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首都ギルドの酒場

首都ギルドは基本的に数多の荒くれ者を嗜める為に酒場を兼ねている。

酒が喧嘩を誘う可能性が時たま指摘されるが、酒の入った喧嘩の方が御し易く危険な事には変わりないが酒が入ってる方がまだマシなのだという。

そのギルドもまた多くの荒くれ者達が思い思いの話やつまみを肴にして酒を呑んで過ごしていた。

そこへ男が現れた、入り口に付いたドアが開かれてベルの音がささやかに響く。

汚れた皮鎧の軽装、腰に差した剣、麻袋に申し訳程度に縫い付けた紐を使って背負う姿はどこから見ても旅の冒険者だ。

冒険者達の多くはちらりと男を盗み見て、直ぐに興味を無くした様に意識を外した。

酒場のエリアに隣接する形でギルドの事務窓口が据えられており、男は迷わずにそちらへ向かった。


「すいやせん、この国は初めてなもんで、ギルド登録は義務だったりしますかね」


常駐している受付の一人がソツのない対応で応える。


「いいえ、国民は登録の義務があり、ギルドカードを通して税金等の管理もされますが、外の方には適用されません」


「ありゃ、売りたい獲物があるんですが、こいつは素材屋にでも持ち寄るべきって感じですかね」


「いえ、この国ですと素材屋はギルドの一部門ですので此方でも引き取れますよ」


「ギルドカードは要らない?」


「外国人用のカードがありますので発行致しますよ」


男に書類が渡される。すり潰して漂白された草を平たくして乾かした紙の様なものには、適当な情報を書く欄があり、男はそこに文字を書いていく。受付の女性がペンを渡そうとしたが、男はどこからか取り出したペンで既に書き込みを始めていた。


「出身地は未記入でも大丈夫ですかね」


「構いませんがトラブルがあった時に印象が悪くなりますね」


「問題ねえやな」


興味深げに受付が男に尋ねる。


「ひょっとして何処かの名家の方ですか?」


男のペンが止まり、あからさまに面倒そうな顔を受付に向ける。


「受付さん、あれでしょ。読み書き出来て家名があって自前のペン持ってるからって話でしょ」


男がペンを叩く先には男のフルネームが書かれている。苗字と名前で分かれているが、一般に苗字を持つのは主に位の高い人間が持つ権利だ。


「聞かれ慣れてる話題でしたか」


「ウチの故郷じゃ平民も皆家名を持ってんのよ。ペンはまあ、あって困るもんじゃないでしょ、武器にも使えるし」


「はあ、武器ですか」


「目にぶっ刺す」


「怖いですね。いや失礼しました、あまり身の上を聞くべきではないのが規則なのですが、気になってしまいまして」


そう言って受付の女は頭を下げた。胸元が強調されるデザインの制服はこうして相手の不穏を誘った際に毒気を抜く狙いがあり、男もまた満更でもない表情にさせられた。


「痛くもない腹を探られるのは気分が良くないが、いやここの制服を作った人は考えてるねえ。なんならビンタされても許しちゃうねこれは」


「分かった上で誤魔化されてくれてありがとうございます」



ギルドカードを発行し、獲物を換金して懐を温めた男は次いで酒場のカウンターへ向かい、給仕にミルクを注文した。

近くに居た中年の冒険者は注文を聞くやいなや酒を吹き出し、嗤いながら男に言った。


「兄さんここはギルド酒場だぜ。酒呑まなくてどうするよ」


そう言ってる間に出されたミルクを駆け付け一杯とばかりに飲み干して男がにやけ顔で応えた。


「確かにここは酒場で、俺はミルクを飲んだねえ。しかし一人で呑む酒ってのは味気ないものだよ。おっさん、一杯奢るから付き合ってくんない」


意表を突かれた顔の冒険者はすぐさま気付いた様に言った。


「誘ったな!」


「呑まない?」


「呑んでやろう」


男は自分に冷えた発泡麦酒を、冒険者に上物の蜂蜜酒を温めたものを注文した。


「たまらない注文ぶりじゃないか。兄さんさてはこの辺初めて来たな?俺に色々聞こうって腹づもりだろう」


「やあ、おっさんも話が早い。この辺にあるダンジョンやらモンスターやらを聞きたいんだわ。あと美味い飯屋」


「仕方ないなあ、特別だぞ?」


冒険者が溜息混じりに付き合うと宣言して、


「今は懐が温かいもんで、良い情報くれたらもっと奢りまさあ」


そして笑顔で宣言し直した。


「仕方ないなあ、特別だぞ?」


男と冒険者が情報交換を始める一方、周囲の冒険者達の一人が男を見ており、仲間にそっと話していた。


「あのおっさん、引っかかったな。可哀想に」


「なんだい、奢って情報貰うなんてよくある事だろ」


「いや、別な国で私もあの野郎と呑んだ事があるんだがな、情報貰うだけ貰って持ち金もってかれた」


愚痴を漏らす冒険者に仲間が剣呑な表情で腰を上げる。


「なにっ、盗人という訳か。ふてえ奴だ。一つ灸を据えてやろうか」


仲間が立とうとするのを冒険者が慌てて引き止めた。


「いや、違う、違う。そういう訳ではない、すまない、言い方が悪かった。つまり、あの野郎は少し口が上手くてやたらと酒に強いんだ」


「なに、それでどうして金を盗まれるってんだ」


「互いに酒を呑んでいってよ、酔いが回った所であの野郎、ほんのちょっぴりだけこっちを怒らせるんだよ」


「喧嘩ふっかけるのか」


「いや、一杯ずつ呑んでいく酒呑み競争に持ち込むんだ」


「愉しげな話じゃないか」


「負けた方が酒代全部もつ事になるんだ」


「強いのか」


「強いなんてもんじゃあないよ。俺が負けたんだぜ、野郎最後の最後まで酔ったふりしてケロッとしてやがった。あいつが負ける時は酔いじゃなくて満腹で呑めなくなった時だろうさ」


「ははあ、持ち金持ってかれたって事はおまえ、かなり追い縋ったんだな。呑める奴ほどとんでもない額をおっ被る訳だ」


「文句言う筋合いはないんだがよ、文句の一つも言いたいもんだぜあの野郎」


二人の冒険者が見ている先では男が中年冒険者と賑やかそうに酒を酌み交わしている。

男は主に冷えた安酒を景気良く呑み、中年冒険者は少し高級な酒を温めて出されており、男に負けじと豪気に呑み進めていた。

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