番外編 あたしメリーさん。いま幼稚園VS保育園の戦いがおきたの……。⑤
「素人にわかりやすいように説明すると、占いは大きく分けると三種類に当てはまるわ」
メリーさんの根城である屋敷のダイニングで、ソファに腰を下ろして背の低い猫足テーブルに雑然と並べた占い道具――水晶球、ルーンが刻まれた石、筮竹(=50本の竹ひご)、トランプ、タロットカード、虫眼鏡など――を適当に手に取って襤褸切れで拭きながら、対面に座るスズカ相手にオリーヴが、例えるならオタクが浅い知識でマウントする調子で吹聴する。
メリーさんが花見に行っていて暇なので、他のメンツは思いっきり羽を伸ばしている最中であった。
ちなみにローラは家計や屋敷の維持管理についてセバスチャンと打ち合わせ中で、エマは夕食の支度をするために鎖鎌と手裏剣を持って材料を獲りにいっていない。
王都とはいえファンタジー世界。札幌を一歩出ると人間の数より多いヒグマがうようよしている、試される大地――北海道のように、城壁を出ると危険でなおかつ食える魔物が(お互いに喰うか食われるかの関係で)徘徊しているのであった(なお札幌東区は割と頻繁に城壁が破られてヒグマが出没する)。
「はあ……(てか隙間時間に働こうという意識はないんだなぁ)」
ついでにメリーさんのオリーヴに対する辛辣な人物評も脳裏に去来する。
『あたしメリーさん。オリーヴって檸檬みたいなものなの。レモンってフルーツというカテゴリーに入っているけど、独立したフルーツとして意識して食べることのない、実質フルーツ界のパセリも同然。それと同じなの……』
突発的に胸倉をつかんで、「メリーさんの金で喰う飯は美味いか?」と、締め上げたいところだが、平然と「すっごく美味しい!」と悪びれることなく返されそうで、それはそれで今後の人間関係に軋轢が生じそうなので、グッと我慢するスズカであった。
生返事を放つスズカの内心を慮ることなく、オリーヴは嬉々としてオタク知識を開陳する。
「『命術』『卜術』『相術』の三種類ね。命術は生年月日や生まれた場所、時間といった不変的な情報をもとに占いをするやり方。逆に、カードやダイスなど偶然出たものを見て占うのが卜術。相術は人の顔や手、もしくは住んでいる場所や環境など、形があるものをもとに行う占うことよ」
「はあ、そうなんですか(胡散臭~っ)。オリーヴさんは水晶占いですよね。そうなると卜術系統ってことですか?」
「天啓……いえ、封印されしエグゾディ。内なる力によって見たくもない未来を好むと好まざるとに関わらず視てしまうのよ。こんな自分が怖いし、こんな力ならいらない。なぜ自分なんだと常に自問しているわ」
遠い目をするオリーヴを前にして、「いや、自分に酔ってないで少しは働いてみたらどうですか、占いで」と、スズカはオブラートに包まずに割と直截に提案した。
が――。
「いや、私が本気出すと……ほら、色々ヤバいでしょう? まったく人間との暮らしは大変ね……」
と、本物の人外――霊狐を前にしみじみ語るオリーヴであった。
オリーヴの自己陶酔している横顔を眺めながら、当時の小学生の99%が空歌でやり過ごしたバイ○ァムの歌詞くらい意味不明ですねー……とか。せめてスラ○グルかガ○アンくらいに誤魔化しがきく感じで、前後の脈絡がわかればいいんですけど……と、慨嘆するスズカ。
「(労働は埒外として)せめて占いで馬券とか宝くじとかで一攫千金できませんか?」
「私欲が混じると占いは外れるから本格的な占い師はギャンブルなんてしないと決まっているのよ。賭けてもいいわ」
思いっきり矛盾に満ち溢れた発言であった。
「あー、はい……まあいいですけど、ちなみにいま何が視えてますか?」
促されて適当に水晶玉を磨きながらオリーヴは『彼女ができました』という編集のあおり文句くらい、死ぬほどどうでもいい口調で答える。
「大魔王が精力的に動いている気配を感じるわね」
それに合わせるかのように、打ち合わせしているセバスチャンが、ローラ相手に猛然と苦言を呈していた。
『こちらの会計簿は全員の収支と支出がごちゃ混ぜになっていて形を成していませんな。今後はグループとしての予算と個人のものは別にすることにして――あとなんですか、この毎月購入する包丁の金額は?』
『それはメリーさんが趣味と実益を兼ねて使う包丁です。折り返し鍛造で造られた値打ちものの包丁は、日本刀と同じで一度使うと血と脂で使えなくなるので、実質使い捨てにするしかないと――』
『なんという勿体ないことを! きちんと手入れをすれば何百年でも保つというのに』
『え、ですがドワーフの鍛冶屋でそう伺ったのですけれど?』
『ああ、あの全国チェーン店“ドワーフの鍛冶屋”ですか。あそこは名前に“ドワーフ”とついていますが、実際にはドワーフ以外の種族がマニュアルに従って商売しているだけの似非鍛冶屋ですぞ。だいたいドワーフなら誰でも鍛冶ができるというのは偏見ですからな』
ああ、つまり海外で『日本食レストラン』と銘打っても、実際には別な民族が経営や調理をしているようなもの――もしくは日本人が関わっていても、せいぜい居酒屋のバイトくらいの腕の素人が『本格日本料理人』を自称するようなものね。
