番外編 あたしメリーさん。いまお祭り騒ぎをしているの……。(完結編1)
「……暇ですね」
周囲のお祭り騒ぎとは無縁に、なぜか互いに敵愾心を剝き出しにしている地元の鬼とスズカを横目に見ながら、フカヒレアイスを頬張っていたローラが辟易した口調で愚痴をこぼした。
「鬼も狐も昔話では定番の悪役妖怪だから、お互いに反目するところがあるんじゃないの?」
投げやりにオリーヴが合の手を入れる。
「――妖怪と一緒にしないでください! 私、いちおうお稲荷さんですよ。 コンコン様です。稲荷神の使いですけど!?」
「あー……そうだっけ?」
どっちかというと妖怪に近いという認識のオリーヴが適当に相槌を打つ。
「あたしメリーさん。いまオリーヴの隣でアイス食べているの……。――それはともかく、よーするに円谷版ウル○ラマンと庵野版ウル○ラマンくらい違うのかしら……? あれってメリーさん思うんだけど、猪木VS馬場のノリで将来的に『シン・ウル○ラマンVSシン・ゴ○゛ラ』が作られると思うの……」
刹那、メリーさんの耳に現実世界からツッコミが入った。
『初代ウル○ラマンにジ○ースという襟巻怪獣がいてだな、円○英二が携わった代表作を、円○一が監督している作品で一方的にボコボコにするという、間接的に親子間の確執を見せられるという……』
「それはともかく風○堂のアイスバリエーションは相変わらずバラエティに富んでいるの……」
ほぼ聞き流しながら、オリーヴの隣で漫画版作者に忖度して『ずんだアイス』をパクパク食べながら、メリーさんが感慨深く言い放った。
『つーか、ずんだとかお前にしては案外普通のチョイスだな』
続く微妙に当惑したツッコミに対してメリーさんはしたり顔で答える。
「いちご牛乳の赤い色は虫をすり潰して絞った汁だし、抹茶アイスの染料は蚕のフンなので、案外一般的なアイスの方が冒険なの……」
『……いや、それは『回転寿司のマグロは赤マンボウ』というくらいの都市伝説なんだが』
なお、この店の品ぞろえは――。
【さんまアイス】【ひとめぼれアイス】【茶色い焼きそばアイス】【あわびアイス】【しじみアイス】【ひまわりアイス】【イカアイス】【納豆アイス】【わさびソフト】【フカヒレアイス】【フカヒレラーメンアイス】【インドカレーアイス】【桧アイス】【海のかきアイス】【たこアイス】【キムチアイス】【牛たんアイス】【ほたてアイス】【塩アイス】【ほやアイス】【黒にんにくアイス】【のりアイス】【源氏ボタルアイス】【三陸うにアイス】【ミソラーメンアイス】【真珠アイス】【ささにしきアイス】【ビールアイス】【山ゆりアイス】等々……(※実話)。
「いやいや、百歩譲ってあわびやしじみとかの海産物は、一応食品だからギリ許容できる……かも知れないけど、ヒノキとか源氏ボタルとか真珠って通常一生涯食べたりしないものよね!?」
四人掛けの縁台に並んで座りながら、逆にレアとも言えるバニラアイスを口にしつつ、納得できない表情で異義を申し立てるオリーヴ。
「人の好みはいろいろなの。実際、長野にはイナゴがゴロゴロ入った『イナゴソフト』があるし、なにげに山口には『ビフィズス菌』、『にんにく』、『しょうゆ』、『七味』、『ハバネロ』、『すっぽんマムシ』とか、ヤケのヤンパチ感のあるゴレ○ジャーハリケーン並みに多彩なアイスが目白押しだし……」
普通にフグアイスとか出してればいいのに、と続けるメリーさん。
「“めんたいパークと○なめ”なら明太子ソフトが食べられます!」
すかさず振り返って一言モノ申すスズカ。
「――イロモノで対抗しなくてもいいと思うんだけどなー」
牛たんアイスを舐めながらげんなりした表情で、エマがぼやいた。
なお本日は祭りということで全員が着物を――一応は着付けを知っているオリーヴが率先して指導したお陰で、微妙にバ○ボン風に帯の位置がズレているメリーさんを除いて、それなりの形で――着こなしている。
