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残念ながら、王子はバカでも王子です!  作者: しらたま
教育係編
6/16

「おや、ルカリィナ嬢かごきげんよう」

 ルカがササラと明日の授業内容を相談しながら、中庭の東屋でお茶を飲んでいると回廊から騎士服に身を包んだ男装の麗人がやって来た。

 焦茶色の少しうねりのある長い髪は後ろでしっかりと纏められており、栗色の意志の強そうな瞳には人を惹き付けるものがある。中性的な顔立ちだからこそ、そこらへんの男よりも綺麗で妖しい色気がある。これは貴族の令嬢が熱を上げるのも分かる。

 彼女ーーユウナ・メイ・ティナ・レイトはレイト王国初の女騎士団長であり、第一王女でもある。つまりカイトの姉だ。


「ユウナ殿下、ご無沙汰しております」

 ルカはさっと立ち上がり、優雅に礼をする。その横でわたわたと立ち上がり頭を下げているササラが可愛らしくて、つい笑みが浮かんでしまう。

「そんなに畏まらなくて構わない。私もご一緒してもいいかな」

「もちろんですわ」

 ササラに目で合図すれば、心得たように机を片し新しいお茶の準備に取りかかる。こういう所はちゃんとしているのが、ルカがササラを気に入っている理由の1つでもある。


「もしかして、邪魔してしまったかな」

「いいえ、丁度暇してメイドに話し相手になって貰っていたところです」

 そうササラはメイドで、本来なら主と同じテーブルに座れる立場ではない。ルカが頼んでササラにお茶を一緒にして貰っているのだ。

「そうか、なら良かった。ところでルカリィナ嬢は侍女は付けないのかい。実は王城は慢性的な侍女飽和状態でね」とユウナが苦笑する。かくいうユウナも侍女を3人しか付けていないからだ。王女にしては少な過ぎる人数だが、侍女は主の服を選んで着せたり髪を結ったり化粧をしたり湯浴みの介助など主を美しくすることが仕事で、後は主の話し相手くらいだ。だから、騎士として働いている男装の麗人にはあまり必要ではないのだろう。

 上位貴族の家には必ず侍女はいる。ルカも実家で暮らしていた頃は侍女を付けていた。だが、王城には教育係として来ている。侍女を付けるのは令嬢のすることで教育係のすることではない。これはルカなりのけじめだ。


「私は教育係ですので」

「だが、君は円卓貴族令嬢でもある。王城で侍女を出来るというのは高貴な女性の数少ない社会進出の場と思えばこそなんだよ」

 そう言われるとルカは弱い。ルカが国家資格である教師資格を保有しているのも、近年増えつつある貴族女性の社会進出促進のためだ。

「少し、お時間を頂けませんか」

「ごめんね。君にこんなお願いをするのはホントは違うと私も分かってはいるんだよ。でもこんな私でも少しは王女としての仕事をしなくてはと思ってね」

 この人も大変だな。とルカは困ったように笑うユウナを見て思った。



 この王城には4人の高貴な女性がいる。

 カンナ王妃ーー隣国のリーヒュー王国の王室から嫁いで来た王女で、自国から連れて来た3人の侍女とレイト王国で新に5人の侍女を付けて、8人の侍女が現在王妃には付いている。

 第一王女ユウナは、女騎士をしているため3人しか侍女を付けていない。

 第二王女アイナもカイトの姉だが、ルカは会ったことがない。極度の人嫌いの引きこもりで、侍女も乳母子一人だけだ。

 そして第三王女ネネ。カイトの妹で、もうすぐある成人の儀で晴れて社交界入りする末姫だ。ネネの侍女は多くその数12人。もうすぐ社交界入りするから準備のためとしても末姫に付けるには多過ぎる人数だ。だがその大半が1年足らずで城を後にする。

 ユウナが言っていた侍女飽和状態の皺寄せが彼女のところに来ているのだろう。箔付けのためだけに侍女をしたい者が、ネネのところで侍女をしたという事実だけを作って家に帰っている状態だ。

 こう冷静に考えると、自分も王城の侍女を付けた方がいいのではという気がしてくるが、カイトの婚約者として回りから固められているように感じなくもない。だからルカは殊更「自分はただの教育係だ」というのを主張してきた。

 カイトに授業をするのを最近やっと楽しくなってきたが、王太子妃になる気はさらさらない。


 ルカも上位貴族の令嬢だ。近年恋愛結婚も増えているが、そう易々と好き嫌いで結婚出来るものではないということぐらい理解している。だが社交の場が苦手なルカとしては、王子との結婚だけはお断りしたい。ありがたいことに王は王子の恋愛結婚を推奨している。だからこそルカは、カイトに自分を女だと感じさせないように気を使っている。だが、侍女を付ければそうもいかなくなるだろう。


 王城の侍女を増やすべきというのは同感だ。だが自分にというのは困る。さて、どうしたものか。

 ルカはため息を紅茶と一緒に飲み込んだ。

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