真面目に本格日本料理を食べようと思ったら、日本に来て名の通った料亭にでも行かないと無理な理屈ということだろう。
まあ本場の中国料理は日本人の口には合わないって言うし、チャイニーズレストランはどこの国でも日本人がどうにか食べられるっていうし、案外その土地柄に合った変化をしたものが万人の舌に合うのかも知れないけど。
「……味噌カツや天むす、とんてき、ひつまぶしは三重。鶏ちゃんは岐阜発祥だけど、それを進化させて全国的に有名にしたのは名古屋の功績なのは間違いないし~」
名古屋人の常で「名古屋飯って言うけど発祥は全部別だろう?」と言われると「だけど名古屋が全国区にしたわけだし」「名古屋の○○には他にはない▽▽が入ってるから」とか反駁して、『自分たちがエライ』の姿勢を堅持する習性をいまだに持っているスズカであった。
「視える。視えるわ! 大魔王がじわじわと私たちの勢力圏内を手中に収めている気配が濃厚にするわね。うんうん」
超テキトーに占いの結果を口にするオリーヴの向こう側では、セバスチャンがローラに向かって断固とした口調で明言する。
『今後は当家の家計は儂の管理下に置かせていただきますじゃ。それと無駄遣いしないように、個人に関してはお小遣い制にさせていただきます』
『はあ……まあ私は問題ありませんけど』
ご主人様やオリーヴさんが駄々こねそうだなぁ、と懸念するローラであった。
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幼女無法地帯と化した大河インクライスフィード川の支流アーラ川河川敷(及び中州)。
双方のVIP幼女たちの花見場所取りに端を発した衝突を契機にして、かねてより対立姿勢を明確に出していたリバーバンクス王国とリバース・ハズバンド共和国は精鋭部隊の投入を決行!
ここに第二十三次花見開戦の火ぶたが切って落とされたのである。
「だーっっっ!! 食らえっ!」
王国軍の運河を総括する艦隊司令官(別名・運河英雄)である【無敵の(人な)猛将】マークリス・ゲンキ・イノキ超級大将は、手にした豚一匹を丸焼きにして、その場で首を刎ねて、共和国軍が布陣する兵士たちの中央に向かって放り投げた。
文字通り『火ブタを切って落とした』わけだが、たぶん当人以外は理解できないロックなパフォーマンスである。
ちなみに超級大将というのは、上級大将を超越した軍事上の最高レベルに近く(国王が最高司令官)、『血筋』『実績』『権力』『財力』『名声』が一定のレベルにないと就けない階級であった。
なおその数値をあえて表記すると、
『SSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSS$$$$$$SSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS$SSSSSSSSSS$SSSSSSSSSSSSSSSSSSSS∞級』
という「イデのエネルギー表示か!?」と即座にツッコミが入る等級に匹敵するが、これは猟銃を持ったオッサンの戦闘力が5(ゴミめ!)なのと同様に、旗下の艦隊戦力や部下たちを集団と考えて、統率した場合の総合能力が合算された数値であるらしい。
「気のせいかところどころに忖度というか、袖の下で『$』やり取りされた形跡が見受けられるんだが……?」
『偉きゃ黒でも白になるの典型なの。てゆーか大学生が酔っ払って書いた、なろうみたいで逆にどや顔で公開するのが恥ずかしいレベルなの……』
この話を聞いた際のメリーさんの反応は、案外わかりやすいものだった。
「見よ、王国周辺の運河を使って緊急動員した我が無敵無双最強艦隊の威容を! 連中のアホ面目掛けて一斉射撃だ――元気ですかーッッッ!!!」
ノリノリで赤いタオルを首にぶら下げ指示を放つイノキ大将。
「ジョージ・キルヒヘル大佐っ」
「いやぁン……。あたしとイノキ大将の間で他人行儀な呼び名はい・や・ヨ。ジョージって呼んで。レディ・ジョージでもいいわよン」
呼ばれた身長2mを超える巨漢かつ軍服の上からもわかる筋肉の塊のような全身をクネクネと撓らせながら、直撃すれば戦艦の装甲すら貫通しそうなウインクと投げキッスを放つ、どーみてもアレな副官を前にして、イノキ大将はにわかに正気に戻った。
「だいじょうぶだ・・・おれはしょうきにもどった!」
ちなみに戦場において捕虜(♂)に対する虐待というか不埒な行動が目に余ったため、軍紀に応じて処分を下されているためいまだ大佐であるが、キルヒヘル大佐の能力と軍功はイノキ大将に勝るとも劣らぬものがある。
ちなみに王国では性犯罪に対する処遇は男性の場合スリーアウト制がとられており、『玉・玉・竿』の順で取られるという恐ろしい物であった。
「いかんいかん。敵の共和国には我が好敵手――“腐敗の屍術師”ヤン=スコヴィルチ准将がいるのだった」
敵味方が死ねば死ぬほど戦力が上がるという恐るべき能力を駆使する、我が終生のライバルよ……!
