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リザードマン

全身を覆う濡れた鱗、表情のある魚顔、腰巻きだけの衣類。


リザードマンは竜人や魚人等と呼ばれ、生息可能域である水のある環境下で無類の戦士になる種族だ。

逆に水さえ奪えばたちまちに渇いて無力化するが、それが至難の技である。


武器は銛を好む。漁に生きる種族だからだ。


全ての母なる魚にして、最強の竜であるバハムートとの血脈が囁かれる事もあるが、事実は判然としない。


どこの国とも知れぬ海岸にて男がリザードマンと相見えていた。

汚れた皮鎧の軽装、腰に差した剣、麻袋に申し訳程度に縫い付けた紐を使って背負う姿はどこから見ても旅の冒険者だ。

砂浜に立ち、釣竿を背負っている。

対するリザードマンは浅瀬で膝まで海に浸かりながら筋骨隆々な鱗を滾らせ、肩で息をしている。

お決まりに持つ銛には、リザードマンの頭を一飲みにする様なサイズの魚。

キラーフィッシュは理性ある種族の味を知らない個体ならば絶品の食材だ。


「よお、旦那。大漁かい」


男が気安そうに片手を挙げて言った。


リザードマンは発声器官を持たない為、言葉は発せないし、おおかたは人の言葉も分からない。

リザードマンは獲物の魚を設置した魚籠に放り込んだ、一目に10匹はかたい大魚がひしめいている。


「いけてるねえ」


男は歩きながら釣り針に幼ワームを取り付けて釣竿を振った。

遠くにウキが着水した。

リザードマンはその様子を見た。

男がちょいちょいと竿を動かしてウキを泳がせる。

リザードマンは胡座で腰まで波に浸かってウキを注視した。


三十秒を待たずリザードマンがピクリと動いたのに男が気を取られた一瞬にウキが沈んだ。

気付いた男が慌てて竿を振って、獲物のサイズと体力を推し量る。


「これは、旦那、どうやら大物かな。一発目で、幸先が良いねえ」


リザードマンは顎に手を当てて着水点の飛沫を見ていた。



「へへえ」


男の釣った魚はリザードマンの獲物よりはやや小振りだが両者ともその肉質の良さを見抜いていた。


「いいねいいね、今晩の飯が出来た。ここからは稼ぎ分だあ」


続けて男は二匹目三匹目と魚を釣っていき、リザードマンは時たまゴポゴポと喉を鳴らした。


六匹程釣り上げ、無造作に麻袋へ放り込んだ男が満足いった様に息を吐いた。リザードマンが不意に男へ手を伸ばした。


「うん?」


意図を掴めない男に、リザードマンは釣竿を指差し、手を開いた。


「へへえ、やってみるのかい」


リザードマンの意思疎通は同種間ならば特有の鳴き声で行われる。

それ以外なら概ね身振り手振りで分かるものだ。少なくとも人間との交流は事足りる。

男は釣竿を貸した。


リザードマンが釣竿を振る。着水点は男と同じ様な位置。


「コツというか、上手い事投げられるもんだねえ。結構慣れないと上手くいかんのに」


リザードマンが口元に人差し指を持っていった。男が黙った。

ちょいちょいと竿を動かす。男が眉を上げた。

明らかに男よりも自然に泳ぐウキの動き。

直ぐにウキが沈んで、男は餌を付け忘れた事に気付いて喫驚した。

ちょいちょいと竿を動かす。男が眉をひそめた。

掛かったら大体は振り回して体力を奪い釣り上げるべきだと考えた。


何かを見切ったリザードマンが竿を跳ね上げると、針に今日一番の魚が掛かっていた。男が目を見張った瞬間、

大魚を食らわんとさらなる大物が跳ねて食らい付いた。男を丸呑みにしかねない大きさの巨体、鮫肌。

人里なら討伐対象になるキラーシャークの肉は男にとって滅多に見ない高級珍味であり、リザードマンにとっても大物のご馳走だ。


「ええええ」


男の叫びをよそに、食い付きに乗じて引かれた竿がキラーシャークを手前に寄せて着水。もがいて針から逃れようとしたキラーシャークは既に浅瀬に引き込まれており、もがこうにも上手く泳げない。

リザードマンが継いで竿を引こうとするのを男が止めた。


「ああ、ああ、折れる折れる。そんな頑丈に出来てないよ。流石にあれは吊るせない」


言いながら男はキラーシャークの頭へ駆け寄って剣を突き立てた。リザードマンは猫じみて喉をグルグルと鳴らして竿を見ていた。


「いやあ、えらいのが釣れたねえ」


キラーシャークを剣で引きずり波打ち際へ運ぶ。流されない様にする為だ。

男はふうと一息吐いて剣を仕舞い、リザードマンに手を差し出した。


「ほい、竿返して」


リザードマンは竿を庇うように隠して首を振った。


「ええっなんでだい」


リザードマンが魚籠からキラーフィッシュを取り出す。

普通に生きており活きが良いが、各々どこかしらに傷が付いている。当然ながら銛漁とはそうしたものだからだ。


リザードマンはその傷を指差して肩と頭を下げた。

がっかり等を示しているのだろう。


次いで男の麻袋を指して肩をいからせて頬に手を当てる。

すごい等と言いたいのだろう。


そして竿を両手で天高く掲げて膝を着いた。


「いやそれはちょっと何言ってるか分かんないけど、釣竿が欲しいって事は分かった」


男にはちょっと何言ってるか分からなかった。




男が海岸から離れていく。

リザードマンは手を振る代わりに釣竿の先を揺らして見送った。

男は麻袋の口からキラーシャークを見て、麻袋を背負い、後ろの海岸を振り返って手を振って大声を掛けた。


「今更聞くのもなんだけど、旦那。あんた言葉分かってたんだよな」


リザードマンは変わらず竿を振っている。


「なんだ、分かってなかったのかい」


男は呟いて笑った。リザードマンに背を向けて今度こそ移動していった。

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