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九十三生目 破損

「それではお大事にしてください……」


 医者に帰ってもらった。

 どんどんと外堀が埋まっていくのは恐怖でもある。

 複数の相手からお前は死ぬと告げられてるのだ。

 逆にここまできて冷静にはいられない。


 せめてもの魔法処置と薬剤を貰った。

 かなりキツい粉薬らしく包んだところからも刺激的なにおいがする。

 うう、しかも複数……


「それで今日はどうするんじゃ? さすがに今から材料探しは難しいぞ」


 確かに一度帰ったほうが良いのかな。

 依頼そのものは達成しているわけだし。

 九尾のおじいさんによると材料探しはかなり難航するだろうから準備を整えたほうが良いとの事。


「じゃあ一度帰ってから検討します」

「主がそう言うのなら異論ありません」

「ふむ、そうした方が良いだろうな。詳しい話は後でしよう」





 そしてギルドへと行き今日の分の依頼の精算。

 小額だがアヅキたちが昨日竜退治できちんと稼いでくれたから材料費は問題ない。


「あ、ローズ!」

「イタ吉! 帰ってきたの?」

「ああ、今日も俺は強くなったぜ!」


 スキル"観察"。

 確かにレベルが上がってるな。


「今日上がり? 一緒になんか食べる?」

「ん、アヅキたちも一緒でいいかな」

「もちろん!」


 イタ吉に聴くと今日はひとり仕事だったらしい。

 だったらちょうど良いということで食事へ。


 場所はイタ吉の気に入った所らしい。

 そこへ向かう途中に商店街を通る。

 ……あ、そういえばここには、前リンゴをくれた……


「お、どうだい! 今日は何か買っていく?」


 いた!

 声をかけてきたのは前に無一文の時に恵んでくれた店員さんだ。

 前、お金入ったら買ってねって言ってたからなー。


「お金、入りましたよー」

「おお、さあさあ、ここは色々置いてあるよ!」


 言葉通りリンゴから身につけるものまで売っていた。


「じゃあオイラはリンゴ!」

「私は……このスカーフなんか良いかな」

「はい、ありがとうございます! またご利用くださーい!」


 リンゴは小銭程度の値段だけれど良さげなスカーフは桁が違う値段だった。

 まあ稼ぎの内だったから大丈夫。


 お店から離れさっと首につけてみる。

 うん文明のかおり。


「似合ってるんじゃないか?」

「なかなかね」

「主がより引き立ちますな!」


 みんなの評判も良かった。

 こう身につけるなんてホエハリに生まれて初めてだったから良かった……

 これでダメそうだったら一生信じれるデザインは自分の毛皮だけになるところだった。





 料理屋に到着。

 あ、ここ前に"身体リンク"でイタ吉を通して見たところだ。

 席もあるもののアヅキとユウレンが大きいから外で食べることにした。


 ここは魔獣のお肉料理店だった。

 魔獣とはこの街に属さないかつ友好的ではない魔物のことを指す俗称らしい。

 猪のような肉や鹿の肉それに高級だが竜の肉もある。


 私達は運ばれてきたお肉をモリモリと平らげた。

 うん、プロの仕事ってすごい!

 イタ吉が気に入るのもわかる。

 うまい、うまいよー!


 ちなみにユウレンは一口食べて『人間向けじゃない……』と残念がっていた。

 まあ味覚がそれぞれ違うし特にニンゲンはこの街にいないからね……

 プロも限界がある。


 ちょっとした話もしていた。

 まあイタ吉にもいい加減私の現状教えたほうが良いし。


「……という感じかなー、今」

「ほおお、じゃあオイラに出来ることがあったら言ってくれよ!

 オイラが勝つまで死ぬなよ!」


 イタ吉なりの励ましなのだろうか。

 軽い気がするがそれはいつも通りか。

 素直に受け取っておくことにした。


 食事の後は薬を服用。

 ユウレンの道具入れにいれておいてもらっていたから水と一緒にゴクゴク。

 ぐえー!!


 さっきまでの肉のうまみが全て吹き飛ぶほどのまずさ!

 まずいを粉にしてぶち込んだ感じでひどい!