と、遠い目をするイノキ大将。
そのヤン=スコヴィルチ准将は忘我の境地で太鼓を叩きまくって、そこいらじゅうの死人をゾンビとして蘇らせていた。
「――皮肉なものだ。かつて平和な時代にはお互いに『ヤン坊』『マー坊』と呼び合って、『明日天気になーれ!』と遊び回っていた仲だというのに」
イノキ大将はやるせない笑みを浮かべ、キルヒヘル大佐はそんな中年男の横顔に、胸がキュン♡となって、
「萌え~~~~~~~~~~~~っ!!!」
「ぎゃあああああああああああああっ!!?」
思わずその場に押し倒し、狭い艦橋をリングにしてくんずほぐれつのガチ格闘へと突入した。
これにより集結した王国艦隊五百隻は機能不全に陥ったのである。
『――運河の黒歴史がまた1ページ――《by『運河英雄伝説(※略称『ウンエー伝』)』冒頭部分より抜粋》』
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『オクラホマミ――ほげぇっっ!?!』
『メタボリックシン――ぐはあああああああああっ!』
『ウインドブ――らぶりーっ?!?』
『アイデンテ――あqwせdrftgyふじこlp;@:』
迫る桜の魔樹を前にして〝J・J・ルソー保育園四天王”が仲間の盾となって必殺技を放つが、所詮は保育園児のお遊戯。
ダメージらしいダメージを与えることができずに、触手のような根に搦めとられて地中へと捕食されようとしていた。
『『『『ちょ、ちょっと男子ーーーっ!!!』』』』
『『『『『『ゲロゲロゲロゲーッ♪』』』』』』
慌てて男子園児に助けを求めるも、男子はその場でカエル化現象を起こして、人間カエルと化してとっととアーラ川へと退避するのだった。
『敵に回すとやっかいだけど、味方にすると頼りにならない。ジャ○プの敵役みたいな連中なの……』
その様子を離れた場所から傍観していたメリーさんが辛辣に言い放つ。
なおひとり悲鳴の数が少ないのは、リーダーであった〝チャオ”とやらが攻撃に参加せずに、一部頼りになる屈強な男子園児を肉壁にして、防御を固めていたからである。
『いまこそ出番よ、ワシントン! 桜の木を相手にその斧の力を見せる時よ!』
『リンカーン。前世プロレスラーだったというその潜在能力を開放する時が来たわ!!』
『行きなさい、熊使いルーズベルト! 熊を使って絶対の防御をしなさい!』
チャオの指示で屈強な保育園児たちが前線へ送られ、抵抗むなしく桜の餌食と化す。
「黙っていれば共和国で大統領くらいになれる逸材が、あたら無駄に命を散らしているな。つーか、リーダーとして必死に仲間を守ろうとしている子供もいれば、自分のことしか考えてないメリーさんみたいな幼女もいるんだなあ。将来的にどっちが伸びるかは一目瞭然だな」
スマホから聞こえてくる惨劇を耳にして、俺が思わずそうぼやくと、
『あたしメリーさん。バランスをとったタイプはどんどん落ちてくだけなの。伸びるのは俺が俺がって人より前に出たがるタイプと決まっているの……!』
知ったか風な口調でそう言い放つメリーさん。
「いや、軍人とか冒険者ならまあしょうがないか……で、ある程度犠牲を黙認できるかも知れないけど、さすがに幼稚園児や保育園児はマズいんじゃないのか。勇者的に」
『大丈夫なの。HPが1でも残っていたらどーにでもなるの。普通に考えてHP1で瀕死寸前なら、歩くことも出来ないはずなのに異世界なら普通に歩き回れるし、会話もイベントもこなせるの。言うなれば山王戦の湘北みたいな状態だから問題ないの……』
実質あとのことを考えてない状態じゃん。
「それとは別に倫理観の問題なんだけどなー。ここで奮闘したという実績を残した方が世間的に好印象だろう?」
『あたしメリーさん。あえて逆張りで非情になり切った方がいいと思うの。だいたいメリーさんのファンって、恋人に訳の分からないメールを送って解読している隙に、背後から包丁で滅多刺しにした挙句、最後に生首を切り離してボートの上で「これでずっと一緒♪」というサイコな世界を、メリーさんに期待する向きがあるの。だからメリーさんもそれに負けないように精進しているの……』
どんな恋人関係だ!?!