「なにげにオリーヴが着物警察の先兵だったの。あと鬼城国は全国に先駆けて水道の民営化に乗り出すくらいのチャレンジャーなので、食に関してもセオリーには囚われないの……」
「ああ、『やめろ』『絶対に値上げするぞ』『水道だけはアカン!』と周囲から止められたのに、民営化して案の定いきなり二割値上がりしたという……まあ、行政的には赤字削減にはなったかも知れませんが、そのシワ寄せが民衆にのしかかっているというわけですね」
メリーさんの言葉にローラが新聞で読んだ(メリーさんは四コマだけ。オリーヴは三面記事だけ。スズカは芸能記事だけ。エマは読まないため、基本まともに新聞を読んでいるのはローラだけである)記事の内容を思い起こして同意するのだった。
「あたしメリーさん。良かれと思って悲劇を生む――。味方のピンチに主人公が駆けつけ無双する場面でも、ファンが『来るな』『戦うな』と絶望の悲鳴を上げるファ○ナーみたいなものなのね……」
「「「あんた(ご主人様)(メリー様)も周りからは似たような評価でしょう(ですよね)!?!」」」
一斉に放たれたオリーヴ、ローラ、エマの批判の声に混じって、
「早川浴場に入って、構内できしめんを食べるまでがセットです!」
「『のぞみ』の『名古屋飛ばし』知らんのが? その点、仙台駅は東北の中継駅どして新幹線も止まるぞ!」
スズカと鬼の戦いが戦いが新たなステージへと進展していた。
「てゆーか、思ったんですけど。風聞と違って鬼ヶ島って平和ですね~。てっきりこの世の地獄みたいな場所かと思っていたんですけど」
のん気に屋台や縁日に繰り出している鬼たちと、近隣の住人との仲睦まじい姿を眺めながら、見ると聞くとでは大違い……と言いたげな口調でエマが率直な感想を口にする。
「時代に合わせて鬼も穏健になったんじゃないの?」
軽く肩をすくめるオリーヴ。
「甘いの!」
だがそこで断固として首を横に振るメリーさんであった。
「鬼が日和ったらそれはもう鬼じゃないの! アナ○イムが実質的に家電で成り立っているメーカーなのに裏では死の商人をやってるように、キノコタケノコ戦争をあおりまくってほくそ笑む明○製菓みたいなもので、こうして人間の油断を突いて突如牙をむくつもりなの……!」
「そうかしら? “鬼に横道なきものを(by:酒呑童子)”という有名な台詞もあるくらいだから、曲がったことはしないんじゃない?」
小首を傾げるオリーヴに向かって、メリーさんが断固として言い放つ。
「メリーさん“イ●ディアン、嘘つかない”とか“「クレタ人はみなうそつきだ」とクレタ人が言った”とかの妄言は信じないの……!」
と、それに合わせて地球からのトリビアが入った。
『ちなみに“イ●ディアン、嘘つかない”はもともとヤニ取りパイプのCM……ではなくて、ナバホ族のゴヤクラが白人に向かって言った言葉で、一説にはイ●ディアン同士は日本人同士が空気を読めるように、お互いにテレパシーで嘘を言っているかどうかわかるので、嘘をつけないと言われている』
「――だ、そうなの」
その豆知識をそのままさも自分の手柄のように吹聴するメリーさん。
「「嘘くさ~(いですね)」」
「……いや、アンタらがそれを言うわけ?!」
眉唾な表情をありありと同時にそう口にしたローラとエマ姉妹に、食べ終えたアイスをゴミ箱に捨てながらオリーヴが呆れた口調で一言モノ申すのだった。
「ともあれ見た目の浮ついた雰囲気に惑わされないで、私たちは常に緊張感を持つべきだということですね、ご主人様?」
改めて気合を入れ直したローラがそう口にしながらメリーさんの方へ向き直ったところ――。
「あたしメリーさん。落ちてたから拾ってきたの。きっと家なき子なの。と言っても『同情するなら金をくれ』で有名な安達○るみ主演のドラマや、世界○作劇場の息の根をとめた原作レイプTS『家なき子○ミ』じゃなくて、旧作の立体映像『ステレオクローム方式』を用いた『立体アニメーション』としてとして制作された『家なき子』の方なの……」
