九百九十生目 根張
魔王は神の領域案件。
それはまあ蒼竜たち5大竜がやられた相手ということでなんとなくはわかっていたが……
勇者と魔王との戦いだとあんまりピンとこなくて。
あと私自身今めちゃくちゃ疲れているというのもある。
ニンゲンたちなら回復は早いが私はしばらく"進化"解いて休みたい。
今傷を治すために"ネオハリー"なだけで。
「でも、みんなは分神で、分神だとそこまで戦う力は出せないんじゃあ?」
「まーそこはそうなんだよね。せめて私達の力をきっちり引き出せるものがアレば良いんだけれど。あ、そうだとりあえずこれだけはさせて!」
ホルヴィロスは身体の中から白い何本かツタを伸ばす。
え? 何?
「うわおッ!?」
「大丈夫、大丈夫、危なくない。とても健全だから」
ツタが素早く伸ばされ抵抗……しようと思ったけれど敵意はなくよくわからないままされるがまま。
あっというまにほぼ全身を包み込み冷たいツタがくすぐったい。
というか安全さじゃなく健全さをうたうの何かおかしくないか?
目を閉じていても様子は"鷹目""見透す眼"でうかがえる。
光が輝きツタが私の全身を撫で……
……オイル? なんなんだこの油分ぽい分泌物。
ツタ全体がめちゃくちゃヌルヌルしだした。
同時に光も高まってゆき……
「ふ、ふひーっ!! じゃ、じゃない! そう! これで……完了!」
外からの奇声はともかくいまの背中に何か刺激があったような。
身体がほんのりあたたまると同時にツタたちは撤退していく。
私を何かよくわからない油分だらけにして。
「……それで、これは一体?」
「なんだか凄まじいことになっているな……」
「…………」
「いや、そんな眼で見られたらゾクゾクキちゃうから……ともかくそれは貴方の傷を癒やし、疲れを取り、ついで、これ!」
ホルヴィロスがそういって私の背中をトンと叩く。
……ん!? あれ!?
身体が重くて倒れる!
まあごく普通に手で地面を受けるが……なんなんだ?
"鷹目"を私の背後に……って。
「なんだこれ!? 花!?」
「そう、花! 特別な花でね、生えた相手の行動力を高速で癒やしていくんだ! 他にも色々有効成分が有るんだけれど……まあ生えている間はそんな感じだけれどね!」
「うう……なんというか……身体が重い!」
比喩でもなんでもなく全身に根が張ったかのようだ……!
いや身体が痛いわけではないのが不思議なところだが!
あまり深くは考えても答えはなさそうだ。
花は今まあまあ大きいくらいだがなんだかだんだん広がっているような……
わりとキレイ。
油分みたいな全身のヌメヌメはよく見るとアロエか何かのゲル化する前の体液みたいだ。
徐々に身体へ染み込み消えてゆく……
「ああそうだ! 水! 水はちゃんととってね! 水だけはかなり使うから!」
「え、植え付けてから言う? 水か……」
「いやあだって、先に言うと拒否されそうだし……」
そりゃなんかイヤだよ!
これも効果があるかわからないし……
喉乾いてきた気がするから水貰いに行こう。
「それにしても、"土の加護"との相性はバッチリだねえ……私は一応いろいろ分かってるつもりだけれど、まさに土に種うつみたいに楽々だったよ。本当はもっと神経の配置に気をつけなくちゃいけないんだけれど自然に共生したからね」
「えっ、今何か怖いこと言わなかった?」
「大丈夫だって言ったんだよー!」
本当にか……?
ひとまず震えているナブシウや魔王のことを静かに睨むグルシムそれに笑顔でツヤツヤしているホルヴィロスをその場に置いて水を補給しに行った……
うーんうまい!
水瓶から注いだ水たちを一気に煽っていくと全身に染み入るようだ。
乾いた土に垂らされた1滴のように。
沈むほどなければ水は良いものだ。
かわりにメキメキと背中の花が育っているが……
さすがに周囲の目が気になるもののみんな私自身変わった姿だからそれ以上の追求はしないみたいだ。
行動力の後は神力。これは蒼竜でなくては。
連絡すればいるかな。
"以心伝心"……と。
『蒼竜?』
『…………うん? おお! 我が助手じゃないか! どうしたんだいそっちから連絡なんて、急用?』
『いや、神力使っちゃってもうカツカツだからチャージできるかな?』
『うん? 一体何にそんな使ったんだい、神様の力はみだりに使っては――』
『少し魔王を倒そうとしたときに』
ブツン。
……ブツン?
あれ? もしもーし! アイツ念話切りやがった!
当然リダイヤル!
『蒼竜!』
『あ、アハハ、何かな、ちょっと忙しいから予約なら神殿への投書にお願いを……』
『魔王が、復活、した。他の神も気づいたくらいだからわかるよね?』
『………………まあ』
ものすごい答えをしぶったな……




