九百九十四生目 血痰
魔王に関する資料請求をして護衛部隊が殺気をまくが皇帝は手を上げ静止。
サッと殺気が失せていく。
……というかみんな私の顔を見てどうしたんだろう。
なにかついている?
「あの……?」
「なんてことのない、英傑からすれば些細な力を向けられた程度であろうに」
「めちゃくちゃ顔に出やすいんだな……アンタ。怖さを抑えようとしていたり、明らかにホッとした顔をしたり……」
「えっ……」
なんだかめちゃくちゃはずかしい。
それが顔に出たのかさらに皇帝の笑いを誘う。
皇帝の笑いに合わせお付き人も笑いダンダラはニヤニヤしているためなんだか一気に和やか。
「フフ、魔なる獣であるとしても、どこか人と通ずるものもあるやも知れぬな」
「まあ少なくとも、表情筋ひとつ動かさない政治家の連中やこちらを見れば敵か糧程度にしか思わないカエリラスたちより遥かに言葉通じるな……」
ダンダラが何か出会った相手たちを思い浮かべながら大きくため息をつく。
そういう相手はなかなか仕方ない気がする……
「話を戻すか。そう、魔王については吾が知る所によるとガフハァ!?」
「「皇帝ー!!」」
私と皇帝以外の全員叫ぶ。
それもそうだ。
皇帝が突然血痰を吐いて背後に倒れた。
あまりに突然すぎて私も固まってしまった。
「い、急いで回復魔法を!」
「ダメだ! それは医者として許可できん! 本人に耐えられる力が今はない! 慢性的な肉体の衰弱で下手な魔法の刺激にも耐えきれん!」
「うっ、そ、それもそうか……!」
さすが魔法のある世界での医療の国トッププロ。
私の出る幕はないか……
手早く控えの人たちに指示を飛ばし最適な薬品を選んだり残りの血痰を吐かせている。
そして……
「閣下、鎮静薬です。ただし使用後抗えない眠気が来ます」
「ま、まだやるべきことが……」
「皇帝閣下、息子の俺から言わせてもらうと、ここで倒れて永久にできなくなるより、数時間寝て治したほうが良い」
うーむ家族間でしか言えない王への死を示唆する言い回し。
他の人が言ったらガチの不敬。
知ってる。占い師が未来の死を予言して逆に死刑台送りにされる現実のお話はたくさんある。
ただ無理に起き上がろうとしていた皇帝も今の言葉は効いたらしい。
腕を落とし身体をゆっくり寝かす。
「……そうだな。救われたこの生命、ここで散らしては民になんと言おうか……ならばこれだけは……おい、書き記せ」
控えのひとりが筆記道具を持ちさっと前に出る。
そして皇帝の口元に耳を寄せ……
小声でその内容を伝える。
疲労の限界もあるだろうしメモしたほうが良いよねみたいな面もあるだろう。
あと言語による勅令は重すぎるという面もある。
……全部中身聞こえているんだけれどね。
「――だ。よいな」
「さて、オレもそろそろお暇しようかね。皇帝閣下の元気そうな顔が見られて何よりだったし。何も交換要求がなかったから、みな最悪の事態は覚悟していた。生きていた以上の良いことはないさ!」
「そうだな。間一髪吾には利用価値があった。さて、待たせたな」
「慣れております。こちらを」
お医者さん……どんどん目つきが鋭くなっていってたからやっと皇帝が休むモードに入ってよかったね……
嫌味のひとつも言い合える程度にきっと付き合いも長いんだろうな。
皇帝は医者から差し出された鎮静薬を素直に飲む。
というよりほぼ飲ませてもらっている。
自力で身体を起こすのがつらいので3人係で。
「……ふう。それでは、頼んだぞ」
「ええ、もちろん」
「下がることを皇帝において許す。ふむ……もう眠い……」
「いくらなんでも早すぎますよ、閣下」
どうもプラシーボ効果を起こしているらしい。
私とダンダラふたりでその場を後にした。
テントから出ると続いてお付きの人ひとりも一緒に出てきた。
2つの紙を丁寧に私達に渡し……
そのままそそくさと去っていった。
ひとつは先程のメモ。
もうひとつは厚紙に印をしてある手のひらサイズのものだ。
メモは……
「魔王の情報は数あれど有用な秘匿書はひとつの場所にある……」
図書が置かれている場所はこの帝都から離れたところにある確か集落みたいなところだ。
そこの尋ねる場所とニンゲンも記されている……
「――と。よし、この後すぐに向かおう」
「へぇー、すげえなその印。オレも滅多に見たこと無いぜ」
もう一枚の紙をダンダラが手にとって光にとおしたりしてよく見ている。
ああやられると私からだと"鷹目"でしかみえないんだけれど……
わずかな魔力を感じるし仕組みがいくつかこめられていそう。
うっかり悪用したら呪われる類もありそう。
私はそんなことしないが。




