九百七十七生目 結晶
ダカシがトランスし2足になった。
身長は160から170の間ほど。
小さくまとまった肉体の全身は先程と同じように黒い毛皮に覆われていた。
さきほどまでの特徴を得ながらもダカシはもどった。
だがさきほどまでとは違い……
剣を持つ両手からも凄まじいパワーを感じれた。
「俺と、アカネと、この世界の多くの奴らと和やかに暮らせる未来、確かに見えた」
ダカシは1歩踏み込み身構える。
"観察"!
[※※※※ Lv.11]
[※※※※ 個体名:ダカシ 完全に新しい種族。悪魔と共存し人の身でありながら悪魔の力を引き出す魔人と呼ばれる系統で、ベースはニンゲンだ]
レベルが10も跳ね上がった! だいぶレベル頭打ちしてたんだなあ。
というか……種族名がない?
魔人……確か昔本で読んだ悪魔の力を身に着けながらも悪魔に憑かれていない特殊な存在だったか。
早速と言った様子でダカシの肉体周囲に魔力で出来た光の線が複雑な紋様を描き浮かび上がる。
わからない術式……あれが悪魔とニンゲンのあわせ技なのか。
剣までその紋様が伸び不思議な黒っぽいのに美しく明るい輝きを帯びる。
明かりの光を跳ね返し切っ先が輝く。
ダカシは力強く床を蹴ると先程よりも断然速く跳ぶように駆ける。
数歩で距離のあったラキョウまで追いつき斬った軌道が光として残るほど強烈なエネルギーで大きく交差し切り裂く。
「……何!? 太刀筋が読めん……!」
ダカシの剣は早く正確に……そしてどう斬ったかもあとで分かるほどにいつの間にか振り抜かれていた。
これは知っている。
アノニマルースでリビングデッドの剣術先生が時たま見せる殺気すら見えない理解外からの1撃。
傷は見かけ上すぐにふさがる。
それでも生命力が目に見えて削れていた。
あと少しでやっと半分削れそう。
なにせ……今の1撃の重さはラキョウの右腕が語っていた。
「この程度で……何!?」
ラキョウが振り抜こうとした右腕。
そこには存在しなかった。
ラキョウの顔に初めて焦りの汗が浮かぶ。
床に切り捨てられた腕を見たからだ。
慌てて左腕をふるおうとするがそれよりダカシの次が早い。
返す刃で素早く突かれる。
それ自体に大したダメージはなさそうだがラキョウは背後に押された。
距離が取れた関係でラキョウは瞬間移動し全員から離れた位置取りをする。
みんなカバーしようと思っていたのに一瞬の出来事にむしろ固まってしまっていた。
「……すっげえ」
「ダカシ……それがキミの見えた未来を掴む姿……」
「今のことを少し改造しただけの市販剣でやってしまうなんて……」
「……ん、今の、夢中になってやっていたが、そうか、今のが新しい俺、か」
ダカシは自身の身体を見回したり腕を握ったり開いたりを繰り返している。
ラキョウは全身に力を込めると当たり前のように新しく腕が生えた。
もはや突っ込む気も起きないが鮫の歯みたいだな……
それはそれとしてグレンくんはちぎれた腕が結晶化していく様子やラキョウ自身に注目し何か考えている様子。
確かに腕が結晶化は気になるけれど……
「血が出てない……やっぱり……ラキョウ! 早く魔王の力から離れるんだ! お前が危ない!」
……あ! そうか。そういえばこの戦いでラキョウは1度も出血していない。
腕がちぎれても。
それはさすがに不自然だが魔王の力で平気とかそういうものではないのか?
だけれども訴えかけるグレンくんはなんだか深刻そうな顔をしている。
「しらんな。今はそれどころじゃないんだ、話をしたいのなら戦いの後だ。まあ、その時キサマらが生きていたらな!」
「この腕を見ろ、ほらこんなのうわっ!?」
ラキョウの瞬間移動でそのまま大爪がグレンくんに振るわれる。
グレンくんは慌てて顔の前で刃を受けた。
そういえばグレンくんを通せば勇者の剣も見えるんだなあ。
もちろん急いで救助しにいく。
「話を、聞いてくれ……!」
「勇者サマよ、御高説は嬉しいがな、それは向こうの世界のルールだ。こっちの世界は強くなければ、言葉すら聞いてもらえない……!」
「実体験を全てにあてはめるなよ……! うっ!」
グレンくんが弾かれよろめく。
そこにもう片手で大爪をグレンくんにアッパーで当てる!
爆発と共にグレンくんが空に打ち上げられ勢いのまま着地。
地面を激しく転がっていった。
「グレンくん!」
「他者の心配をしている場合か?」
「あっ!? ぐう!?」
ラキョウが私の目前に瞬間移動。
爪を見ようとして……よく見たらグレンくんまだ立ち上がろうとしている段階!
急いで下がったもののツノに当たったらしく爆発した……!