「ばぶ~~っ……」
いつの間にやらハイハイ、ヨチヨチ歩きくらいの鬼の乳児を、メリーさんが危なっかしい手つきで抱えていた。
「え゛っ!? その子どこの子!?!」
「鬼と言えど、赤ちゃんは可愛らしいですね」
「迷子かなぁ?」
愕然とするオリーヴと、ほんわかと母性をにじませた生暖かい視線を向けるローラ、心配そうに周囲に視線をやるエマ。
「あたしメリーさん。肉抜きは効果ないって言われているけど、赤ん坊って一見モコモコしているようで、正味は案外貧弱なの……」
鬼の赤ん坊を振り回しながら――キャッキャと喜んでいる子鬼――コラーゲンの塊を推し量るような口調で、メリーさんが無味無乾燥な感想を口に出した。
と――。
「“尾張名古屋は城でもつ”という通り名古屋城はいまだに現役ですけど、青葉城なんて城址が残っているだけじゃないですか」
「杜の都の名にふさわしいワビサビのあるだだずまいだ。やだら豪華な嫁入り道具山盛りたがいで、派手な結婚式挙げるのがステータスだど思ってる名古屋人には理解でぎねぁーべげど――って、あああああああああああああああああああっっっ!!! 若様っ!!」
スズカと言い争っていた鬼が、メリーさんが無造作に扱っている赤子を見て、一瞬で口論を辞め吃驚の叫びを上げた。
「「「「若様?」」」」
キョトンとするオリーヴ、ローラ、エマ、スズカ。
「赤ん坊って頭蓋骨が柔らかいから、指先に力を籠めるとずぶずぶ陥没するの……」
「「「「「「「「「「「やめろーーーーーーーっっっ!!!!!」」」」」」」」」」
ひとりの叫びをキッカケに、周囲の鬼たちが騒然と見つめる中、全く気にせず赤ん坊で遊ぶメリーさん。
「若様親衛隊長のホウセンカ様はどごさ行ったんだ!?」
「テッセン殿さ手引がれでどごがへ連れでいがれだ!」
右往左往する鬼たち。なお、この鬼ヶ島の鬼たちの名前は基本的に植物系らしい。
「マ○゛ーンみたいなものなの。女王ラフ○シアなの。作者は緑アル推しだけど、メリーさんは先端が丸っこい緑アルよりも、戦艦ア○ドロメダみたいなイケメンでバカでっかい衝角戦ができる青アル派なの……!」
小鬼を模型に見立てて振り回しながら熱弁するメリーさんであった。
◇
闇に包まれた部屋の中で、座って肘を机に立てて両手を組み合わせる(いわゆるゲ○ドウ)ポーズを取っていたグラサンの男が淡々と呟いた。
「……センダイがやられたか」
「♪つーきーかーげさ○わたりぃ べーつの夜へいざぁ○ーうー♪」
と、明らかに中の人を意識したBGMが響く中、その場に集まった十九人の戦鬼――じゃなかった謎の集団。その一部から含み笑いが漏れた。
「くくくくっ、所詮奴は我ら精霊指定二十人衆の中でも最弱……次なるは日本海側統べる我がニイガタが目にもの見せてくれよう」
その自信に対して方々からツッコミが入る。
「そーか? 人口的には百万都市やし、七十八万のニイガタよりも上や思うねんけど(←大阪弁)」
「そーよね。てゆーか、精霊指定二十人衆って数自体多すぎない? 百万都市以上なら十市だし、精霊指定十人衆って方通りがいいんでないの?(札幌弁)」
「ちいと待て、そりゃあ横暴や!(←北九州弁)」
「その通り! 人口が多けりゃ偉えってもんじゃねかろう。地域の中心を担う都市として、多彩な文化や歴史をかんがみてだな――(←岡山弁)」
「その割にひとつの県内に二つの半端な精霊指定があって、焦点ブレてるとこもあるんやけど?(←京都弁)」
「「なんだと!! (シズオカ)(ハママツ)と一緒に住んな(だら)(ずら)!」」(←静岡弁)
その後喧々囂々の非難合戦となる会議室。
精霊指定二十人衆……その正体はいまだ謎に包まれていた。




