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九十四生目 信頼

『まあ"私"だって自分だから、自分の身くらい守るさ。だから"私"がダメージを肩代わりできる限界はある』


 それまでに実験を成功させてトランスしなくちゃいけない……

 そうか、肉体としての『寿命』はまだ3週間ほどあっても精神としての『寿命』は……


『わりとヤバイ』


 う……私同士だからわかるしかない。

 結果的には話せて良かったのかな……?

 こんな重要情報知れたし。


『いや、そもそもこんな風に会話が出来てしまうほど悪化しているのが、マズいんだよ』


 ですよねー。

 うーん、とりあえずそうと決まれば戻らねば。

 どっちいけばいいかな。


『ちょっと待って』


 そう言うと"私"は歩きだす。

 "私"の足元から光が広がってゆき地面が現れる。

 地面はそのまま階段へ。

 光とともに階段が広がり続きどこまでものぼっていく。


『くれぐれも落ちないように、"私"と違って私はここの存在では、本来は違うんだから』


 それってどういう……

 そう思った時に視界の端に黒い塊が、ちぎれた私の腐った欠片たちが飛んでくる。


『急いで! 走れ私!』


 ゆっくり駆け上がる時間はないらしい。

 背後で激しい戦闘音が響き渡る中全力で階段をかける。

 目の前から塊が飛来、危ない!

 避けて、伏せて、ぬおお転がって!

 とんではねてまずい!


 当たりそうになった黒い塊が砕ける。

 認識出来ない範囲の"私"による精神界の戦い。

 ナイス"私"!


