カード決済は勝手に財布の中身を覗かれ、第三者に見えない手を入れられ金を抜き取られている気がして――義妹の野村真季曰く「神の見えざる手ってやつよ、お義兄ちゃん」というらしい――基本的に現金以外は信用していない。
たまに壺に小銭を入れておいて貯金していると、小銭を握り締めたまま抜けなくなった状態で発見することがあるので(基本的に阿呆である)、寄ってたかってタコ殴りにしてから、しばらく真季が『てっちゃん』と名付けて飼っていたけど、いつの間にかいなくなってしまった。
今頃どうしていることやら――。
なお、樺音先輩の解説によると、
「“オーダー・オブ・ザ・オカルトハンド”ね。作家の元にやってきては『降りてきた』状態にさせて、創作を促す心霊現象よ。そのための編集者や小説家による秘密結社も存在すると噂されているわ。でも、リゲル人と爬虫類人の交配人種が築いた現在の日本を、欧米イルミナティは、竜座人階層の下等な種の末裔であると主張して排除しようとしている陰謀は周知のこと……」
と、意味不明の供述を繰り返しており。
ついでに――。
「地球の神って、下手すりゃその辺のただのオッサンに殴り殺されるくらい弱いのに、しれっと『神は死んだ』とか言われても復活するくらい厚顔なのはある意味感心するわ。言うなれば一年戦争中WBでモビ◯スーツ操縦していたはずが、何もやってない無能の烙印を捺され、一生天パと比較されて後ろ指刺されまくったジョブ・ジョンと同じで、後々殉職しなかったって点から見れば勝ち組みたいなもんよね」
というよくわからない評価を『カミノミエザルテ』とやらに下す真季であった。
「大いなるすべての源、一なる至高の根源神界、すべての神界・天界、そしてアセンディッド・マスターはもちろん、アインソフ評議会、大天使界、聖母庁、キリスト庁、メルキゼデク庁、宇宙連合、銀河連連邦、太陽系連合、インナーアース連合、それらのすべてが『スピリチュアル・ハイラーキー』であることを、我らの集合的意思機体ハイアーセルフは残念ながら理解できるほど成熟していないわ!」
ヤマザキ相手に樺音先輩が時間稼ぎ(?)の舌鋒を振るっている。
ともあれ会計を済ませて店の外へ出ようとしたところで、玄関マットの妙な弾力に首を捻ったところ、いきなり玄関マットが立ち上がって、全身にボディペイントを塗った女性へ変貌した。
「あ、うちの姉です。趣味で人間ドアマットをやっていたドアマットヒロイン希望の姉です」
レジ打ちをしていた高校生くらいの女の子が『ドアマットヒロイン』らしい姉を指し示す。
「あと、両親も趣味で人間椅子を店内でやってます」
と、思いっきり深々と椅子に座っているヤマザキと樺音先輩の方へと視線をやる。
「……おい、大丈夫か」
「大丈夫ですよ。空気椅子の世界記録が十時間ちょっとで、両親とも世界レベルですので」
こともなげに言い放つ女の子。
最近は変な趣味が流行っているなー、と思わず喫茶店の玄関先で遠い目になる俺。
ちょうど目の前を山崎◯パンの1966年当時から変わらぬ金髪の少女(スージーちゃん・三歳)が描かれたトラックが通り過ぎ、何台ものトラックが道路一杯に広がってアクセル全開に、いかにも連日の残業で疲れ切ったサラリーマンやOLを跳ね飛ばしていった。
そのまま空気中に溶けるように消える犠牲者たち。
「「「「「「異世界転生です!!!」」」」」」
「わっ!? びっくりした!」
「アナタはいままさに神秘の世界に足を踏み入れたのです! さあ私たちは世界的に有名な秘密結社フリーメーソンです。自由、平等、友愛、寛容、人道をモットーに会員を募集中! 一緒に異世界へGOです!」
