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残念ながら、王子はバカでも王子です!  作者: しらたま
教育係編
3/16

 教育係になるにあたり、なぜか(理由は分かりきっているが)贈られた華やかで艶やかなドレスには見向きもせず、教育係として派手になりすぎないように、自分で持ち込んだドレスを着る。質は良いが若い娘が着るには地味すぎる灰を被ったようなくすんだ緑の露出のほとんどない詰め襟のドレスに、青薔薇のブローチを付ける。髪は邪魔にならないように登頂部近くで纏めてドレスと揃いの布で包んでリボンで結ぶ。化粧は粉と紅だけの最低限だけにする。

 どこからどう見ても、地味で冴えない女の完成だ。


 ルカは出来栄えに納得して部屋を出る。部屋付きのメイドは何か言いたげだったが、さすが王城のメイドだよく教育されている。


 今日から本格的に王子の教育係としての仕事が始まる。

 ルカは気合いを入れるように小さく手を握った。



 王子の部屋をノックして返事を待って入室すると、なんとカイトはまだ寝着だった。

 ルカに付いて来ていたメイドは「きゃっ」と小さな悲鳴を上げた。ウブな少女らしい。今はそんなことはどうでもいい。

 ルカは頭が痛くなるのを感じた。


「王子、伺う時間は告げておいたと思うのですが」

「ああ、だから起きたぞ。冬の早起きが嫌いな僕が!」

 カイトは偉いだろ、褒めろ!と言わんばかりに胸を張って笑顔で答えた。

 カイトに付いているメイドに目をやれば、申し訳なさそうに目を伏せられる。太陽は随分と高いが、彼にとってはこれでも早起きらしい。ああ、どうしたことか……。


(もう、なんなの!)

 と怒鳴りたくなるのを堪えて、無理やり笑みを浮かべた。

「ええ、起きて下さりありがとうございます」

 褒めて伸ばす。褒めて伸ばす。褒めて伸ばす。

 ルカは自分に言い聞かせるように呪文のように心の中で唱えた。


「次は着替えておいて頂けると助かります。その姿は……目のやり場に困りますので、ねぇ?」と先ほど悲鳴を上げたメイドに同意を求めると、彼女は激しく頭を立てに振って同意を表した。


「そうか?そういうものか……うん、分かった。じゃあ着替える」

「ええ、お願いします。廊下で待っていますわ」

 意外と素直なカイトに驚きつつ、ルカは廊下に出て端に用意されているベンチに腰掛けた。もしかしたら、あまりに必死なメイドの様子に心動かされたのかもしれない。


「さっきは同意してくれてありがとう」

 横に立っていたメイドに言えば、彼女はまだ赤い顔で「いえ」と答えた。どうやらこのメイドは部屋付きのメイドより年若いし、経験も浅そうだ。

「王子が着替え終えるまで、手持ちぶさたなの。話し相手になってくれないかしら」

「私でよろしければ」



 彼女はササラ・ミキ・ユーラーー下位貴族ユーラ家の次女で18歳の王城勤め3年目の側付きメイドらしい。

 貴族の娘が行儀見習いや箔付けのために王城に上がることはままあるが、そういう場合は侍女になる。彼女はメイドーーつまり手に職を付けるためここに働きに来ているということだ。

 王城では素性の確かな成人ーー15歳以上の者しか働けないため、メイドは未婚既婚を問わず豪商や下位貴族の娘や妻が多い。



「王子にいきなり歴史や言語を教えても勉強して下さる気がしないのよ……。だから身近なことから知って頂こうと思っていて、私も経験がないからメイドについて教えてくれないかしら?」

「メイドについてですか!?」

「ええ、メイドにも色んな種類があるでしょ?そういうのを教えて欲しいの」

 ササラは困ったように悩んだあと、簡単に王城メイドの階級や仕事内容、主な一日の過ごし方を教えてくれた。

 話自体もしっかりと要点が纏められていたが、たまに思わず笑ってしまうような失敗談なんかも織り交ぜてあり聞き手を飽きさせないものがある。興味の薄い生徒にはこういう話し方が必要だなと勉強になる。


「ありがとう、ササラ。あなたってとっても話が上手なのね。これからも側付きメイドとしてよろしくお願いね」

 ルカがそう言えば、ササラはとても嬉しそうな顔をした。こういうところがウブで可愛いと年上ながら思う。こういうところがないから、実年齢より上に思われるんだろうな。と窓に写ったこの国では少ない銀髪とクリクリとした丸目の王子とは違うアーモンド型の金の瞳の地味な女を見て、ため息をつきたくなった。



「申し訳ございませんルカリィナ先生、大変お待たせいたしました」


 やっと、王子の準備が出来たようだ。もう予定が狂い過ぎて、予定を立てるだけバカみたいな気分だ。なんて、授業をする前から思ってしまった。これは、教育係が長続きしないのも納得だ。

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