 良薬口に苦し。


「そんなもの食べて大丈夫なのかー? スゴいにおいだったぞ」

「まあ、薬ってこういうものだから……」


 うう、早く錠剤とかカプセルとか出来ないものか。





 イタ吉と別れ帰路へとつく。

 なんだかんだあの後も話し込んでしまった。

 すっかり空は暗くなっている。


 門が開いてまた街の外へ……


「うん? んケホケホッ!」


 びっくりした。

 咳が出た。

 何かな……? 噂されたとか? あれはくしゃみか。


「……主!?」

「え?」


 声をかけられて気づいた。

 なんだ、何かを吐き出した。

 黄色い……私の血?


「あ、ローズ!?」


 ユウレンの声が遠い。

 なんだろう、意識はこんな程度の出血は今まで散々あったと知っている。

 けれどなぜだが急に気分が悪くなってきて。


 そして私は倒れた。





 起きたら知らない床だった。

 違うか、これはベッドかな。

 そのあとユウレンやアヅキに医者という組み合わせでココが診療所だと理解した。


 というかなんで私倒れたんだろう。

 話をきいてみた。


「薬や医療の施しが効いてきたおかげで、今まで限界まで張られていた深刻なダメージのごまかしが緩んだんです。

 身体への負担を軽減し少しでも命を伸ばすためのものですね」


 ううー、身体が重い。

 つらい、苦しい、眠い、かなしい、厳しい、痛い。

 どっとマイナスのおもいが押し寄せてくる。

 これが私の本当の状態……?


「薬でかなり症状での苦痛は和らげていますし、直に薬が馴染んでこの状態でも歩けるようにはなると思います」


 これで、緩和?

 冗談でしょ?

 暗い海に抵抗も出来ずに沈められていくようなそんなおぞましいほどの負。


「主、そんな顔なさらないでください。

 大丈夫、必ず我々がやりとげます」

「まあ安心して寝てなさい、ワタシたちが残りの作業ぐらい終わらせる」


 今私はどんな目をしているのだろう。

 それほどまでに死にそうな顔をしているのか。

 ぐらりぐらりと脳が揺れる。


 死ぬ、このままでは死ぬ。

 沈む意識の中に暗闇と輝きの狭間が見える。

 何もかもが不確かで自己すらブレて崩れて……

 消エ…カカカガガガガガガガ






ガガガガガガガガガ

アアアアアアアアア

ァァァァァァァァァ





『やあ! こんなところまでようこそ!』


 ハッと意識が戻る。

 今のは一体……いや、声は誰?

 目を向けるとそこには……


 私がいた。

 正確には進化してミリハリになった"私"。

 戦いと殺しを好む狩るものとしての、"私"。


 なぜ、"私"が……


『こうやって"私"と私が話すのは初めてだねえ、どう? 元気?』


 あれ、これどうなってるんだ……?

 元気かって言われると、もう何もわからないとしか言えない。


『まあそもそも私と"私"は同じだから今が異常だよね。まあ答えはわかってるっしょ』


 精神が分裂しかかっている、かぁ……

 あんまりそういう自覚はなかったけれど、さすがに自分で自分と会話しちゃうと嫌な実感しちゃうというか……

 精神衛生上よくない。


『しっかりしてよ? 私が壊れてしまったら"私"はおしまい。とにかく乗り切って。

 さっきはなかなか危なかったしね』


 "私"が空を見るのにつられて私も空を見る。

 うわ、なんだあれ。

 黒い塊が多数浮かんでいる。


 見ため上はそんなんなのに認識上では『私』だとしか思えない。

 凄く、気味が悪い。


『今は"私"がなんとか出来ているけれど、限度はあるからね』


 声に従って"私"を見ると"私"の身体は口周り中心に私の黄色い血で染まっていた。

 そうか、私が戦う時は"私"も戦っているのか。

 だとすれば空のあれは、壊れた私。

 何度も破壊して殻を脱ぎ捨てるようにダメージを切り捨ててごまかしているのか。


 心が砕ける前に"私"が意図的に無事な部分を抽出して切り壊している。

 私が壊れた部分に取り憑かれそうになったらそれを噛み砕いてくれているのか。

 いや、まあ全部自分の防衛能力なんだろうけれど。


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