番外編 あたしメリーさん。いま幼稚園VS保育園の戦いがおきたの……。③
花見ということで、いつの間にやら見物客目当ての屋台や出店が、雪崩を打ったかのように集まって商売を繰り広げていた。
花より団子というわけで、手軽に食べられるファストフードや飲み物が大多数を占めているが、中には怪しげな商売を喧伝している連中も少なからずいる。
「ちーっす! 三河屋っす! アルパカお届けにまいったっす!」
「つくし●きひと卿 vs あら●ずみるい師の高血圧対決のトトカルチョ籤~っ。売り場はこちらでーす! なお前回の結果はつ●し卿が218/121で、あら●ず師が216/140。ピタリ賞は出なかったので、一等の配当金は今回の賞金に上積みされます」
そんな訳の分からんロ○みたいな闇クジが売っているかと思えば、
「JKの使用済み下着の販売をしております! そして目玉は、自称異世界から転移してきたJKが着ていた異世界の有名私立女子高校の制服! 証拠はこの学生証――サトウ・リオって書いてあるこれが動かぬ証拠――で現品限り!!」
明らかに胡散臭い、実際のところ証明のしようもない物品が投げ売りされていた。
と、拍子木の音とともに荷台に大きな箱を括り付けた人力車(引いているのはドップラー社謹製の鉄仮面を装着させられた奴隷)がやってきて、怪しげなオヤジが集まってきた子供たちに慣れた調子で、箱から取り出した割り箸につけた水飴やらソース煎餅やらを売りさばき始める。
「はいはい、水飴は一個50A・Cで、PyPyも使えるよ~。――おっと、ただ見は駄目ね。はい、買わない子はあっちへ行って」
水飴やらソース煎餅を買った子が貴族であり、最前列で鑑賞する権利がある。
鈴なりになって体育座りをしている子供たちを前にして、オヤジは満を持して紙芝居を始めるのだった。
「さて今日の紙芝居はお馴染み『シン・浦島太郎』の続きだよ~」
思わず勢いで最前列に並んでイチゴ味の水飴を舐めながら、
「何でもかんでも『シン』ってつければいい風潮が蔓延しているの……」
メリーさんは釈然としない口調で独り言ちた。
「乙姫様の協力で宿敵ポセイドンを斃した浦 島太郎は、やっとこさ地上に戻ると……なんと言うこと! 寂れた田舎……『そんなとこあったっけ?』と言われるほど特徴がなかった【ヒルマウンテン】が、大都会【ヒルマウンテン】と化していたのです!」
デデーン! と太鼓を叩いて効果音を示すおっちゃん。
「帰ってみればこはいかに!? 取り乱した島太郎は『お土産だけど開けちゃダメなの』と、『開けるな』『見るな』『振り返るな』と昔話で定番のタブーを破って玉手箱を開けた途端――」
「『ホホホついに開けてしまっのね浦島太郎。あれほど言ったのにホホホ』その様子を見ていた乙姫が哄笑を放ちました」
「あたしメリーさん。火○鳥と共通する何かがあるの……」
無茶苦茶高みから見下している感じがして腹立つな~……と、聞いていた子供たちの大多数が思った。
なおその間にもリバーバンクス王国の非公式団体『白の騎士団』と、川を挟んだリバース・ハズバンド共和国の『黒騎士』に率いられた既婚者男性たちは、南○人間砲弾とかいうサーカスや、ダイナマイトに火つけて投げるだけで完成する○斗爆殺拳とかいう必殺技(どちらかというと使用者が死ぬ意味での必殺)を駆使して死闘を繰り広げている。
かと思えば、桜の木の枝に上ってエルフが何やら演説していた。
「〝花見”などと自然を蔑ろにする行為を、我々自然を愛するエルフは断固反対する! そもそも桜の花の美しさを鑑賞するためであれば――」
御大層な講釈を垂れているようだが、人間のエルフに対する見解は、
「長生きするだけのアホ」
「年数の割に全然技術が進歩してなくね?」
「種族全体で無能」
という偏見まみれのものなので誰もまともに聞いていない。
それが癪に障ったのか、だんだんと言うことが過激になってきて、
「自然に手を出そうと考えている人間は許さねえ」とか「先んじて滅ぼすべきだ」とか「花見に来ている人間以外も信用できないから国ごと丸々滅ぼして」とか歯止めが利かなくなっていた。
「そもそも人間なんて存在は必要ないので全て滅ぼしてやる!!」
と過激思想が進化して、最終的に魔王と呼ばれそうな存在が誕生しかけたところで、酔客たちによって寄ってたかって木から引きずり降ろされて、ボコボコにされるのだった。
ちなみにメリーさんもドサクサまぎれにタコ殴り集団に混じって、包丁を何回も振り下ろす。
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『あたしメリーさん。いま生理の話に割り込んでくる男くらい鬱陶しい馬鹿を斃したの……』
「何の話だ……? つーかメリーさんごっこをするならせめて『○○にいるの……』くらい言えよ」
相変わらず脈絡のないメリーさんからの電話に苦言を呈する俺。
「見て欲しいでござる会長殿。平成初期に三話まで放送されたものの、そのあまりに実験的かつ前衛的な内容から放送中止に追い込まれたアニメ『チンコマン対ウンコマン』。その幻の第四話『危機一髪! チンコマン第一形態からの半脱皮』の遺失セル画を手に入れることができたでござる!!」
なお通りすがりに俺たちがいるのを目敏く見つけたヤマザキが、勝手にやってきて俺の隣に座り、テーブルを挟んだ樺音先輩に向かって、何やら熱心に布教活動をしているところである。
「なるほどつまりは現代のヴォイニッチ写本、または死海文書に相当する森羅万象の理ということね。……てか、普通知り合いがデートしてたら知らんぷりするもんじゃないのよ」
「はぁ、何でござるか!?!」
適当に話を合わせていた樺音先輩だが、ふとげんなりした表情で何やら小声で吐き捨てた……ような気がした。
「は? デート???」
ふと聞こえた耳慣れない単語に、思わず先輩の顔を見て尋ね返すと、
「なんで普段は〝主人公性難聴”のくせに、こーいう時だけ耳聡いわけ!?」
なぜか逆切れされた。
「おおおおぅ、これはしたり! デートでござったか。これは失礼したでござる。あ、おねーさん、ナポリタン大盛り」
殊勝なセリフとは裏腹にこの場に居座る気満々なヤマザキ。
「ち、違うわよ。え、えーとその『超常現象研究会』の活動計画で、『異世界』と『異次元』の違いについてディスカッションをしていたのよ! ね……ね!?」
目配せしてくる樺音先輩の意図をくんで俺も話を合わせる。
「その通り。『異世界』をイギリス王室公認のジーナ式育児法とするなら、『異次元』は日本の昔ながらやり方を発展させた久保田式育児法に相当するのではないかと……」
「??? なんか余計に結論が持って回りすぎて本題から外れているような気がするでござる」
注文のナポリタンを割り箸で啜り食べながらヤマザキが首を捻った。