「どーも、毎度おなじみイルミナティです! ちなみにフリーメーソンの上部団体になります。パッとしない貴方も会員になって今日から世界を――」
「薔薇十字会です。魔術結社でもあります。何の能もない貴方でも魔術を覚えて人生一発逆転できますよ!!」
「編集者のみがその存在を知るオーダー・オブ・ジ・オカルトハンド! 日本の変……じゃなかった編集者の九割が会員で、オカルト系はほぼ百パーセント信奉者なので、会員になるとたちまち書籍化作家だっ」
「三百人+α委員会の者です! 神はもう古い。これからは悪魔を信奉して、世界を支配するのです!!」
「『アビスのラストを見るまでつくしの卿に脂ギトギト辛しラーメンを食べさせない会』では、竹公認団体として――」
同時にそこいら辺にいた通行人が一斉に正体を現して、俺の驚きを無視してパンフレット片手に畳みかける。
キャッチか宗教の勧誘か。くそ、油断した。渋谷辺りならこんな連中が正体隠していっぱい歩いてるんだよ! と警戒したのだが、この暑さで油断した。
どうしたもんかな、メリーさんみたいに「この人黒幕? 処す? 処す?」と排除するわけにも行かない。無視するには暑っ苦しすぎるし……。
「待てィ!」
と、そこへ力強いJKの正義の声が響き渡った。
「悪しき星が天に満ちるとき。大いなる兄妹星が現れる。その真実の前に、悪しき欺瞞の星は光を失いやがて落ちる……人、それを…『詐欺』という!
近くの雑居ビルの屋上で逆光を浴びながらポーズをとるセーラー服姿の女子高生。
「「「「「「貴様っ、何者だっ!」」」」」」
と名を問われば、
「貴様らに名乗る名前は無いっ!」
と啖呵を切って飛び降りてきた。
普通なら大怪我するところだが、不思議と高いところから落ちてきて怪我したところ見たことないんだよなー。
「……つーか、夏季短期ゼミはどーした、真季?」
「終わったから様子を見に来たのよ! そしたら先輩とデートだって(地縛霊が)言うから急いで様子を見に来たら、案の定トラブってるので助けに来たのよ、お義兄ちゃん」
胸を張って言い切る真季。
「いや。別にデートというわけでは……」
弁解しようとしたけれど、芸能人が『髪ばっさりショート』にすると、絶対に『美しさが際立つ』『すっきり魅力的に』と謳い文句つきで報道するように、どんなに関係ないと言っても『女性と一緒』という一事だけで嫉妬しまくるからな、この義妹は。言うだけ無駄だろう。
とりあえず俺は日陰に移動して、魔術(笑)を使う秘密結社の一団と真季との活劇。
そして、スマホの向こう側のメリーさんの騒動が収まるのを待つのだった。
『あたしメリーさん。メリーさんのファンが助っ人に来てくれたの……!』
「ファン?」
『オデ マンガ 見てる あとフォロワー ニ◯ニコ漫画 見てるオレタチ ナカマか?』
そのファンはまともに戦えるのだろうか?
一抹の不安をよそに、あっちもこっちも山場を迎えるのだった。
【次回予告】
「番外編 あたしメリーさん。いまキツネ狩りをしているの……。」
お互いがお互いに誤解が誤解を呼んで、いまではショットガンで撃ち合いをする関係になったゴンと兵十。
依頼によってゴンを斃しに来たメリーさんたち。
だが殺る気満々のメリーさんとは裏腹に、なんとか誤解を取り除こうと考えるスズカ。
こっそりとゴンの説得に向かったスズカは狐一族の罠にかかって、逆に説得されてしまった。
敵に掴まって、主人公サイドがかけた洗脳がとかれるという異例の展開により、正気に戻って敵に回ったスズカ! どうするメリーさん!? 果たして敵になったスズカを倒せるのか?!(ネタばれ:躊躇なく毛皮にします)




