九百九十五生目 帝国
皇帝から魔王の資料に関する資料が貯蔵してある場と皇帝による許可書をもらえた。
ところでこの印……
皇帝とはあるが名前はない。
そういえば皇帝の名前……聞いたこと無いな。
一応この国のトップのはずなんだけれど。
「ねえ、そういえば皇帝の名前って……」
「皇帝の? そりゃ皇帝だぞ」
「……皇帝?」
「皇帝は、皇帝になった瞬間に幼名を捨て皇帝と名乗る存在になる。そして死後、皇帝の名を返還し墓に刻む名をつける。それこそ我が帝国の習わしだぞ。知らなかったのか?」
「あー……知らなかったけれど、合点はいった……」
なるほど……皇帝とは個人を国にするもの……大きなシステムなのか。
なんというか少し恐ろしくなるほどだ。
……?
ダンダラはさきほどからこちらをチラチラ見てくるがなんなのだろう。
「ところでさ、その背中の何?」
「ああ、これは……あっ!?」
あんまり意識していなかった!
"鷹目"で見なくても首を曲げれば分かる。
めちゃくちゃ茂っている……!
これ大丈夫なのか!?
そろそろ私より大きくなりそうな……
「うん?」
「あ、あはは、まあこういうものだから、気にしないで……」
「そうなのか」
ダンダラは……特に気にしている様子はないな。
この地で帝都突入前出会った時との違いで指摘しただけで。
「それじゃあまずは菓子を食べよう。それから行動開始だ」
「あ、本当にくれるんだ……ありがとう、ダンダラ」
「ああ、あ! そうだ! オレまだアンタの名前聞いてないや!」
「ウグッ」
しまった! 面倒で伏せていた問題を放置したままだった!
どうしよう割とあっちこっちでローズローズ言われているから下手に言い方変えるのもな……
「な、名前ね! ロー……ろー……」
「ロ?」
迷うな……相手の目付近を見て……勢いでごまかしきるんだ!
「ロームマルズ! ロームマルズって言うんだよ! 略してローズ、改めてよろしくね!!」
「お、おう、ロームマルズね、ローズと……なんでいきなり詰め寄ってきたのかは知らないけれど、わかったよ」
よし。ごまかし成功。
「それにしてもローズ、ローズか……」
「……うん?」
「いや、なんとなく剣折姫に似てるな……と。風貌も遠からずだし、名前も……」
「へ、へぇー、そのひとも魔物なの?」
なんで私ごまかしてさらに面倒なことに……?
顔から読み取られないようにそっぽ向かないと。
というかなんで私頭鎧引っ込めた! あっそうださっきまで皇帝の前にいたからじゃん!!
「いや、ニンゲンだし、目も3つ無かったな。武器も違えばまあ色々細かく違うな。ま、気にしないでくれ」
「そ、そう」
「また会ったら決闘してオレと宝石剣の絆の成長を試したい相手なのさ、剣折姫は!」
そうなんだよな……作った設定に変な因縁づけられで同一人物化すると面倒の上乗せだからだよなあ……!
私は背に花を負いつつ空魔法"ファストトラベル"。
私自身はいったことがないがここに"ファストトラベル"を覚えさせたアノニマルースの探索チームがいる。
たどり着いて思ったのは本当にド田舎。
「すごい……ギリギリの隙間をこじあけるように、集落がある……」
山! 斜面! 谷!
そこのわずかになだらかになった場所を点でつくように家がある。
そして畑を山肌に長年かけて作り上げたであろうその姿が見えていた。
ここは……戦争と無縁の地なのか。
見てすぐわかった。
こんなところ攻め入ることは軍としてない。
そして争いから遠い場所で秘蔵するのは……時にはかなりの効果をもたらす。
今回は帝都が半分以上地獄に沈んでいるから余計に。
背中の植物がよりイキイキする環境へと私は足を踏み込んだ。
みな純真無垢な一家たちが畑を耕し子は駆け回り通りすがるニンゲンたちは気さくに声をかけてくる。
ただ。
「おっ! 見ない顔だね! それが今都で流行りかい?」
「わ! 変なおはなー!」
「おやぁ、ハイカラさんねぇ」
「あはは……」
第一に。
花のことばかり言われる!
そしてもうひとつ。
魔物よけの結界石があったとはいえ……
それだけで私の今の格好をニンゲンと疑わない!
いわゆる服を着ていると見られる程度には鎧を身にまとい頭の三つ目も隠してはいるが……
私が言うのもなんだがだいぶ場に似つかわしくない怪しいやつだぞ姿!?
さすがメモの追記に[容姿の偽装は結構]と書かれるだけある……
まさに誰かとの争いを極力避けた結果の人々か。
私のいた群れのみんなより純粋無垢なのはさすがにどうなの? と思わないでもないが……
とにもかくにも記された1番大きな屋敷に向かおう。




