九百八十一生目 魔炎
ラキョウが魔王の力に呑まれた。
そして圧倒的な力が噴出する肉体に変貌。
私達はグレンくんが立ち向かう背中に勇気づけられていた。
グレンくんはまっさきに動く。
震えを抑え足を踏み込み剣を鋭く構え。
「うわああああああぁ!!」
叫ぶ。
それは強烈な敵のものに飲まれてしまいそうな。
どこか気の抜けた……だが理性から発せられる叫びと確かに感じさせた。
それでふと……ハッとした。
雰囲気に飲まれて動けなくなっていたのだと。
あれも魔王の力に呑まれたラキョウ……敵の力の一端!
「グレンくん、ありがとう!」
「おう! もう大丈夫だ!」
「助けられたな……行くぞ」
「いや、今のは自分への鼓舞で……まあいいや。うん。絶対にここで魔王の力を止めよう!」
「「おお!」」
勇者の言葉に全員の意思が集まる。
さらにグレンくんは勇者の剣を不可視ながら床に突き立て力強い光を放つ。
私達に新たな光がまとう。
「グレンくん、これは?」
「さっきの戦いをヒントに、新しく自分の能力を組み直してみたんだ。今のはうまくいけば……対魔王用の力と防護が得られるはず」
「それはありがたいな! もうあの爆発避けとか、見えても自分の目じゃなくてやりづらいのとか、しなくて済むな!」
敵は1歩1歩確実に歩んでくる。
そして腕を振ると爪が消えた……
と思ったら力強く輝きが視界を覆ったあとちゃんと爪が視認できる。
これは楽だ……!
「良し、ちゃんと見えているぞグレン」
「良かった、うまく調整できた……」
「なんとなく威圧も感じなくなってきたな!」
「さあ、もう相手が来るよ!」
歩み1歩ごとに大気が揺れる。
凄まじく重いエネルギーのこもった歩みに床が悲鳴を上げて。
私達から剣が届かない程度に離れた距離まで来て……
急激に上空に膨大な魔力が!?
見上げずともすぐに理解する。
炎が上空に発生しそれが巨大な玉となっている。
「な……んだ、あの紫の炎!」
「避けて!」
その炎は魔法の火としては見たことのない紫色をしていた。
あれは単に火力が高いだけじゃない!
脳内警告最大で全員に指示!
紫の炎塊が瞬時に加速し飛来すると同時に私達は散り散りに場を離れる。
着地すると炎は不気味な蠢き方をしてどんどん周囲に広がっていく……!?
「うおおお!?」
「危なっ」
みんな大きめに避けていたから追加で走ることにより完全に避けれた。
広がる炎が消えたあとも床に火が残る。
少ししたら消えそうだが……なんてしつこい炎なんだ。
「あの炎は気をつけて! なんだか燃やし尽くすまで消えないような力を感じる……」
「言われるまでもなく絶対喰らわないぜ……!」
イタ吉が火の向こう側で苦笑いしているのが見える。
同時に小イタ吉が仕掛けだす。
素早く敵の懐に潜り込み敵の攻撃を誘発する。
だが。
「乗ってこねえ!? なら!」
小イタ吉を無視し別の振る舞いをしようとしたところで小イタ吉による光を纏った爪の乱舞!
高速でザクザクと全身を切り刻み……
「んなっ!?」
……反応なし。
すぐに見た目修復されるのは前と同じだがひるまないだけじゃなくそもそも存在自体をまるで気にしていない。
かわりに敵は腕を高く突き上げる。
刃持ちイタ吉が尾の刃を武技で激しく回転しながらぶつかりに行く。
飛来するイタ吉に目もくれず腕に大量の魔力が集まり腕から稲妻からうみ出されていく。
強烈な魔力が束になり稲光を!?
「これは……すぐ離れる!」
回転飛来したイタ吉がガリガリと敵の胸を切り裂いていく。
だがとどまらずすぐに小イタ吉と共に離れる。
敵の腕に募った魔力の束はそのまま稲妻の槍のように変化する。
巨大な稲妻の槍は周囲に凄まじい電撃を放ち続けその場にいるだけでえげつない痛みが与えられそうだ。
イタ吉たちが即離れたのは正解だった……だが。
あの槍はどこへやるのだ。
大きく振りかぶって。
腕が振り抜かれる先は。
「俺かー!!」
「グレンくん!」
明らかに対個人用の力でない。
対軍……対城のような魔力。
それが片手間に素早く作られ……今放たれる。
ゼロエネミーを大盾にし高速でグレンくんの元へ飛ばす。
幸い敵の動きは重々しい。
ゼロエネミーで先回りをギリギリ成功。
その槍は放たれると雷光を周囲に放ち焼き貫く。
まるで極太の光線でも放たれたと言っても過言ではない。
部屋内を光が包む。
「うわあああっ!!」
光線はグレンくん目の前にあるゼロエネミーが大盾で受ける!
光線の先は魔力の束で出来た稲妻の槍!
電撃吸収のゼロエネミーなら受けられる!