『いけいけ!』


 そのままどこまでもどこまでも続く階段を駆け上がって……

 ふとした瞬間光に呑まれた。




「わっ!?」

「おや、起きましたか」


 目の前には看護師さん。

 ふう、どうやら起きれたらしい。


「うなされていましたね、これお水ですので落ち着いてから飲んでくださいね」

「ありがとうございます」


 水を皿からチロチロと飲む。

 さっきのは……はっきりと覚えている。

 夢じゃあ、ないね。


 身体は動くか。

 薬が馴染んだというやつかな。

 ただそれと同時に、はっきりと『ごまかしているだけ』というのが感じられる。


 何かちょっとした無理でその糸がちぎれ私がのたうちまわるような地獄が待つと直感する。

 最悪そのまま精神瓦解して廃人となる。

 人じゃないけど。


 次に出てきたのは病院食だった。

 朝になったらしい。

 全体的に私のような種族に合わせたシリアル食品で……

 いや、正直に言おう。

 ドッグフード的なやつだコレ。


 しかもなんとも味気ない。

 いかにも健康食。

 バリバリと食べてさみしく終了。

 かおりとか感触とかすごい改善の余地があるな……


 医者に診てもらい薬を服用。

 やはり根本的には良くなっていないが傾向としては安定期に入ったそうだ。

 今後の説明もかなり真面目にされた。


「今後、安定している時と体調が乱れている時をある程度繰り返すと思います。

 そして徐々に安定している時が短くなってしまいます。

 なるべくサポートはしますがそれでもそう持たないかと……」


 正直に症状を話してくれた。

 直に安定期もひどく悪い状態を引きずり徐々に肉体がダメになっていく。

 順番に身体の端からダメになり、あらゆる肉体の制御が効かなくなって介護がつきっきりになる。

 そして苦しんだその最期に報いはない。


 もちろんそれは避けたいしそもそも私の精神も限度がある。

 そこまで持たない可能性の方がたかい。

 医者の説明はありがたかったがリアルな死をイメージさせられてより死期が近づいた気がする。


 本当に、嫌だ。


 その後アヅキが見舞いに来た。

 ユウレンとイタ吉は材料を取りに出ていると言う。

 とりあえずアヅキには私のこのままだと辿る将来を言っておこう。

 まずは肉体。


「……という感じで最期はこときれるんだってさ!」

「……う」


 だいぶ明るく取り繕って言ったのだが、アヅキが途中からすごい顔になり最後は嘔吐した。

 あわてて看護師さんが飛んできてアヅキが運ばれていった。

 看護師さんも医者も小動物なのに力持ちだ。


 しばらくしたらアヅキが戻ってきた。

 なんで吐くほど気分が悪くなったら意外な理由だった。


「もちろん、主がそうなったら……という部分もあるのです。

 ただ、我々は普段は死ぬとしても誰かに殺される事が殆ど。

 そういう生々しい、自壊での死を聴いていたら耐性がなかったのか、思ったよりも苦しくなってしまい……」


 そうか、野生だものね。

 飢えたり殺されたりはあるが、徐々に終わっていくというのは新しくも生々しすぎたのかもしれない。

 ただ大事なのはこれから。

 精神の死だ。


「……って感じで、正直時間がないっぽい」

「そんな……それは……一体どれほど……」


 アヅキは想定以上のタイムリミットに焦っていた。

 私という肉が無事でも私が廃れてしまったらもはや意味はない。

 もちろん私もそれは避けたい。


「正直、既にだいぶ削ってるかもしれないし、私は私が変質しても『認識できない』部分が大きい。

 だから勘になるけど……あと1週間と半週が私が私として動ける限界かなぁ……」

「間に合わせます!」


 アヅキがそれを聴いて覚悟を決めた顔をした。

 走りそうな彼に声をかけておかねば。


「良い? 頑張りすぎてみんなで倒れてしまったら意味がないからね。

 私もココは踏ん張るから落ち着いて冷静にいこう」

「……はい!」


 それから彼を行かせる。

 なんというか、アヅキは放っておくと私のために力尽きて死にそうな不安感がある。

 それでは意味がないのだ。





 私はその後医者に許可をもらって外出した。

 スカーフを巻いて直接九尾の屋敷へ到着だ。

 ピンポンとチャイムを鳴らし九尾の不機嫌そうな顔を見つつ中へ。


「まったく、なんで死にかけがベッドから起きてきたんじゃ」


 やはり倒れて診療所に運ばれた話はアヅキたちから聞いていたらしい。

 とりあえず経緯を説明して少しでも時間がないことを伝えた。

 九尾のおじいさんは顔をしかめる。


「完成目安ギリギリ、かのう」

「それは良かった……」


 しかしおじいさんは首を横に振った。


「そこから調整しまともな試作機にしなくてはならん。さらにトランスするまでの準備期間もいる。

 このままでは達成困難じゃ」

「それは……」


 困った。

 そんなことを話し込んでいる間に骸骨たちがやってきて材料を置いていく。

 ユウレンだ。

 扉の向こうからユウレンが顔を覗かせる。


「話は聞かせてもらった、とか言ってみたかったのよね。

 まあとにかく急げばいいのね? まだ手はあるのよ」

「本当!?」


 ユウレンは既にかなりの数の骸骨を各地に走らせているそうだがそれでもまだ足りない。

 そしていっそのこと近場は全てギルドを通して依頼してしまおうというものだった。

 その分ユウレンたちは難度が高かったり遠い地に迎える。


「もちろん人間の冒険者たちも使いましょう。コネクトは確かもっているものね?」

「あ……」


 ミニオーク(ガラハ)たちや冒険者3人組だ。

 確かに彼等を通せば冒険者ギルドにも依頼が可能だ。

 光が見えてきた。


 そうと決まれば早速移動。

 ユウレンに貸し出してもらったダチョウ型骸骨のくわえるカゴの中に入って高速移動。

 やはり負担をかけずにとなるとこうなる。





「……というわけなんだけど、やれるかな?」


 彼等にはなるはやの理由も伝えておいた。

 ただ冒険者ギルドには伏せて欲しいと。


「なるほど、そいつぁ一大事だ。俺様たちに任せてくだせえ!」


 ガラハと子分がたくましく腕を振り上げる。


「私達ならやれるはず!」

「もちろん協力します」

「まだモフモフしたりないから、絶対に死なせないよ!」


 レッサーエルフ(エリ)プラスヒューマン(ソーヤ)プチオーガ(アマネ)も喜んで協力してくれた。

 冒険者3人組の仲間も頼もしい!

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