「つーか、お前の脳内読者の民度低いな、おい。どんだけ無法地帯なんだ……」
『ちょっと、メリー! 貴女仮にも勇者でしょう!? だったら何とかしなさいよ! せめて桜の化け物倒しなさいよ!!』
当然同じこと考えたらしいジリオラが、メリーさんを焚きつける。
『人型モンスターなら倒したら金をドロップするからやる気も出るけど、それ以外のモンスターはいちいち素材を換金しなきゃいけない、世界樹システムだから面倒臭いの……』
人型モンスターから金を巻き上げるって、追剥じゃん。
やる気なさげなメリーさんの弁解を聞きながら、こりゃ駄目だな……そう俺は観念した。
「そういえばそっちは花見だけど、こっちは梅雨だというのに熱帯並みに暑くて、この間も知り合いらと海水浴に行ったんだ」
俺は、俺、やたら面積の小さいモノクロワンピース水着の樺音先輩、当然のようにサイドリボンのビキニ姿の義妹・真季。中学生とは思えない妖艶な色気を醸し出している家庭教師をしている教え子の笹嘉根万宵(学校指定の水着が逆に初々しさを醸し出している)、クロスワイヤー型水着が普段の中性的な雰囲気を一変させているドロンパ。そして行きと帰りの足を出してくれた管理人さんの、もはや水着とは言い難い大事な三カ所だけ謎の技術でガードしている艶姿!
こいつらがまとめて暑苦しいことに燦燦と太陽照り付けるビーチで、俺の周りに密着している写真をメリーさんにメールで添付して愚痴った。
『…………』
途端、なぜか黙りこくるメリーさん。
「メリーさん? おーーーい……?」
あまりの反応のなさに電話が切れたのかと再度呼びかけると、
『ウウウ、オアアー!!』
スマホの向こう側から有名なアスキーアートである、包丁片手に殺人鬼のような形相をしたダディクールのような雄叫びならぬ雌叫びが響き渡った。
『おおおおおおおおおおおおおっ!!!!』
『――えっ、なに突然に包丁持って踊り狂ってるわけ!?』
ドン引きしたジリオラの口調とは裏腹に、屍術師が奏でる勇壮な太鼓の音に応じて、メリーさんのテンションが爆上がりに上がりまくる。
『“たたかいの踊り”なの! メリーさんがいないと思って、どんだけ好き勝手ハーレムを増殖させてるの……!!』
何が何だかわからんが、何かがメリーさんの燻っていた闘争本能にガソリンをぶちまけたらしい。
『許さないの! この怒りを目の前の敵にぶつけるの……!』
『……で、何で急に化粧始めるわけ? 死に化粧?? ――げっ、いきなり17歳くらいに成長した?!?』
『“たたかいのメイク”なの。ゴージャス・メリーさんなの……!!』
スマホの向こうから聞き覚えのない女性の声が聞こえる。
同時に――。
『チェンジ!』
『幼女が年増になるんじゃない!!』
『もどして』
『『『もどして』』』
花見客に混じっていた『ロリ魂』と書かれたシャツの集団が、一斉にブーイングを放った。
よくわからんがメリーさんの戦闘準備は整ったらしい。
7/12 若干修正と追加(メリーさん17歳Ver)しました。
ちなみにアパートの隣の部屋は法人名義で『新紀○社CoC開発室』になっていて、そのさらに隣は『バンブー第八会議室』名義で、年がら年中謎の呪文の声やら麻雀の音やらでうるさくて仕方ないので、夏場は外に退避している。
なお、皮肉なことに霊子(仮名)のお陰で主人公の部屋自体は一種の幽界というか、半分隔離空間になっているのでまだしも被害が軽減されているもよう。




