九百八十八生目 魔王
グレンくんと私で魔王のバリアを破るための最後の1撃!
魔王の玉座らしきものに座る敵はすっかりエネルギーの塊である炎が膨れ上がりだし広く覆っていく。
私が手を添えグレンくんが振り下ろした刃に私達が2種の光を送り込む。
私からはこのバリアの本質を出来得る限り見抜き破るための神の力。
グレンくんからは魔王の力を無力化し魔王を抑えつける勇者の力。
それが混ざり合い光が不可視の刃に色をつける。
「「はああぁー!!」」
「「いけーっ!!」」
イタ吉とグレンくんの声援も聴こえる。
不安でも……やる!
今までやってきたのだから!
刃へ完全に光が輝く。
強く輝く光の色。
今は巨大すぎるようになっているその刀身はあまりに力強く。
バリアを破れる……!
グレンくんと見合って共にうなずき……
1歩踏み込んだ!
「やああッ!!」「はああっ!!」
相手は単に力ではなく跳ね返すもの。
神の力でその概念を打ち消し……
魔王の力でできている壁を勇者の力で崩す!
刃が少し沈む。
入ればやれる。
突ければ砕ける。
ねじ込めば倒せる!
このままさらに…、さらに踏み込んで!
神の力でねじ伏せる!!
マントの色がほぼ脱色してしまったが……決めればいいんだ!
「「はあああ! あっ!?」」
ああっ!?
私達の腕から大きく弾かれる刃。
勇者の剣が空を舞った。
「うっそ……だろ!?」
「なっ……」
「行ったと……思ったのに!」
「そんな、手応えは……私達合わせても、届かない……!?」
グレンくんはキッと顔を引き締め手を天に掲げる。
するとそこに光と共に勇者の剣がワープして戻った。
便利機能だ。
「だったら、なんどでも!」
「やりたいところだが……どうやらそれどころじゃないらしい」
「おい、こりゃ逃げたほうがよくないか?」
ダカシやグレンくんが口々に言う敵の様子。
その敵である炎はどんどんと膨れ上がり周囲を焼き尽くす。
先程弾かれたバリアすらも飲み込んでいる……!?
「と、とにかく離れよう!」
「う、うん!」
対策するにしても今のままではどうしようもない!
空魔法"ファストトラベル"を唱えながらとにかくみんなで走る!
エネルギーの塊である炎がどんどん迫ってくる……!
「来るくるくるっ!!」
「やべーっ!!」
「早く!」
皆の悲鳴混じりの声の中必死にもと来た道を戻り階段を降りる。
炎は建物を侵食し次々と階段が崩れだす。
うわっ!? 火が壁から吹き出た!?
危ない……
もはや城のあちこちが崩壊しているのか。
凄まじい振動が地響きとなり脱出するにも困難。
穴の空いた床から転げ落ち迫りくるエネルギーの塊である炎から逃れる。
背後や天井から炎が意思を持つように襲いかかってくる!
だけどもそろそろ……!
「よし、みんな手をつないで!」
「おっ、飛ぶのか」
「おーけー! いつでもいいよ!」
「頼んだ」
みんなの手をつなぎ……
"ファストトラベル"!
私達の姿が青い光となって外のニンゲン軍キャンプまで到着。
……ん?
「おいローズ!? ここ外にいっただけじゃね!?」
「あれ? おかしいな脱出したはずが……」
ここは帝都城外。
少し前までアンデットたちがひしめき合っていた場所。
しかしアンデットたちもおらずかえって不気味……
「もしかして、魔王の力でちゃんと発動しない?」
「ウソ……もう一度……あれっ!?」
グレンくんの推測通りらしい。
魔力がうまく集約せず魔法として形が成り立たない。
落ち着けば周りの異様さにも気づく。
あたりに漂うのは魔王の力。
こんな外側にまで……
魔王の力が世界に干渉し私の魔法そのものを妨害している……!
簡単に言うと今やろうとしているのは水中で火を起こす行為。
必要条件が達せない。
魔法ジャミングだ!
「うおっ揺れる!?」
「わあっ!?」
唐突に地震!?
いやこれは……
帝都城が激しい振動。
空へとあの炎が城から発せられる。
天が炎で覆われ……
やがてその炎は形となる。
巨大かつ鱗や毛皮それに皮膚の見える腕が生え。
そこから連なる大きな身体。
さらに頭が次々と生まれ……
3つの首は全てを喰らえそうな大きな口と共にその形をなした。
「「ウオ、オオオオオオオーー!!」」
「うがっ!?」「ひゃッ!?」「うっ!?」「ぐっ!?」
咆哮が轟く。
私たちをそれだけで吹き飛ばす。
世界に終末を告げに来るその呼び声は……
私達を塵芥程度にしか考えていないその力によって全てを知らせたのだ。
魔王復活と。




